【第二章 帰還勇者の事情】第六話 取り巻く状況
ユウキたちが、地球に帰還してから、数日が経過していた。
レナートは、特に王城は火が消えたような状態になっていた。
「お父様?」
「セシリアか・・・」
「どうされたのですか?」
「騒がしかった日々が懐かしくて・・・」
「そうですね。でも、ユウキ様は約束通りに・・・」
「そうだが・・・。そうだ、セシリア。ユウキからの”お願い”はどうするのだ?」
「受けます。ユウキ様だけではなく、サトシ様やマイ様のご両親ですよ?」
「そうだな。儂も、ユウキたちの”チキュウ”での両親に会って話をしたい」
「はい」
セシリアは、ユウキから地球の土産だと、サトシが小学校に上がる時の写真を貰っている。同じように、ユウキの写真も欲しいと言ったのだが、ユウキの写真は火事で燃えてないと言われた。
「それで、アメリアは?」
「はい。お父様とユウキ様のお話をきかせましたら、納得したのか、徐々にですが部屋から出るようにはなっています」
「そうか、よかった。それで、セシリア。ユウキから頼まれたことは?」
「生き残っている勇者の名簿ですよね?」
「そうだ」
「各所に問い合わせていますが、帝国や教会は、権力を誇示したいのかすぐに教えてくれましたが・・・」
「そうか、小国家群はダメか?」
「はい。ギルドにも問い合わせてみましたが、いい返事は貰えませんでした」
「そうか、ひとまずわかっている分だけでも渡すことにするか?」
「はい。ユウキ様からも、解る分だけで十分だと言われています。しかし・・・」
「そうだな」
二人とも、全員の判明は無理だとわかっているが、できるだけ多くの名前を調べようとは思っている。
ユウキが欲しているのは、生き残っている者の把握という目的もあるが、地球で”死んだ者”として名前を公表するためだ。29名以外は、死んだことにするが、自分たちが把握している者たちとして、名前を出そうと考えている。
セシリアたちが作っている名簿に、ユウキたちと対立した勇者の名前を追加する。
300名には届かないが、280名ほどの名簿が完成する。不明な勇者は、初期に死んでしまった者や、自ら命を絶った者が含まれる。
名簿は、セシリアたちが作成してユウキにわたす手はずになっている。
「セシリア。それで各国の動きは?」
「大きく2つに分かれます」
「そうか、ユウキたちの予想通りだな」
ユウキのよそうでは、無関心を装う者たちも現れると読んで、3つに分かれると予想していた。
”魔物の王”の討伐を、信じる者たちと、疑う者たちだ。
「それで?」
「はい。連合国は、私たちの報告を”嘘”と決め込んで、勇者たちを中心とした討伐隊を派遣するようです」
「そうか、派遣先は・・・」
「まだ、正式な情報ではありません」
「わかっている」
「ユウキ様の予想通りです」
「そうか、上層部は、”魔物の王”が倒されたと思っているのだな」
「はい。今回は、今までと違って、教会勢力が動いています」
「そうか・・・。監視体制の強化は急務か?」
「はい」
「セシリア。負担を掛けるが頼むぞ」
「はい。お任せください」
セシリアは、それほど心配はしていない。
ユウキたちと考えた防衛戦を信頼している。万全ではないことも理解している。そのために、国民の目という確かな情報網の構築に成功している。レナートの国民の多くは、難民だ、住み慣れた土地を、家族を、故郷を、追われた者たちの子孫だ。それが、今では大陸を代表する国家にまで成長している。
教会は、”魔物の王”が討伐されている事実を掴んでいる。しかし、連合国や小国家群に”討伐”の事実を伏せている。大きな理由が、自分たちが”異端”だと指摘した勇者たちが討伐したという事実を隠した。それだけではなく、—ユウキたちは頼ったが—大陸でほぼ唯一と言ってもいい位の、反教会勢力の国家なのが、状況を悪くしていた。
