【第二章 帰還勇者の事情】第七話 雑誌

 

 今川が手掛ける記事が掲載された雑誌が店頭に並んだ。
 スクープ記事なのは間違いではない。しかし、世間の意見は2:8に分かれた。好意的な意見としては、子どもたちが集団催眠に有っているのだという考えだ。しかし、それでも、アメリカやドイツで行方不明になった子供が日本で発見された説明にはなっていない。
 大手マスコミも雑誌が発売された当日に、ユウキたちに接触を試みたが、どこに居るのか調べたが、所在は不明な状態になっていた。

「おい。ユウキ!」

『あっ今川さん。なんでしょうか?見世物記者会見の日取りにはまだあると思いますけど?』

 今、ユウキたちに連絡ができるのは、記事を書いた今川だけだ。

「記者会見を、見世物と表現するな・・・。今、どこに居る?」

『え?今ですか、樹海ですよ?リチャードが行きたいと言ったので、夜中に東京を発って、樹海でキャンプを楽しんでいますよ』

「お前らな・・・。まぁいい。すったもんだが有ったが、記者会見は外国人記者クラブで行うことが決定したぞ」

『へぇ今川さんの会社はそれでいいのですか?』

「俺たちだけで情報を独占すると、やっかみが酷い。だが、まだ記者会見は内定という段階だ」

『わかりました。第二弾と第三弾を出してからですか?』

「あぁそれが、俺たちのお前たちに対する誠意だ」

『ありがとうございます』

 第一弾では、『行方不明になっていた子どもたちは、異世界の国に拉致されていた。拉致された子供の中から29名が帰ってきた』という内容で、今川が取材する形でユウキたちの経験が記事として書かれた。
 第二弾では、第一弾では語られなかった、一緒に拉致された子どもたちに関してのことや、生き残った29名の名前を公開している。名前だけの公表にしている。
 第三弾では、ポーションやスキルに関して調査結果を踏まえて書かれている。電子版では、スキルやポーションを使った時の様子を動画で公開している。

「記者会見の当日はどうする?」

『どうするとは?』

「お前が話すのか?」

『そうですね。俺からなにか言うつもりは無いので、今川さんが仕切ってください』

「ちょっと待て、俺が仕切るのは無理だ」

『えぇ・・・。それなら、どうしたらいいですか?』

「俺が聞きたい。上に掛け合ってみる」

『お願いします。質疑応答だけですか?』

「そのつもりだけど、お前たちが見せてくれた、スキルを見せてもらうことはできるか?」

『可能ですよ』

「あぁ・・・。それで、見世物か・・・。わかった、なるべく見世物にならないようには配慮する」

『大丈夫ですよ。どうせ、インチキだと言われるのは、覚悟しています』

「なぁユウキ。なんで、日本を選んだ?お前たちのスキルやアイテムなら、アメリカやドイツの方が手厚く保護してくれると思うぞ?日本は、排他的な側面が強いぞ?」

『ハハハ。ありがとうございます。でも、保護して欲しいわけではないのですし、アメリカやドイツで発表したら、そのまま軍か秘密警察に拉致されて終わりですよ?日本なら建前だけと言っても、平等ですし、マスコミもゴミみたいなことはしないでしょ?それに・・・』

「それに?」

『今川さんに見せたのが、俺たちが体得している全てではないですよ?』

「・・・。そうか、わかった。そうだ、ユウキ」

 魔法道具越しに、ユウキの殺気を感じて、今川は話題を変えた。

『はい?』

「この魔法道具は、数はあるのか?」

『ありますよ?売るほどの数はありませんけどね』

「そうか研究用に一組を研究所に渡したいと思っていな」

『いいですよ。俺も気になっていたので、調べてくれるのなら送りますよ』

「そうか!助かる!」

『編集部に送ればいいですか?』

「すまんな。俺宛に、着払いで送ってくれ」

『わかりました。分解して調べるでしょうから、3組分を送っておきますよ』

「たすかる。レンタル代は、編集部と研究所から出す」

『そうですか、貰っておきます』

「取材協力費の名目だから、そんなに期待するなよ」

『いえいえ。秋葉原にある肉の万世の最上階にある、万世牧場の個室を貸し切れるくらいを期待していますよ』

「編集長と研究所の所長に伝えておくよ」

『久兵衛でもいいですよ?』

「おま・・・。まぁいい。ユウキ。また連絡する」

『はい』

 ユウキは、念話を切った。
 実は、魔法道具として渡しているのは、特定の人物と念話ができるだけの物だ。作ろうと思えば、サトシ以外なら誰でも作ることができる程度の物だ。

