【第八章 リップル子爵とアデヴィト帝国】第十九話 カスパルの報告

   2020/04/24

 動かない二人を見てヤスは戸惑っていた。部屋の前で立って待たれるとヤスが困ってしまう。それに、どこから突っ込んでいいのか解らないのだ。

 ヤスも神殿から出る時に、二人を見送っているが、その時にはしていなかった腕輪をしている。それも、二人でお揃いの腕輪だ。

『マルス。お揃いの腕輪は、結婚の証なのか?』

『婚約指輪と同等と考えてください』

『わかった』

 ヤスは、二人を観察した。おそろいの腕輪以外ではおかしなところはない。座っていたソファーから立ち上がって二人を招き入れる。

「いい加減に入ってこいよ」

「あっ。もうしわけございません」

 二人が動き出したのを見てから、ヤスはソファーに座り直す。

 ヤスの呼びかけで二人は腕を組んだまま部屋に足を踏み入れた。
 ヤスの正面に座る形でソファーに腰を降ろした。

 丁度よいタイミングで、ファイブが飲み物を持ってきた。3人の前に置いて、ヤスの後ろに控えるように立った。

「いろいろ聞きたいが・・・」

 ヤスが言葉を続けなかったので、カスパルとディアスは体を硬直させた。結婚は、二人で決めたのだ。咎められるとは思っていなかったが、領都からユーラットに向かう途中で今にも倒れそうな子供たちを発見して保護してしまったのだ。子供たちの目的地が新しく攻略された神殿だと聞いて、駄目だとは思ったがアーティファクトに乗せて連れてきてしまったのだ。二人は、ヤスが領都や王都から大量の物資を運んできて、住民に無償で提供しているのを知っている。子供と言っても12名も増えてしまえば、物資がまた必要になってしまう。その上、一部の者しか知らされていないが、リップル子爵家や帝国に対しての報復嫌がらせを行っている最中なのだ、物資が足りなくなってしまう可能性だってある。子供を助けたことは後悔していない。後悔していないが、恩人であるヤスに不利益になる動きをしてしまったのではないかと不安になってしまっているのだ。

「あ・・・まぁ・・・。そのな。結婚おめでとう。なんか、煽ったようで申し訳ないのだが、二人で決めたのだろう?考えを尊重するよ。本当に、おめでとう。家は、今の場所でいいか?別の場所が良ければ移動してもいいぞ?」

 ヤスは一気に言い切った。考えが上手くまとまらないが、祝福している気持ちだけは伝わった。

「え?」「・・・」

「ん?」

「ヤス様。俺・・・。私たちは、神殿から追い出される覚悟で・・・」

「出ていきたいのか?」

 二人は、勢いよく首を横にふる。

「そうか、よかった。二人が居てくれないと困る」

「え?」「・・・」

「カスパルは、領都までの荷物と人の搬送を行ってくれた。これから、もっと長距離の移動を頼みたい。俺1人で神殿に住む者たちの物流を行うのは無理だ」

「はい。はい。必ず。ヤス様の期待に応えます」

「うん。期待している。ディアスには、アドバイザーとして、サンドラやドーリスと違った視点での意見を期待している。俺だけで神殿が運営できるわけではない」

「ありがとうございます。ヤス様のお気持ち、大変うれしく思います」

 3人の間に先程までと違った沈黙の時間が訪れた。
 カスパルとディアスは組んでいた腕を降ろして、肩の力が抜けた。ヤスもそんな二人を見て間違っていなかったと安堵の表情を浮かべている。

「カスパル。それで?」

「え?」「(カスパル。ヤス様に報告しないと・・・)」

 ディアスが、カスパルにだけ聞こえるような小さな声でヤスが期待している話を振ってくれる。

「あっヤス様。俺もディアスも、親も兄弟もいません。でも、二人で生きていくと決めました。ヤス様。ご許可いただけますか?」

 カスパルが真剣な表情でヤスに告げた言葉は、ヤスやディアスが考えていたセリフとは違っていた。

 ヤスとディアスは、カスパルの斜め上を行く宣言にお互いを見てしまった。

 ヤスは、笑いそうになるのをこらえるのが必死だ。
 ディアスは、カスパルの発言を嬉しく思ったのだが、ふさわしいセリフではないと考えていた。

「カスパル。先程、ヤス様はなんといいました?」

「え?『それで?』と言ったから、結婚の事じゃないのか?」

「はぁ・・・。カスパル。ヤス様は、その前に『結婚おめでとう』と言ってくれています。まだ婚約なので、違うとは思いますが、ヤス様はすでに認めてくれています。その上で報告を聞きたいとおっしゃっているのですよ?」

