【第一章 ギミックハウス】第一話 【帝国】新しい魔王

 

 帝国。
 人類国家の中で最大の領土を誇る。名前は、プレシア帝国。大国と呼ばれる5つの国家の中の一つだ。

 帝国の他には、王族が支配するプレシア王国。天子を名乗る者が支配するプレシア皇国。宗教国家で唯一の人族絶対主義を掲げるプレシア神聖国。商人たちが集まってできたプレシア連合国。

 全てが、プレシアの名前を冠しているのには理由がある。
 この世界を作った創造神の名前がプレシア神だと言われている。そのために、多くの国家は”プレシア”の名前を付けて、自国の正当性を主張している。他にも小国に分類される国家が多数存在している。
 種族でまとまって、集落を形成している場合も存在する。

 そんな帝国の帝都にある。皇帝の住処である皇城で、御前会議が開かれていた。

「魔王の討伐は成功したのだな?」

「はい。陛下」

「今回は早かったな」

「単独で現れたようです」

「愚かな魔王だったのだな」

「はい」

 傭兵ギルドから提出された資料は、一枚だ。
 ほとんど内容が無い。討伐された魔王の遺体はすでに皇城の地下に運び込まれて、解体作業が行われている。

「今回はハズレか?」

「残念ながら・・・」

 資料に目を落としながら、魔王討伐に寄って得られた物を見ている。

金貨6枚/銀貨8枚/銅貨3枚/賤貨95枚
陶器の皿6枚/ガラスの皿2枚/ガラスのカップ2個/陶器の瓶1個/ガラスの瓶3個
素材不明の衣類/素材不明の下着/素材不明の靴

「衣類や靴の素材はわからないのか?」

 1段高くなっている場所に座っている男が皆に向けて質問をする。

「もうしわけありません」

 末席に座っている者が、1段高い所に座っている男に向って頭を下げる。

「陛下」

 次席と言うか、陛下と呼ばれた男に近い場所に座る男が声を上げる。

「なんだ?」

「王国や連合国に探りを入れてみては如何でしょうか?」

「・・・。宰相の言は一考の価値がある。他の者はどう思う?」

 陛下と呼ばれた男の言葉を受けて、先程発言した者の正面に居る人物が挙手する。

「息子よ。何か、意見があるのか?」

「はっ陛下。宰相の意見は、もっとだと思いますが、我が帝国でも解らないことが、他国で解るとは思いません。それに、帝国が魔王を討伐して、新たな可能性を発見したと、他国に知らせることになりましょう」

 息子と呼ばれた男と、宰相と呼ばれた男が、目線を合わせない。
 仲が悪いのだろう。他の者達は、二人の言葉を聞いて、下を向いてしまった。どちらに与するのか、明確な返答をしたくないのだ。

 1段高い所にある豪奢な椅子に座っている中年の男性が皇帝陛下だ。
 右側には文官。左側には武官が座っている。宰相と呼ばれたのは、文官のトップだ。皇帝の弟である。息子と呼ばれたのは、現在の皇太子で、第一位継承権を持っている。帝国軍の将軍位を持っている、武官のトップだ。

「ギルド長の意見は?」

 皇帝が、一番遠いところに座る男に話しかける。
 ギルド長と呼ばれた男は、額に流れる汗を拭いながら、言葉を考える。

「陛下。私には、宰相閣下のご意見も、将軍閣下のご意見も、納得できる物でありまして、私ごときが判断できる事ではありません」

 ギルド長の言葉を受けて、皆がギルド長に同調する。
 どちらの意見が採用されても、何か問題が発生したときには、賛成した者たちが責任を取らされるのがわかっているからだ。成功したら、意見を具申した者の手柄で、失敗したら賛成した者たちの責任。これが、今の帝国の在り様なのだ。