「ユウキ?」

「今川さんから連絡が来て、記者会見の会場が決まった」

「そうか、やっと始まるのだな」

「そうだな」

 仕込みはしっかりと出来ている。
 ミスリルで作った短刀をユウキは愛用しているにする。フィファーナでの武器は、オリハルコンとミスリスの合金の太刀を使っていたのだが、今回の記者会見では見せない。サトシ以外は、メインの武器は見せない。サトシは、聖剣を召喚するしか武器がない。

「本当に、ユウキは器用だな」

「短刀と脇差を二刀流で使うのだろう?」

「あぁ皆もメインの武器とは違う物を使っているだろう?俺だけが器用というわけじゃないだろう?」

「それはそうだが・・・。お前だけは、戦闘スタイルも変えているだろう?」

 ユウキとリチャードは、話をしながら、襲ってきたシャドーウルフを切断する。
 ここは、富士山の麓に広がる樹海の中だ。魔物である、シャドーウルフが存在しているわけではない。スキルで魔物を作り出しているのだ。

「パウリ!シャドーウルフは飽きた」

「煩い。リチャード!二足歩行の魔物は作るのが面倒だ!そうだ!バトルホースを出す。一人で相手しろよ!」

「ちょっと待て!バトルホースは、俺とは相性が悪い。サトシ!」

 29名は、樹海の奥地を拠点として、身を隠している。
 普段の訓練も、都内では目立ってしまう。訓練をしないという選択肢は、ユウキたちにはなかった。

「それにしてもユウキ。この場所は凄いな」

「あぁ俺も驚いた。まさか、アンデッドが湧いているとは思わなかった」

「そうだな。日本には、降霊術を会得した一族が居たよな?」

「”イタコ”か?どうだろう・・・」

「その場所もアンデッドが湧いているかもしれないな」

「そうだな。ゴーストがこんなに集まって、消えていくとは・・・」

「それに、魔力が”魔の森”の10倍以上だぞ?シャドーウルフを出した数から考えると、20倍近いはずだ」

 ユウキたちは、樹海に居るアンデッドゴーストを排除しながら、戦闘訓練を行っている。
 人が来る可能性が低いのをいいことに、拠点を作っている。認識阻害を行って、地下に拠点を作ったのがせめてもの良心なのだろう。地下に作ったのも、衛星からの撮影を回避するためだが、地表に建物を作ると目立つくらいの常識はまだ持っていた。
 部屋は、26部屋だ。ユウキだけが一人で使っているが、それ以外はパートナーと過ごす部屋になっている。部屋数が1つ多いのは、そのうち陛下とか陛下とか陛下が、地球に行きたいと言い出すのは間違いない。その時に、宿泊させる為の部屋だ。

 リチャードが、アメリアの施設から帰ってくる時に、護身用の銃を持って帰ってきた。ユウキが依頼した物だが、その銃で結界が貫けるか、自分たちが着ている防具が破られるのかを調べるためだ。試した結果、物理無効が付与されていれば防げることが解った。結界も有効な状況で、これで陛下やセシリアたちが来た時の護衛がかなり楽になった。
 地球で両親に会って一緒に認識阻害や偽装のスキルの検証を行った。
 認識阻害は、地球の人間にも作用することがわかったが、やはりデジカメなどの機材には通用しなかった。偽装系のスキルは、人に掛けてもらうと機材をごまかすことは出来ないが、自分自身に行使する場合には、機材がごまかせることが解った。肉体の大幅な偽装は無理だが、髪の毛の色を変えたり、顔の印象を変えたり、声を変えたりはできる。ただ、自分自身にスキルを行使できるのは、29名中28名だった。使えない一人は、聖剣を披露する目的もあるので、そのまま記者会見に向かうことにした。

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