【第十一章 飛躍】第百十四話
シロとフラビアとリカルダとの関係も少しだけ変化した。
カイとウミの許しが出て、シロとフラビアとリカルダに洞窟の事を教えた。普段、俺が”どこ”に行っているのか疑問に思っていた3人はこれで納得できたと話していた。
同時に、居住区やチアルダンジョンのことも説明した。ペネムに関わる事も薄々気がついていて、答え合わせになっていたようだが、俺の転生?話し以外は教えられる事は(多分)全て教えた事になる。
秘密がなくなって更に最近暇になる事が多くなってきた。やることは多いのだが、すぐに終わってしまう内容だけになってしまっている。
一番は、固有スキルの創造がレベルアップした事で、俺の鑑定が複写できた事にある。
ただし、完全に複写はできなかったようで、俺が鑑定したときに出るような、スキル枠の数までは鑑定できない。そもそも、俺の鑑定にスキルレベルが無いのが不思議なのだ。スキルレベルは有るのだが、スキルを複写したときにレベルが消えている。
そして、複写が2枚しかできなかった。3枚目を複写しようとしてもできなかったのだ。
他の鑑定ではそんな事にはならないで複写ができる。俺の持っている鑑定だけ違うようなのだ。シロやフラビアやリカルダも知らないと言っているし、スーンも心当たりがないという事だ。
考えても、答えがでそうに無かったので、棚上げした。
そのうち分かるだろうという軽い気持ちだ。
今は便利に使えるスキル道具ができたのだ、それを便利に使ってもらう事にした。
俺の鑑定をレベル7魔核に固定して、道具として使えるように調整した。リヒャルトが持ってきた、スキルレベル1発光を組み合わせて、スキルスロットがある魔核や武器や防具の場合には、光って知らせる様にした。ちなみに、人も鑑定できるのだが今はわからないふりをしている。面倒な事になりそうな予感がしたからだ。
スキルを通じて、同じ魔核や魔核同士の繋がりをもたせる事も詠唱を工夫することでできる事がわかってきた。
条件の組み込みもできるようになってきている。だいぶスキル道具が便利な物になってきているが、センサーが無いので俺が作りたいと思っている温度調整機能が付いた風呂沸かしや、一定の気温で保つ温室などはまだ実用段階になっていない。
まだまだ不便だが、だいぶ生活しやすくなっている。人は不思議な物で、便利になっていくとさらに便利にしたくなって、それが一段落すると娯楽が欲しくなってくる。
シロが酔っ払った日から1ヶ月が過ぎた。
あと一週間くらいで使者たちが帰ってくる。ミュルダ老やクリスからも大量のお土産があるので、楽しみにしてくださいと言われている。
ワイバーン便での情報から察しはついているが、ここは大人の対応をすべきだと思っている。
そして、今日から一週間後が丁度・・・俺が自分で定めた誕生日なのだ。
正確には産まれた日がわからない為に、前世?の誕生日をそのままこちらの世界に変換してみた結果、丁度一週間後が誕生日という事になる。
使者たちもその事を聞いて、なんとしても間に合わせますと言っていたが、無理だけはしないで欲しい。
そして、ペネム街はお祝いムードになってしまっている。
どこから漏れたのかはわかっている。
俺の誕生日を知っていたのは、残っている面子だと、眷属たちは知っている。スーンが情報共有をしている。
シロとフラビアとリカルダも知っている。これは聞かれたからだ。
シュナイダー老も聞かれたので答えている。その場に居た、リヒャルトとカタリナも知った事になる。
この者たちは、幸いな事に俺の情報を他でしゃべるような事がない。
それではどこで知られたのか?
