【第六章 開発】第六十八話
/*** カズト・ツクモ Side ***/
暑さで目を覚ました。周りの状況を確認して納得した、そりゃぁそうなるよな。
クリスが毛布を身体に巻きつけてから、俺に抱きついて寝ている。器用にミノムシ状態の毛布から腕だけだしている。
ウミとカイは、布団の中で丸くなって、俺の足の辺りで寝ている。
カイと、ウミは、俺が起きた事がわかったのだろう。布団から出て、伸びをしている。
こうやって居ると、普通の猫のようだな。毛づくろいをしている様子を見てから、クリスを起こそうかと思った。
俺から離れようとはしない。それほど強い力ではないが、しっかりとホールドしている。
「お父様・・・ママ・・・」
どんな夢を見ているのか・・・よく見ると、涙の跡がある。
そうだよな。納得していると言っても、俺はクリスからみたら、父親の仇という事になるのだろう。まだ死んでは居ないだけで、実質的には死んでいるのとそれほど変わりはない。報告では、既に心は死んでしまっているようだからな。
「う・・・ぅん。カズトさん。だめ!あぁ」
なんの夢を見ている?
起こしても問題ないようだな。
「クリス!クリス!」
涙の跡を拭ってから、クリスを起こす。
腕を外して、揺すったくらいでは起きないのか?疲れているのなら、もう少し寝かしておくのがいいかもしれない・・・が・・・。
「うっうううぅん。あっ。おはようございます。カズトさん」
起きたようだ。
「あぁおはよう。まだ寝たり無いのなら、もう少し”1人”で寝るか?」
「・・・起きる?ご飯の前に、もう一度お風呂に入りたいけどいい?なんか、汗かいちゃった・・・変な夢でも見たのかな?」
「あぁいいよ。お湯は自分で作られるだろう?」
「うん!あれ?なんで、僕・・・布を身体に巻いているの?おかしいな?」
起き上がって、身体に巻き付いている毛布をクリスが外す。
「ふぅーさっぱり!」
目の前に、全裸のクリスが立っている。
「クリス!お前!」
「え?なに?カズトさんのエッチ!」
「お前なぁそんな・・・ない胸や発達してない身体見ても興奮しないけど、さっさと風呂入って、服着てこい。後は用意しておくからな」
「ぶぅー・・・。じっくり見ても良かったのに、それに、ない胸・・・って、確かに、ほとんど無いけど・・・これでも少しは成長したのに・・・。そうだ!カズトさん。変体スキルで胸だけ大きくできるかな?」
「クリス!そんな事言ってないで、さっさと風呂に入るなり、服着るなりしろ!もう二度と、一緒に行動しないぞ!」
「ごめんなさい。でも、成長したら、しっかり見てくださいね。お願いします」
「わかったから、早く服着ろ」
「やったぁ!あっお風呂入ってくる。ライ兄。あとで着替え出してくれるとうれしい」
『うん。わかった。あとで、クリスの着替えとか、武器とか全部渡すね。収納には空きが有るよね』
「うん!入るかわからないから、順番に収納してみるね」
たしか、クリスは、今の俺の1つ下らしいので、今11歳か12歳という事になる。
リーリアは、14歳程度だと言っていた。エリンが、11歳。オリヴィエは13歳だったかな?
俺の誕生日が、前世?と同じなら、もう13歳でもいいだろう。
この世界の常識では、15歳くらいで結婚だと言っていたな。あと二年くらいだろう。まだまだそんな気分にはならない。リーリアやエリンは眷属として家族のような者だ。クリスに対する感情がよくわからない。手のかかる姪っ子が1番近いだろう。
クリスが風呂から出てくる。ライから、着替えを受け取って身に付けていく。下着姿をまじまじと見るのも悪いとは思ったが、下着を付けた段階で、クリスに声をかける
「クリス。プロテクターを付けたら見せてみろよ」
「うん!あっカズトさん。間違っていないか、プロテクターの着け方とか見ていて欲しい」
「いいのか?」
「もちろん!でも、下着はあんまりジロジロ見ないでね。自分で確認したけど、見えちゃうよね?」
「大丈夫。見ないし、見られたくないのなら、ライから布を貰って、腰に巻いておけ」
「え?うーん。そうする。ライ兄。色が付いた布貸して!」
ライから布を受け取っているようだ
「カズトさん。いいよ!」
インナーを着て、スカートっぽく布を腰に巻いた状態だ。これなら、見える事は無いだろう。
プロテクターを自分で着けていく。クリスは、こういう手順は一度でしっかりと覚える。頭の作りがいいのだろう。だから、スキルの使い方も簡単に覚えているのだろう。
俺と、カイの見込みでは、エリンと同等になるのに、ダンジョン踏破しても多分無理だろうと考えていた。しかし、予想はいい意味で裏切られた。スキルの使い方は、すぐに覚えて、応用もかなりのレベルでできるようになっている。
魔眼の検証もかなりできている。
ダンジョンでの優位性はわかってきた、フィールドではどうなるのかを今後見極めればいい。
クリス。腰から膝にかけてのプロテクターを着ける時に、わざとらしく転んで、足を広げて、こっちに見せなくていいからな。そのくらいじゃ俺はなんとも思わないぞ?
