【第五章 魔王】第八話 魔王ミア

 

 大魔王からの通達が届いた。

 魔王島の主が決まった。大魔王が初期に保護した狐人族の少女で、名前を”ミア”。今は、魔王になり新たな真名を得ている。ミアの眷属は、まだ一人だけ、妹の”ミイ”だ。もちろん”ミイ”も真名を得ている。
 二人は、今日のお披露目のために、魔王島に来ている。来ているという表現は正しくない。二人の居住地は、今日から魔王島になる。拠点となる場所が、魔王島で今までのように、カプレカ島で活動をおこなうこともある。魔王島での生活と魔王としての責務になれるまでは、魔王島で過ごすことになる。

 魔王間にも派閥に似たような組織ができ始めている。大魔王の監視があるために、裏切るような足の引っ張り合いではなく、純粋に勉強会のような組織だ。

 魔王たちが、魔王島の広間に集まり始めている。
 派閥の者たちと話をする者もいれば、壁の花になろうとしている者もいる。大魔王からの通達で、眷属なら好きなだけ連れてきてよいと言われている。
 魔王たちは、上司筋にあたる魔王に問い合わせをして、連れて行く眷属の数を決定した。
 いくらでも連れてきてよいと言われて、本当に全部の眷属を連れて来る者は居なかった。

 眷属同士では、会話が成り立たない者もいるために、コミュニケーションに難がある者は留守番になるケースが多かった。

 大魔王が指示した会議開始時間の1時間前には全ての魔王がそろっている。

 会議は別の場所で行われる。
 広間は、ミアのお披露目が行われる場所だ。

 お披露目のあとで、魔王たち眷属を一人だけ連れて、会議室に移動する。
 その場所で、大魔王から新たに加わった魔王の紹介が行われる。

 そのあとで、魔王島の運営方針を話し合う流れになっている。

「魔王カミドネ」

 新参の魔王が、古参である魔王カミドネに話しかける。
 大魔王以外は役職の違いでの上下はあるが、身分に差は生じない。そのために、呼び捨てが推奨されている。

「どうしました?たしか・・・」

「はい。先日、大魔王様から、魔王トビアスの名を承りました」

 大魔王に降った魔王は、真名とは別の名前が与えられる。
 自ら名乗っていた名前を継続する者も居れば、大魔王に命名を依頼する魔王も存在している。”トビアス”と名乗った魔王は、大魔王からの命名を受け入れた。

 魔王カミドネは、魔王トビアスを観察する。
 アジア人の風貌をしている。大魔王と同郷か?観察しながら、魔王トビアスが自分に話しかけた理由を考察する。

「そうか!魔王トビアス。私に何か?」

「魔王島の事ですが、何か情報を持っていませんか?」

 仮称として付けた名前が定着してしまっている。
 魔王島の周りにギミックハウスを作っている魔王たちが、魔王島という呼称を使っているために、魔王ミアの件と同時に正式名称として発表がおこなわれた。

「ん?魔王島?あぁミアが魔王として統治することに決まったこと以外は何も知らされていない。魔王トビアスと同じだと思う」

 魔王カミドネは、魔王トビアスが自分から魔王島の情報を得たいと思っていると考えた。

 残念なことに、魔王カミドネが持っている情報は、魔王トビアスと変わらない。
 違うのは、魔王として統治することが決まった”ミア”との接点があることだ。

「そうなのですか?あっ!魔王ミアは、狐人族だという話ですが、どのような人物なのですか?」

 現地人だということと、種族が狐人族だということで、魔王として進化を果たしていることなどが伝えられている。

 実際には、狐人族から進化することで、種族の枠組みを超越している。コアを持つことで、進化したのか?魔王の因子を受け入れたことで進化したのか?大魔王には判断が出来ないが、結果としては変わらないと思って、きにしないことにしている。

「そうか、貴殿は自ら大魔王様に降ったのだったな」

「はい。決断をするときに、眷属たちと三日三晩の話し合いを行って、死の覚悟を決めたのが、笑い話になっています」

「ははは。その程度ならまだいい。私は、ミア。あぁ魔王ミアに攻められて、コアルームの手前で”死”か”屈服”か選べと迫られたぞ。どちらもえらべないといえば、魔王ミアは仲間を率いて、ダンジョンを出て再度の攻略を始めた」

