【第十一章 ネットワーク会議】第五話 開発と運用
学校から帰ってきて、秘密基地でパソコンを確認すると、未来さんから返信が来ていた。
概ね問題は無いようだ。スプラッシュは、美和さんが新しく作る事務所の名前にして欲しいと言われた。
専用プログラムが一番イメージに近いらしい。細かい修正はあったが、開発の方向性は決まった。
もう一度、返事の内容でモックを作り直して、OKが出たら中身の構築を始める。
それまでは、サーバ周りの設定を行おう。
接続の確認も行っていけば、開発時に迷わないだろう。
「タクミ!」
ユウキが秘密基地に入ってきた。
「どうした?」
「うん。僕・・・」
「そうだ。ユウキ。手伝ってくれないか?」
「え?僕?いいの?」
「ちょうど良かった。準備が終わったら頼みたいから、少しだけ待っていてくれないか?」
「うん!わかった」
ユウキは、おとなしくソファーに座って、持ってきたタブレットでマンガを読んでいる。課金はしていないので、無料で公開されている物だけだ。
ユウキにやってもらうのは、簡単だ。
確認中の機能にアクセスして貰って、本当に通話ができるのか確認する。その時のトラフィックを記録しておけば、実運用の時に、回線の品質やトラフィックの振り分けが考慮できる。
ひとまず、ユウキに操作してもらう。テストプログラムだけ仕上げてしまおう。
設定は、ファイルを直接編集すればいい。画質の調整なんかも必要ない。最高画質で行えばいい。
動作の確認が出来たから、バイナリをタブレットに移動する。
OSを綺麗にしたタブレットで、最新のパッチまで当てた状態にしてある。その状態で、バックアップを作成してあるので、まっさらな環境が必要な場合に、重宝する。スペックは、それほど良いものではないが、このタブレットで動かなければ、実運用で問題が出てきてしまう。実際には、もっと低スペックのパソコンを利用している場合だって想定できる。Windows10の最低スペックで動かしているパソコンも家庭では多いのだ。
モジュールだけを移動したが、動かない。
コンパイル時に必要になっているアセンブリを一緒に入れる。起動はできるが、その先に進まない。やはり、Skype が必要になってくるのだろう。何か、抜け道がありそうだけど、抜け道を考えるのは、開発を行いながらでもできるだろう。
ユウキにタブレットを渡して、リビングに移動してもらう。
まずは、ユウキから接続して、俺が許可する。今度は、接続方法を逆にして、接続が”出来ない”ことを確認する。
他にも、ユウキと通話をしながら確認する。開発の方向性は間違っていないようだ。
ユウキに、戻ってきてもらって、また少しだけ待ってもらう。
今度は、エラー系を調べる。
エラーのフックがうまくできるのか確認していく。
Windows が出すシステムエラーは、評判が悪い。クライアントからの報告が、意味がわからない状況になってしまう。
オヤジの会社で推奨している方法だが、エラーはエラーログに吐き出すようにして、システムエラーをできるだけ抑止する。オヤジからは、ライブラリを貰っているので、組み込みはそれほど難しくない。
起動時に、正常方法での終了でなかった場合に、エラーログを送付するように設定する。
美和さんか未来さん宛てにしておいて、俺に転送してもらえばいいだろう。直接貰うのは、いろいろと問題がありそうだ。
「ユウキ。助かった」
「本当?」
「あぁ」
「今日は、もう終わり?」
「そうだな。もう少しだけ作ったら終わりにする」
「うん。僕、待っている!」
「わかった」
ユウキは、ソファーに座って作業が終わるのを待つようだ。
それから、学校が終わったら、秘密基地で開発を行う毎日を過ごした。
週末に回線工事が入って、新しい回線が開通した。IPアドレスは一つだけだが問題はないのだろう。
ルータの設定やサーバの設定を行う。
ユウキに手伝ってもらって接続の確認を行う。プログラムにも問題は出ていない。エラー系の確認でも問題は出なかった。