さて、クリスも着替えが終わったから、俺も簡単に着替えて、食事にしよう。
「カズトさん。カズトさんは、プロテクターしなくていいの?」
「あぁこの服とプロテクターは同じくらいの強度があるからな」
「え?そうなの?僕も・・・」
「そうだな。ログハウスに戻ったら、クリスのスキルに合うように作るか?どうせ、これからも、俺たちに着いてくるのだろう?」
「・・・うん。でも、カズトさんがダメって言ったら、あきらめる・・・様に努力する」
そういう言い方はずるいよな。
11歳でも、女は女か?それに、この世界の女性は強かさでは、日本の女性以上のような気がする。
「わかった。そのかわり、俺のいう事は絶対に守れよ。それと、全裸で寝るような事はするなよ?」
「え?あっうん」
「別に、クリスの全裸が嫌いなわけじゃないからな。今は、カイとウミとライが居るからいいけど、そうじゃない時とかに、全裸で寝ていたりしたら、とっさに誰かに襲われたり、魔物が出てきたら、スキルを使う時間を稼げなくなってしまうからな」
「え?プロテクターをして寝るの?」
「あぁそうか・・・クリスにも、リーリアたちと同じ様に作務衣を渡したほうがいいか・・・ライ。持っているか?」
『うん。あるよ。でも、あるじの奴だから、かわいくないよ?いい?』
「あぁどうする・・・ク・・・いいようだな」
クリスが、満面の笑みを浮かべている。
「ライ。クリスに、俺の予備が有るだろう。二着くらい渡しておいてくれ」
『わかった!』
クリスが、ライから作務衣を受け取る。
「あ!これ、カズトさんがよく着ている服!?」
「あぁそうだ。結界しか組み込まれていないからな。寝る時用だぞ。女の子だから、インナーは着ろよな?」
「え?リーリアお姉ちゃんは、インナー着てないよね?」
「あいつにも、何度も言っているけど・・・クリスは着るよな?」
「エリンちゃんは?」
「エリンは・・・着てないな」
「じゃぁ僕も!」
「それじゃ返せ!」
「やだ!もう貰った!僕の物!それに、インナーが汚れている時には、着なくていいよね?」
「あぁその時には、しょうがないな」
「わかった!なるべくインナーを着るけど、汚れている時には、しょうがないよね」
「そうしてくれ」
なんか、リーリアとも同じようなやり取りをした記憶がある。
結局、インナーを着なくなってしまった。そのほうが楽だと言っている。エリンも同じだ。
「でも、この服。カズトさん。ログハウスでも着ているよね?」
「あぁもともとは、作業着だからな」
「そうなの?」
「そうだよ。なれると楽だからな。それに、ログハウスなら、誰かに襲われる事も無いだろうからな」
「うん」
食事を終わって、ウミが、風呂場と寝床とテーブルの後片付けをしている。
「さて、30階層のフロアボスに挑みますか!」
「はい!」
『うん!』
30階層は、オーガがオークを数体連れて出てきた。
種族的には、いきなり強くなるが、強さはそれほどでもなさそうだ。鑑定で見た所、スキルが付いているわけではない。ノーマルな状態だ。これなら、スキル持ちのゴブリンと同じくらいだろう。オークの数が少し多いのが面倒に感じるくらいで、討伐に困る事はなさそうだ。
ここで、ライが少しだけ手伝いをする事になった。
補助系のスキルを使って、オークの足止めをして、クリスの相手を絞るようにさせた。何度か、結界まで取り付かれる状態になっている。破られる事は無かったが、安全マージンのためにも、ライに参戦を頼んだ。
俺とカイはまだ見学だ。
「クリス。辛いか?」
「ううん。大丈夫!」
余裕はまだ有るけど、安全マージンを考えると、この辺りがギリギリだな。
「次から、ライも出てくれ」
『わかった。補助系でいい?』
「あぁ攻撃は、まだ大丈夫だ。危なそうなら、クリスを守ってくれ。カイは、俺と一緒に居て、ヤバそうなら出てくれ」
『かしこまりました』『わかった!』
と言ったが、35階層まで、ライが積極的に攻撃する事は無かった。
状態異常系のスキルの利用と、詠唱を行っている魔物に対して、クリスの攻撃が間に合いそうに無い時のフォローくらいだ。
