【第四章 連合軍】第二十二話 【神聖国】終わりの始まり

 

魔王カミドネは日々広がっていく領土を見ながら、聖都に嫌がらせの指示を出している。
時間稼ぎをしているのは、攻略部隊の到着を待っているからだ。
予定は、本日だが時間までは指定されていない。

「カミドネ様」

魔王カミドネの部屋にフォリが報告に訪れた。

「フォリ?」

「はい。報告が来ました」

報告書は、現地からは口頭で報告された情報を、フォリたちがまとめた物だ。
眷属以外にも、獣人族の中から読み書きができる者や、勉強に意欲を見せた者を文官として雇い入れている。流石に、魔王の側仕えには採用はしていないが、地上部分での雑務を行う者たちを徐々に増やしている。

「わかった。魔王様への報告は?」

魔王カミドネは、この戦争は自分たちが引き金になっていると考えている。

「送りました」

魔王への報告を行い。
戦争の状況を伝えることで、他の戦場の足枷にならないように考えていた。

「ありがとう」

会話が切れるタイミングで、フォリが跪いた。

「カミドネ様」「ダメ」

魔王カミドネは、フォリが跪いた理由が解っている。

「え?」

「聖都のダンジョンに向いたいのでしょ?」

「・・・。はい。ご許可を頂きたい」

「ダメ」

魔王カミドネは、フォリがダンジョンに向かいたい理由も解っている。
解っているが許可は出せない。

「カミドネ様」

今回は、珍しくフォリが魔王カミドネの言葉を受けても引き下がらない。
強い目線に気が付いて、魔王カミドネは頭をゆっくりと振ってから、フォリに事情を説明する。

「フォリの実力を疑っているわけではない。フォリを失う可能性があるのが怖いのは認めるけど、それ以上に、魔王様から、今回は自分たちに譲って欲しいと言われている。わかるよね?」

「・・・。はい」

フォリは、魔王カミドネの気持ちが伝わる言葉を受けて、魔王カミドネの命令に従うことを決めた。

魔王カミドネは、フォリが諦めていない事を付き合いから感じ取っている。
その為に、魔王から渡された情報を自分で読み解いて考えたことを、フォリに告げる。

「あの魔王は、やりすぎた」

既に魔王カミドネは、聖王を”魔王”と呼び始めた。

「え?やりすぎ?」

「そ。まだ、魔王様も、確定している情報ではないので、ルブラン殿にだけ情報が伝えられているらしいけど・・・」

魔王カミドネは、魔王から提供されているモニターに一つの地図を表示する。

「これは?」

「この大陸。他の大陸は、”ない”と言っていた」

大陸の話は別にするとしても、自分たちのダンジョンが存在している大陸だけが現存している大陸だと理解していた。ダンジョンは滅んではいないが、海中に沈んだ。
大陸が沈んだために、入口が水没してしまったためだ。内部空間が、入口に依存した作りになっていなかったダンジョンだけが残った。攻められることは無くなったが、成長も見込めない”死んでいない”ダンジョンが残った。

「え?」

「まぁ今は、他の大陸の話は関係がないから、地図を見て、不思議な事に気が付かない?」

大陸の話は、魔王から聞いているが、フォリに説明するのは今でなくてもいいと考えている。
そもそも、説明の必要もない可能性が高い。”死んでいない”ダンジョンで自分たちに関わることはほぼありえない。

「・・・。あっ」

フォリは地図に点在するダンジョンの位置を見ていた。そこに、魔王カミドネが、縦横の線が入ったレイヤーを被せた。

ダンジョンは適当な場所に存在していたのではい。
等間隔に、ダンジョンが存在していた。

そして、ダンジョンが淘汰されていくなかで、現状のような配置になった。
残っていたダンジョンの位置を見れば、淘汰がどのように進んだのかも解る。

「そうだ。神聖国に現存しているダンジョンがない」

正確には、魔王の周りにもダンジョンは存在していない。
しかし、それは魔王が滅ぼしたのではない。

「はい」

「ルブラン殿から聞いた話だが・・・。魔王様が激怒されて、ルブラン殿に、神聖国の消滅を指示された。らしい」

「消滅ですか?」

「魔王様のお考えでは、神聖国の周りにあったダンジョンは、聖王が消滅させた可能性が高い」

「何故ですか?」

「想像も入りますが、いいですか?」

「はい。お願いします」

魔王カミドネは、断片的に聞いた話を繋げ合わせて説明を始めた。

フォリは、ダンジョンの消滅方法を初めて聞いた。その方法がどんなに酷い事なのか理解が出来た。
そして、いくつもの可能性を神聖国の魔王が潰してきたことに憤りを感じた。

