【第五章 ギルドの依頼】第六話 マルスからの報告

 

 ヤスは、神殿への道を今度は遠慮する事無く跳ばしていた。

 カウンターをあてながらFITを横に滑らせて走っている。

「エミリア!神殿の結界に触れたら、ストップウォッチを停止!」

”了”

 その間にも、スマートグラスには進むべき道が示されている。
 エミリアは、一度通った道なので、カーブをRでも示されるようになっている。

「エミリア。Rでの表示を、松竹梅の三段階に変更できるか?」

”設定が曖昧です”

「わかった。神殿で全体像を見ることはできるか?」

”可能です”

「ドラレコの映像を確認する事は?」

”可能です”

「神殿に着いてから説明する。今は、Rで示すようにしろ」

”了”

 残りは直線。
 ヤスはアクセルを踏み込む。急に踏み込んでしまったために、軽くホイルスピンをして挙動が崩れた。

(しまった!)

 カウンターをあてて体勢を戻す。
 間違いなく速度が落ちてしまっている。速度が回復しないまま、結界に触れたのだろう、ストップウォッチが止まる。

(9分35秒759)

(これを基準とすればいいか?)
(荷物を積んでいる時には、こんなに早く走れないだろう。ユーラットに繋がる道も何通りか作っておきたいな)
(ラリーカーやスポーツカーで走りたくなってくる)

 ヤスは、くだらないことを考えながら、神殿の入り口まで来た。
 自分では気がついていないようだが、結界の中に入ってからは自動運転に切り替わっている。FITにはそんな機能は搭載されていなかったが、マルスが神殿の機能を把握してからできるようになったようだ。神殿の領域内なら、ディアナの権能がフルに使える事もわかってきた。

 神殿の入り口に近づくと自動的にシャッターが開いた。
 ディアナは、そのままFITを誘導して駐車位置に停めた。

 ヤスは、FITから降りてエレベータに向かう。
 マルスと会話をするのなら、1階が適しているからだ。

 1階は、広い空間にしてあるのだが、そのうち倉庫にしようと考えている。食料品を置く場所ではなく、アーティファクト級の物や遊び道具を置く場所が必要になってくる。そのための場所にするつもりなのだ。

 なにもない部屋だったのだが、ヤスはテーブルと椅子を残っていた討伐ポイントを使って出して設置した。
 必要になるかわからなかったが、有って困るものではないと思ったようだ。同時に、メモが必要になるかもしれないと、紙とペン(ちょっと高かったが、ジェ○トストリ○ムの4色ボールペン)を出した。

「マルス。それで、報告は?」

『マスター。お疲れ様です。いくつかご報告とお願いがあります』

「なんだ?」

 マルスの報告で重要な物からヤスは対処をしていく事にした。

「神殿の最終地点に配置するボスは必須なのか?」

『はい。神殿の最奥部にボスを配置しておかないと、自然発生してしまいます』

「それじゃダメなんか?」

『自然発生の魔物ですと、マスターの支配下に置けません』

「支配下?」

『はい。マスターがコアに行く時に、支配下にない場合には、襲われます』

「何でもいいから配置しておけばいいのか?」

『はい。それで問題はなくなります。神殿の領域が広がった事により、魔物を支配下におけるようになりました』

「わかった。意思ある魔物の方が、いいだろうな。でも、討伐ポイントが・・・。あっ魔力でいいのか・・・。ドラゴンは・・・。流石に高いな。妖精はいいイメージがないな。さすがに最下層のボスでスライムは無いだろう・・・」

 ヤスは、カタログを捲るように魔物が表示されるページを見ている。
 魔物をみながら、もっと大きなディスプレイが欲しいと考えてしまっている。確かに、エミリアは持ち運ぶのには便利なのだが、今のように机に座って使うのならパソコンの方が便利だと思えてくる。

