【第二十六章 帰路】第二百六十七話
港に到着する前にやっておきたいことがある。
「モデスト。ステファナ」
二人が、俺の前に来て、跪く。
「二人には、俺とシロから離れて、隠れてもらうよ」
二人の顔に不満を示す印が浮き出る。
「二人は、港を制圧する仕事があるから、俺たちと一緒にいる所は見られないほうが、最初はやりやすいでしょ?」
ステファナとモデストは、お互いに顔を確認して、ステファナが前に出る。
「旦那様。私とモデストは、離れまして、夫婦として港に入ります」
「そうだな。その方が目立たないな。モデストの眷属を、従者として残してくれ」
「もちろんです」
ステファナが、モデストに目で合図を送る。お互いの表情からは、すでに夫婦としてやっていけそうな雰囲気が漂っている。
眷属が二人、俺とシロの後ろに移動してきた。
従者になるようだ。名前は、モデストから聞かないで欲しいと言われている。モデストの眷属だと認識をしていればよいのだろう。呼びかけの必要があるときにも、モデストを名前として利用したい旨が告げられた。どうやら、眷属も同じ名前で問題はないようだ。
シロが可愛く、”?”の表情を浮かべるので、頭を撫でておく。
ステファナとモデストが、簡単に引継ぎを行う。
シロの従者が居なくなるが、モデストの眷属がシロの従者の役割も行うようだ。眷属の二人は、男性と女性のペアになっている。
「シロ。大丈夫か?」
女性のモデスト?と、話をしている。
俺の問いかけに、頷いて答えるので、まだ少しだけ不安なことがあるのだろう。ステファナがシロの態度を見て、近づいていく。
「旦那様」
「どうした?モデストは、引継ぎはいいのか?」
「従者の仕事は、ほとんど・・・」
「そうなのか?」
「旦那様。お考え下さい」
「え?」
「お着替えは、旦那様が自分で為されますし、食事もほとんど、ご自分で準備をされます。従者の仕事は、カイ様とウミ様のお世話ですが、それも必要になることは少ないです」
「・・・。そうだな。基本、自分でやったほうが・・・。そうか、それで、従者としての仕事がないのだな」
「はい。他の方との連絡係のような者です。”旦那様と奥様のお側にいる”のが仕事になっています」
「そうか、なんか悪いな」
「今更なので、大丈夫です」
「そうか・・・。おっ。ステファナの引継ぎも終わったのか?」
ステファナとシロが頭をさげる。
シロの引継ぎは、荷物の引継ぎが多いようだ。外に出していない荷物もあるから、それらの調整はステファナの仕事だ。
細々した引継ぎも終わって、モデストとステファナは、一度、俺たちから離れる。
新しく、今までは隠れて護衛していた二人が従者に変わる。
俺とシロと二人の従者は、歩いて港に入る。
ステファナとモデストは、馬車を使う。
カイとウミは、まだ持ってきていない。二人なら大丈夫だろうと、気にはしていないが、シロが少しだけ心配になってきているようだ。
「カズトさん。カイ兄とウミ姉は?」
「森の探索をしているからな。港で落ち着いたら、合流してくるだろう」
「そうですね」
シロが後ろを振り返ると、遠くに森が見えるだろう。
カイとウミが何をしているのか解らないが、好きにさせておこう。
ステファナの里帰りという意味合いもあるが、カイとウミの里帰りの意味合いもある。
「心配しなくても大丈夫だろう」
「はい」
シロが、俺の横に来たので、頭を撫でておく、手を出すと腕を絡めてきた。
「どうした?」
「いえ・・・」
「ん?」
「”帰る”場所が有って、待っている人が居るのが嬉しくて・・・」
”帰る場所”
確かに、俺たちの帰る場所だ。
皆が待っている。待っていてくれると嬉しい。
「そうだな。早く帰らないと、文句を言い出しそうな連中が多いな」
「・・・」
ルートは確実に文句を言ってくるだろう。
他にも、数名の顔が浮かぶ。
「ルートとか、遅いとか平気でいいそうだ」
「そうですね。あと、意外なところで、カトリナ嬢も文句をいいそうですね」
そうだな。
カトリナには、何か”ネタ”になりそうな物を与えないと納得しない可能性がある。遊戯施設は作っているだろうから、今度は”おもちゃ”でも作るか?
