【第五章 ギルドの依頼】第十六話 デート?
「ミーシャ!ヤス!」
ヤスがギルドマスターとの話を強制的に終わらせて階下に戻った所で、置いていかれたリーゼが怒鳴り込んできた。
「お!リーゼ。起きたのか?」
「ヤス!酷い。僕を起こしてくれても良かったのに!」
「いや、可愛く寝ていたからな。起こしては悪いと思って、そのまま寝かせておいた。そうだ、リーゼ。用事はいいのか?終わったのなら、領都を案内してくれよ」
「可愛い・・って・・・。そうだね。わかった。用事は、まだだよ。でも・・・。あ!ミーシャ。おばさんからの手紙を渡しておくね。ミーシャでしょ?」
ヤスの後ろから降りてきたミーシャを見つけてリーゼが声をかける。
「わかりました。リーゼ様。コミュニティーにも顔を出してほしいのですが?」
「うん。いいよ?場所は?」
「ちょっと待って下さい。簡単な地図を書きます」
「ありがとう!ミーシャ。ヤスも一緒でいいの?」
「はい。ヤスも時間があると思いますので、是非お連れください」
「わかった!」
「おい。勝手に決めるなよ!」
ヤスは形だけの抗議をしたのだが、無意味な事はわかっている。女性が一度決めたことを翻す事は滅多にないことを経験から知っている。ヤスが遠い目をしているのを、ミーシャもリーゼも気がついていない。
その後もリーゼとミーシャが何かやり取りをしていたのだが、もう勝手にしてくれという気分でヤスは聞いていなかった。
「ヤス。リーゼ様のことをお願い致します」
「わかった。わかった」
リーゼに腕を引っ張られながら冒険者ギルドを出ていく、ミーシャはそのままギルドマスターの所に戻ってリーゼが持ってきた書簡の中身を確認する事にした。内容はすでに知らされているのだが”ギルドマスター”と一緒に見る事が大事な内容なのだ。
ミーシャが暗く沈んだ表情になっているに気が付かない状態で、リーゼは嬉しそうにヤスの腕を引っ張っている。
「リーゼ。少し待ってくれ」
「何?」
「朝を食べていないから、ラナと所に一度戻りたいけどいいか?」
「ん?あぁそう言えば、ラナおばさんから朝ごはんを預かっているよ?どっかで座って食べよう」
「おっおぉ」
二人は、領都の中心と思われる広場に向かった。
コミュニティーが近くにあるという事もあり広場を選んだのだ。リーゼが朝ごはんを取り出す。パンに肉を挟んだ物だが、空腹は最高の調味料をヤスは実感していた。
「さて、どうする?」
「ん?ヤスは何か用事があるの?」
「ないよ。ギルドの査定を待っているだけだからな。リーゼが行きたい所に行こう。あぁそうだ。図書館があれば行きたいけど優先度は低い」
「図書館か・・・うーん。ねぇヤス。先にコミュニティーに行きたいけどいい?」
「ん?ミーシャが言っていたやつだよな?エルフ族のコミュニティーがあるのか?」
「うん」
二人は朝食を食べ終えてから、近くに出ていた屋台から飲み物を買ってミーシャから渡された地図を眺めている。
「ヤス。こっちだよね?」
ヤスは、リーゼが示した方向を確認して、地図を確認した。
そして、領都に来る時に間違った道を指差したのを思い出した。
「リーゼ。お前・・・。もしかしなくても、方向音痴か?」
「違うよ!僕!ユーラットでは迷ったことなんかないよ!」
それは当然である。
表門に行くか裏門に行くか港方向に行くかしか道が無いのだ、ユーラットで迷えたらそれは特技のレベルだろう。
「リーゼ。俺たちはどっちから来た?」
「え?三月兎だよね?」
「そうだな。どっちの方向から来た?」
「え・・・。あっちだよね?」
確かに、リーゼが指差したのは三月兎がある方向だが、二人が来た方角ではない。90度程度ずれているのだ。
ヤスは確信した。
「リーゼ。お前、方向音痴だな」
「え?違うよ。僕は、方向音痴じゃない。母様とは違うよ!」
「わかった。わかった。それで、行くのか?」
「うん!ヤス。一緒に行こう!」
ヤスは、リーゼだけで歩かせたら間違いなく迷子になると考えた。そして、もしかしたら”ミーシャ”や”ラナ”や”アフネス”はリーゼが方向音痴だと知っていたのではないかという疑惑に辿り着いた。ただそれだけではなく、ヤスにリーゼのお守りをやらせるつもりなのではないかと考えたのだ。
その疑惑は”ほぼ”合っている。皆が、リーゼの母親が極度の方向音痴だと知っていた。そして、リーゼも方向音痴ではないかと疑っていたのだ。ヤスと一緒に行動していれば、迷子にはならないだろうと考えていた。そして、リーゼがヤスから”離れることはない”と考えていた。