プログラムも大丈夫そうだ。
あとは、接続のマニュアルを作成して、確認してもらって、試用に移行すれば大きな問題が発生しない限りは終わりだろう。
引き渡しは、オヤジたちが行ってくれることになった。
ソースコードとマニュアルを渡して、俺の作業は終わりだ。サーバに関する資料も渡した。
オヤジの会社でテストをして、フィードバックをくれるらしい。
美和さんと未来さんからも、試用を開始すると連絡が入った。
リモート会議は、追加の依頼が来たので、対応したサーバでログを残すようにすればできる物だ。
不正アクセス関連は、考えられる対策はしたが、駄目なら対処療法で考えるしかない。
未来さんと美和さんからは、補助的なツールだから、1週間程度で復旧してくれれば十分だと言われた。落とされた場合でも、3営業日での復旧を目指す。
森下家に、人の出入りが増えてきた。
どうやら、美和さんが行っている事業が軌道に乗っているのだろう。
それに比例して、Skype サーバへのアクセスも増えている。
トラフィックは計算通りだ。画質を落とせば気にするほどのトラフィックにはならない。受け側が2箇所だけだというのもトラフィックが増えない理由なのだろう。
週末になると、ユウキが美和さんの手伝いを行う場面が増えてきた。
運用段階に入ってから、数回プログラムの修正を行った。
使いにくいという声や、もう少しだけわかりやすくして欲しいという声がクライアントから来たからだ。
美和さんからは、ユウキも参加させたいと言われたが、ユウキが拒否したので断った。ユウキは、美和さんの仕事を手伝うのは、問題ではないが、自分から動くのは違うと思っているようだ。その代わり、未来さんの所に来ていた事務員(だと思ったが、未来さんの後輩だった)が、参加することになった。パソコンの用意と設定を、俺が受け持った。
1.5ヶ月間の試用が終わって、本格的にサービスを運用するのが決まった。
この時点で、俺に作業費が支払われる。未来さんが気を使ってくれて、末締め翌5日払いだ。
月額のサポートに関する取り決めも行った。
サポート料には、ソフトウェアのメンテナンスが含まれるが、改良が伴う変更は相談すると記載された。メンテンナスは、OSのパッチやソフトウェアのパッチに対応する物で、大きく変更が必要な場合には、費用が発生する場合があると記載されていた。問題はないと判断して、月額でサポート料を貰う事になった。
偶然ではないだろうが、今から1年半で貯めたサポート料が、ユウキが行きたいと言っていた、専門学校の学費と同じ金額なのだ。入試や入学金は、足りないのだが、合格して通う段階になれば、サポート料で賄えるのだ。
美和さんに掌で踊らされた感じがするが、開発は楽しいし、運用の勉強にもなる案件なので、良かったと思っておく。
学校で、戸松先生から受けた相談の後日談として、電脳倶楽部の面々が教えてくれた話によると、やはり普通科の教諭が、上(校長ではない)から言われて、導入しなければならない状況になっていたらしい。上から言われた予算は、すでに食いつぶしていた。自分たちでやろうとして、ソフトを購入したり、ハードウェアを購入したり、天才の北山に言われて月額サービス料がかかる物を導入したことでほぼ無くなっていた。
焦って、戸松先生に上からの命令だと言って、用意させようとした。
Google Meetを使う提案に飛びついた。リモート会議が学校でも導入されたと宣伝したのだが、Google Meet は基本無料で使える。
そのために、上から降りてきた金の使いみちが問題になったが、調査費という名目で学校としては問題がなかったと報告したようだ。
その話を聞いたあとで、戸松先生に真相を聞いたら、”貸し”を作ったと笑っていた。
積読本や購入予定の書籍の情報を投稿しています
小説/開発/F1&雑談アカウントは、フォロバを返す可能性が高いアカウントです