【第四章 建国騒動】第二話 親書

 

元辺境伯領であり、建国宣言を行った公国は、『”龍族”に守られている』と言われている。
帝国は直接的には、公国への対応を表明していない。

『認める』とも『認めない』とも表面上は無視を貫いている。
裏では、資金がショートしている貴族を動かして、公国に侵攻させた。

7家の貴族が、連合を組んで公国に侵攻を開始した。資金の一部は、帝国が貸し付けている。侵攻している貴族には、公国から奪ったものは奪った貴族に帰属することになっている。
他にも取り決めがされている。
公国は、帝国の一部であり、辺境伯が勝手に建国宣言をしている状況だと思っている。一地方が反乱を起こしている。辺境の反乱であり、帝国は関与していない。蜂起している者たちは、盗賊と同じなので、殺しても罪にはならない。また、辺境伯に住む者を捕えて奴隷に落とすことも許可されている。

公国からのアクションを期待した帝国だが、国境と定められた場所に来ても、公国からのアクションが何も無かった。
7家は、公国が自分たちを恐れて逃げているのだと考えている。
そして、連れてきている奴隷商は、公国の民を奴隷にする腹積もりで動いている。

7家は、足並みをそろえている。
実際には、他家よりも”美味しい”ところを得ようと、抜け駆けを狙っている。

侵攻ルートを選別する段階で、7家は他家を牽制している。既に、公国を滅ぼして、自らが辺境伯に成り上がる夢を見ている。

3方向から攻め込むことが決まった。
決め方も、7家の力関係が拮抗している関係で、寄り親の権力が強い家の意見が採用された。

もちろん、国境の中央部からの侵攻を行う家の一番実入りが多いと予測されている。
側面からの侵攻は、陽動の意味合いもあり、多くの奴隷を得られるとは思えない。また、事前情報として、村が集中しているのは、正面近くだ。中央が対峙している場所からまっすぐに進んだ場所に3つの村がある。
側面には、それぞれ1つの村しか存在していない。問題は、側面からの侵攻だ。村で略奪を行うことが補給に組み込まれている。7家の者たちが想定している村での略奪は、もちろん物資だけではない。その為に、奴隷商を連れている。奴隷に落とす前に、楽しむ事も含まれている。

すでに帝国は、辺境伯を蹂躙したあとの分配で揉めだしている。
突入を3日後に控えた最後の決議の場でも、7家はお互いの主張を言い合ってもめている。

どう攻めるのか?どこを重点的に攻めるのか?相手の想定される戦力は?補給に関しては?想定される敵軍の動きは?

この様な話は、決議の最初から最後まで話されていない。
常に、自分の利益を優先するための話だ。

自軍に戻る7家を率いる者たちの所にほぼ同時に・・・。

「本当か?」

「はい。親書は、ラインリッヒの家紋で封蝋がされています。それも、当主が使う封蝋です」

「中身は?」

「確認は致しておりません」

「わかった。持ってこい。中身を確認する」

「はっ」

7家の全てで似たような会話が行われた。
そして、親書を確認した7家はそれぞれの当主に指示を仰ぐために、早馬を出した。

公国への圧力が和らいだ瞬間だ。
7家は、それぞれの家で固まり防御を高めるように指示を出している。

7家は侵攻を停止した。

親書を読んだ7家の動きは早かった。
親書の内容は簡潔に書かれていた。

”御家の提案を全面的に受け入れます。処々よろしくお願いいたします”

7家は、お互いに疑心暗鬼になっている。
この状況で、補給部隊が攻撃を受けた。7家が合同で行っていた唯一といってもいい部隊だ。その補給路が断絶されてしまった。緊急で、7家は領地にいる領主に対して早馬を出した。

7家は、資金が潤沢にあるわけではない。
そのうえ、領地経営が失敗と言っていいほどに荒れている。軍備に回せるほどの備蓄食料がない。領民から、備蓄食料を徴収してやっと出兵を行った。明るい未来を夢見てと言えば領民も納得しているように聞こえるが、領民のためを思っての出兵ではないのは、解り切っている。

