【第三章 復讐の前に】第二十話 襲撃?

 

大人たちが無様に怒鳴っている動画は警察に提出した。内容から、”先日の件に繋がる可能性があると思えた”という言い訳をつけ足した。
もちろん、森田謹製のメッセージ部分も入っている状態だ。

朝になって、学校が休みだと連絡が入った。
なにやら、学校が保護者を集めて説明会をするようだ。

俺には”保護者”は居ない。
保護者に名前を借りているのは、今川さんと弁護士の森下さんだ。そして、保護者の連絡先として、森下さんが使っているスマホを登録してある。本当に、”あの大人”たちは、複数の連絡先を使い分けて混乱しないのだろうか?
俺が知っている森下さんの連絡先とは違う連絡先を学校には伝えてある。旦那さんと共有している連絡先だと笑いながら言っていた。

俺のスマホが鳴った。
モニタには、”今川”と表示されている。

『ユウキ!』

送った動画の件だろうか?

「はい」

『大丈夫か!』

いきなり、耳を遠ざけたくなるくらいの大きな声が聞こえてきた。

「へ?」

予想していなかった問いかけで、びっくりしてしまった。
間抜けな声を出してしまった。

『動画を見た。襲撃が行われたのだろう?怪我は無いか?何か、破壊されたのか?』

焦っている。夜半に動画を送って、確認したのは朝だったのだろうか?

襲撃?
誰も襲われていないし、危害も加えられていない。

ドアを蹴られた程度だ。あと、門扉を蹴られたけど、強化を施してあるので、オーガの上位種でなければ破壊は不可能だ。花壇とか作って、踏み荒らされたら器物破損で訴えられたのに残念だ。ドアや門扉を確認したけど、壊されていない。傷さえも付いていない。

「大丈夫です。”襲撃”ではないと思います。ただ、玄関先で騒がれただけですよ?」

今川さんが落ち着くように、何事もなかったように返事を返した。

『そうか・・・。でもな・・・。ユウキ。日本では、それを”襲撃”と表現するぞ?』

そうか・・・。あれが襲撃?
そういわれれば、ドアを蹴っているから、攻撃はされている。反撃をしないようにしていたけど・・・。

「そうなのですか?玄関で騒いでいた迷惑な奴らという印象ですよ?」

『ははは。そうか、迷惑な奴らか?』

何が面白いのか、今川さんは、笑い声を上げている。
本当に、楽しそうな声に変わった。よくわからないが、良かったと思っておこう。深刻な声のままでは、会話も楽しくない。

「そうですね」

『ユウキ』

今川さんの声のトーンが変わる。
真面目な話をする時の雰囲気が電話からも伝わってくる。

せっかく、場が和んだと思ったのだが、本題はこれからなのだろう。

「なんでしょうか?」

『送られてきた動画をすぐに確認した。森田に解析を頼んだ』

解析?
解析が必要な動画だとは思えない。

「え?解析?」

『顔がしっかりと解る状況にした』

そうか、俺の家に訪ねてきて”示談”を強要しようとしたのは、印象が悪い。

「雑誌に差し込むのですか?」

『いや、これは警察から漏れたような感じで、不自然なカットにして、ネットに流す。いいよな?』

ネットに流す?
大きな問題には・・・。

警察から情報が漏れたようにするのか?
そんなことが可能なのか?

今川さんが言っているので、簡単ではないのだが出来るのだろう。

警察の内部に居る奴らの協力者をあぶりだす目的に使うのか?

「大丈夫ですよ。俺の名前や、場所の特定は、映っている連中以外は不可能でしょう?」

それに、今川さんの目的を聞いておく必要がある。勝手に動くとは思えないが、”ちぐはぐ”になってしまうのは、面倒な状況になってしまう。日本では、今川さんの手の方が長い。いろいろな事に、アタッチできる。

『あぁ。後ろに居た奴が問題だ』

「え?」

あの動画のどこかに問題があった?
チンピラにしか見えない奴らは居なかったと思う。家が金持ちなのだろうと思えるような人たちだけで、本人は空っぽなのだろうと思える人たちだった。問題になりそうな人が居てくれれば、俺は嬉しい。

