【第十一章 飛躍】第百十九話
「ツクモ様。なぜわかったのですか?」
「そりゃぁそれだけ殺気を放っていればわかるよ」
扉から、ルートガーが姿を現す。
「理由をお聞きにならないのですか?」
「聞いたら教えてくれるのか?」
ルートガーはスキルカードを取り出す。
腰に下げた剣を抜いている。
そうだ、俺が教えたスタイルだ。
「ツクモ様」
「いいぜ、俺も簡単には殺されないけどな」
持っているスキルカードは、レベル4麻痺や毒。レベル5雷弾や爆炎まで持っている。
「そうか、ダンジョンを使ったのだな」
「はい。ツクモ様。行きます!」
ルートガーが、出していないレベル3煙幕を使った。
うまいことを考えるな。スキルは誰でも使う事ができるが、通貨にもなっているので、レベルの低い物を使う傾向にある。レベル5で1万位の価値がある。それを見せつけながら、隠しているレベルの低い物を唱える。
「詠唱破棄か・・・相手にすると厄介だな」
「本当ですか?」
「あぁ」
打ってもらった刀を収納から取り出して、突っ込んできた、ルートガーの剣をはじく。
「それにしては、余裕に見えますが?」
「見えるだけだ。まぁ俺には届きそうに無いけどな」
「そうですね。そうだツクモ様。なぜ、僕が来る事がわかったのですか?」
それは簡単な事だ。
不自然な位に俺の周りから人が居なくなった。
カイがイサーク達からの救援要請に出ていった。ウミとライが”ダンジョン”の対応に向かった。
エリンが、”クリス”と一緒に行動を開始した。
一つ一つは、よくある事だ。
全部が一度に重なるのは考えにくい。その上で、こんな事ができるのは、ダンジョンの事をある程度わかっている人間で、ペネムから権限を移譲させられているクリスとルートガーだけに限られる。
そして、クリスはエリンと一緒に居る。
「来るなら、夜だと思ったのだけどな」
「夜は、吸血族がツクモ様を守っておられますし、スーン殿が控えていますからね」
「そういえばそうだったな。確かに、今しかタイミングは作られないよな」
「はい」
ルートガーは話をしながら、届かない剣戟を繰り出す。
かなり実践を積んできたのだろう。ダンジョン区にも顔を出していると聞いている。
「俺を殺したいのに、貧素な剣とスキルだな。俺は1割も本気を出していないぞ?」
「ツクモ様。失礼しました。もう少し、相手をお願いできますか?」
「いいが、早めに本気にならないと、誰かが来てしまうぞ、”死ななければ”俺の勝ちで、お前は俺を殺した上で逃げなければならないだろう?そうしないと、クリスが手に入らないからな」
「なっクリス様は関係ない。僕が、ツクモ様を殺したいと思っているだけだ」
クリス欲しさにと思ったのだが、もう少し厄介な理由のようだな。
新しいスキルを使ったな。
レベル6速度超向上と体力超強化と速駆を使ったか?
俺に、スキル攻撃が通用しないと感じて、強化系を使ってきたか?
それでもまだ届かないな。
「まだ、届かないな。ルートガー」
肩で息をし始めている。
最初にあった余裕がなくなってきているのが伺える。剣も既に3本潰した。
動きから、まだ諦めては居ないようだが・・・すでに暗殺ではなくなっているな。
「そうですね。ツクモ様。やはり、俺では、貴方に届かない」
剣捨てた。
誘っているのがわかる。一点に誘導しているようだ。
いいだろう、盛大な茶番のような気がするが・・・
「ルートガー。その挑発乗ってやるよ」
「ツクモ様。ありがとうございます。それから、俺がいうのもおかしいのですが、クリスティーネ様の事をよろしくお願いします」
「嫌だね」
「は?ここは、”わかった。俺に任せろ”という所だと思いますけど?」
「嫌だね。人に頼まれたからとか、そんな重い話は聞けないな」
「ははは。さすがはツクモ様ですね。俺は、貴方にあこがれていますよ」
「その評価は、褒めていないな?」
「当然ですよ。俺は、貴方が大嫌いですからね!」
目線から、後一歩って所か?
「行きます!カズト・ツクモ!俺の全力を持って、貴方を倒します!」
おぉそういうスキルの使い方が有るのだな。
ルートガーは、スキル障壁を展開してから、スキル雷を自分自身に使った。その上で、スキル発光と煙幕を連続使用した。
そのまま、俺に突っ込んでくる。
いいだろう!受けてやるよ。煙幕を張った意味がわからない。スキル発光だけで目くらましは十分だろう?
