【第七章 神殿生活】第二十四話 王都へ

 

新規住民の話は、整理を行ってから、割り振りを含めて考慮することに決まった。
そして、イリメリが連れてきた住民が柔軟に対応をしてくれた。割り振りで揉めなかったのもよかった。

また、森の外周部には、まだ隠里があるようで、イリメリが住んでいた村の住民が、他の隠里を説得してくれることになった。

問題が全くなかったわけではない。
隠里から来た者たちは、身元が解ってしまうと、”脱税”の疑いで、奴隷階級に落されてしまう可能性が出てきた。

これは、セバスチャンが指摘したことだが、隠里の者たちも可能性として考えていたようだ。

「心配ない」

皆の視線が俺に集中する。
心配そうな表情をしていた代表者も俺の言葉には驚いている。

「ん?リン?」

ミトナルが続きを聞きたいようだ。

「旧アゾレムや関連の貴族の領だよな?」

前提条件が”旧アゾレム領”だということだ。
そして、現在は俺の所領になっている。実際には、”領”ではないが、他にいい表現がないので、”領”だと考えることにしている。いろいろな意味で例外的な”領”なのは間違いない。

俺が所領する前は、宰相派閥の貴族が持っていたのだが、最終的には”王家の直轄領”扱いになっていた。
元々が、魔物が多く実入りが少ない森だ。開拓が出来れば、意味がある土地なのだが、開拓を行うためには、森を切り開かなければならない。そして、森を切り開けば、浅い場所ならいいが奥に入れば、魔物の楽園になっていた。
浅い所でも、魔物の脅威を拭い去るのは難しい。
イリメリの出身の村の様に、空白地帯になっている場所を開拓すればいいのだが、大規模に開拓を行えば魔物の襲撃にあってしまう。実際に、それで潰れた開拓地は大量に存在している。

「そうね」

俺の言葉を肯定したのは、タシアナだ。
タシアナは、イリメリが連れてきた者たち・・・。特に子供たちのケアを行っていた。
子供たちと接する過程で、大人たちから話を聞いていた。

「だったら、無視しよう。何か言ってきても、俺の身分は”貴族相当”なのだろう?」

これは、アデレードから聞いた話だ。
騎士爵ではなく、男爵相当だ。領地だけなら子爵でも大丈夫だと言っていた。

それに、実際にはサビニは公爵でもおかしくない身分だ。女公爵に叙して、俺がそれを引き継ぐことも可能だと言われたのだが、サビニが望んでいるとは思えないので、保留にしてもらっている。
その代わり、ニノサを叙勲して、俺がニノサの爵位を引き継ぐ方法を考えてもらっている。

「あっ」

なぜ、アデレードが驚くのか疑問だが、アデレードとルアリーナが教えてくれたことだ。
その流れで、サビニではなく、ニノサに嫌がらせをしようと、マヤと話をした。ナナも賛成してくれた。ガルドバは笑っていた。

ニノサも叙勲されるのだが、貴族になるのが嫌なら、俺の前に出てきて文句を言えばいい。

「隠里から来たなんて知らなかった。移住を希望されたから受け入れた」

俺の考えは、”知らなかった”で押し通す。
どうせ、例外的なことの連続だ。今更、例外の一つや二つ増えても大きな違いはない。

異例なことなら、さらに異例を追加しても、どのみち、異例だ。

「リン?」

心配そうな表情をするのは、ミトナルだ。
ミトナルも、立花を含めたアゾレム勢力との戦闘は避けられないとは解っている。

解っている状況でも、避けられる戦闘は少ない方がいいと思っている。
ミトナルが俺の前面に出て、俺を守る戦いならいくらでも受け持つと言っているが、権力闘争になると、ミトナルの出番が少ない。暴力には暴力を、権力には権力の、それぞれの戦いがあり、ミトナルの戦いは俺を守るための戦いだと言っている。

「言いたいことは解る。でも、アゾレムや近しい貴族たちとの敵対は既に決定している。だったら、敵対の材料が増えても問題にはならない」

敵対する貴族が増えれば、敵対している勢力に離間を誘うような罠をしかけてもいい。味方は多い方がいいが、”利”で繋がる味方は多くても意味がない。さらなる”利”を提示された時に動いてしまう可能性がある。勝ち続けている時なら問題は無いのだが・・・。味方は、増えればいいわけではない。