忘れては”ダメ”な二人を思い出す。
「そうだな。シロ。フラビアとリカルダへの土産を買って帰ろうな」
シロを慕っている二人なら、シロから渡せば、問題はないだろう。
「はい!クリスティーネにも・・・」
すっかり忘れていた。
シロに言われて、思い出した。ルートと対になるような物でいいかと思うけど、エルフ大陸に、そんな都合がいい物があるか?
土産物屋なんて見なかった。商店はあるが、どう見ても”仕入れ”が、主な業務に見えた。
そりゃぁそうだよな。
”観光”なんて考えられない世界だし、”土産”も同じだ。
「解っている。ギュアンとフリーゼにも買っていこう。それにしても、関係者が増えたな。」
「?」
「最初は、俺とカイとウミだけだったからな。それから、ライが来て・・・」
最初は、どうなるかと思った。
カイとウミが居なかったら、それから・・・。
「はい」
昔はなしなど、意味がないと思っていたが、いろいろあった。
物語の最終回が近づいてきたときの演出だが・・・。
まぁ考えても仕方がない。
シロと一緒に、港を目指す。
港が見えてからが遠い。
徒歩だから、当たり前と言えば、それまでだが、移動手段くらいは確保しておけばよかった。
もう、遅い。
今から確保しても、馬車を待っている時間で、港まで到着してしまう。
「カズトさん?」
「あぁ・・・。馬車が必要だったかな?と、考えただけだ」
「うん。ぼくは、カズトさんと歩けるので、馬車がなくても・・・。ないほうがいいです」
「そうか?」
「はい!」
シロが嬉しそうにしている。
疲れていないのなら、問題はないな。
「そういえば、シロは、訓練は続けているのか?」
「もちろんです!カズトさんを守る、最後の砦がぼくです。カズトさんが強いのは解っていますが・・・」
「そうだな」
エルフ大陸に来てから、身体を重ねた時に、シロにお願いされたことがある。
心境の変化なのかわからないけど、シロは俺には一秒でも長く生きて欲しいと伝えてきた。
凶刃に倒れるのなら、自分が先に死ぬ。一秒でも、俺が居ない世界で生きていたくない。だから、死ぬときは一緒だとは言わない。”1秒でも、1分でも、1時間でも、1日でも、1年でも、長く生きて欲しい”らしい。
俺も、むざむざシロを死なせるようなことはしない。
俺も同じ気持ちだ。だけど、シロの言葉を尊重する。実際には、その時になってみないと・・・。俺はシロよりも長く生きるつもりはない。
そのうえで、死ななければならない状況になっても、みっともなくても、汚くても、どんな方法でも、二人で生き残る方法を考える。
俺の考えは、シロには伝えていない。
だけど、二人で生き残る道を探そうとだけ伝えた。シロが納得しているか解らないが、”死”を選択して欲しくない。”死”を選ぶよりも、難しく、困難で、醜く、汚く、みじめかもしれないけど、シロとなら大丈夫だ。すべてを失っても、シロが居れば・・・。
「あ!」
シロが指さす方向に、港の柵が見え始める。
この大陸では、港を襲う勢力は皆無だ。
港以外は、エルフが治めている。治めていた。力が無ければ、無条件で殺される。そんな場所だ。
最初に感じた違和感は、森でわかるのだが、魔物が極端に少ない。小動物が少なくなっているから、捕食する魔物も少なくなっているのだろう。生態系が崩れたのは、森だけではなかったようだ。島全体がおかしくなっている。
森エルフも、草原エルフも、農業をしているようには見えなかった。
”森の恵”だけで生活していたのか?
根本から、変えないとダメかもしれないな。
これだけの土地があり、水がある場所で、農業をするという発想にならなかったのか?
豊かな森ならよかったのだが、どこかでバランスが崩れたのだろう。最初は、些細なことだったのかもしれない。
それが、大きなうねりになって、エルフ大陸を覆いつくすまでに大きくなってしまった。
ん?
港が騒がしい?
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