【第六章 ギルド】第二十七話 勧誘
まずは、伴侶候補としての少女たちを確認する。
猫族、犬族、羊族、兎族とハーフエルフだ。茂手木の好みは解らない。他の友達との話を聞いていると、胸よりは腰派だったはずだ。よくわからないが、茂手木が気に入らなくても、茂手木に押し付けるつもりだ。茂手木にやってもらうことを考えれば、手伝いは必要だろう。
美形が揃っている。ケモミミバンザイは口癖のような奴だ。ハーフだがエルフも居る。アッシュに確認したが、全員が処女だ。これなら、茂手木も文句は言わないだろう。伴侶候補としても十分だ。
呼び名は消されてしまっている。スキルも封印状態だと鑑定結果が出ている。パシリカを受けていないから、スキルが封印なのか?真名は見られる状態なのも不思議だ。解らないことを考えてもしょうがない。こういう仕組みだと覚えておけばいいだけだ。もしかしたら、パシリカは、スキルの解放が主目的なのか?それとも、俺の鑑定が特別なのか?
「アッシュ」
「なんでしょうか?」
「この子たちのスキルだけど・・・」
「こちらが、スキルの一覧です。奴隷紋は、真名が与えられていないので、刻めません。パシリカ後に、奴隷紋を希望される場合には刻みます」
パシリカ前でも、鑑定を行えば潜在的なスキルが見えるのか?
真名は見られない。ハーフエルフは、パシリカを受けているのだよな?それでも、封印になっているのは、何か理由があるのか?スキルを封印する方法があるのか?
アッシュから手渡された羊皮紙には、各人が持っているスキルが書かれている。
一人を除いて、間違っていない。掲載されていないスキルも気にするほどではない。”念話”スキルが隠蔽されている。なぜ隠しているのか?そもそも、誰が隠したのか解らない。
「アッシュ。この5人を買おう。ただ、俺の奴隷にするかは、少しだけ保留でも大丈夫か?」
「かまいません」
金額は書かれていないが、問題はないだろう。
問題が有れば、アッシュが何か言ってくるはずだ。茂手木に提示する金額は、ハーフエルフが金貨14枚。他が、金貨9枚。
女たちを、身ぎれいにしてくるように依頼する。ついでに、新しい服に着替えさせてから、俺が呼び込んだら、俺の後ろに並ぶように指示する。
さて、茂手木とのご対面といきますか・・・。
「アッシュ。オイゲンを連れてきてくれ」
「かしこまりました」
オイゲンの購入は決定している。
これからの行いは、パフォーマンスだ。アッシュには、ローザスとハーコムレイから書類が届いている。一つの問題を除いてクリアになっている。教会への賠償も終わらせている。金貨500枚。それに、心付けを加えて、金貨1000枚と貴重な素材を渡している。教会からは、ありがたいお礼状を貰った。お礼状は、ギルドの受付に飾るようにした方が良いだろうと言われた。アロイの屋敷だとお礼状の格が上なので好ましくないとの事だ。機微がわからないので、解っている者たちの指示に従うことにした。
ドアがノックされて、オイゲンが連れてこられた。
手錠をされて、首輪をされている。
かなりの美形だ。髭が少しだけ伸びている。それが美形を際立たせている。髪の毛は無造作に縛っている。
鑑定してみたが、間違いない。
茂手木だ。
「アッシュ。少しだけ、彼と二人だけにしてくれ」
「え?よろしいのですか?」
「大丈夫だ。ここでスキルを使っても大丈夫か?」
「はい。大丈夫です」
アッシュが大丈夫だというので、アイルの眷属を召喚する。横に控えさせる。少しだけ驚いた表情を見せたが、アッシュは俺に頭を下げてから、部屋から出て行った。
オイゲンをソファーに座らせてから、テーブルの上に50枚の金貨を取り出す。
「俺の名前は、リン=フリークス・マノーラ。オイゲン=フンメル・エストタール。いや、”茂手木義徳”と、呼んだ方がいいか?」
「は?え?リン?神崎か?でも、真名が違うぞ?なぜ?お前は、何者だ!」
「落ち着けよ。まずは、オイゲン。お前の立場をはっきりしよう」
「ん?神崎、何を?」
「お前は、パシリカで記憶が戻った瞬間に暴れた。教会の施設を破壊して捕まった。そのうえに、スキルを使って逃げ出そうとした。犯罪奴隷だ」
「ちが」「違わない。いいか、ここはリアルだ。実際に、俺は3回ほど死にかけた。2回は殺されそうになって、1回は魔物との戦闘だ」