簡単な事だった。暇になった俺は、シロを伴って、影武者で街を散策した。影フラビアと影リカルダが護衛として着いてきている状態でだ。
俺の誕生日を知っている人たちから、誰に聞いたのかを遡ってみた。不自然に思われない様に注意しながらだ。
答えは、予想どおりの人物だった。
執務室に戻って、その人物が来るのを待っている。
「ナーシャ!甘味抜き2ヶ月!」
「えぇぇぇぇなんでぇぇぇぇ誕生日を祝おうってだけだよ。ダメなの?」
「ダメじゃないが、動機が不純だ。ナーシャ。本当に、俺の誕生日を祝いたいだけなのか?」
「うぅぅん。もちろんだよ!ツクモくんには沢山沢山お世話になっているし、生活が充実したのもツクモくんのおかげだからね!」
その言葉に嘘が無いことがわかっている。
「そうか、そうか、それなら、誕生日を祝う祭りのときに、甘味処が無くてもいいのだな?」
「えぇぇぇそれじゃ・・・計画が・・・あっ!」
そう、ナーシャが俺の誕生日をもらしていたのは、甘味処だったのだ。
そこで誕生日を祝おうという話をして、甘味処が屋台を出すように誘導していたのだ。
本当に、余計な知恵ばかり付けてくれる。
そもそも、ナーシャが俺の誕生日を知ったのは、偶然だったようだ。
カトリナが自分の店で、俺の誕生日にあわせて特別な商品を出そうと思っていて、俺の誕生日だという事を言わないで、商品開発を行っていた。そのときに、常連であるナーシャに意見を求めたのだ。ナーシャは、なんとなく商品を見て、ピンと来たらしく、カトリナにカマかけをして、俺の誕生日だと確信したのだと告白した。
ここで、イザークを呼び出して、今回はナーシャの問題だが、街が盛り上がっているから、祭りでの警備をイザークたちが担当する事で許す事にした。もちろん、祭りでの買い食いは全面的に禁止。
警備員は、喧嘩などで懲罰を受ける予定になっている者たち当てることにした。
必要ないことだが、警備隊とは別に裏通りやダンジョン内などの警備と監視をイザークが隊長となって行う事にした。
この決定を受けて、商業区と自由区は一気に”誕生祭”に向けて動き出す。
俺の誕生日ではなく、”ペネム街”の設立記念とするように指示を出してある。表向きな理由としては、それが一番わかりやすいだろう。
間に合えば、この大陸の統一を宣言する事ができれば一石二鳥なのだけどな。
最悪は、日付を遡って宣言すればいいだけだろうけど、できれば一緒にできる方が手間が省けていい。
祭りの名前は”ペネム街誕生祭”だが省略されて、誕生祭と呼ばれるようになっている。
この決定を喜んだのは、商業区の連中だ。祭りとなると人が動く、人が動けば、スキルカードが必要になる。移動のためには、食料品だけではなく、護衛が必要になる。代官たちが集まるために、宿屋が必要になる。
今ある宿屋は、代官とその護衛や商隊や商人でほぼ埋まってしまっている。
誕生祭は、行政官たちの祭りではなく、自由区や一般の住民のための祭りでもあるので、安宿が必要になってしまう。祭りのためだけに宿屋を新たに作ってもしょうがないので、ダンジョン内に、安宿を作る事にした。
獣人族に手伝ってもらって突貫で作っている。
本当に泊まれるだけの場所だが、それでもないよりはましだろうという発想だ。祭り期間中は無料で貸し出す事に決定したが、そのかわり宿屋的なサービスは一切受けられない。宿屋は祭りの後は、冒険者ギルドで管理する事が決定した。若手冒険者などが安く借りられるようにしていくのに都合が良いということだ。
「カズト様」
「どうした?」
「いえ、カズト様は、来週で、成人なのですよね?」
「そうなるな?」
「成人の儀式などはあるのですか?」
成人式が儀式って言えば儀式だけどな、なんにも考えていなかったな?
