【第二十章 攻撃】第二百七話
やる事が決まった。
決まったのはいいが・・・俺の作業がない。
ダンジョンコアを使って、チアル大陸の全域を支配領域におく計画なのだが、俺は何もする事がない。
ルートガーに話を通して、元老院で説明しただけだ。
抵抗もなく、受け入れられた。支配領域というと仰々しいが、退避場所ができたと考えれば、ダンジョンでもありがたいという事だ。
ダンジョンができた時に、俺からルートガーに連絡を入れて、ルートガーか元老院が代官に知らせる事になる。その時に、行政区からダンジョンの調査を行う為の調査費を各代官にわたす事にした。
正しいかわからないが、一定の効果は期待できるだろう。
支配領域にしておくことで、俺の移動に関してはかなり楽ができる事は間違いない。スキルカードを渡す事で、代官の資質もわかるし、地域の活性化につながればいいと思っている。
情報は出していないが、商隊などから新種の魔物に関する情報は流れ始めている。
状況はあまり良くないのだ。目先をごまかす事ができれば・・・。もしかしたら、新種とダンジョンを結びつける人が出てくるかも知れないが、アクションを起こさなければ何も始まらない。
「それで、どのくらいの時間が必要だ?時間の短縮はできそうに無いのか?」
シロの肩や頭に居るダンジョンコアたちに話しかける。
「マスター。全体を覆うには、3ヶ月くらい必要ですが、外周部だけなら半月くらいです」
「わかった。急いで欲しいが、無理のない範囲でやってくれ」
「マスター。魔核の吸収も好きにしていいのですよね?」
「必要な分は吸収してくれ、それから、SAやPAや道の駅では魔物は出さないでくれよ」
「大丈夫です。湿地帯は出してもいいのですよね?」
そう、湿地帯に居る者たちは魔物の狩りに魔の森にでかけている。
現状、規制するつもりは無いが、魔の森の再支配が完了したら、イサークに進めさせる実験場所に変わる。
そのためにも、魔の森と同じ程度に魔物が出るダンジョンを作成して、魔の森ではなくダンジョンに狩りに出かけるように誘導したいと考えているのだ。
「そうだな。低階層で広い場所を作って、アズリのポットを配置しよう」
「わかりました」
できる事をやっていこう。
まずは・・・。
「シロ。ガーラントに会いに行くけどどうする?」
「僕は、ホームに残っています」
「わかった」
シロは、ホームでモンスターをハントするようだ。
ホームに帰って来て、エーファとの模擬戦で詰め寄られたのを気にしている。
前線で戦うわけじゃないから強さは必要ない。
全体を見る目を養って欲しいと言っているのだが、シロは俺の護衛も兼ねているからと言って、ハントに参加する事を希望している。
根負けする形で、シロがモンスターのハントに参加する事を承認した。
「今日は、どうされますか?」
「ん?ガーラントに素材を渡したら帰ってくる予定だよ」
「わかりました」
そうなのだ。
また素材が貯まり始めている。
次元収納がレベルアップして使える権能が増えた事を良い事に溜めまくってしまったからだ。
今まで、スキルを使って固定した場合には、レベルアップが起きなかったが、どうやら、次元収納は違うようだ。プログラムも違うかも知れないが、ひとまず次元収納の確認だけを行った。
ホームの中に、切り離された秘密の小部屋を作る事ができるようになった。
作り方が最初はわからなかったが、部屋を作ってそこに権能を付与する形になる。
部屋の中だけ時間設定が変えられるのだ。
使い所が難しいが、素材を放り込んでおく場所には丁度いいだろうと考えて、時間停止している部屋を作った。
中に入られるのは、クローエとクローン・ダンジョンコアたちだがそれで十分だと思える。
溜まった素材で、吸収しても効率が悪い物を選んでガーラントに持っていく。
あと、ガーラントから依頼が有った素材を合わせて持っていく事になる。
竜族の鱗とかふざけた事が書かれていたが、しっぽに毒を持つ竜のモンスターやその相方を倒したら、鱗や逆鱗がはぎ取れた。あれだけ苦労したのが嘘のように、紅玉とかも入手できた。
紅玉は魔核の一種のようで、毒のブレスや火のブレスの複合スキルが付与されている。
レ○スさんやレ○アさんを見た、エリンが興奮して異世界の竜にできるのだから”自分にもできる!”と言って、各種ブレスに挑戦している。エリンのブレスとモンスターたちが使うブレスは別物なのだと、ステファナとアズリが説明してくれた。
説明を聞いてもよくわからなかったが、エリンたち竜族が使っているのは、スキル由来のブレスで、モンスターたちが使うブレスは身体能力によるブレスなのだと言っていた。それならなぜ彼や彼女が持っている紅玉にはスキルが付与されているのだろう?