連合国の一つであり、教国の総本山があるヴィリエでは、総大主教を中心とした密談が行われていた。
都市の名前を持つ総大主教と、総大主教の腹心であるドミニクが一人の枢機卿から話を聞く為に呼び出していた。
「ファンブル枢機卿。総大主教にご報告を」
「はい。猊下。魔物の王が倒されたのは間違いないようです」
「そうか、異端の者たちなのか?」
「残念ながら・・・。卑怯にも、勇者たちが旅立つ情報を得て、先んじたと思われます」
「ファンブル。貴殿の見識を疑うわけではないが、事実だけを報告すればよい」
「はっ。猊下。もうしわけございません」
「ファンブル。異端者たちは、至宝を手に入れたのか?」
「わかりません。どうやら、”魔物の王”との戦いで、命を落としたようで・・・」
「ドミニク!」
「はっ。影に探らせましたが」
「彼の国は、祝福からも見放されているためか?」
「そのようで・・・」
「信徒たちへの影響は?」
「ありません。我が勇者たちが対応しております」
「そうか、引き続き情報収集と、魔物への対処を続けよ」
「はっ」
ファンブル枢機卿は、総大主教に深々と頭を下げてから、部屋から出ていった。
「使えない奴だ」
「はっ」
「現世では役に立たない」
「かしこまりました」
ドミニクが、影に消えるように総大主教の前から消えた。
翌日、一人の枢機卿の病死が発表された。
連合国の盟主であり、人族を中心とした国家をまとめ上げている帝国は揺れていた。
「どういうことだ!”魔物の王”を討てば、魔物の被害が無くまるのではなかったのか!」
一段高い所に座る豪奢な衣装を身にまとっている者が、周りに居並ぶ者たちを怒鳴りつけている。装飾が過剰な状態は、指や首や衣装だけではなく腹回りには脂肪多寡な状態だ。怒鳴り続けるたびに、腹の贅肉が揺れて見苦しい。それだけではなく、指にジャラジャラと付けた装飾物が不快な音を奏でている。
皇帝の”問”に答える者は居ない。
この会議は、各国のトップが集まっているために、皆が同盟国になり、身分に差はない(ことに、なっている)。
「陛下」
「なんじゃ?」
「レナートが、我らを騙すために・・・」
「ギルド長のおっしゃっている通り、レナートの奴らが騙している可能性を考慮・・・」
この会議も、これで5回目だ。
教会から、”魔物の王”が討伐されたと発表があり、皆が安心した。その後に、どこの国の勇者が”魔物の王”を討伐したのか・・・。
各国が、自国の勇者だと主張して譲らない状況の中で、レナート王国に逃げた勇者たちが”魔物の王”を討伐したと発表した。その後に、連合国の盟主である帝国に、レナート王国から、証拠の物品が届けられた。
「ギルド長。レナートから送られてきた証拠は?」
「真偽の確認を行うために、教会に渡しました」
ギルド長の対応は間違っていないが、大きな間違いを生むことになる。
「教会からは?」
「”魔物の王”の可能性が高いと言われました。”詳細な調査が必要になる”と言われました」
「教皇には、儂から連絡を入れた。奴らは、”魔物の王”のオーブを希望しておる。儂たちは、”魔物の王”の角と魔剣と、それ以外のオーブを受け取ろうと思う」
『おぉぉ』
列席者から拍手が発生する。
「陛下。それで、角は?」
「効用は、言われている通りだ。今、勇者の中に居る錬金術師に薬を作らせている。期待していいぞ」
「陛下!」
「もちろん。連合に参加されている皆には、平等にくばる。魔剣とオーブは」
「帝国が薬を作っているのなら、当然・・・」
一人の太鼓持ちが、立ち上がって帝国の・・・。皇帝を持ち上げる。そして、薬を皆にくばると決めた皇帝の善意を感謝すべきだと熱く語りかける。違和感しか無い弁舌だが、太鼓持ちが話し終えて皆を見回す。太鼓持ちの話に、反論しようとする者はいない。皆、同じ穴のムジナなのだ。
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