【第七章 神殿生活】第七話 セトラス商隊
料金や運用を、セバスチャンに任せて、神殿に戻った。
屋敷の隣に設置したゲートの確認の意味もあった。
「ロルフ!」
ゲートの設置場所にロルフが居た。
俺を待っていたわけではないようだが、タイミングがよかった。
『マスター』
「何組のゲートが設置できる?あと、ブロッホやヒューマからゲートの設置依頼はあるのか?」
『マヤ様とミトナル様が、整理をリソースへの還元を行っています。現状では、残りは6組です。リソースへの還元が終了すれば、10組になる予定です』
「そうか・・・」
まずは、ギルドへの依頼をしなければならない。
アデレードの事を、屋敷に留めておきたくない。
ギルドのメンバーに話を聞きに行く前に、ゲートを作っておこう。
森の中央にゲートがある教会を作ろう。朽ち果てているような状況にしておけばいいだろう。地下に、ゲートを作って、神殿に入る場所は、貴族が使う予定にしているゲートから離して、通路は広めにしておけば、あとは勝手に考えるだろう。
さて、ギルドのメンバーに話をするか?
フェナサリムに話を通すのがいいのか?サリーカの・・・。セトラス商隊にも話を聞きたい。
地上に戻って、セトラス商隊がテントを設置した場所に近づくと、タシアナが近づいてきた。
「リン君」
「タシアナ。待たせたな。準備ができた。神殿に向うか?」
「わかった。あっ。でも、その前に、殿下は、どうするの?」
「そうだな。それで、殿下は?」
「いま、イリメリが接待をしている」
「イリメリ?ルナではないのか?」
「ルナは、ミヤナック家から来た護衛たちに捕まっている」
「何があった?」
「護衛の一部が、ルナを連れて帰ろうとして、言い争いになっている」
「それは・・・」
「フェムが間に入っているけど・・・」
「わかった、近づかないようにする。でも、それが終わるまで、殿下がミヤナック領に向けて出発できないな」
「ねぇリン君。私たちだけ先に、神殿に向わない?」
「ん?別にいいけど?」
「あのね。オイゲンが、そわそわして、うる・・・。やかましいの、さっさと」
「タシアナ。言い直されていないからな。そうか、わかった。その前に、サリーカに話を聞きたい」
「サリーカ?なんで?」
「あぁ正確には、セトラス商隊に話を聞きたい」
「ふーん。サリーカのお父さん?」
「誰でもいい。聞きたいのは、マカ王国との交易に関して・・・。だ」
「わかった。着いて来て」
「ありがとう」
タシアナの案内で、テント群の中を歩いて、一つのテントに辿り着いた。
テントの中からは、話声が聞こえる。
「ここか?」
「そう。サリーカ。リン君が話をしたいらしいよ?」
「入って!」
「あっリン君。私は、皆を集めるね」
「わかった。頼む」
テントというか天幕に入ると、サリーカが書類と格闘をしていた。
その横で、サリーカに似た男性が俺を睨んでいる。
年齢から、サリーカの兄貴か?
「リン君!何?」
サリーカが書類を捲る手を止めて顔を上げる。
「あぁ神殿の話はしたよな?」
「うん。まだ信じられないけど・・・」
「この後で、案内する。そのうえで判断してくれればいい。その前に、一つだけ教えて欲しい」
「何?私は、まだ婚約者は居ないよ?」
場の空気が一部から”怒”を含んだ物に変わる。
サリーカとしては、冗談のつもりなのだろうけど、辞めて欲しい。
「マカ王国に関して聞きたい。特に、交易が可能なのか?利益は望めるのか?」
「なんだぁ・・・。アニキの領分だね。アニキ?どうなの?」
やっぱり、兄妹だったか?
