【第三章 復讐の前に】第十五話 犬と猫
マイが先導する形で王城を案内している。
ユウキも知っている場所なので、場所を教えてもらえれば、移動は可能なのだが、ユウキや地球に戻った者たちは、レナートから出た人間と公表しているために、建前だが、レナートに残った者たちが案内をするという体裁が必要になる。
「ん?庭じゃないのか?」
通された部屋で、ユウキは怪訝な表情を浮かべて、マイに質問をする。
「えぇこの部屋で少しだけ待っていて欲しい」
ユウキは、マイの雰囲気から事情を察した。
「わかった。ヴェルが治療中か?」
マイは、肩をすくめる動作をするに留めた。
「三保の家は、ペットOKだよね?」
家を見て回っているので、マイも知っているはずなのだが、確認の意味が強い。
「ん?買い取ったから大丈夫だ?」
ユウキも、マイの質問の意図が解らなかった。
計画について話をしている上に、報告もしている。皆は、ユウキの”金”だと思っているが、ユウキは”皆で稼いだ金”だと思っているので、自分で得たと思われる金銭以外は、皆に報告してから使うようにしている。
「終わったみたい」
扉がノックされる。
入ってきたのは、治療を行っていたヴェルとオリビアだ。
「ユウキ。久しぶり・・・。でも、ないな」
「そうだな。ヴェル。大丈夫だったのか?」
「うん。サトシは手加減が苦手だから・・・」
ユウキは、最初にマイを見てから、治療を担当してくれたヴェルを見る。
「そうか、悪かったな」
ユウキは、少しだけ勘違いをしているのだが、会話として成立している上に、サトシが問題になる行動をしたのは間違っていない。マイも、ヴェルも、オリビアも、ユウキが勘違いをしていると気が付いたが、あえて訂正しなかった。
「それで、ユウキ。スキルは取得が出来ているのか?」
オリビアが、ユウキに必要なスキルの取得を確認する。
「大丈夫だ。スキルは取得している。使い方は、教えてくれるのだろう?」
ユウキがヴェルに話を振ると、頷いているので大丈夫なのだろう。
「そういえば、回復させるために、契約をしたのか?」
「大丈夫。あとで説明はする。マイが・・・」
「へぇ・・・」
「ユウキなら、他のスキルと組み合わせて、いろいろ出来そう。あとは、地球で大丈夫なのか・・・。そっちが心配」
「そうだな。魚や草木は大丈夫だったから、大丈夫だと思う。マイ。頼んでいた物も準備ができたのだよな?」
「うん。準備はしたけど、本気?」
「本気。本気。本気と書いて、マジと読むくらい本気」
マイとヴェルが苦笑して、オリビアが笑いをかみ殺している。
マイは、ユウキが戻ってきているタイミングを利用して、いろいろ報告をしている。
地球から持ち込んだ、野菜や調味料になる草木の育成実験の結果報告から、果物の育成状況の報告をしている。養殖は、一度は成功したのだが、その後に全滅して、原因を調べている最中だ。地球にないスキルが影響していると考えたが、1世代は繁殖している。2世代目も大丈夫だった。原因が判明しないので、養殖の前段階として、繁殖の実験から行っている。
異世界で繁殖した魚を、地球に持ち帰って、いろいろ調査したが、地球で繁殖した魚と違いを見つけられなかった。地球で科学的に調べても同じ種だと判断された。
しかし、魚は”スキル”を使っていた。その為に、スキルを利用する為の物質は”地球”にも存在する物だと判断されている。
この実験から得られた知見から、今回の作戦が実行される事になった。
「ヴェル。どこに行けばいい?」
「大丈夫。連れて来る」
「わかった」
ヴェルとオリビアが部屋から出る。
5分くらいしてから戻ってきた。
「ん?マイさんや?」
「何かな。ユウキどん?」
「ふふふ。ヴェルが連れてきたのは、フォレストキャットの幼体では?」
「そうですよ?正式には、”イリーガル”になっている幼体ですね。親に捨てられた所を、保護した?」
「疑問形にされても、なにも解決ができていない。それに、オリビアが連れているのは、フェンリルの幼体では?あれも、”イリーガル”か?色が少しだけ違うみたいだから、もしかしたら・・・。シルバーフェンリルの幼体か?」
