【第五章 マヤとミル】第十四話 魔力溜まり
「ミル!」
「大丈夫」
魔力溜まりに飲み込まれる状態になっている、ミルの声だけが聞こえてくる。
気のせいかも知れないが、魔力溜まりが小さくなっているように思える。
『マスター?』
「わかっている。周りには魔物は居ないのか?」
『はい。すでに駆逐しました』
「そうか、ありがとう」
魔物が湧いて出る様子もなくなった。周りを警戒していた、眷属たちが戻ってきている。
皆が、小さくなっていく魔力溜まりを見つめている。
5分くらい経って、ミルが顔を出す。
「ミトナルさん?」
「あっ・・・。説明、忘れた」
魔力溜まりがあった場所から、俺の肩に移動したミルは、少しだけ大きくなっているように思えた。
「先に、渡す」
「ん?」
ミルが、どこからか取り出した、大きい魔石を渡してきた。
いろいろ聞きたいことがあるのだが、まずは魔石を受け取る。
「ミル?」
魔石を鑑定しても、”魔石”としか出てこない。
「リン。魔石」
「え?あっうん。魔石なのは、解るけど・・・」
「そう、純粋な魔石」
「純粋な魔石?」
会話になっていないようにも思えるけど、しょうがないのか?
「うん。魔力が凝縮している。教えてもらった!」
「教えてもらった?誰に?」
「・・・。ごめん。話せなさい。リンが、僕とマヤと結ばれたときに教えられる・・・。らしい」
「よくわからないけど、わかった。それで、この魔石はどうするの?」
「神殿の動力?に使える」
「あっそれで・・・」
いろいろ納得できた。魔力溜まりは、魔力から魔物が産まれる。これは、確定なのだろう。ミルが”なにか”処理を行って、魔力溜まりを”魔石”に変換した。今までの魔石には、魔物の名前が付いていた。ミルから渡された魔石には、名前が無い。”魔石”とだけ出ている。だから、純粋な魔力が固まった状態なのだろう。神殿に還元したときの効率がいいかも知れない。
「ミル。それで、成長したのは?」
明らかに大きくなっているミルを肩から手の上に移動させる。ミルは、手の上では座りが悪かったのだろう。近くに居た、アウレイアの上に座った。
「第二形態?」
「なぜ、疑問形になっている?聞いているのは、俺なのだけど?」
「うーん。よくわからない説明をされた」
「そうか・・・。でも、成長したのは間違いないよな?服装も変わっているし、可愛くなっているよな?」
「え?あっ・・・。うん」
顔立ちや姿は、ミルで間違いはない。
衣装は、どう言っていいのかわからないが、俺がよく知っている”妖精”のイメージ、そのものだ。わざとやっているのかと言うくらいだ。2対の羽を生やして、レオタードに似た衣装にミニスカートを身に付けている。凹凸は、ミルのままのようだが、十分にセクシーだ。
高校生だったころのサイズだったら・・・。やばかった。
「リン?どうしたの?」
「え・・・。なんでもない。それよりも、本当に大丈夫なのか?」
「うん!それに、妖精は、僕であって、マヤでもある。それに、僕たちの本体は、身体だよ?妖精は、仮の身体だから大丈夫」
「うーん。何度、聞いても、よくわからない」
「いいよ。僕とマヤが一緒になっていると覚えていてくれれば間違いじゃない」
「わかった。理解はできていないけど、わかった。あっそうだ!それで、魔力溜まりは、もう大丈夫なのか?」
「うん。この場所にできていた、魔力溜まりは消滅したから大丈夫」
確かに、魔力溜まりは魔石に変換された。ミルだけが、実行できるのか?それとも、スキルで対応できるのか?疑問は湧いて出てくるが、この周辺が安全になったと考えればいいだろう。
「そうか、戻るか?」
「うーん。もう少し・・・。ダメ?」
「ダメじゃないけど、なにかあるのか?」
「リンと一緒に散歩?」
「なぜ疑問形なのか気になるけど、そうだな、せっかくだから、森の中に目印になるような場所を探すか」
「目印?」