7家には協力するという概念が最初から存在していなかった。それが、公国から出された他家宛て(だと思われる)親書を拾った事で、自家以外は敵だという認識が産まれた。

7家が屯所と定めた場所の近くで、他家の伝令が死体で発見された。

どこの者なのかはっきりとしない状況で、血で汚れた親書を持っていた。
獣に襲われたのか、魔物に襲われたのか、詳細は不明だが、屯所近くの街道を使っていた。

その伝令風の者が持っていた親書がさらに溝を広げることになる。
欺瞞情報だと考える者も一定数いるが、欺瞞であった場合でも、陣地を固めることで、自家は助かると考えた。

”補給路の破壊に成功しました。御家に感謝を致します”

公国が国境と定めた場所まで、一日程度の距離で止まっている侵攻は、さらに遅延することになる。

7家は戦費を調達するのに、寄り親だけではなく、同じ派閥に属している貴族からも戦費の調達を行っている。
侵攻が止まっていることは、7家の寄り親にはもちろん、軍費を負担した家にも伝えられている。それぞれの家から、『裏切っている家がある』ことが理由として伝えられる。

最初は、7家だけがお互いの家を疑っていたが、派閥に情報が伝わったことで、話は大きくなる。複雑に利権が絡み合っている状況で、大きな辺境伯領と”龍の加護”を得られるチャンスを見逃すことは出来ない。
7家は同じ派閥に属しているが、立場は微妙に違っている。
帝国が召喚した勇者を有している4家と宰相が懇意にしている派閥。そして、帝室とは距離を置いているが貴族家としての矜持を持っていると(と言っている)派閥。豪商から成り上がった者が束ねている派閥だ。微妙な距離で関係を維持している状況だ。

勇者たちは、各家に引き取られて、各々の連絡を断っている。連絡ができない様にされているが、勇者たちは不便に思っていない。
貴族家は勇者たちが繋がるのを恐れた。主に資金面で・・・。

今回の辺境伯領への侵攻も、勇者の思考が影響している。
勇者の一人が、巷の情報を拾い上げた。同じ時期に召喚された一人が、辺境伯領にいる事が判明した。自分たちよりも、いい生活をしている状況に我慢が出来なかった。

停止していた7家の部隊が、動きを見せた。
しかし、それは、当初の予定通りの動きではなかった。

中央から侵攻を予定していた3家に届く予定の補給部隊が襲われて、物資を奪われた。
当初は、盗賊の仕業だと思われていたのだが、調べると、右翼に展開している家が関係していることが判明した。もちろん、右翼に展開している家は否定したが、否定する場所を自軍に設定したことで、疑惑が深まる結果になってしまった。

そして、今度は左翼に展開している部隊の補給所が夜襲を掛けられて、物資を燃やされてしまった。

7家の連合は崩れた。
元々、利益を得られると考えて組んだ連合であり、その利益を独占することを考えていた。連合と形にならなければ、各個撃破も可能な状況だ。

しかし、公国は動かない。
国境を固めるだけで、国境から出てこない。

7家が物理的な距離を話したところで、公国の国境を守っている兵士が、7家に呼びかける。

『侵攻の責任は、貴族にあり、公国への帰順を希望し、犯罪歴が無いものは、公国で受け入れる』と、昼間に数度に渡って宣言が出された。
そして、”功ある者は公国でも重く用いる”という宣言も行われた。

公国が、借金奴隷や違法に奴隷にされてしまった者たちの解放を宣言した事で、7家の連合は瓦解した。
疑心暗鬼になっている所に、奴隷たちのサボタージュが発生した。物資も不足している。上官は、下の兵士を叱責する。兵士は、奴隷たちをいたぶるが、その兵士や奴隷たちは、連合に参加している7家が追い込まれていると肌で感じていた。

公国から、龍族が飛来した事で、下級兵士や奴隷兵が蜂起した。
それぞれが、生き残るための行動を開始した。

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