別に効果が同じなら拘る必要はないと思うのだけど、エリンとアズリが楽しそうにミニ○ウスさんやミニ○イアさんをシャイベに出してもらって、研究しているので、そっとしておく事にした。
アズリのポットが使えるとわかってから、ホーム内の建物が増えた。
モンスターをハントする場所は一つの部屋にした。時間を変えられるようにして欲しいと、カイから要望が来たからだ。
同じ様に、アズリのポットを配置したモンスターがポップするポットを配置した部屋も作った。こちらは、普段は時間を停止している。そうしたら、魔物が出てこないからだ。
ホーム内に作る秘密の小部屋も広さは自由にできるようだ。
そこで、ポップするポットを配置した部屋の地形もいろいろ変えた物を建てた。
階層で分けると制御が難しいと言われたからだ
フィールドもいくつか用意した。
雪山/密林/砂漠/沼地/森丘/火山/樹海/塔/秘境の塔/街/砦/雪山深奥/大闘技場/水上闘技場
かなり頑張った。覚えている限り再現した。俺自身が楽しむためだ!
十万匹は狩ってきた記憶は伊達ではない。モンスターに関してもかなり再現できたと思う。苦手としていたモンスターが曖昧な部分が多かったが、それでも十分戦って楽しいモンスターたちだ。
これで、死に戻りができるようになれば完璧なのだけど、流石にそれは難しいようだ。
楽しむだけなら、操作を使って狩りを楽しむ事だけど、操作対象が死んでしまう事も考慮するとあまり楽しくない。新種のように、鉱石からクローンを作る事ができるようになったら、操作を使ってモンスターをハントするゲームとして楽しめると思う。
そんな場所ができてしまった事もあって、新たな素材が貯まり始めている。
たしかに、これだと剥ぎ取りが2-3回なのも納得できる。
そんなわけで、ガーラントに持っていく素材を吟味している。
ガーラントには、量産しても問題なさそうな物を選別してもらっている。
それも合わせて、今日聞くことになっている。
「いるか?」
「あっツクモ様。ガーラントなら、試し切りをするとか言って、森に向かいましたよ」
「そうか・・・。ありがとう」
「いえ?呼んできましょうか?」
「いいよ。そんなに時間もかからないだろう。待っているよ」
「わかりました」
ピムが帰ろうとしない。
「どうした?」
「いえ、ツクモ様。ありがとうございます」
「もういいよ。イサークが代官を引き受けてくれて、お前を推薦してきて、ルートガーが承認しただけで、俺は何もしていないからな」
「それでも、すべては、ツクモ様から始まっているのは間違っていないですからね」
「そう言われるとな・・・。最初に、訪ねてきたのもピムだったな」
「そうですね」
「アナタ!」
遠くから、新婚のピムの嫁さんがピムを呼ぶ声がしてきた。
「お。ピム。嫁さんが呼んでいるようだぞ。俺は、暫くここで待っているから気にしないで仕事に戻ってくれ」
「わかりました。それでは失礼します」
イサークが代官を引き受けて、船便をすべて断った。
実際には、カトリナの船だけが食料を売りに来ている事になっている。他の商隊もそれだけじゃないのは十分わかっているのだが、港に来ても
何も買わないし、何も売らない、と宣言した事で、船便は徐々に少なくなってきた。
先日、ロックハンド-ブルーフォレストダンジョンをつなぐ転移門を作った事で、カトリナの船便も次の便が最後になると言っていた。
ピムは、そんな状況の中でロックハンドの財政を全面的に管理する役職になった。
これはイサークの推薦が有ったこともだが、他にできる物が居なかったという事情が一番正しい。
イサークは、考える事はできるが、脳筋だ。
ナーシャは、ポンコツで間違いない。フォローを入れると、催事には多少詳しい程度だ。
ガーラントが一番しっかりしているようだが、モンスター由来の素材を渡してから、鍛冶職以外がポンコツ以下になっている。珍しい素材があれば取り寄せて使ってしまう事は間違いない。一番財政を任せてはダメな事がわかっている。
そういうわけでピムが財政を管理する事になった。
財政と言っても、パーティでやっていた事の規模が少し大きくなっただけだ。
手伝いとして、カトリナから何人かの人を斡旋してもらった。その中に同族が居た。仕事をしていく中で、惹かれ合って結婚する事になったようだ。逃さないという意味もあり、イサークが結婚を進めた。俺に相談が来て許可をすぐに出した。今、ピムに抜けられると、ナーシャかガーラントが財政を管理する事になる。
ナーシャにやらせたら甘味だけが増えていく未来が見えてくる、ガーラントにやらせたら素材が増えていく未来が見えてくる。
いろいろな思惑があり、ピムの結婚が決まった。