「え?」
「茂手木義徳。いや、オイゲン=フンメル・エストタール。お前が、どんな環境で育ったのか解らないけど、俺のこっちの両親は殺されている。女子の中にも、両親を殺されて、孤児院で育った者も居る。いいか、間違えるな。オイゲン。ここはリアルだ。死があり、周りに居るのは、NPCじゃない。感情がある人間だ。ゲームの世界ではない。勇者が勝手に他人の家に入って箪笥を漁ってもいい世界ではない」
「・・・。でも」
「でもじゃない。お前がやったのは、身体測定で、少しだけいい結果が出て、喜んで暴れて、看護師や医者に怪我を負わせた。そして、駆けつけた警察に文句を言って暴れて機材を壊した。そのうえ、留置場から黙って抜け出して逃げようとした。違うか?」
「いや、俺には特別な」「特別な力があるから?それがどうした?残念だよ。この異世界をうまく渡れるのは、お前だと思っていたけど、俺の買いかぶりだったようだな」
立ち上がる素振りをする。
交渉が終わりだと思わせる。
「え?」
「お前なら、このくだらないゲームを勝ち抜けると思っていた」
あえて、ゲームという単語を使う。
表情から、いろいろと思い出したようだ。ソファーに座りなおして、オイゲンをまっすぐに見る。
「!?」
「提示されたルールは思えているよな?」
「白い部屋のルールか?」
「そうだ」
「もちろん。覚えている。でも、それがどうして、俺なら・・・。立花たちの方が・・・」
「違う。お前だ!俺は、お前が勝ち抜くと考えていた。スキルのチートなんて、些細な力比べだ。実は、知識チートがこのゲームに勝ち抜くのに必要だ」
”影響”を与えればいい。
異世界で必要な知識を持っているのは、目の前に座っているオイゲンだ。サポートを女子に任せれば、立花たちにも負けない。武力が必要になったら、俺とミルが戦えばいい。
「・・・。神崎の言っていることはわかった。でも、俺は、今・・・」
首輪を持ち上げる。
自分が、奴隷だと思い知ったのだろう。言葉も、段々と弱くなってきて、いろいろ思い出したのだろう。異世界でテンションが爆上がりして、捕まったことで、テンションが下がって、俺を思い出してテンションが上がったけど、考えを否定されて、否定を覆すだけの情報がなくて、テンションが下がった所に、都合がいい分析を入れられて、自分を見直せたのだろう。
「そうだ。奴隷だ。それも、王家や教会に迷惑をかけた犯罪奴隷だ」
「俺は、知らなかった」
「もう理解しているのだろう。”知らなかった”は、通用しない」
「あぁ・・・。理解している。神崎。俺、どうしたらいい?俺、死にたくない。母ちゃんに・・・。神崎。俺・・・」
「・・・。わかった。教会と王家は、女子が伝手を持っている。教会に払う賠償金は、俺が準備する。王家との交渉も約束しよう」
「え?賠償金?」
「そうだ。金貨で1000枚」
「神崎。女子たちとは、その合流ができたのか?」
「あぁ。オイゲン。俺に協力してくれるのなら、賠償金を支払った上で、奴隷商からお前を買う。王家にも話を付けて、解放がない犯罪奴隷ではなく、借金奴隷にしてもらう」
「買う?俺は何をすればいい?」
「まずは、俺の事は、”リン”か”フリークス”と呼んでくれ」
「わかった。かんざ・・。リン。ん?リンは、本名なのか?」
「あぁ俺だけは、名前が変わっていない」
「そうか・・・。わかった。それで?」
「詳しい話は、現場で話した方がいいだろう。まずは、お前に金貨50枚を渡す」
「え?」
さて、見えない鎖は一本では弱い。
オイゲンが裏切っても問題がないようにしておきたい。
立ち上がって、ドアを開ける。
離れた場所にアッシュが立って待っていた。もちろん、奴隷の少女たちも一緒だ。粗末な服装ではなく、しっかりとした服装で湯あみもしてきたのだろう。綺麗になっている。
「アッシュ。頼む」
「かしこまりました」
ソファーに戻る。
アッシュが、部屋に入ってきて、女の子たちが俺の後ろに並ぶ。
オイゲンの視線は、女の子たちを見てから、俺に視線を合わせてきた。
ここが奴隷商だと思い出したのだろう。
口をパクパクしている。何を言いたいのか解る。解っているだけに、これからの交渉が成功すると確信できる。
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