【第二十九章 鉱山】第二百九十三話
ファビアンの話を聞いて、少しだけ考える。
新しく入れてもらったカップの縁を指で弾きながら状況を整理する。
現在、ゼーウ街には二つの問題がある。
一つが、ドワーフ族だ。これは、鉱石を求めている。厳密に言えば、自分たちが自由にできる鉱山が欲しいのだろう。ドワーフ族は、鍛冶をしていなければ、たんなる酒飲みだ。そして、鍛冶をやらせていても、多くは愚か者の集団だ。話を聞けば、ゼーウ街で文句を言っている氏族は、武器を得意とする者たちだ。
武器の需要は確かにある。しかし、武器は消耗品になってしまっているために、品質の良い武器を持ち、メンテナンスをしっかりと行う運用をしているのは、少数派だ。そのために、ドワーフ族は消耗品の武器を作って提供している。メンテナンスは考えていない。そもそも、奴らは作ることが目的で、その後は考えていない。メンテナンスは、別の職人が行う。その為に、材料だけが消費される。豊富にあった鉱石に、簡単に無くなってしまう。
もう一つは、武器や防具を用意したい。
これは、ドワーフたちの願いと同じ方向を向いているが、意味合いが違っている。ゼーウ街の周辺で小競り合いが発生している為に、防衛に必要だと言っているのだが、それは武器や防具だけではない。畑を耕すための鍬だったり、土を掘り返すためのスコップだったり、陣地を形成するための道具が含まれている。それだけではい。生活に必要な物も不足している。
この二つの問題を解決する。
デ・ゼーウとファビアンが考えたのが、鉱石をチアル大陸から融通してもらうことだ。
二つの問題の解決に向いそうな方法であるのだが、大きな問題が発生する。
ゼーウ街から支払いに回せるだけのスキルカードが無いことだ。
「ファビアン。デ・ゼーウは、対価に何を差し出す?」
俺が知っている限りで、ゼーウ街から出せる対価は、街の権利くらいしかない。
俺は、別に飛び地の権利なんていらない。そもそも、ゼーウ街を手中に納めるのなら、デ・ゼーウの後継でもめた時に、チアル大陸に組み込んでいる。港の権利さえあれば、それ以上は必要ない。
交易で儲けるための足がかりがあれば十分だ。
「それは・・・」
ファビアンを見る。
やはり、対価として差し出すのは、ゼーウ街になってしまう。それが解っているのだろう。
先に釘を刺しておこう。
「ゼーウ街を・・・。なんて言い出したら、今後、デ・ゼーウだけでなく、ゼーウ街との取引は行わない」
行商人たちは、自分の才覚で商売をすればいい。
しかし、チアル大陸からゼーウ街に向う物には、関税をかけるようにすれば、一気にすたれるだろう。
「はい。デ・ゼーウから、ツクモ様に渡せる物は、ダンジョンの権利しかありません」
いきなり、初めての情報が飛び込んできた。
「ダンジョン?」
ダンジョンの権利となると話が違ってくる。
「はい。しかし・・・」
「なんだ?ダンジョンなら十分な対価だぞ?」
「はい。解っています。しかし、そのダンジョンの攻略が終わっていないことや、近隣の街が支配権を主張してきて・・・」
まだ、ゼーウ街が権利を確立しているわけではなく、実効支配をしている状況なのだろう。
発生したばかりのダンジョンなら、デ・ゼーウなら簡単とは言わないけど、攻略はできるだろう。そのまま維持管理を行うのは、ノウハウが必要になるので、その分は俺たちを頼ってくれてもいい。
確かに、ダンジョンを対価に渡すのは、理にかなっている。
ゼーウ街は、ダンジョンの周りの権利を持っていれば、ダンジョンの支配には興味がないのだろう。もしかしたら、興味はあるがノウハウがないから、俺たちに渡してしまおうという判断をしている可能性もある。
「ん?話せよ」
他の街との小競り合いや武器や防具を求めてきた理由も解ってきたが、まだ何かあるのか?