右からだな。魔核を付けたネックレスが反応する。
やはり、チラチラ見ていた場所に誘導したいようだ。
”ぐっ”
左側から衝撃が来る。ルートガーの方が、身体が大きいから衝撃はかなりのものだ。障壁を張っていなければ、意識を持っていかれたかも知れない。
刀は既にしまっている。
突進は予測できたが、俺の予想以上の速度だ。
雷は、攻撃用では無かったのだな。
身体能力の底上げに、スキル雷を使ったのか?それとも、スキル風を使ったのか?
ルートガーの一連の攻撃だけは、俺を凌駕していた。
煙幕が弱まる。
ルートガーが俺を地面に押さえつけているのがわかる。
覆いかぶさるような状態で、俺の腕と足を押さえつけている。攻撃力向上系も使っているのだろう。自分自身に、物理攻撃半減とスキル攻撃半減を使った上で、自分にスキル拘束を使ったようだ。
いろいろスキルの可能性を見せてくれる。俺に、スキル拘束は効かないと考えて、自分自信を拘束具として俺を拘束するのだろう。確かに、通常の力では抜け出せそうにないな。ルートガーにレジストさせる事もできそうに無い。
「ツクモ様。捕まえました」
「これで終わりでは無いのだろうな?」
「もちろんです。俺は、貴方を殺すために来ているのです」
「・・・そうか、やってみろ」
「はい!」
ルートガーが、俺に抱きついてくる。
そんな事ができるのだな?
俺が折った剣と、先程手放した剣が、ルートガーの背中を狙って落ちてくる。
寸前で避ける・・・つもりはないようだな。
自分ごと、俺を刺すつもりか?スキル結界・・・も密着状態では、ルートガーの結界が解除されたときに、俺の結界もレジストされてしまう。うまいこと考えたな。
「でも、甘いな。ルート!」
「え?」
結界で防げないのなら、剣をどうにかしてしまえばいい
スキル氷で、剣を覆うレジストできないように、最大魔力だ!
迫ってきていた剣が氷の塊で覆われる。そのままでは”痛い”どころではなさそうなので、剣の操作は奪えないが、氷で覆われた部分なら操作できる。全力魔力で、氷の塊の落下位置をずらす。ルートガーも、操作で剣の位置をもとに戻そうとする。
「無理だな。俺の勝ちだ!」
ルートガーが操作に気を取られた瞬間に、俺は結界を貼り直した。ルートガーごと覆うような結界だ。
氷の塊にも結界を貼る。その上で、氷の塊ごとスキル炎を全力で使う。
一気に、数千度の熱源をもたせる。氷ごと溶かしてしまう事にした。何が起きるかわからないから、氷の塊ごと結界と障壁で覆う。
唖然として溶ける剣を見つめるルートガー。
俺は、ルートガーの拘束から抜け出して、立ち上がる。
「ルートガー。俺の勝ちだな」
「・・・ツクモ様。ありがとうございます。やはり、貴方には届きませんでしたか・・・あとをお願いします!」
それもやらせないよ
ルートガーが懐から取り出した短剣で自分の喉を貫こうとしている。
短剣を蹴飛ばす。支えていた手の甲の骨折位は受けてもらおう。
「な・・・ぜ?」
「俺は、クリスにも恨まれたくないからな。それに、お前が死んで解決するとは思えないからな」
「・・・え?」
パレスケープ街を訪れた時の報告書を思い出した。
本来なら、ルートガーが報告する手順になっていたが、体調が悪くなったと言って、宿で休んでいるという事で、クリスが代わりに報告書を送ってきた事があった。ルートガーの性格的に、クリスから離れるとは思えない。離れる必然性があったか、強制的に離れなければならない事情が有ったのだろう。そして、前者ならクリスに説明するだろう。そうなると・・・。
戦いにしても不手際が目立つ、あれだけスキルを使っていれば、エントやドリュアスが気がつくだろう。それがわからないルートガーでは無いだろう。短期決戦のつもりだったのか?違うな・・・もともと死ぬつもりだったのだろう。
時間がかかりすぎて、クリス、ヴィマ、ヴィミ、イェレラ、ラッヘル、ヨナタン、イェルン、ロッホス、イェドーアが駆けつけてきた。エンドかドリュアスが呼んだのだろう。
クリスが、座って呆然としているルートガーに近づいて、手を大きく振り上げた
頬をうつ音が響いた。
そして、涙を流しながら、ルートガーに抱きついた。