35階層のボスは、強化系のスキルを使ってくるオーガと、進化系オークと、同じく進化系ゴブリンだ。
強化系のスキルは使わせると一気に戦線が崩れる可能性があるので、ライに狙わせる。クリスとウミで、オークとゴブリンを狙うように指示を出す。カイにも、万が一の時に突入できるように準備を頼んでおいたが、カイの出番はまったくなかった。クリスが前線で結界を発動して、オーガやオークやゴブリンの魔力の流れを読んで、魔力が大きくなっている相手を指示して、そこから狙っていった。
戦闘時間は、それなりに掛かったが、こちらの被害はない状態で終わらせる事ができた。
36階層・・・37階層・・・38階層を越えても、俺とカイの出番はない。クリスに少し疲れが見えたので、ライが戦闘に加わるようになっただけで、大きな問題はない。イサークたちが言っていた、現在攻略が進んでいる階層に到達した。
ここは、狭くなっている上に、魔物の数が減っていない。一種のモンスターハウスの様になっている。
交差点になっている場所は注意しないと、左右から挟み撃ちにされてしまう。多分、攻略が進まない理由がそれなのだろう。通路の幅も狭くなっている。俺とカイが並ぶだけなら余裕があるが、クリスとウミとライが並ぶと狭く感じる。これだと、ガーラントだと1人でも狭く思えるかも知れない。それでいて、魔物は倒されたら、その死骸を乗り越えてでも迫ってくる。連戦状態になっている。
「クリス!辛くなったら言えよ。カイを突入させるからな」
「うん。でも、まだ大丈夫!ライ兄。1番右!」
話しながらでも、指示を出せるくらいには成長している。38階層は、最短ルートを通らないで、殲滅するように動く。背後を襲われるのが、こういう時は1番怖い。
39階層も同じような感じだ。
40階層に入ったら、一気に魔物が減った。洞窟っぽい作りは変わらないが、通路が広くなった。魔物は出てくるが、頻度はそれほど多くない。
フロアボスにたどり着いた。
流石に、クリスが疲れただろう。セーフエリアで休む事にした。
「クリス。少し休め」
「僕・・・平気だよ」
「平気じゃないから、休め」
「・・・・僕、邪魔?」
「あぁぁぁもう・・邪魔じゃない。クリス。こっちに来い。俺の横に座れ」
「・・・うん」
横に座った。クリスを、無理やり、寝かせる。膝枕の格好にさせる。
「え?カズトさん・・・」
「いいから、少し寝ろ。その間、こうしていてやる」
片手を、クリスの肩に置いてもう一つの手で頭を撫でる。ライに毛布を出させて、クリスにかける。
「プロテクター苦しいか?」
「大丈夫」
「本当か?」
「ごめんなさい。少し苦しい。胸が」
「そんな嘘はいいからな。でも、手足は苦しいだろう」
「・・・うん」
クリスのシャツを少し脱がして、プロテクターに触れて・・・収納を行う。
収納スキルのもう一つの使い方だ。あまり褒められた使い方では無いのはわかっているが、こういう時は便利に使わせてもらおう。
「え?」
「いいから、寝ろ。この跡、40階層のフロアボスだし、今日はその後50階層まで行くからな」
「・・・うん。本当に、このまま居てくれる?」
「あぁ大丈夫だ。クリスが起きるまでこうしているよ」
「カズトさん・・・ありがとう。どこにもいかないで欲しい。僕、いい子で・・・頑張るから・・・お願い・・・」
肩に置いた手の上から、クリスが手を重ねてくる。
そんな事しないでもどこにもいかないのに、不安が消えないのだろう。父親から見捨てられて、母親はどうなっていたのかわからないけど、合っていないようだった。祖父は良くしてくれたようだが、それだけだ。1番身近で1番信頼すべき父親に裏切られたのが、クリスの心のトゲになっているのかも知れない。
俺に依存しているようにも感じる。捨てられないように、見捨てられないように、身体や女を使ってでも・・・ということだろうか?
クリスから、小さな寝息が聞こえてくる。
重ねられた手が、俺の手から離れていく、起きた時に寂しいだろうから、手を握ってやる事にした。
ゆっくりとした時間が流れていく。
積読本や購入予定の書籍の情報を投稿しています
小説/開発/F1&雑談アカウントは、フォロバを返す可能性が高いアカウントです