「そうだけど・・・。滞納分の税金を求められたら?」

「無視だな」

「無視?」

「無視で問題があるようなら、”きっちり計算して、証明書類を添付して持ってきたら、精査して支払う”とでも言えばいいだろう?」

「そうね。”滞納”していた証拠があれば、リン様も払うのでしょう」

アデレードのお墨付きが貰えた。
実際に言ってきても、基本は”無視”がいいだろう。文句を言えば、血が頭に上ったように真っ赤になって怒り狂うだろうけど、それは目の前で見てみたい。

「アデー。俺は、税金を何処に収めればいい?」

これが、もう一つの問題だ。
”税”の納付先が、王国になるのだが、神殿は正式に認められていない。

フリークス村も廃墟の村も、俺の家の延長だ。
簡単に言えば、大きな屋敷に住んでいるのと変わらない。

王家の直轄領から、個人が所有する場所に変わっている。
唯一の”税”は、メルナの屋敷で働いている者たちの”税”だが、”奴隷”なので、所有物となり”税”の対象から外れている。

「え?リン様は・・・。あれ?そういえば・・・」

アデレードがブツブツと何かを言い始めた。
考えがまとまれば教えてくれるだろう。

「ルナ。俺が、イリメリの村の住民を受け入れるのに問題は無いのだよな?」

ルアリーナに向き直って、住民の移動は自由なはずだ。

「ない。領民の移動は、自由。それに、イリメリの村は、今のアゾレム領ではない。隠里もリン君が貰った領地内。なんの問題もない。アゾレムが難癖をつけてきたら、王宮に訴え出ればいい」

方針が決まった。
かなり強引な論法だと認識している。

「アデー。ルナ。サリーカ。王都に行くのは、俺とミルとフェムでいいか?」

アデレードとルアリーナとサリーカがお互いを見て、フェナサリムとミトナルを呼びつけた。
なにやら、女子の間で話があるとの事で、俺は部屋から出た。

部屋の外で10分ほど待っていたら中に呼ばれた。
王都に向かうのは、俺とミトナルとフェナサリムで決定のようだが、セトラス商隊が護衛を務めることになる。

イリメリの村の住民がセトラス商隊に混じって王都に行くことになる。

すぐに出発することに決めた。
アデレードから、王都では社交のシーズンに突入するので、セトラス商隊に紛れ込んだ者や、俺たちを探している者たちの目が緩む可能性が高い。
そして、このシーズンは無理矢理”納税”を迫る貴族が増えるために、奴隷が増える可能性が高い。

貴族家を恨みに思っている奴隷は、俺たちから見たら、潜在的な味方になりえる。

いろいろな事情が絡み合って、即座に出立することに決まった。

「マヤ・・・。いや、ロルフ。任せる」

「リン!酷い!僕・・・。あっ!そうだ。ミル。ミル!」

妖精のマヤが、ロルフの上からミトナルの肩に移動した。
もしかして、気が付いた?

ロルフが、頭を振っているから、気が付いたのだろう。

マヤは、自分が呼ばれなかったから留守番だと思っていた。マヤは、留守番として神殿を守っていて欲しい。しかし、ミトナルが一緒に王都に行くのだから、ミトナルと一心同体のマヤだけ、神殿に居るのは・・・。

黙って、置いて行ったら・・・。
気が付いたようだから、連れて行くほうがいいだろう。ミトナルも、マヤの留守番には消極的な賛成だったことから、マヤを王都に連れて行った方がいいだろう。

「マヤ」

「なに?僕、今、ミルと・・・」

「神殿以外では、妖精にはなるなよ?それが条件だけど、王都に行くか?」

「いいの!もちろん!ミルと入れ替わるのはいいよね?」

「安全な場所なら・・・。ミルもいいか?」

「うん。何かあれば、僕が・・・」

「襲われたりしたら、遠慮しないで、妖精になって援護を頼む。殺してしまえとは言わないけど、俺たちは無抵抗主義者ではない」

見送りに来てくれた者たちが頷いている。
俺たちの共通認識だ。

そして、王都には、なぜかナナも向かうことになった。

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