話を聞かない事には、判断ができない。
ルートガーを呼ぼうかと思ったが、アイツ向きの話ではない。
「はい。ダンジョンは、ゼーウ街から半日程度の場所にあります。他の・・・」
ファビアンの説明では、ダンジョンを見つけたのはゼーウ街を拠点に活動している者たちだ。他の街にも顔をだしていた為に、情報はすぐに近隣の街に広がった。しかし、最初にダンジョンの周りを抑えたのは、ゼーウ街だ。これによって、ダンジョンの占有権はゼーウ街が持つことになった。
ここまでは大きな問題はなかった。
出来たばかりのダンジョンだと考えていて、攻略は難しくないと思っていたのだが、深さは10階層程度だと思われるのだが、中が広かった。
そのために、デ・ゼーウが指揮していた攻略チームは準備不足を感じて、撤退を決めた。
その後で、新種が、ゼーウ街以外の近隣の街を襲った。
そこで、少なくない被害が出てしまった。
ゼーウ街がダンジョンを占有しておきながら、攻略に失敗した為に、魔物が溢れて、街が襲われたと、近隣の街が主張した。
当然の流れだと思う。
そして、ダンジョンを初制覇した街が、ダンジョンを占有することに決まった。
それから、街ごとの小競り合いが始まった。ダンジョンに向う者たちを妨害したり、物資を奪ったり、邪魔では済まない状況になっている。
そこに、ドワーフ族がゼーウ街に訪れた。
問題は、複雑になっていくだけで、解決の見通しが立たない。
「そうなると、ダンジョンはまだ攻略されていないのだな?」
ゼーウ街の者たちが攻略できればいいが、そうならなければ、投資が無駄になる。
投資しなければ得られない利益がある。
俺たちが、中央大陸にダンジョンを持つのは・・・。メリットだな。
拠点ができることになる。使わない可能性もあるが、離れた場所にある拠点は欲しいと思っていた。エルフ大陸も拠点として使えるようになっている。中央大陸にも拠点が欲しい。
「はい。私がこちらに向う時点では、4階層までしか進んでいません」
先ほどの話と矛盾している。
「ん?デ・ゼーウは7階層まで進んだのだよな?」
「はい。しかし・・・」
攻略が進んでいないだけではなく、後退している理由は?
街ごとに牽制しあっているのか?
牽制ではなく、邪魔をしているから、ダンジョンの中に、拠点を作る手間が魔物以上にやっかいな”人”に対応しなければならないのか?
たしかに厄介な問題だ。
間者も居るだろう。足の引っ張り合いになっているから、さらに、武器や防具を求める。
ファビアンの話では、ゼーウ街からなら半日だけど、他の街では近い所で、1日。遠い所だと、2日。近隣と言えば、近隣だが、半日で到着して、身体を休めてからアタックができる。ゼーウ街がダンジョンの拠点になるのが理にかなっている。
他の街も、それほど辛い状況なのか?
「それに、まだ、ダンジョンは攻略されていないのなら・・・。ん?」
10階層と考えた根拠も新しいダンジョンだからという認識だが、攻略の難しさから、もう少しだけ深い階層があるのかもしれない。
そうなると、攻略は無理だな。
今は、まだ”得をしたい”気持ちになっているけど、そのうち”損をしたくない”気持ちになって来たら、現状で満足して手打ちに持っていく可能性がある。
「・・・」
ファビアンの反応から、攻略は無理だと判断した。
俺たちに・・・。
ん?
「ファビアン。ダンジョンは、攻略した街が占有することに決まったのだよな?」
「はい。取り決めの場には私も居ましたので、ツクモ様がおっしゃる通りです」
「誰が?ではなく、”街”なのだな?」
「はい」
「ファビアン。全部は、無理でもいくつかの問題は解決できる方法がある」
「え?」
「ダンジョンを、俺たちが攻略する」
ファビアンの驚いた顔を見ながら、もう少しだけしっかりと考えなければと思い。
話を思い出しながら、考えを加速させる。
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