クリスは、俺の方を向いた。
「カズトさん。いえ、カズト・ツクモ様。ルートガーの不始末は、私の不始末です。私を罰してください。”自害せよ”とお命じください、命を絶ちます」
「クリス。俺がそんな事を望んでないのはわかっているよな」
「・・・はい。でも、私にはそれ以外に、カズト様に何をしたらいいのか・・・わかりません」
「ふぅ・・・クリス」
「ツクモ様。どうか、クリス様とルート兄を許して下さい。何か、何か理由が・・・お願いです。僕もなんでもします」
イェレラを始め、全員がクリスと俺の間に割って入る。
全員が頭を床につけるようにしている。
「ふぅ・・・大丈夫だよ。クリスはもちろん、ルートガーも罰するつもりは無いからな」
「え?」「え?」
ルートガーとクリスが俺の顔を見る。
全力で挑んできてくれたのだし、街の外周で喚いてい奴らや、周りへの被害を考えないで夜襲をかけてきた連中とは違う。人質をとったりしたわけではない。
正々堂々は少しいいすぎかも知れないが、真正面から俺に挑んできたのに何を罰すればいい?
カイやウミやライやスーン・・・もしかしたら、リーリアやオリヴィエやエンリ辺りが”切れるかも”知れないが、最終的には俺の意見に従ってくれるだろう。心配なのは、シロかな?まぁなんとかなるだろう。
さて、二人を立たせて
「ルートガー。クリス。なんにも無いでもいいのだが・・・そうだな。俺に傷一つ追わせられないような貧弱な攻撃しかできなかったから、何もなしでもいいな。その方が、二人には精神的に辛いだろうな」
ニヤニヤしてしまいそうになる。
「ツクモ様。俺は、あんたのそういう所が嫌いだ」
ルートガーはだんだん調子が戻ってきたようだ。
というよりも、今まで着込んでいた猫が数匹逃げたようだな。
「そうか?ルート。俺は、前のお前よりは、今の方が好きだな」
”フン”とでもいいたいのだろう、照れ隠しかも知れないが、横を向いた。
「そりゃぁどうも」
「クリス。何時までそうしている?」
「え?あっ僕・・・」
クリスは、ルートガーに抱きついたままなのが解って、身体を離した。
「ちぇ!ツクモ様。もう少し、クリス様を感じていたかったのに、なんで気が付かせるかな」
ルートガーの首筋に、取り出した刀を突きつける。
「さて、理由を聞こうか?」
「はい。はい。わかりました。その前に・・・」
クリスが真っ赤な顔をしてプルプルと震えている。
他の8名も何がなんだかわからないと行った雰囲気を出している。
「カズト様!!!!!ルートガー!!!!二人して、僕をからかったなの?!なんで、急に仲良くなるの!!!!!!」
咄嗟に持っていた刀を収納した。俺は、クリスが振り上げた手を躱したが、ルートガーは甘んじて受けたようだ。
いい音が鳴り響いた。
「イテテテ。クリス様。少しは手加減してください。それに、ツクモ様。そこは受けるべきでしょ」
「やだよ。俺は被害者。お前は加害者。わかるな」
「二人ともいい加減にして!僕は、本気で心配して、本気で焦って、本気で考えたのだよ。解っていますか?本気で・・・うぅゥゥ」
クリスが泣き出してしまった。
「クリス。何か、勘違いしているようだけど、すくなくてもルートは俺を本気で殺そうとしていたぞ?俺は余裕だったけどな!」
「そうです。クリス様。俺は本気でしたが、その人には通じませんでした。本気で殺そうと思って、本気で策を練って・・・奥の手まで使って、自分ごと殺そうと思ったのに、軽く躱されてしまいました。使ったスキルカードだけじゃなくて、剣も業物を買ったのに・・・かなりの損失ですよ」
そりゃぁそうだな。
レベル6のスキルカードを連発していたからな。
あれだけでも、かなりの物が買えるからな。
「ルーートーーガーー!?」
クリスが、ルートガーの方を向いて何か言いたそうにしている。
「クリス」
俺が声を掛けるが、クリスは振り向かないで
「なんでしょうか?カズト様」
おぉ怒っているな。
そりゃぁ怒るか・・・。
「ルートガーの事は、最終的には、お前に任せる。今から1時間・・・いや、誕生祭の終了後にしてくれ。今日中に終わらせる」
「終わらせる?」
「そうだろう?ルート?」