『森下さんに確認してもらった。後ろに居た奴は、警察だ』

森下さん?
今川さんの口ぶりからすると、旦那さんなのだろう。警官だったはずだ。

警官が”警官だと認めた”のなら真実味があるのだが、確か、旦那さんは警察で異端だと言われていて、なんか変な部署だと聞いた。

でも、警官が居たのなら止めなければならない行為を見逃していたことになる。
俺は、別に問題にはしないが、問題だと考える人が多いだろう。

「警官?でも・・・。あぁ奴らに繋がる者ですか?」

『確認を急いでいる。ユウキ。今日の学校は休め』

「え?あっ!」

深刻な声の理由が解った。
俺に、学校を休ませるつもりだったようだ。確かに、動画に映っていた親たちが次に行動を起こすとしたら・・・。

俺の行動で確定なのは、学校だろう。
バイト先に来て、同じような事を行ったら、”犯罪行為”に直結する。学校でも、犯罪行為なのだが、学校は保護者に弱い。矮小化した表現でゆるされてしまう可能性が高い。

暴力行為や恐喝などの凶悪な犯罪行為を、”いじめ”などと矮小化された言葉でまとめる傾向がある。

『なんだ』

少しだけ苛立った声だ。
心配をしてくれるのはありがたい。レナートに居る時には感じられなかったことだ。子供だった頃とは違う。一人の人間として心配されている。まだ子供と言われる年齢だけど、今川さんや森田さん。他にも・・・。俺を、俺たちを”一人の人間”として接してくれる。対等な人間として・・・。

「今川さん。今日、学校は休みです」

『どうして?平日だぞ?』

今川さんには説明をしておいた方がスムーズに進むことが多い。

「学校に保護者を集めて説明会が行われるようです。詳しい内容は、解らないのですが、森下さんの所に連絡が入っていると思います」

『そうか、わかった。弁護士のほうの森下さんだよな?』

「そうです」

『わかった。森下さんには、お前が問い合わせるか?』

俺が知らなくていい事が多いだろう。
敵がはっきりとわかればやりやすいのだろうけど、どうせ騒ぐのは下っ端の役目だろう。

「いえ、面倒なので、今川さん。お願いできますか?」

『わかった。でも、学校の事だろう?聞かなくて平気か?』

「大丈夫だと思いますよ。どうせ、言い訳のオンパレードでしょう」

『そうだな』

俺の言い方が面白かったのか、少しだけ笑い声の状態で了承してくれた。

昨晩の事で、警察が動いたとは思えない。時間的にも無理がある。証拠は提出しているが、解析を行わなければならない上に、証拠能力としては弱い可能性が高い。

「今川さん。記事にはなりそうですか?」

『無理だな』

無理だと思って聞いた話だ。
失望はしていない。

『今、記事にすると、尻尾が切られて終わりだ』

「え?」

思っていたのと違った。
”記事にはできない”のは同じだけど、記事にした場合の影響があるようだ。

今川さんの説明を聞いて納得した。

今、記事にしてしまうと、奴らは蜥蜴の尻尾のように、問題を起こした奴らを切り捨てて終わりにする。
俺に対する行動を慎むように言い出すかもしれない。だから、俺が狙っている者たちに片手でも、指先でも届いていない時には、記事にするのは控えた方がいい。

『ユウキ。スマン。森下さんから連絡が入った』

「わかりました」

どうやら、今川さんの方にも連絡が入ったようだ。

今日は、バイトも休みだし、レナートに行こうか?
アインスたちの訓練も必要だろう。日本では、敵が居るとは思えないが、それでもスキルを取得して使い方を覚えるのは必要だろう。

準備を整えて、レナートに向かおうと思ったら、森下さんから電話が入った。

『ユウキ君。今日は、家に居て』

「はい?」

『君の学校からの通達と保護者会に関しての報告をする』

「わかりました」

『今川さんと森田さんを呼んでいるから、夕方になると思う』

「え?はい。わかりました。場所は?」

『誰も居ない場所がいいとは思うけど・・・』

「わかりました。ひとまず、俺の家に来てください」

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