本人たちも幸せなので良かったと思う事にしよう。話を聞いてみると、ピムの嫁さんは、カトリナの少し遠い親戚なのだと笑いながら教えてくれた。
なんにせよ、転移門の事を含めてカトリナにも協力を要請したが、カトリナの思惑もあるのだろうが、スムーズに行う事ができたのは良い誤算だった。
カトリナが居なければ、スーンたちに素材の運搬やガーラントが作った物の販売だけではなく、食材の運搬まで頼まなければならなくなってしまっていた。なるべくなら、スーンたちは外にかかわらないようにさせていきたい。
スーンたちの代わりにカトリナが全面的に協力して、販売や流通の責任者になってくれた。
スーンたちも、独自の業務を持っている者以外は、ホームやブルーフォレストダンジョンを経由して、ロックハンドに集まってきている。
基本は、魔の森内に点在する事にしたようだ。ペネムが支配領域に戻したこともあり土が良質に保たれるようになった。
執事たちに魔の森の管理を兼ねて、任せる事にした。
順番に、ロックハンドの俺の邸宅?別荘?と、ログハウスの管理をお願いする事になっている。
執事は外側の管理や監視を行って、メイドが内部の管理を行う事になる。
イサークもメイドを雇いたがっていたが、自分で行政区や商業区に行ってスカウトしてくるように言ってある。
メイドと執事に関しては、ナーシャが神殿区から引っ張ってきた。あと、軽微な犯罪を行った連中をまとめて移住させるようだ。イサークとナーシャで相談しながらやっているようなので口出ししないで見守る事にした。
軽微な犯罪者は、面接を行った後で犯罪奴隷から開放して住民として向かい入れるようだ。
最初の仕事は、海水からの塩の作成と、海苔の作成と、魚(魔物)の養殖だ。
海苔は、カトリナが絶賛して是非欲しいという事だったので、作り方をメモしてイサークに渡した。
塩に関しては、揚げ浜式と流下式と平釜式の方法を教えた。作り方で、味が微妙に違ってくる可能性が高いので全部をやってみる事になった。
養殖は正直どうなるかわからない。わからないがせっかく海があり、漁ができる環境なので、漁をしながら考えてみる事にした。
人手が増えてきたら、森を開拓して米作りを始めると言っていた。
ガーラントは、海苔や塩や養殖で必要な道具も作っている。
カトリナが買ってきた物もあったのだが、納得出来ないようで順次作り直している。
「おぉぉ!ツクモ様。来ていたのなら呼んでくださればよかったものを?」
「いや、どうせ今は暇だしな。ガーラントに頼まれていた素材と新しい種類の素材を持ってきた。いつもの場所に出しておけばいいか?」
「ありがとうございます。足りなくなってきた所でした。助かります」
「無理していないよな?」
「楽しくて仕方がないですよ」
「そうか、それなら問題はない」
奥が作業場になっていて、その横に、ガーラント専用の倉庫がある。
ここにまとめて出しておけば、整理は自分で行うと言っていた。
「そうだ。ツクモ様。この前の竜の鱗はまだありますか?」
「ん?赤い方か?緑の奴か?茶色の奴か?」
「茶色い奴がいいです」
テ○ガの鱗だな。
「あるぞ?少しだけど持ってきた」
「黒の鱗は入っていないですよね?」
「あぁ茶色の奴の変異種だからな」
テ○ガ亜種のやつだな。
「そうですか、入ったらお願いします」
「高いぞ?」
「わかっています。でも、あれが一番・・・これがそうですが、魔の森に生えている木を一刀両断できました」
渡されたのは、黒光りする短刀のような形だ。
ショートソードよりも短い。話を聞くと、この長さ以上だと扱うのが難しくなってしまうようだ。
「それで、これは売れるのか?」
「うーん。無理じゃな」
「だろうな。ガーラント。この前も言ったけど、売れる物を作ってくれよ」
「わかっているのだが・・・。素材が、”超”が付く一流品だから、余計に気合が入るのだよ」
「それなら、今日持ってきた素材を使ってみてくれ、前の素材よりは一般的な物に違いと思うからな」
「わかった。やってみる。それだけか?」
「・・・。そうだ。ガーラント、弟子や作業の手伝いは必要ないのか?手配をするぞ?」
「必要ない。量産できそうな物は、レシピをカトリナに売ればいいからな」
「わかった。必要なら、イサーク通して申請してくれ、簡単には許可がでないとは思うけど、探して見るからな」
「わかった。わかった。ツクモ様。そろそろ、ワシは作業に移りたいのだけどな」
「悪かった。それじゃ戻るな」
「おぉ」
もう作業場に向かい始めるガーラントを見送ってから、俺はホームに戻った。
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