びっくりする顔をする。
「え?なん・・・で?」
「俺をあまり見くびるなよ?お前には、今日の罰を含めて、これからも死ぬまで俺のために仕事をしてもらうつもりだからな。クリスと一緒にな」
俺の言葉を聞いてから、ルートガーは涙を流し始めた。
「ルート。何を持っていけばいい?」
流れる涙を拭って、いつもの表情になる。
「あっはい。レベル7回復です」
「それだけでいいのか?」
「・・・はい。でも・・・」
やっぱりそうか・・・。
クリス達は何が話されているのかわからない状況のようだ。
「何人だ?」
「確認できているのは、13名です」
「それは、奴らか?」
「・・・はい」
「首謀者は、来ている奴か?」
「・・・はい。俺に接触してきたのは・・・そうです」
「そうか、そっちじゃなくて、大切な方は?」
「・・・わかりません・・・」
声が小さくなる。
「そうか、最初は?」
「・・・37名です」
「何人見つけた?」
「9名です」
「そうか・・・26名・・・」
「はい」
「パレスケープか?」
「・・・そうです!」
「ルートガー?カズト様。どういう事なのでしょうか?」
「クリス、サラトガがどうなったかは聞いているよな?」
「あっはい」
ルートガーは、サラトガの領主の息子だ。
サラトガが崩壊したときに、数名の子供と一緒にペネム街に助けを求めてきた。俺は、サラトガダンジョンを攻略した事や、間接的に俺がサラトガ崩壊のきっかけを作った事を含めて説明した。それでもよければ受け入れると宣言した。
だから、ルートガーやヴィマ、ヴィミが俺を父親の仇だと恨んで正面から殺しに来るのなら許そうと思っていた。
しかし、俺が殺されてやる義理は無い。それでもよければ殺しに来い、俺を殺して、ペネムを混乱の渦に貶めて、お前たちと同じ親を亡くした子供を大量に作りたければ勝手にしろと言ってある。
ヴィマとヴィミは、俺に対して、親の仇だとは思えないと言っている。表面的だけかも知れないが、親の仇は”アトフィア教”だと言っているのだ。ヴィマとヴィミには、アトフィア教全体を恨むのではなく、お前たちの父親を追い込んだ奴を恨め。二人が仇を取りたいと思うのなら”力を貸してやる”と約束している。
ルートガーは考えを保留していた。
その答えが今日の襲撃につながっていると思っていた。しかし、戦っている間に、ルートガーが俺を本気で殺しに来ているが、殺すよりも、俺に殺されることを望んでいるようにも思えてきた。最後の攻撃で確信した。
「ツクモ様。それ以上は・・・」
「そうだな。クリス。後で、ルートから聞いてくれ」
「・・・わかりました」
ルートガーを立たせる。
「どうする?場所が特定出てきているのなら、俺だけで行くぞ?」
「いえ、俺も行きます」
「わかった。クリス」
「はっはい」
「そこのバカにスキル回復を使ってくれ」
「バカは酷いですよ。ツクモ様」
「バカじゃなければ、愚か者か?」
「二人ともいい加減にしてください」
クリスは俺の方を向こうとしない。ルートガーの方を見ながらスキルを唱えようとする。
クリスを軽く押す。押されると思っていなかったのだろう、バランスを崩して、ルートガーの方によろける。咄嗟に、ルートガーがクリスを抱きしめる。その瞬間に、スキルが発動する。
「!!」
「なっ!」
二人とも顔を赤くする。
いい感じだな。
「さて、レベル7回復だけを持っていくよりは、レベル8記憶やレベル7詠唱破棄も有ったほうが、俺を殺した思われるだろう?」
「いいのですか?」
「あぁ問題ない。問題だとしたら、あの程度の攻撃で俺が死んだと思われるのが嫌かな?」
「そりゃぁ酷いですよ。俺の全力だったのですよ」
「悪かったな。あの程度なら、10人居ても平気だな」
「勝てるとは思っていませんでしたが、腕の一本か、立てないくらいにはできるとは思っていたのですけどね」
「無理無理。あの程度の攻撃なら俺の服を傷つけるのがやっとだろうな」
軽口を叩いているが、ふつふつと怒りがこみ上げてくる。
許すことができそうにないな・・・。
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