 結局は、皇帝が判断しなければならないが、今回の皇帝は、判断に迷っていた。

「皿や瓶やカップには何も残っていなかったのか?」

「はっ食事や酒精の飲み物が残されていました」

「それらの解析は?」

「現在、進めています」

「そちらには問題は無いのだな?」

「はっ品質は高いと思われますが、未知の物は見つかっておりません」

「酒精は?」

「はっワインだと思われます」

「そうか、わかった」

 報告官は、ほっとした表情で椅子に座り直す。報告書には同じ内容が書かれているが皇帝から質問されたら、答えなければならない。間違っても、”報告書に書いてあります”とは言えない。言ってもいいが、数分後には、身体は頭の重さに耐える苦痛から永遠に開放されるだろう。

「ギルド長。魔王の討伐は、実質的には、1-2分というところか?」

「はい。現場から、上がってきた報告では、”単身で立っていた所を、討伐した”と、言われました」

「前回も、”ハズレ”だったな」

「はい」

「他国の魔王討伐はどうなっている?」

 皇帝が、ギルド長に問いかけたのは、内部情報を提供しろということに他ならない。

 ギルドとは、仕事を斡旋している組織の総称だ。歴史は古く、4,000年前には誕生したと言われている。国に属さない組織だ。ギルドに登録すれば、国を跨いでの仕事が規約上は問題なく受けられる。ギルドの本部は、王国の王都にあるのだが、5大国にも本部が置かれている。混乱を避けたいギルドは、王国に置いている本部を総本部と呼んでいる。ギルドは、スキルを利用して作成されているスキル道具を使って、ギルドカードを発行している。ロストテクノロジーだが、現在でも問題なく動作している。

「それは・・・」

「言えぬか?」

「いえ、手元に資料がなく、正確な数字を覚えておりませぬ」

「構わぬ。大凡の数字でいい」

 ギルド長は、観念した表情になり、内部情報を思い出しながら大凡の数字を答える。

「王国では、10存在していた魔王城の討伐に成功しております」

「期間は?」

「最短で30日ほどです」

「消滅した魔王城は?」

「昨日までの情報ではありません」

「そうか・・・。我が領にある魔王城と合わせると、全部83だったな」

「はい。私の記憶でも、現存する魔王城は83です」

「1,000年前には、1,000を超える魔王城があったらしいが?」

「はい。ギルドの記録では、1,000年前には・・・。1073の魔王城が確認されています」

「魔王城が消滅する原因は判明しているのか?」

「いえ・・・。神聖国の与太話程度です」

「・・・。あれは、考えるだけ無意味だ。神聖国が言っていることなど、議論する価値もない」

「はい」

「そうか、わからぬか・・・」

 将軍が、皇帝とギルド長の会話に嘴を突っ込んできた。

「陛下。魔王城の消滅は、一大事なれど、臣民が苦しむのに比べれば、問題になりませぬ。それに、魔王城が必要になるのでしたら、神聖国にも王国にも皇国にもあります。奪えばいいのではないでしょうか?」

 将軍が言っていることはむちゃくちゃだが、皇帝の心を”魔王討伐”に傾けるには十分な言葉だ。

「ギルド長。王都近くの魔王城は、消滅しなかったのだな?」

「はっ。部下を見張らせましたところ、今までと同じように、魔王を討伐した場所に、白い箱が出現しました」

「箱までは行けたのだな?」

「はっ今までと変わらないと報告が上がってきています」

 皇帝が立ち上がって、皆を見下ろす。

「宰相。魔王から得た物は、帝国内部で調査せよ」

「はっ」

「魔王城がある都市や国の調査を行え。情報部を動かして良い。新しい素材が出回っていないか調査せよ」

「はっ!」

 宰相が、皇帝に頭を下げる。

「我が息子よ。手勢100と奴隷兵1,000を率いて、新しく生まれる魔王討伐を命じる。今までと同じならば、十分だろう」

「はっ!陛下に、魔王の遺物をお見せいたします」

「期待している。ギルド長。新しい魔王の誕生は、何日後だ?」

「4日後です」

「我が息子よ。ギルド長の言葉を聞いたな。帝都の近くにある魔王城までは、半日の距離だ。奴隷兵を連れて行くとなると、1日は必要だろう。編成を早急に行なえ」

「はっ」

 こうして、新しく産まれた魔王。第495代目当主は、いきなり100名の騎士や兵士と1,000名の奴隷兵に襲われることが決まった

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