【第三章 帝国脱出】第二十一話 おっさん撃退する

 

カリンは王都から届けられた情報を、イーリスと一緒に眺めていた。

「カリン様。どうしますか?まー様にご相談しますか?」

情報は、紙面に書かれていた。羊皮紙ではなく、まーさんが伝授した”紙”に書かれている。
そのために、情報の信憑性も高いと判断された。

イーリスは、カリンから受け取った紙面に書かれた情報を読んでから、紙面をカリンに返却した。

「そうだね。まーさんにも、伝えた方がいいとは思うけど、対策はないよね?」

カリンは紙面を受け取りながら、イーリスに同意を求める。

「はい。難しいと思います」

イーリスは、カリンの言葉を肯定する。
実際に、紙面の内容に対して、カリンとイーリスができることは何もない。おっさんでも、対策を考えることはできるが、”何も”できない。

「そうだよね・・・」

カリンは、戻ってきた紙面に視線を落す。

そこには、ロヴネル皇国からの通知の内容に関する連絡が書かれていた。

皇国からの申し出を拒否する宰相の事や、帝国内部にいる皇国派閥の貴族や商人が、”聖女”を探し始めている状況が説明されている。

イーリスは、カリンが”聖女”であることは知らされていない。偽装された、ステータスを見ているが、”偽装”されているとは認識しているが、本当のステータスを聞き出そうとはしていない。

「ねぇイーリス。皇国は、何が目的なの?」

カリンは、報告書に綴られた”聖女をよこせ”を指さしながら、イーリスに質問をした。
正確には、聖女だけではなく、『”聖”属性のスキルを持った者たちを差し出せ』なのだが、書類には”聖女”とだけ書かれている、”聖”属性となると、勇者たち全員が”聖”属性を持っている。武器や防具を具現化できるスキルを持っている為に、対象になってしまう。
皇国が欲しいのは、癒しの力を持つと言われている”聖”だ。同じ癒しの力を持つ男なら、皇国は欲しがらない。

「あっそうですね。カリン様やまー様には、表面的な国の関係だけしか・・・」

諸外国との関連は、表面的な部分はイーリスやラインリッヒ辺境伯から聞かされている。

「うん。まーさんが帰ってきたら、食事の時にでも教えてよ」

「食事の時に、話すような内容ではないので、食事後に少しだけお時間を頂けますか?」

「うん。私は大丈夫だけど、まーさんは帰ってきたら、教えて」

「はい」

いつもなら、カリンの側にはバステトが居るのだが、今日は、おっさんと一緒に散歩に出かけている。
バステトが一緒に行ったという表現が正しいのだろう。何かを感じていたのかもしれない。

カリンとイーリスが、送られてきた紙面について話し合っている時に、おっさんは領都から出て、近くの草原に来ていた。

領都でも、スラムに該当するような場所は存在している。おっさんは、そんな裏路地に根を降ろしている者たちがいる場所を、解りやすい金持ちに見える恰好で歩いていた。目当ての者たちが釣れなくて、今日で5日目だ。
やっと、目当ての者たちが釣れたので、そのまま領都を出て、草原まで誘導した。領都の中で対応をしてしまうと、おっさんの目的が完遂できない。

おっさんは、尾行に気が付いて、わざわざ後ろを気にしながら、はぐれないよう、ゆっくりと歩いて草原まで誘導した。

草原なので、隠れる場所がない。おっさんは、気が付かないフリをしていたが、バレバレの尾行だ。草原にある岩に必死に隠れているのだが、見えてしまっている。

「着いて来ているのは解っている」

岩に隠れているのは、全部で5人。
おっさんも人数を把握している。

「10、数える。出てこなければ、攻撃を行う」

おっさんは、カウントダウンを始める。

数が、”3”になった時に、岩陰から5人が粗末な武器を持って出て来る。
少年少女と呼ばれるような年齢に見える。

「おっさん!」

武器を持つ手が震えている。初めてなのだろう。

「おっさん。イエーンを持っているだろう。俺たちに、よこせ」

おっさんは、裏路地を無警戒に歩いて、襲ってきた者たちを、誰にも見えない場所で拘束していた。少年少女たちは、おっさんが無事なのを見て、金で解決したと考えたのだ。それも、おっさんが、暴力で解決できるような人物に見えないことや、連れているのが”ネコ”で魔獣には見えないことから、自分たちでも、このおっさんなら金を奪えるのではないかと考えた。
実際には、おっさんは襲ってきた連中を返り討ちにした上で、無傷で捕えている。捕えた状況を知らなければ、おっさんが逃げたと考えるのが妥当だ。