ヤスが示した方向・・・。地図に示された、場所に向けてリーゼが歩き出した。
「リーゼ!」
「なに?」
「ゆっくり歩け。場所は解っているのか?」
「うん!大丈夫」
ヤスは、この大丈夫が信頼できない物である事は理解できていた。
短い付き合いだが理解するには十分な経験を積んだのだ。
「わかった。地図をよこせ」
「え?」
「いいから。地図をよこせ。俺が見る」
リーゼから強引に地図を奪って方向をあわせて確認してから歩き出す。
空いている手をリーゼに差し出すと最初は少しだけ躊躇したのだが嬉しそうに手を握った。ヤスは、リーゼが迷子にならないようにと手を差し出したのだが、リーゼは違う解釈をしたようだ。
広場からコミュニティーまでは5分くらいかかった。
店の名前はミーシャから預かった地図に書かれている店名なので間違いは無いだろう。
「なぁリーゼ」
「何?」
「場所は間違い無いようだけど、エルフ族は”兎”が好きなのか?」
「え?」
「ラナの所も、三月兎だっただろう。ここも、兎魔道具店になっているからな」
「あぁそういう事ね。本当にヤスは記憶を無くしているのだね?」
「はぁ?」
「エルフ族のことを人族は、兎って呼ぶからだよ」
「へぇなんで・・・だ?」
「は?本気?」
「あぁ」
「僕の耳を見てよ。ピーンとなって兎みたいでしょ?」
ヤスは、リーゼの垂れ下がった耳を見てから、頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜるようにした。
「リーゼの耳を見ても兎には見えないな」
「え?あっそうだけど、そうじゃないけど、違うの!」
「わかった。わかった。みんな耳がピーンとなっているのだな。リーゼだけ特別なのだな」
「そっそうだよ。僕だけ特別!」
「そうか・・・。それで、どうする?入るのか?」
「うん!ヤスも一緒に行こう!」
「そのつもりだから安心していいぞ」
リーゼが思いっきり店のドアを開けた。
「誰か居ますか!」
入った部屋には誰も居なかったのだが、すぐに人が出てきた。耳は隠されていたけど、エルフ族なのだろうイケメンだ。
今までの経験からヤスは少しだけ見紛えた。ギャップがある声かもしれないと思ったからだ。
「だ・・・れ・・・?リーゼ様!」
「あぁ久しぶり!アルミンの店だったの?」
また、ユーラット人脈だとヤスは理解した。
領都のエルフはユーラット出身の人たちで成り立っているのか?と、本気で考えてしまった。
今度のアルミンと呼ばれた男性は少し中性的な声をしているが、まぁまぁイケメンにあう声だったのでヤスは安心する事ができた。
「リーゼ様。そちらは?」
「あっそうだ。ヤス。神殿を攻略して、アーティファクトを操る、僕の命の恩人!」
「おい。リーゼ!」
情報が多すぎる。話を聞いた、アルミンは目を丸くしている。ヤスとしてはイケメンの驚いた顔が見られたから良かったがこれから来る事が確定している質問攻めを考えて頭が痛くなってきた。いわゆる”頭痛が痛い”という状況だ。
「アルミン。詳しくは、おばさんから聞いて。どうせ、ここにも魔通信機が有るのでしょ?それとも、おばさん辺りから話が来ている?」
「リーゼ様。それは・・・」
「いいよ。それで、僕の役目は終わりでいいの?」
「はい。アフネス様からの書簡はギルドに届けていただけましたか?」
「うん。ミーシャに渡したよ」
「ありがとうございます。それでは、これをお願い致します」
アルミンが、リーゼに何か地図のような物を渡す。
「これは?」
「領都にある。私たちの店です。リーゼ様。全部の場所を回っていただきたい」
「うーん。ヤス。いい?」
ヤスは、アルミンの顔を見た。
何かアフネスから言われているのは間違い無い。表情が物語っている。その上ですがるような目をしているのは、リーゼの方向音痴を知っているか疑いがあると思っているのだろう。それに、領都といえ治安がいい場所だけでは無いだろう。贔屓目なしに可愛いと思えるリーゼを一人で歩かせるのも怖いのだろう。
「あぁ問題ない。リーゼ一人だと少し・・・。じゃなく心配だからな。付き合ってやるよ」
ミーシャとデイトリッヒが手配した者たちがヤスとリーゼにわからないように護衛している。ヤスが一緒ならリーゼも嬉しそうにするので、領都に住んでいるアフネス関係のエルフ族は安心する事になった。
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