【第八章 王都と契約】第三話 盗賊退治

 

ナナの行動は早かった。
”ツインズ”という双子の夫婦に話をつけて、俺たちも同行することに決まった。

イベント発生だ。
ゲームでは、サブクエストという扱いになるのだろう。

一番、ワクワクしているのがマヤなのはどうなのかと思うが、マヤは留守番(?)になる。ミトナルの中からサポートを行うことになっている。留守番という表現が正しいか解らないが、本人が留守番と表現したので、留守番が正しいのだろう。

ミトナルのスキルは、マヤのスキルで補完ができる事が解っている。
そして、マヤはミトナルの中から”第三の目”というべきなのか解らないが、死角からの攻撃を防ぐことができる。マヤも、ミトナルのスキルを使う事ができるのだ。俺だけではなく、眷属の中で強者と思われているヒューマが互角で、人型のブロッホにも勝ち越している。ラトギでは既に相手にならなくなっている。アウレイアやアイルたちが複数で挑んでも、ミトナル+マヤには敵わない。
でも、そんなミトナル+マヤもナナには敵わない。スキルを全開で使って殺すつもりで戦えば勝てるだろうけど、模擬戦では簡単に負けてしまう。経験が違いすぎる。

「リン君。現場では、私が指示を出すわよ?」

依頼を受けた時に、最初に言われた事だ。
リーダーは俺だが、経験が絶対的に足りていない。俺も解っている。少しでも経験を吸収しなければ、せっかくナナという手本が居る。しっかりと学ばなければ一緒に遠征してきた意味が薄れてしまう。

盗賊のねぐらは、すぐに見つける事ができた。
隠蔽工作をしていると思っていたのだが、ナナだけではなく、ツインズの4人からも、隠蔽を行うような者たちは盗賊や野盗にならないと笑われてしまった。

作戦は、簡単だ。
俺とミトナルが盗賊たちに姿を見せる。

村から聞いている話では、盗賊たちは子供と思われる者たちを攫っている。
動機は不明だけど・・・。ナナやツインズの話では、違法な奴隷商にでも売っているのではないかと教えられた。

「ねぇリン?」

「どうした?怖いのなら辞める?」

ミトナルが、辞めるという選択はしないのは解っている。

「ううん。違う。盗賊にしては、装備が揃っていると思わない?」

盗賊の後をつけて、盗賊のねぐらを発見してから、作戦を考える場所で、ミトナルが最後に俺に質問するような形で発言した。

「え?」

声は、ツインズの一人が上げた。
確かに、俺たちの存在が知られてしまった時でも、俺とミトナルなら盗賊は子供だと考えて、追ってくる可能性がある。そこを、ナナやツインズが無力化して、内情を聞き出す。二段構えの作戦になっていた。
その為に、盗賊たちを見たのは、俺とミトナルだけだ。

「ミトナルちゃん。感じたことを教えて!」

ナナが少しだけ興奮した様子で、ミトナルに説明を求めた。
ミトナルは俺を見てきたので、頷いて許可を出す。許可も必要ないのだが、ミトナルはなぜか俺に許可を求めることが多い。

「うん。武器は違っていた。でも、履物が揃っていた」

「え?」

「武器には好みがある。防具も体型や戦い方で変わる。でも、靴はサイズの違いはあるけど、大きくは変らない」

ミトナルの説明を聞いて納得ができた。
確かに、装備品の中で靴だけは大きくは違わない。ゲームとかでは、スキルや防御力で違う可能性もある。しかし、リアルでは靴を別々に用意するほうが面倒だ。それに、靴は同じサイズを用意して中に詰め物をする場合もある。

「そう・・・。ミトナルちゃん。全員が同じ?」

「わからない。でも、同じ履物を使っているのが3人は居た」

ミトナルの観察眼も凄いが、これにはトリックがある。
マヤが関わっている。

マヤは、ミトナルの中で暇なのか回りを観察することを続けている。その為に、盗賊たちの装備の違和感に気が付いたようだ。

ミトナルが俺に許可を求めてきたのも、マヤの手柄を奪ってしまう形になってしまうからだ。

「どうかしら?」

「そうだな。全員を殺すのは簡単だが、裁定でも2-3人の捕縛を考えるか?」

ナナとツインズが作戦に変更を加える相談をしている。

俺とミトナルが囮になるのは確定だ。

捕縛と同時に、盗賊たちの掃討を行うことに決まった。
俺とミトナルを追ってきた者たちは、捕縛を試みるがダメだったら殺してしまうように言われた。躊躇しない様に何度も言われた。

