【第七章 王都ヴァイゼ】第十一話 王都にて
ヤスは、居住スペースで目を覚ました。
『マスター。おはようございます』
『マルスか?』
『はい。報告はエミリアがいたしますが、昨晩は、誰からも攻撃はありませんでした』
『そうか、ありがとう。ドーリスは?』
『まだ来ていません』
『わかった。近くに来たら教えてくれ』
『了』
ヤスが起きてマルスに指示を出している頃。
ドーリスは、冒険者ギルドで神殿の都の承認申請を行っていた。すでに根回しは終わっているので、軽く質問されただけで終わった。
ギルドマスターになる祝詞を宣言するだけで終わった。
他のギルドでも同じことを繰り返すだけだ。
通常なら、新しくギルドマスターに就任すると僻みが多く手続きに時間がかかるのだが、神殿のギルドは事情が違っている。
神殿が独立した場所であることが関係しているのだが。それ以上に、攻略されたばかりの神殿のために、建物も何もないと思われているからだ。ドーリスもダーホスも”仮のギルド”で運営を始めるとだけ伝えている。
攻略されたばかりの神殿で”仮”のギルドと言えば皆が考えるのがテント一つで行われているのだろうと推測する。
そのために、ドーリスが”左遷”させられたと考える職員も多いのだ。
時間がかかると思っていた手続きも全部終わった。
ダーホスやクラウス辺境伯の根回しが聞いているようだ。ギルドには、神殿の主であるヤスを敵に回すのを回避したいという理由もあった。
「昼前に終わってしまいました。ハインツ様が来るまで宿で待っていましょう」
ドーリスは誰に伝えるわけでもなく独り言をつぶやいた。
そして、ハインツが用意した宿に足を向けた。
宿の前には、ハインツの使いと思われる者が待っていた。
「神殿の都ギルドのドーリス様。ハインツの指示を受けて、ドーリス様をお迎えに上がりました」
昨日宿屋にドーリスを案内した女性がハインツからの指示だという証拠として、ハインツが署名した指示書をドーリスに見せた。
ドーリスは納得して、案内をお願いした。
ドーリスが案内されたのは、王都にある商人が管理している倉庫だ。ハインツが借りて物資を積み上げている場所だ。
「ドーリス様。サンドラ様から依頼がありました物資です」
ドーリスは倉庫を見回す。大丈夫だと思えたのだが、全部が積み込めるか自信がなかった。
「神殿の主であるヤス様に直接見て確認していただきたいのですが問題はありますか?」
「問題はありません。人手も用意しております」
「助かります」
ドーリスは、頭を下げて門に急いだ。
(あぁぁぁ。神殿に有ったアーティファクトを持ってくればよかった!)
ヤスが乗って待っているアーティファクトまでを急いだ。
ヤスはヤスで寝るのも飽きてしまってエミリアでいろいろ調べたり文章を読んだり時間を潰していた。
『マスター。個体名ドーリスが近づいてきています』
「わかった。ありがとう」
ヤスは、居住スペースから出て、セミトレーラから降りた。
「ヤス殿!」
「どうだった?」
「物資は準備してくれました。ただ、私では積みきれるかわからないので、ヤス殿に確認していただきたい」
「わかった。どこ?」
門は、ハインツが指示しているので問題なく通過出来た。
倉庫までの距離があったのはヤスも計算外だったようだ。途中で戻ってセミトレーラを動かそうかと本気で考えたようだ。
ドーリスがうまく誘導して屋台で買い物をしながら移動した。
倉庫には、護衛と荷物を運ぶ人足が20名ほどと荷馬車が待っていた。
案内された倉庫の中を見て、ヤスは”狭い”と感じた。
倉庫と聞いていたので、小学校の体育館くらいの大きさを考えていたのだが、通された場所はコンテナ2つ分もない程度の広さの場所だ。
「問題ない。全部積み込める」
ヤスが断言する。木箱に入っている物資は部屋の2/3程度の面積だ。天井まで積み上がっているわけではないので、荷物としてはコンテナ一つ分程度だろうと推測した。
ヤスの言葉を聞いて、ドーリスがハインツの護衛だった者たちに指示を出す。
ヤスとドーリスは、最初に荷物を積み込んだ荷馬車でアーティファクトまで移動する。
