【第三章 帝国脱出】第五十話 建国宣言

 

イーリスは、おっさんからの言葉を受け取って、領都に向った。
領都では、準備が進んでいた。

反対意見は有ったが、最終的な判断は王都に居るフォルミ・フォン・ラインリッヒ辺境伯に委ねられた。

領内をまとめたのは、代官だったダストンだ。ダストンにも打算はあった。正確な言い方をすれば、打算しかなかった。辺境伯領として、意思の統一を行う必要があった。丁度、代官と各町や村の長が領都に集まっていた。
同調圧力が無かった・・・。とは、言わないが、概ね独立はいい方向に捕えられていた。以前から、辺境伯領は、周りの貴族家から疎まれていた。その為に、国境とは別に領境にもはっきりとわかるように土塁を積んで、対応を行っていた。

イーリスが領都に戻ってきて、おっさんからの伝言がきっかけになった。

おっさんは、あろうことか、領境に大河を作る提案をしてきた。城壁で領を囲むことも可能だが、メンテナンスだけではなく、警戒を呼びかねない。それなら、自然の現象と言い切れる”川”を作ってしまったほうが早いというのが、おっさんの言い方だ。
ラインリッヒ領は、山があり、おっさんが逃げ込んだ魔の森がある。他領に向かう場所は、検問があるだけの状況だが、この場所に幅100メートルの川を作ってしまえと言うのが、おっさんの提案だ。池でもいいが、池だと流れが無いので、水が澱むことが考えられる。先に、橋のような物を作って仕舞えば、通行にも困らない。
木材は、魔の森に交易路を作っている時に伐採した木々がある。生木の乾燥は、龍族が簡単にやってくれる。あとは、人の手配だけだ。人は、おっさんの所からも派遣するが、基本はラインリッヒ領内で準備を行うことになる。
川は、そのまま、領内にも引き込まれて、人工のため池に蓄えられる。
最終的には、魔の森に返される流れになるが、ため池から各町や村に水が回されることになる。各町や村への用水路の整備は、ラインリッヒ領内での話となる為に、おっさんはノータッチだ。

辺境伯が領都に帰ってきた。
主だった家臣も連れてきている。王都の治安が悪くなったというのが表向きの理由だ。

領都と魔の森の中心と思われている場所が街道で繋がった。
おっさんは、街道に門を設置した。
魔の森の魔物や動物が領都に向かわない為だと言われて、誰も文句が言えなかった。その後、おっさんは門の左右に城壁を構築した。広い魔の森を覆うような城壁だ。
これで、魔の森は他国には繋がらない。
その代わりに、城壁に沿って移動すれば、領都に辿り着けてしまう。地図が秘匿されている世界では、格好の目印になってしまっている。
頭を抱えた辺境伯だったが、税収だけではなく、人の往来が増えたことで、一時期は治安が悪化したが、すっかり前よりも治安が良い方向に進んだ。辺境に接する国からの流入が増えたことが影響している。

帝国の宰相たちも、辺境伯の動きは掴んでいる。
情報統制を行っても、情報は漏れてしまう。

辺境伯とイーリスとロッセルが相談しているが、いいアイディアが出てこなかった。
その為に、おっさんに助言を求めた。

おっさんは、簡単に漏れる情報なら流してしまえばいい。もっともらしい反証が出てくるような情報と一緒に流せたら、情報を取得した方は、混乱する。そのうえで、本当に隠しておきたい情報だけは隠しておけばいい。

3人は、その話を聞いてから、準備がほぼ終わっている状況で、隠しておくべき情報は、建国宣言の日だと思ったが、おっさんは、建国宣言の日なんて都合があえば何時だっていいはずだ。多分、奴らが欲しいのは、こちらの戦力であり、経済圏だ。と、言い切った。
戦力は、おっさんの所に龍族がいる事を既に流している。他領や他国からの流入で、領民が増えていて、その中から兵士になった者たちが居る。

川の発生と同時に、税を帝国に送らないことも決められている。

これらの情報から、橋をかけた対外的な理由の為に、おっさんは川ができる場所に、深くはないが、横断するのに苦労する谷を作った。対外的には、谷を渡る為に必要な橋だと伝えている。