 カスパルが驚愕だという表情でヤスとディアスを交互に見る。

「え?そうなの?」

 ヤスは、イタズラを思いついた顔をしてから、ディアスに真剣な表情で話しかける。

「ディアス。カスパルでいいのか?もっといい男が居ると思うぞ?」

 ディアスも、ヤスの意図が解ったのか、カスパルを見てから息を吐き出して、ヤスを見てから話しに乗った。

「はい。そうですね。私も早まったかも知れません。考え直す必要があるかもしれません」

「え?ディアス・・・。そんな・・・。ヤス様も、止めてください」

「ハハハ。カスパル。大丈夫だ。ディアスの心はお前にむいているよ。それで?ノロケは時間が有る時にゆっくりと聞かせてくれ、報告を頼む」

 ヤスの言葉を受けて、カスパルもディアスも姿勢を正した。

「はい。報告します」

 カスパルが、神殿の出発から領都に到着するまでの話を報告した。

「アーティファクトには問題はなかったのだな?」

「はい。事前に、ユーラットを出てから、燃料計には注意しろと言われていましたので、注視していましたが、問題はありませんでした」

「動作にも違和感がなかったか?」

「・・・。はい。ございません」

「カスパル。どんなに些細な事でも報告してくれ、今後の運用を見直す必要があるかも知れないだろう?」

「失礼しました。操作には問題は発生しませんでした」

「操作には?」

「はい。ヤス様のアーティファクトですが、結界が常時発生しています」

「そうだな」

「商隊の馬車とすれ違ったのですが、その時に馬が結界に接触してしまって、よろけてしまって・・・。あっ大事には至らなかったので良かったのですが、任意で切るとか、大型のアーティファクトの場合には、結界をギリギリの大きさにするなど・・・。出来ませんか?」

『マルス』

『可能です』

「できるが、考えさせてくれ、セバスの意見も聞きたい」

「わかりました。あと、できればですが、バスと言いましたか?あの中を改造したいのですが、許可をいただけますか?」

「改造?」

 カスパルは、今回の様に荷物と人を運ぶ時でも、ダブルキャブではなくバスで運びたいというのだ。
 運ぶのが、荷物と決まっている時なら、トラック形式が楽でいいのだが、人と荷物と何を運ぶのか決まっていない時には、ダブルキャブではなくバスで運びたいというのだ。改造案もディアスと話してきたのだと言っている。

「別にいいぞ?」

「よろしいのですか?」

「工房に居るドワーフたちと相談して決めてくれ」

「ありがとうございます」

「ダブルキャブとユーラットとの物流で使っているケートラもカスパル専用にする。改造をしていいぞ。しっかりと仕事してくれよ」

「え?よろしいのですか?」

「そうだな・・・。結婚祝いだな」

 ヤスは、得意にしている”本人曰く、渋くニヒルな笑い”をカスパルとディアスに見せる。悪ガキのイタズラを思いついたときの笑いにしか見えない表情を見せられて、二人は反応に困ってしまっている。

 ヤスは、カスパルに3台の業務車を贈った。丁度いいタイミングだと思ったのだ。

「ディアス。それで、子供はどこで拾って、どこから来た?まさか、いきなり12人の子供を産みましたとか言うなよ?」

 カスパルに聞くよりもディアスの説明のほうがしっかりと事情や状況が解ると思ったのだ。それに、カスパルよりは間違いが少ないだろうと思ったのだ。
 確認した映像では、子供たちに最初に気がついたのはカスパルだった。カスパルが助けようと言うのを、思いとどまらせたのがディアスだ。しかし、子供たちに最初に近づいたのは、ディアスなのだ。ダブルキャブの荷台に子供たちを乗せて、ゆっくりとした速度で移動してきたのだ。

「ヤス様。子供たちは・・・」

F1&雑談
小説
開発
静岡

小説やプログラムの宣伝
積読本や購入予定の書籍の情報を投稿しています
小説/開発/F1&雑談アカウントは、フォロバを返す可能性が高いアカウントです