「そうね。変異種なのか解らないけど・・・。あちらは、”イリーガル”ではないけど、許してね」
「ふぅ・・・。一度、マイとはしっかりと説明したほうがいいだろうか?」
「なに?意外と大変だったのよ。サトシが、密猟者を捕えて、密猟者たちを全員、捕えてしまって・・・。殺してくれたら、話が楽だったのに・・・」
「え?フォレストキャットは?親が放棄したのだろう?」
「えぇそうよ。偶然見かけてね。ユウキに渡すのに丁度いいと思ったのよ。大きさも、家猫でしょ?雑種で通るでしょ?最終的には、トラくらいのサイズになるけど・・・」
「どの辺りが大丈夫なのか疑問だが・・・。”イリーガル”だから、群れから排除されたのか?」
「多分ね。放置して、”はぐれ”になってしまうと困るから・・・」
「・・・。わかった。フォレストキャットは、全部で3体か?ヴェルが連れているから、全部雌か?」
ヴェルが頷いている事から、ユウキはいろいろ考える。
”つがい”である必要はない。フィファーナでは、魔物に分類されるフォレストキャットは楽に7-80年は生きる。野生な状況でも、100年程度は生きると言われている。”イリーガル”となれば、進化の可能性もある。寿命は、1,000年に伸びても不思議ではない。
そして、重要なのは魔物には繁殖期が存在しないことだ。ユウキたちも研究を続けているが、まだ魔物には解らない事が多すぎる。1年単位では、繁殖期がないというのが解った程度だ。
「ふぅ・・・。マイ。密猟者たちは、詳細は俺が知った方がいいか?」
マイが頷いた事から、密猟者は”召喚勇者”だとユウキは判断した。
フェンリルの中では、温厚だと言われているシルバーフェンリルの幼体を攫うようなことができるのは、”召喚勇者”しかいない。
「わかった。報告をまとめてくれ、親は?」
「殺されていたわ」
「そうか・・・。サトシは?」
「他に、密猟者が居ないか確認している」
「わかった。それにしても、シルバーフェンリルか・・・」
「大丈夫だと思うわよ。ヘル・ハウンドとかよりは・・・。サトシが狙っているのは、オルトロスだったから、止めさせたのよ?オルトロスの方がよかった?」
「はぁ・・・。アイツ・・・。頼んだ、意味が解っているのか?地球で、飼育すると伝えたよな?」
「もちろん。”バレなければ大丈夫”だと言っていたわよ」
「・・・。疲れた。それじゃ、フォレストキャット3体と、シルバーフェンリル2体との契約をする。報酬は、頼んだ時に言われた物でいいのか?」
「十分よ。セシリアが喜ぶ」
「わかった」
ユウキは、ヴェルから魔物との契約を行う時の注意と方法を教えてもらった。
スキルの補正があるので、習得も問題がなかった。
5体は、まだ幼体だが、契約者との意思の疎通にも成功している。
言葉を使った意思疎通はまだできなかったが、簡単な意思はユウキでも理解ができた。ユウキの話している内容も簡単な命令には従えるくらいだ。ヴェルの見立てでは、2-3ヶ月もすればもっとはっきりと意思が解るようになると言っている。
経験を積む為に、時々はレナートに連れてきて、”魔の森”での狩りを行わせた方がいいだろうという事になった。
まずは、5体を連れて、地球に戻った。
「ここが、お前たちの家だ。領域は、解るようにしてある。その中は、自由にしていい。あっ人が来ても攻撃はしないように、あとスキルの使用は、俺が許可を出した時だけだ」
5体から、了承の意思が伝えられる。
フォレストキャットの3体は、家の中を住処に定めたようだ。
シルバーフェンリルは、庭を好んだ。砂浜までの間を疾走するのが日課となる。交代で、番犬の役割をすることにしたようで、1頭は玄関に居る。犬小屋は、似合わないので、小さめの馬房のような建物を用意した。
5体には、スキルが付与された首輪をしてもらっている。
ユウキは、フォレストキャットとシルバーフェンリルを、役所に届け出を出した。
偽造などはリスクしかないが、ワクチンは不安だったので、馬込に頼んで融通が利く獣医を紹介してもらった。
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