荷物を積み込むと聞いて、ハインツがキースを連れてやってきた。その後、ドーリスが午前中に回ったギルドからも人が門に集まりだした。
ヤスのアーティファクトを見るためだ。ステータスも気になるのだが、本当に荷物が全部積めるのかが気になっているようだ。
ヤスとドーリスが乗る馬車が到着して、ドーリスが見物人に距離を取るようにお願いする。
ヤスがコンテナを開けるだけで、見ていた者たちからどよめきが発生する。
皆がコンテナの中は空洞になっているとは思っていなかったようだ。アーティファクトが動く理由が載せているコンテナにあると思っていたのだ。見ているドーリスは驚かなかった。コンテナが開いたのを確認してから指示を出している。
事前にヤスから重い箱を下にして、軽い物を上に重ねるように言われている。一箇所に荷物が偏らないようにも言われているのだ。
積み込みを始めると、見物人も興味が出たのか、コンテナの近くまで来て観察を始める。
荷物の積み込みは、それほど大変ではなかったのだが、倉庫からの運搬に時間が必要だった。
荷馬車が居ない時に、ハインツはキースを伴ってヤスに話しかけようとしたが、ドーリスがギルドの関係者を紹介し始めたので話しかけられなかった。
倉庫に有った物資がコンテナに積み込まれた。
「ドーリス。これで全部か?」
「はい。全部です」
「よし!神殿に帰るか!」
ヤスが移動を開始した。
ハインツとキースが近づいてきてヤスに声をかけた。
「ヤス殿!」
「はい?なんでしょうか?」
振り返って、ハインツだとわかっても態度は変えないヤスに周りからどよめきが発生した。
「ヤス殿。私たちを神殿まで連れて行ってもらえないでしょうか?」
「無理です」
一刀両断という感じで断ってしまう。
「なぜですか?」
「俺は”人”を運ばない。ドーリスは、道案内をしてもらっただけで、運んできたわけではない」
「人を運ばない理由をお聞きしたいのですが?」
ハインツとしては、人を運ばない理由がわからない。
これだけのアーティファクトなのだから、人を乗せれば大量に運ぶことができる。キースは、ヤスとハインツのやり取りを見て、ヤスの真意を図ろうとしていた。
「まず、王都に乗ってきたアーティファクトは人を載せられる構造になっていない。それ以上に、俺が人を運びたくない」
「ハインツ様。ヤス様は、人を運ぶ仕事をしたくないと言っているように思えます」
「そうなのか?」
「ハインツ様。ヤス様にご確認しては意味がありません」
キースは、ハインツとヤスの少ないやり取りでヤスの考えを推測した。
その上で、今までハインツから聞いていた話を合致させて一つの結論に達していた。
「ヤス様。私は、キースと言います。ハインツ様の執事をしております」
「ヤスだ。それで?」
「ヤス様にいくつかご質問があります」
「ん?」
「ヤス様は、”人”は運ばないと言われていますが、”生物”を運ぶのは問題ないのですか?」
「条件次第だが、運ぶぞ?」
「ありがとうございます。ヤス様が手中にした神殿にはアーティファクトがあるとお聞きしました。”人”を運ぶのに適したアーティファクトは存在しますか?」
「存在する。だが、誰もが操作できる物ではない」
「重々承知しております。訓練してもダメなのでしょうか?例えば、私がヤス様から訓練を受けて、人を運ぶアーティファクトを操作できるようになりますか?」
「多分だがキース殿では無理だろう。訓練すれば必ず操作できるようになる物ではない。俺も条件はわからない」
「そうですか・・・。条件がわかる方法はありませんか?」
「神殿の施設を使えれば、資質は有ると思うが、それ以降は努力次第だな」
「ありがとうございます」
「ハインツ様。ヤス様の言い方では、辺境伯家の者にアーティファクトの操作を覚えさせるのは難しいと思います。違う付き合い方を考えたほうが良いと思います」
「・・・。キースがそういうのなら大きくは違っていないだろう。わかった。サンドラに確認する」
「それがよろしいかと思います」
キースは、ハインツを説得する形になったが、ヤスの主張が認められた。
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