【第二章 帰還勇者の事情】第三十八話 情報
ユウキたちは、襲撃を受けた事で、当局に拘束されている。正確には、拘束されているのは、マイとロレッタだ。ユウキとリチャードは、拘束された二人をまっている状況だ。
マイとロレッタは、”被害者”として当局の取り調べを受けている。マイが、日本からの観光客。ロレッタが現地の友達という設定になっている。
取り調べでは、マイとロレッタの身元調査が行われた。怪しい所が一切見当たらない偽造された身元だ。
ユウキとリチャードは、撮影した動画は、まだ公開していない。マイとロレッタの取り調べが終わって、もう一つの餌に食いついた後だと考えている。
「動画はどうする?」
動画は、SDカードに保存されている。リチャードは、ユウキが持っているSDカードを指さしながら質問を行った。
「マイとロレッタの事情聴取が終わってからだ。準備は進めてもらっている」
動画が思っていた以上に爆弾になりそうな物なので、即時公開を実行しなかった。
リチャードも納得はしているが、ユウキの考えを確認しておきたかった。
「わかった。資料は?」
リチャードが聞いた資料は、ダミーの資料だ。
当局が、”資料を調べている”という情報が欲しかった。ダミーと言っても、実際に調べられたら、”問題発生”だと認識させることが可能になる程度には問題のある資料だ。
身元を調べられて、ロレッタの出身は判明している。そのために、資料を持っていることも不思議には思われても、不自然な状況ではない。
「当局が調べている。どこで入手したのかを含めて説明を求められるだろう」
「マイが居て助かるよ」
リチャードが語尾をごまかしながら、”マイ”の存在が鍵になっている。
マイが取得しているスキルに由来している。
「そうだな。リチャードとロレッタだと、怪しすぎる」
「解っているよ。ユウキまで、マイと同じ事を指摘するな」
マイが作戦に参加すると言い出したのは、自分のスキルに”思考誘導”があるからだ。当局に調べられる時に、弱めにスキルを発動して、取り調べの時に思考を誘導しなければ、資料を持っていた意味を含めて、説明しなければならない。説明が多くなれば、その分だけ矛盾点が出やすくなる。矛盾点が見つかれば、資料の信憑性だけではなく、リチャードとロレッタにも疑いの目が向けられてしまう。当局を巻き込むのなら、初動で多少の違和感が合ってもリチャードとロレッタが疑われないだけの状態にしておく必要があった。
「悪い。どうする?今なら、教会の土地を含めて取得ができるぞ?」
ユウキは、似合いもしない”ニヤリ”顔で、リチャードを見つめる。もちろん、リチャードが土地を欲しがるとは思っていない。
「ユウキ?似合わないから止めろって言われなかったか?」
「・・・。それで、決めたのか?」
「あぁミケール殿に任せる。でも、いいのか?」
リチャードが気にしているのは、ユウキの手札として考えていた、ミケール・・・。その後ろに居る人物への”貸し”を使ってしまうことだ。ユウキは、気にするなと言っている。そもそも、土地をミケールに預けるのは、ユウキからリチャードに提案したことだ。ユウキは、自分のしたいことは、自分の手で行いたかった。皆の手を借りる場面も出てくるのだろうけど、外部の力や影響は外的要因にだけに留めておきたかった。ミケールへの貸しは、リチャードたちが使うべきだと思っていた。
「ユウキ!リチャード!」
マイとロレッタが、事情聴取が終わって、建物から出てきた。
二人を連れて、次に会う人が待つ場所に移動する。
約束の時間になって、ユウキが待っていた人物が姿を表した。
「ユウキ!」
ずんぐりした体系だが、しっかりとした足取りで、ユウキたちが待っている場所に駆け寄ってきた。
ユウキの前まで来てから、手を差し出す。
「森田さん。ご足労をおかけして申し訳ない。パスポートは大丈夫でしたか?」
ユウキは、日本に居る森田に頼み事をしていた。
アングラな物だが、森田ならなんとかしてくれるだろうと思っていた。実際に、森田の差し出された手の反対側には、アタッシュケースが握られている。
「無茶ぶりにも・・・。限界があるだろう?以前に、シンガポールに遊びに行っていなかったら・・・」