「大きな岩とか、川が曲がっている場所とか、目印を作っておけば、次に魔力溜まりができたときにすぐに対応ができるだろう?」
「うん!」
ミルが俺の肩に乗ってきた。
それから、アウレイアの案内で森の中を散策した。ミルが楽しそうにしている。都合が良さそうな目印も見つかった。アウレイアたちに目印までの距離を計測してもらった、基準点は、”祠”にした。祠の位置も、街道からの距離で計測を頼んだ。
今、俺の近くに居るのは、肩に乗っているミルを除くと、アイルだけになった。
アウレイアは、街道に出て距離を計測する。距離の計測は、おおよその移動時間で管理することにした。しっかりした目安となる物が無いので、最初に計測したアウレイアの移動を目安とした。
「なぁミル?」
「なに?」
「魔力溜まりって結局、魔力が溜まった場所なのか?」
「うーん。違うみたい。魔力が淀んだ場所?」
「淀んだ?」
「うん。なんでできるのかはわからないけど、放置していると、”ダンジョン”のような感じになるみたい」
「そうか・・・。やはり、ダンジョンがあるのか?」
「うん。神殿は、ダンジョンを改良した物だよ」
「え?」
「え?知らなかったの?」
「あぁ・・・。だけど、納得できるな。だから、管理者になれば、リフォームができるのか・・・。ん?そうなると、神殿は、魔物が発生するのか?」
「管理者が居れば大丈夫」
「うーん。あっそうか、今までは、魔力が足りなくて休眠状態だったのか・・・」
「うん。それで、マガラ渓谷に、低位の魔物が発生していた。・・・。らしい」
「”らしい”って、あぁ聞いたのか?」
「うん」
「俺に伝えても大丈夫なのか?」
「大丈夫。リンは、僕とマヤの旦那様だから!」
「・・・。それは、確定なのか?」
「ダメ?」
「ダメじゃないけど・・・」
「ダメ?」
「なぁミル・・・。俺は、ミルに・・・。違うな。俺は、マヤとミルが好きな不誠実な男だ」
「・・・。リン?」
「そして、マヤの為に、ミルを犠牲にしようとした。そんな、俺が・・・」
妖精の姿のままのミルが、俺の目の前でホバーリングのように空中で止まる。
「リン。僕は、マヤと一緒に慣れてよかったと思っている。マヤも同じ気持ち」
「え?」
「マヤは、リンと本当の兄妹でないと知った時に、喜んだ・・・。と、言っていた」
「・・・」
「マヤは、リンを子供の時から、好きだった。リンは、気がついていなかった」
「え?」
「だから、兄妹ではないと知ったときに、マヤはリンと一緒になりたいと思った」
ミルの表情が少しだけ陰ったように見えた。
「・・・。ミル?」
「だから、僕は、ミルに僕の身体を与えて、僕は消えようと思った」
「・・・」
「でも、マヤが許してくれなかった」
「・・・」
「マヤは、自分が人族ではないと知った」
「・・・」
黙って、ミルを見つめる。さっきみたいに、辛そうな表情ではない。どこか、自分に言い聞かせているようにも見える。
「だから、最初は、マヤが妖精で僕は、僕のままでいいと言った」
「っ」
「でも、それでは、”格が足りない”と言われた」
「格?」
「うん。それで、僕たちは二人で一人になって、リンを支えると決めた」
どうやら、”格”とやらは説明してくれないようだ。
「ミル・・・。でも・・・」
「”でも”は、いらない。僕は、リンを愛している。マヤも同じ。でも、リンに押し付けるつもりはない」
「・・・」
「リンが、僕とマヤを好きだと言ってくれた言葉が嬉しい。僕たちは、僕は、リンの側に居たい。ダメ?」
「ダメ・・・。じゃない。俺も、マヤとミルと一緒に居たい」
ミルが、俺に抱きついてくる。サイズが合わないので、首に抱きついてくる形になるが、それでも、ミルの体温を感じる。
『マスター!新しい、魔力溜まりを発見しました!』
どうやら、ミルとの散歩はまだ続ける必要がありそうだ。
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