魔王が激怒したのも、”技術”を進歩させるためにダンジョンがあるという存在意義を無視した潰し方が気に入らなかったからだ。それも、人対魔王なら技術が育たない状況で討伐されてしまうのも”弱いのだからしょうがない”と割り切れるが、魔王対魔王になった時には事情が違う。
技術が進んでいるのなら、配下に加えるなり、技術を吸収すればいい。
神聖国は、技術を吸収した形跡がない。
魔王が討伐されると、次の魔王は進んだ時代から召喚されるのは解っている。
古い時代の神聖国の魔王が、新しい時代の魔王を殺し続けた。

これが、神聖国に魔王が少ない理由だ。

「そうですか・・・。技術の譲渡がない」

「そうです。魔王様が言うには、数にして40を越える魔王を討伐しているのだから、それだけの”技術があるはず”というのが、魔王様の推測です」

「それで、魔王様が激怒している理由は?」

フォリが、この質問をしてくることは想像が出来ていた。
そして、魔王カミドネとしては、聞かれたくなかった質問の一つだ。

「フォリ。例えばですよ。私が討伐されて、フォリが生き残った」

「カミドネ様!」

「例えです。怒らないでください」

魔王カミドネが哀しそうな表情をする。
フォリも、魔王カミドネの表情から本意ではないと悟った。

「すみません」

素直に謝罪の言葉を口にして、魔王カミドネからの言葉をまった。

「フォリが残って、私を討伐した魔王が、私に関する技術を一つも残さなかったらどうしますか?」

「・・・。その魔王を滅ぼします。無理でも、滅ぼします」

「ありがとう。でも、私が考えた物や、私が出した物が残されて、継承されているのなら?」

「え・・・。あっ・・・。カミドネ様の痕跡を残すために・・・」

「神聖国の周りには、そういった痕跡がない。技術の独り占めは、まぁ討伐したのなら当然の権利だよね。しかし、全ての魔王に関することを、何も残さなかったのは、許せない。魔王様のお言葉だ。ルブラン殿は、魔王様の言葉を実行するために、攻略を行う」

「魔王様の指示なのですね」

「そうだ。そのうえで、消滅の方法を指示されてきた」

「え?」

「聖王に関することを全て消滅させろとのご命令で、そのうえで聖王は死なないように生かし続けろと命令だ」

ダンジョンのコアは潰さない。機能は停止させる。破壊しなければ可能なのは、実験で解っている。
領地を最小に絞る方法は解っている。戦争で勝ち続ければいいだけだ。ダンジョンの中には戻らせない。地上部で、粗末な家を与える。周りを魔王カミドネが領地として、神聖国の魔王は、領地からの収入がない状態にする。
食べなくても死なない。娯楽もなにもない状況で生き続ける状況に追い込む。
家は、所有ポイントを使って自動的に復旧するようにしておけば、ポイントが増えたら家を破壊すればいい。

「それは・・・。それなら!」

「ダメ」

「カミドネ様?」

「フォリも行きたいのでしょ?」

「はい」

「だから、”ダメ”。これは、覆らない。フォリには、別の役割をお願いする」

「え?」

「獣人族を組織して、神聖国に乗り込んで」

「え?」

「今まで、獣人族にしてきたことを、神聖国に残っている連中に教えてあげて」

「いいのですか?」

「問題は・・・。ないかな?魔王様には許可を貰っている。もちろん、罪がない人も居るでしょう。その為の、道具もお借りしてきている」

「ありがとうございます」

二人の話が途切れた瞬間。
ドアをノックする音が室内に響いた。

ルブランが率いる討伐部隊が到着した知らせが入った。

「フォリ。後をお願いします」

「わかりました。カミドネ様」

フォリが、伝令に来た者と一緒に部屋から出た。
閉まる扉を、魔王カミドネは見送った。魔王から、魔王カミドネが現場に出る事を禁止されているためだ。

ルブランが、魔王カミドネに面会を求めてきた。
最終確認のためだ。

ルブランは、魔王カミドネの玉座で話をしたいと言ってきたが、魔王カミドネは私室にルブランを招き入れて話をすることにした。

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