森田は、アングラに近い物品の調達は、それほど無茶だとは思っていない。無茶なのは、待ち合わせ場所だ。日本から、急いで移動しても1日以上の次巻が必要になる。そのうえに、パスポートが有ったから問題には鳴らなかったが、パスポートが無かったら来ることが出来なかった。
「ありがとうございます。それで、ブツは?」
「苦労したぞ」
森田は、ニヤリを笑ってから、アタッシュケースをユウキに投げる。
「おっ。これは?」
ユウキは受け取ったアタッシュケースは、森田が使っている物ではないのに違和感を覚える。わざわざ用意したような感じだ。
「中に入っている。惡の組織としては、様式美も大切だろう?」
「ハハハ。そうですね。でも、よく手に・・・。いや、持ち込めましたね」
「証明書が在るし、実際の改造はこっちに来てからやったからな」
「そうなのですね」
「ユウキ。一発勝負だぞ?いいのか?」
「大丈夫ですよ」
ユウキは、アタッシュケースを開けて中を確認する。
物を持ってから、リチャードに渡す。リチャードも何度か、確認してから、ズボンのベルトに挟んだ。
「森田さん。もう一つの方は?」
ユウキが森田に依頼したのは3つ。一つは、アタッシュケースの中身だ。アメリカでも手に入るのだが、森田が用意できると言うので、細工と合わせて依頼をした。本題の二件の一件は、すでに実行されている。
資料の一部と保管場所の情報が、複数の経路から、密告されるような形で渡るように依頼した。
「預かったデータは、トリガーをもらえたら、すぐに公開される」
森田が”公開される”と言い切った瞬間に、リチャードが持つスマホが振動した。
メッセージが届いたようだ。
「釣れた」
リチャードがメッセージを確認して呟いた。
「早いな」
リチャードからの短い報告を聞いて、ユウキも短い感想を漏らす。
1週間程度は時間が必要だと思っていたが、実質は2日で相手からのリアクションがあった。準備が終わっているので、問題は無いのだが、”拍子抜け”とはこういう時に使う言葉なのだろう。
「そうだな。早いのは嫌われると教えてやれよ」
ユウキとリチャードの言葉を聞いて、森田は何が発生したのか理解した。
そのうえで、ちょっとしたネタを差し込んできた。
「早い方が好まれる人も居ますが・・・。今回は、リチャードとロレッタが、教えてあげることになるでしょう。俺の役目は、早く終わってしまった後です」
森田の言葉が、ネタだと解ったうえで、ユウキは解釈を変えて、リチャードとロレッタの作戦を森田に伝える。
「そうだな。ユウキは行かないのか?」
森田は、作戦にはユウキも一緒に行くと思っていたので、少しだけ驚いた表情をユウキに向ける。
「俺は、マイと一緒に見守りです。森田さんは、どうします?」
「そうだな。少しだけこっちの知り合いに会ってから帰国する」
「わかりました。あとで連絡します」
「わかった。飛行機に乗っていたら、出られないけど、トリガーは教えた方法で発動してくれ」
トリガーの発動が行われたら、ユウキたちとミケールに依頼して得た情報が、いろいろなサイトに流れる仕組みになっている。
情報は、虚実が入り混じったように見えるが、実際には事実に沿った話になっている。読み物としても秀逸な情報もあり、フィクションに見える作りになっている場合もあった。そのために、事実を知らない物にはよくわからない”都市伝説”に見えるのだが、調べれば真実に辿り着くようになっている。
「はい。ありがとうございます」
用事が終わったとばかりに、ユウキたちに背を向けてから片手を上げる。
そのまま、近くに停めていたレンタカーに乗って、空港を目指した。実際に、アメリカに知り合いは居るのだが、アメリカは広い。移動時間を考えれば、日本に帰ったほうが楽だと判断している。ユウキたちから依頼された仕事を終えて、空港近くのホテルで一泊してから、帰国することにしている。
最初は、2-3日だけでも様子を見ようかと思ったが、日本でも動きがあり、帰国して情報を精査する必要が出てきている。
ユウキとリチャードは、森田を見送った。
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