「え?」

「ぼこぼこにされたよ」

「魔王カミドネ?」

「その時に、攻略部隊を率いていたのが、魔王ミアだったよ。本当に強かった。殺されると思ったけど・・・。戦い方が奇麗だったよ。尊敬の念さえも芽生えていた」

「魔王カミドネ?」

「魔王トビアス。本当のことだ、疑うのなら、私の眷属に聞いてもいい。そういえば、私の下の世代でも、何人かの魔王は魔王ミアに攻め込まれた。聞いてみるといい。ほとんどが、私と同じように感じたはずだ」

 魔王カミドネの顔には、大魔王に通じる尊敬の念と、敬愛が含まれている。魔王トビアスは、まだ懐疑的ではあるが、途中から話に加わった他の魔王からも同じような感想を聞かされた。

「魔王ミアは、好戦的な人なのですか?」

 魔王トビアスは、魔王島をまとめる者が”好戦的”でないほうがよいと思っていた。そのために、ミアのことを知っていそうな”魔王カミドネ”に勇気を振り絞って話しかけた。

「ははは」

 魔王トビアスの聞きたいと思っていた心配事を魔王カミドネは笑い飛ばした。

「魔王カミドネ。それでは、魔王トビアスが困ってしまうぞ」

「魔王ギルバード?」

 途中から話に加わった、魔王ギルバードが笑い始めてしまった魔王カミドネを注意する。

「すまん。あまりにも、面白いことを・・・。ミア殿が好戦的?あれほど・・・。ははは」

 魔王ギルバードは、魔王カミドネが笑って話にならないと判断して、魔王トビアスの肩に手を置いた。

「魔王ギルバード?」

「魔王トビアス。それに、周りで聞き耳をたてている他の魔王。魔王ミアのことを心配しているのだろう。安心できるかわからないが、魔王ミアとも戦ったことがあるギルバードが宣言しよう」

 魔王ギルバードは、少しだけ芝居がかった宣言をしてから、魔王トビアスの肩に置いた手を離した。
 聞き耳の必要性も無くなった魔王たちが、魔王ギルバードの近くに寄ってくる。

 新参と言われる魔王や、ミアとの接触がなかった者たちが集まりだす。

 笑いのツボに入ってしまっていた魔王カミドネが復活して、演説を始めようとしていた魔王ギルバードの横に立つ。

「すまん。すまん。魔王ギルバード。もう大丈夫だ」

「・・・。魔王カミドネ」

 二人の魔王は、ミアの戦闘力を語った後で、ミアが”好戦的”ではないことを説明した。ミアには、明確な優先順位がある。優先順位を崩さなければ、ミアは大魔王の眷属の中でも穏健派だと思われていることなどを説明した。

 二人の説明を聞いてもまだ釈然としない魔王が多いのは、ミアによって攻められたと言い出す魔王が多いことに危機感を持っているからだ。魔王島は、人を誘致して”遊ばせる”仕組みであることから、好戦的な魔王が支配者として認知されるのは困るというのが、新参の魔王たちの主張だ。

「それは大丈夫だぞ?」

「魔王ギルバード?」

「魔王ミアは、大魔王様が好きなだけだ。だから、大魔王様に敵対した者たちには容赦しない。敵対してこなければ問題にはならない」

「しかし、それでは、国家単位で大魔王様に敵対した者が、魔王島に・・・」

「それが?そんな連中が居るのなら、ミア殿が手を出す前に、私が率先して国をつぶします。違いますか?」

 質問をした魔王も”はっ”とした表情で頷いている。
 大魔王とつながったことで、大魔王に敬愛の気持ちが芽生えている。そして、大魔王が倒されれば自分たちも死んでしまう。この環境がぬるま湯だとして、生き続けられる環境を作っているのが大魔王なのだ.そんな大魔王に敵対する組織があるのなら、魔王たちは全力で排除を行う。自分たちの箱庭を壊されないように・・・。

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