「マルス。最奥部だけど、地形や環境を変えられるか?」

『可能です』

「討伐ポイント?魔力ポイント」

『討伐ポイントです』

「そうか・・・」

 ヤスは、討伐ポイントを確認すると、500を切っている。魔力ポイントは、1万ポイントを少し切るくらいまで増えてきている。

「ボスは一体じゃなきゃダメか?」

『大丈夫です。最奥部の部屋に居る魔物が全部倒されないとコアへの扉が開きません』

「そうか・・・」

 最奥部を見て、地形変更をやってみる。
 森林を選択すると、450討伐ポイントで変更ができるようだ。部屋の中だけに絞れば問題ないようだ。

 ヤスは、最奥部を森林に変更した。

 そして、エミリアに限界まで魔力を注いで、エルダーエントを配置した。
 このエルダーエントには眷属召喚や人化のスキルがある。ヤスは、エルダーエントに神殿内部の管理を任せようと考えているのだ。そして、本当のラスボスを配置する為に、また魔力をエミリアに注ぐ。

 次にヤスが配置したのは、ゴールデンスカラベ10体だ。
 ボス部屋の広さの森林に、親指サイズの魔物10体を探す事ができるだろうか?

 ヤスはそれだけではなく、ほぼ魔力を0にしたスライムを一体”天井”に配置した。天井部分に小さな小部屋を作って、その中にスライムを置いたのだ。そして、天井には残った討伐ポイント全部を使って光を配置した。

 攻略させる気がまったくないボス部屋が完成した瞬間だ。

「マルス。こんな感じでどうだ?」

『ありがとうございます。自然発生の魔物は、定期的に討伐する必要があります』

「自然発生した魔物だと、討伐ポイントが入るのだよな?」

『はい』

「わかった。今後、ゴテゴテに武装した装甲車でも召喚するか?」

『了』

「それで?他にもあるのだよな?」

『はい。神殿から提供される魔力が思った以上に多く使わないと強力な魔物が発生します』

「どうしたらいい?」

『魔力を消費する必要があります』

「うーん。しばらく、神殿内部に魔物を発生させて駆除するしかないかな」

『了』

 家電にて消費するのがベストなのだが、ヤス一人なので完全に消費できるわけではない。それに、必ず居るわけではない。
 今は問題としては小さいのだが、放置は愚策だ。放置していれば問題が大きくなってしまう。何らかの対処をこうじる必要が出てくるのだが、ヤスはこの問題を先送りにする事に決めた。もっと言えば、討伐ポイントが楽に稼げるかもしれない程度に考えているのだ。

「他には?」

『マスターからありました提案を確認した所、硬貨からの討伐ポイント切り替えが可能になりました』

「本当か!」

『はい。効率はすごく悪いので、緊急処置だと考えてください』

「わかった!やり方とレートは?」

『やり方は、エミリアに硬貨を収納しまして、討伐ポイントに変換で実行されます。レートは、大銅貨1枚で1討伐ポイントです』

「やり方はわかった。確かにレートが美味しくないな」

『はい』

 ヤスが躊躇してしまう位に交換レートが良くない。1討伐ポイントが1,000円程度になってしまう計算だ。
 サク○ドロップが、討伐ポイントで出すと1500ポイントが必要になっていることを考えるとサク○ドロップが150万円となってしまう。

「硬貨を変換する方法は無視したほうが良さそうだな」

『はい』

 討伐ポイントや魔力ポイントを貯める必要性はあるのだが、急務では無いと考えていた。

 ひとまず、FITがあれば近隣や少し離れた場所への移動はできると考えて、まずは領都に行ってこの世界のルールを少しでも把握しようと思ったようだ。
 それと、自分の身を守るための武器や防具を揃える必要性を感じているが、FITやモンキーが使える結界の強度を知りたいと思っている。この世界でしっかりと通用するようなら、護身用の武器を持つ程度で十分だと思っているし、最悪は小さなドローンのような物を購入して結界や索敵などの魔法を付与しておけば十分だろうだと思っていた。
 十分なオーバーテクノロジーだが、自分の身を守る為なら妥協する所ではないし妥協する必要はないと考えていた。

 ヤスの誤算は等価とは言わないがもっと安い感じの交換レートだと思っていたのだが、1000円相当が1ポイントになってしまうとは流石に思わなかった。

 自転車やキックスケーターの値段が日本で購入するときの1,000倍になる事になるが、アーティファクトだと考えれば安いのかもしれない。

(安いママチャリが、討伐ポイントで約1万。マウンテンバイクが3万ポイント・・・。間違いなくこっちだろうな。道を考えれば、ロードバイクは無理だろう・・・。クロスバイクも止めたほうが無難だろうな)

(討伐ポイントが貯まってから考えればいいかな・・・)

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