少年少女たちは、残念なことにスラムでも最下層のために、有益な情報に触ることができない。
スラムでも上層に属している者なら、おっさんが辺境伯に連なる者だと知っている。おっさんに手を出したのは、中途半端な者たちだ。場所が変わっても、情報が大事だというのは変わらない。
少年少女は、そんな中途半端な者たちよりも、情報を入手していない。

「欲しいのなら働け」

「え?」

「言っておくぞ、俺は、イエーンは持っているけど、お前たちに渡す義理も義務もない。それに、それほど優しくない」

おっさんは、少年少女を見ながら一歩前に踏み出す。
別に、威嚇をしているわけではない。バステトもおっさんの肩から降りている。いつでも、スキルの発動ができる状態にはなっているが、おっさんがバステトを撫でて止めさせている。

「何を!これが見えないのか?殺すぞ!」

震える手を自分で押さえつけるようにしてから、錆びたナイフをおっさんに突き出す。
おっさんに届きそうな距離だが、少年はそれ以上前には出られないでいる。

「少年。殺すと言ったか?」

おっさんは、カリンには聞かせたことがないような声で、”少年”と呼び、質問を行う。

「そうだ!殺されたくないだろう!イエーンをよこせ!」

震える手で必死に錆びたナイフを、おっさんに向ける。

おっさんは、錆びたナイフを見て、”凄く錆びた片手剣”なら”大地の結晶”と”モンスターの体液”で・・・。と、くだらないことを考えていた。

冷めていた心が、余計な事を考えたことで、暖かさと冷静さを取り戻した。殺される恐怖で、心が冷めたわけではない。おっさんは、少年の軽い言葉が許せないと思ってしまった。
日本にいる時にも、おっさんは何度も似たようなセリフで脅されたことがある。相手は、脅しのつもりで使ったのかもしれないが、それに覚悟が乗っていなければ、軽いうわべだけの言葉だ。覚悟が決まっている人間は、そんな軽いセリフは使わない。脅しと取られるようなセリフを使う前に、実際に行動に移している。少年の境遇には同情をするが、そこから出る努力を少年がしているとは思えなくなっていた。

「どのくらい欲しい?」

頭を切り替えて、当初の予定を思い出したおっさんは、胡散臭い笑い顔に戻って、少年に質問をする。

「金貨だ!金貨をよこせ!」

「うーん。金貨か」

「あるだろう!出せよ」

「殺されたくないし、金貨くらいなら出してもいいけど、金貨1枚でどのくらい生活ができる?」

「え?」

おっさんの質問の意味が解らない表情で、少年は固まってしまう。

「今日は、俺から金貨を奪えたとして、君たちがスラムに戻ったら、腐った大人たちは見逃してくれるのか?明日は?明後日は?その次は?同じように、誰かを脅すのか?少年たちの誰かが殺されるまで続けるのか?」

おっさんは、固まった少年だけではなく、周りにいる少年少女に言い聞かせるように質問をする。
質問の形を取ってはいるが、近い未来の話を聞かせているようだ。

「・・・」

おっさんの質問を聞いて、ナイフをおっさんに向けている少年以外は、皆が俯いてしまった。
未来の想像が出来てしまったのだろう。銅貨でさえ殴られて奪われる。銀貨を持っていたら、殺されてしまうかもしれない。それが、金貨なら・・・。

「それに、さっき、少年は、俺に”殺す”と言った、”殺す”のなら、自分が、周りの少年少女が殺されても文句は言わないよな」

おっさんは、刀を取り出す。少年がおっさんに向けている錆びたナイフに軽く刀を合わせてから、力を入れる。職人にお願いして作ってもらった刀だ。同じミスリルを鍛えた物や上位の素材を使った物で無ければ、簡単に切断ができる。

ナイフを”切られた”少年は、目を丸くして、切られたナイフを見つめてから、尻もちを付いた。

「状況は把握できたか?さて、誰から死にたい?」

おっさんは、ニヤリを笑って、一歩前に踏み出す。

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