確かに、中里にも兄が居たはずだ。本当に、不思議な状況だ。状況が地球に近い形に調整されていると思えてしまう。本当に、違うのは、俺・・・。マヤの存在だけだ。
「ふん。それで、リン=フリークス。マカ王国の何を知りたい」
「アニキ!」
「チッ。俺は、サリーカの兄で、リカール。お前に教えるつもりはなかったが・・・。覚えておいてもらおう」
「わかりました。リカール殿。マカ王国のことですが、交易がアゾレムや宰相派閥の貴族に独占されていると聞きました」
「あぁ。忌々しいことに・・・。まぁマガラ渓谷があるので、商隊には交易ができない状況だけどな」
「マガラ渓谷が、商隊で越えられたら、交易は可能ですか?」
「可能だ」
「しかし、アゾレムや宰相派閥の利権に食い込むのですよ?できるのですか?」
「そうだな。俺たちだけでは無理だ。後ろ盾が必要だ」
「それは、ミヤナック家や王家ですか?」
「そうだな。あと、アゾレムに対抗ができる武力だな。ミヤナック家には期待ができない」
「それは、武力は、護衛ですか?それとも・・・」
「護衛は・・・。そうだな。護衛は、必要になる可能性があるが、必要度は低い。それよりも、拠点の防衛だな」
「拠点?」
「作るのだろう?」
リカールが作業をしていた簡易な机から何かを持って、立ち上がった。
そして、サリーカに部屋から出ていくように指示を出す。誰も近づけるなと命令も出している。
立っていた俺に、ソファーに誘導して、目線で座るように指示を出してきた。
ソファーの上に乱雑に置かれていた物を適当にまとめている。アイテム袋なのだろう?無造作に入れている。
片付いたテーブルの上に、一枚の紙が広げられる。
A1程度の大きな紙だ。内容は、トリーア王都を中心にした地図だ。
俺が把握している神殿の地図と比べても十分な精度だ。神殿の地図が領域だけなのに対して、王都周辺やアゾレム領の情報も書き込まれている。
軍事機密だろう?こんな地図を、商隊が持っているとは思えない。
「!」
「そうだ。これを見て、理解ができるようだな」
ごまかしは・・・。無理だな。リカールの目線はまっすぐに俺を見ている。信頼関係を崩すのはよくない。マイナスからのスタートだとしても・・・。
多分、ローザスやハーコムレイは知っているのだろう。それに、地図で状況が解っていたのだろう。だから、俺に森や街道沿いの土地を報酬で与えたのだろう。
「俺たちが把握しているのは・・・」
リカールが地図で示した場所は、俺が報酬で貰った場所だ。
しっかりと把握が出来ている。俺とセバスとロルフとマヤとミル以外には、報酬を出した人物たちしか知らない情報だ。
「そうか・・・。ハーコムレイと・・・」
「くくく。やはり、面白い。リン=フリークス。それ以上は必要ない」
ようするに、商隊の体裁を取っているが、実質はハーコムレイ・・・。ミヤナック家に繋がる者たち・・・。ローザスの派閥の人間だ。商隊なら、いろいろな領地を渡り歩いても不思議ではない。そのうえで、情報を吸い上げて、ミヤナック家に流している。
そうなると、ミヤナック家の後ろ盾では問題が発生するのでは?
リカールが、俺の表情を観察してニヤニヤしている。俺の思考を誘導しておいて、気が付いたら・・・。
「気が付いたようだな。後ろ盾には、ミヤナック家は使えない。もちろん、王家も、同じ理由でダメだ。さて、どうする?」
テーブルの上に置かれた地図を眺めるが、いいアイディアは浮かばない。
「ハハハ。後ろ盾は、必要ない」
「え?」
「マカ王国の特産品が出回れば、アゾレムはすぐに気が付く」
「はい」
「神殿の噂を聞いたら、間違いなく攻撃をしかける」
「そうですね」
「矢面に立つのは、俺たちではなく、リン=フリークス。お前たちだ。ギルドが巻き込まれたのは、文句を言いたいが、サリーカたちの判断だから、文句は言わない。可愛い可愛いサリーカが矢面に立つのは阻止したかったが・・・。リン=フリークス。アゾレムとは間違いなく戦争になる。政治的な戦いは、ハーコムレイとローザスに丸投げしてしまえ、その代わりギルドを、特に可愛い!可愛い!!可愛い!!!可愛い!!!!サリーカは絶対に守れ」
察した。
機嫌が悪かったのは、俺がギルドを巻き込んで、アゾレムと戦争をしようとしていると思ったからだろう。
それにしても、サリーカが居た時には、そんな素振りは見せなかったのに・・・。
息継ぎを一切しないで、サリーカの可愛さを列挙している。
もう一度・・・。思うけど、大丈夫なのか?
「え?あっはい。もともと、アゾレムとの戦いになったら、俺たちだけで対応するつもりでした。ギルドは、神殿の中を守ってくれるだけで十分だ・・・・と・・・」
ここは、素直に言っておこう。
アゾレムを潰すのは、俺だ。
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