「シロは何かやったのか?」
「私たちは、まとまって教皇のありがたい話を聞いただけです」
「そうか・・・それはつまらないな」
「はい・・・」
「何か、イベントが有る方が面白いよな?」
「いえ、そういうわけではなく、他にも、今年成人を迎える者も居るかと思います。何か区切りのような物があるとわかりやすいと思います」
そうか・・・
今、洞窟の作業場所で、スキル道具の試作をおこなっている。シロは手元で作っている道具が”どんな”物なのかわかっているのだ。
「そうだよな。そうだ、シロ。お前たちにスキル付けたように・・・ダメだよな」
「はい。お止めになったほうがよろしいかと思います」
— 少し前の話
フラビアとリカルダは変わらなかったのだが、シロが進化してしまった。
俺と同じヒュームという種族名になってしまったのだ。
そこで、改めてシロに種族名に関して聞いてみた。
「なぁシロ・・・ヒュームって種族を知っているか?」
「え?カズト様。ヒュームとおっしゃいましたか?」
「あぁ知っているか?」
「もちろんです!」
「それで、そのヒュームって種族は?」
「はい、”上位人族”と呼ばれる事も有るのですが、人族を導く人族だと言われている種族で、人族の中から稀に発生する種族で、寿命もハイエルフと同等かそれ以上だと言われています」
「へぇぇ・・・そんな種族があるのか?」
「はい。数千年前に、戦乱のただなかにあった全ての大陸を治めた偉大なる王の種族が”ヒューム”と言われています」
「ん?言われているって何も証拠が残されていないのか?」
「・・・はい。アトフィア教の教典には、偉大なる王の祖先が教皇だと教えられています」
「・・・そうか、それで眉唾ものだと思われているのだな?」
「”まゆつば”?」
「あぁ悪い。うそっぽいと思われているのだな」
「はい。それに、ヒュームは一般的な鑑定では、”人族”と表示されます。ステータスも”人族”になると言われています」
「それじゃ、その王がヒュームだって知ったのはなぜだ?」
「はい。これも確かな話ではないのですが、アトフィア教の管理する”ステータス鑑定”のアーティファクトで鑑定すると、隠された情報や、隠蔽された情報や、偽装された情報が見破れると言われていまして、そのアーティファクトで見る事で、ヒュームかどうか分かるという事です」
「そうなのか?」
「はい。私たちも、聖騎士に任命される前に、そのアーティファクトで鑑定されます」
「へぇ・・・」
「でも、なぜカズト様はヒュームなんて種族をご存じなのですか?アトフィア教でも一部の者しか知らない事だと思います」
確かにそうなのだろう。
シロは教皇の孫娘だけあって知っていた。
同じ孫娘でも、フラビアとリカルダはその存在は知っていても細かい話までは知らないだろうという事だ。
さて・・・困った。
スキルを付与したから、シロがヒュームに進化したのか?
でも、同じ様なスキル構成になっている、フラビアやリカルダはヒュームになっていない。血筋なのか?でも、それでもフラビアとリカルダがならない理由付にはならない。
俺との関わりかと思ったが、それも”まだ”考えにくい。
年齢的な事だとしても・・・少し無理がある。母数が少ないから予想が難しいのも事実だ。
そして、大きな問題は・・・シロにヒュームの事を告げるかどうかだ。
先程の話から、ヒュームが寿命が伸びるのは間違いなさそうだ、ハイエルフと同等と言っているが、ハイエルフの寿命がわからない。
「シロ」
「はい!なんでしょうか?」
「もう気がついていると思うけど、俺の種族は”ヒューム”だ」
多少びっくりはしているが予想していたのだろう
「そうですか・・・いろいろ不思議に思っていましたが、納得しました」
どうやら、俺が15歳なのを疑っていたようだ。
15歳である事は間違いないのだが、ヒュームなら特別だと考える事ができるようだ。
「そうか・・・それでな」
「はい!大丈夫です。カズト様。何を言われてびっくりしません!」
それは、俺の事で何か重大な告白があると思っているのだろう?