作戦決行は、日暮れが近い時間に決まった。
それまでは、村で時間を潰していた。

村に居るような人の格好になってミトナルと森に向かう。
盗賊たちの屯している場所は解っている。一直線に向かう。眷属たちは、俺たちから離れた場所で護衛をしてくれている。

ナナとツインズも、盗賊たちのねぐらを別の方向から迫っている。

リデルに伝言役を頼んでいる。
リデルの眷属から、ナナとツインズが配置についたと連絡が入った。

「ミル」

「うん」

ミルは気負った雰囲気はない。
俺の少しだけ後ろに従うように歩いている。

動物が出す音とは違う音がする。

距離が近づいている。
見張りが居るようだが、大声で話をしているので、見張りの役割は果たしているようには思えない。

「誰だ!」

見張りが俺たちを見つけてくれた。

俺とミトナルは、慌てた演技で、持っていた籠をその場に落として逃げ出す。
慣れない雰囲気は難しいが、追ってくる奴に合わせた速度で走るだけだ。

1分くらい走っただけで盗賊との距離が離れてしまう。
想定していたよりも引っ張れなかった。

「ミル!」

「うん」

追ってきているのは3人だ。
見張りの全員がこっちに来て大丈夫なのか?

盗賊の事だけど、心配になってしまった。

「アイル!殺すな!アウレイア!頼む」

護衛として隠れていた二頭が飛び出す。
これで終わりだ。

一人は、ミトナルが嬉々として倒していた。
腕を切り落とされていた。死んではいないだけだ。どうせ、この後に、ナナとツインズが尋問をするだろう。その時に・・・。

「ミル。こいつらは放置でいい。アジトに行こう」

「うん」

盗賊たちが何か言っているが気にしてもしょうがない。
アイルの眷属が何頭か来ているので、スコルたちに見張りをしていた者たちを任せて、アジトに急いだ。

ナナとツインズがやられるとは思っていない。
俺たちの獲物が無くなってしまう程度の考えだ。

俺たちが到達した時には、既に盗賊たちは倒されてしまっていた。

勉強にもならなかった。

「ナナ!」

「リン君。ミトナルちゃん。そっちは終わった?」

「あぁ捕っている。一人は、死んでいる可能性があるけど・・・」

「・・・。そう。それは、どうでもいいわ。それよりも・・・」

ナナが手招きをする。
俺とミトナルは、お互いの顔を見てから、ナナの近くまで移動した。

「アスタ!こいつら・・・。あぁ丁度よかった。リンもミトナル嬢も来てくれ」

ツインズに案内されて、盗賊たちが使っていたアジトに足を踏み入れる。
思っていた通りの展開で胸糞だが、問題はそこではなかった。

ナナが、俺たちに伝えようとしたことの裏付けになる資料が見つかった。

想像はしていたのだが、最悪な気分だ。

「教会?」

「そうね。評判がよくないけど、勢力が大きい方の奴らね」

教会の印が入った資料には、”子供や女を攫って奴隷にしてから王都に移送する”ように書かれていた。

「ナナ。この印は?」

印章を指さして、ナナに聞いた。

ツインズも苦い表情をしている。

「ボルダボ家ね。今は居ないはずだけど、”とある事件”で失脚するまで、枢機卿が居たはずよ」

「アスタ。今の教皇に近い立場だ。確かに、失脚はしているが、裏での影響は衰えていない。それどころか、暗部を支配してしまっている。教会の汚れ仕事を行っている家だ」

ミトナルが、俺の袖を引っ張る。

「なに?」

「僕。前に、フレットが愚痴っていたのを覚えている」

「え?」

「確か、フレットの家・・・。コンラート家と対立しているのが、ボルダボ家だったはず」

なんとなく、同級生の誰かが絡んでいるように思える。
教会。宗教。誰か・・・。居たか?
神殿に戻れば誰かが知っているかもしれない。

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