おっさんが川を作る為に用意した方式は非常識だと断言できる。
山々から小さな小川が流れていた。それらの流れを、龍族の力で強制的に変えたのだ。川の上流地点には、湖が出来上がっている。反対側は、ラインリッヒ領とは関係が良くない領と聞いて、遠慮なく水の流出を止めた。十分な湧き水があるのが解っていたために、川を流す提案をしてきたのだ。
領内には、今までと同じか、それ以上に水が提供される。おっさんの概算では、3/4が他領に流れていたのを、止めてしまったのだ.川の水量が確保出来るのは、当然の話だ。
それだけではなく、山にも手を入れた。
領内に山越えで入られないように山の形を変えてしまった。大きな岩を配置して、崖を作った。山の高さも1.5倍程度に高くしてしまった。
一言で言えば、やりたい放題だ。おっさんが実験してみたいと思っていたことを、試している状況になっている。全部が成功したわけではないが、殆どがラインリッヒ辺境伯領にいい方向に働いている。

ラインリッヒ辺境伯には、いろいろな領から苦情が届けられているが、辺境伯は”龍族が行った事で、自分たちには関係がない”という内容を伝えている
苦情は、龍族に行って欲しいという文言をつけている。
山を作り、谷を作り、川を作り、水の流れを変えるような自然と同等の力を持つような、龍族に勝てるわけがないと、殆どの者たちが思い始めている。だからこそ、なんとかして欲しいと、辺境伯に苦情を伝えるのだが、”糠に釘”状態で、辺境伯も取り合わない。

辺境伯が、領地に病状を理由に引き籠ってから、3年が経過した。
既に、領境”近く”を川が流れて、領に入る為に、橋を渡らなければならない。そして、橋の両側を、辺境伯家が抑えている状況だ。水の利用を認める代わりに、領の境を150メートルほど動かした。橋の両側は、辺境伯の領土で、小さな町が出来上がっている。
橋への攻撃は皆無では無かったが、辺境伯領の兵によって撃退されている。橋の素材は、魔の森の木々が使われている。おっさんは知らなかったのだが、魔の森の木々は、通常の木々と違って魔力を纏っている。その為に、乾燥してから数か月は通常の木々と変わらないが、時間が経過して魔力だけが木々に残ると、信じられないくらいに硬くなる。石よりも硬くなる性質がある。その為に、橋の強度は通常の城壁以上の硬度を持っている。龍族のブレスでなければ崩れない。

川の流れも落ち着いた。
人が泳いで渡れるような流量ではない。流量が変わってしまった川もあり、治水や村の移動が行われた。水の流れが変わってしまったのだからしょうがない。これが、領民の考えだ。より豊かになるので、文句を言うものは少ない。

そして、遂に、辺境伯が建国を宣言する。
おっさんは建国を宣言しないが。辺境伯が、魔の森にダンジョンが発生したこと、及び魔の森の中心に集落が出来て、国として対等に接すると宣言を行う。既に、帝国以外の国には通告を出している。
概ね認めるという返事が来ている。もちろん、他国から帝国に情報が伝わっているのは辺境伯も把握している。

準備はしてきた。
あとは、宣言を行うだけだ。

そして、仮想敵国は”帝国”だ。
他国も、辺境伯の反乱と考えている。工作を専門に行う部隊が実施した情報操作がうまく行っている。その為に、帝国内部の不満分子による”クーデター”だと簡単に考えられている。

フォルミが先頭に立ってバルコニーに向かう。
帝国の様な宮殿は作らない。元々の領主の館が公城となる。

フォルミは、いろいろとあった候補から、ラインリッヒ公国と決めた。自分が、初代公王となると宣言を行う。

付き従うのは、ロッセルとイーリスだ。

「イーリス様」

「いい加減に”様”は辞めてください」

「そうですね、イーリス。行きますよ」

「はい」

イーリスは、フォルミの息子と婚約した。

フォルミが民衆の前で、建国を宣言した。

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