違うからな・・・まぁびっくりしないと言われているからな。それを信じる事にするか・・・・ダメだろうけど・・・。
「あのな。シロ。お前な・・・」
「・・・はい。なんでしょう」
「シロの種族も、ヒュームに変わっている。タイミングや条件がわからないけど、ヒュームに進化でいいのか?進化している」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・え?・・・僕がヒューム?・・・・え???えぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
「落ち着けシロ」
「だって、だって、僕、聖騎士の任命のときに、アーティファクトで確認して、”人族”でしたよ?!カズト様。何かの間違いじゃない?なんで僕が?カズト様ならわかりますよ?側に居ると神々の暖かさを感じますし、タダの人族ではないと思っていました。ヒュームと言われても納得できます。でも、僕は普通ですよ。僕は・・・普通の・・・え?カズト様?本当なのですか?」
シロが俺にすがるような目線を向ける。
うなずいて返す事しかできなかった。
「そうなのですか・・・僕、人族じゃ・・・でも、カズト様もヒュームなのですよね?」
「あぁ俺は自分で確認したけど、ヒュームだった」
「カズト様・・・僕とカズト様以外でヒュームを見たことはありますか?」
「ない。全員を見たわけじゃないけど、俺とシロだけだな。フラビアとリカルダは人族のままだった」
シロが何か考えている。
「カズト様」
「なんだ?」
「お願いがあります」
—
そのときのお願いが、洞窟に一緒に住む事だった。
最初は部屋を同じにしたいと言ってきたが、フラビアやリカルダの説得で隣に部屋を作る事で納得してもらった。
シロの部屋は、チアルダンジョンへの転移門がある場所と反対側に作った。俺の部屋に来るためには、廊下?出なければならないが、シロしか使わない廊下なので、気にならないようだ。シロの部屋は、ワンルームマンションの様になっている簡易的なキッチンとトイレと風呂が備え付けられている。大きめのクローゼットを作った。
シロの移住は、俺としてもメリットが多い。
なんと言っても、洞窟の部屋は試験的に作ったアーティファクトやらで固めているのでログハウスよりも快適なのだ。シロとフラビアとリカルダも最初に来た時には驚いていた。スキル道具に関しても全てが回数制限無しのアーティファクト級なのだ。
おまけでシロの部屋も同等の物にした。
シロがこちらに部屋を持った事で、ログハウスで寝るよりも洞窟に戻ってきて休む事が多くなった。
そして今作っているスキル道具が、シロがヒュームを確認したいという事で作っている物だが、これは”成人式”に使えないかと思っている。
改良する必要はあるだろうが、ステータスを紙に”複写”する機能が作られないかと思っている。
レベル7魔核に俺のスキル鑑定を固定した物なら、シロが自分で自分を鑑定したときに、種族名が”ヒューム”になっていると確認できた。これでいろいろ吹っ切れたようだ。フラビアとリカルダには報告をしたと聞いている。シロからは、俺の種族を二人に話していいかと問われたので、問題ないとだけ告げておいた。
二人からは、後日呼び出されて、シロの事を本当によろしくお願いしますと言われた。
そうだよな。寿命の問題が発生して自分たちは間違いなくずぅっとシロの側にいてやる事ができなくなった。だから、俺にできる限りでいいから、シロの側に居て欲しいと懇願されたのだ。
俺も、シロをヒュームに進化させてしまった事もあるので、シロが望む限り側に居る事を約束した。
二人は、安堵の表情を浮かべて、俺の手を取って、”妹”をよろしくお願いいたします。と、初めて、”妹”とシロの事を呼んだ。距離を取った感情ではなく、家族はもうシロだけなのだという思いが込められているのだろう。いつも以上に熱く感じられた。
俺は、何もいわないで手を握り返すことしかできなかった。
シロの種族は確認できたが、これをそのまま使っても、”成人式”っぽくないので、紙に複写できれば、身分証明にならないかと思ったのだ。そして、鑑定を行うときに詠唱方法を少し変える事で、”神からの罪状”と”神からの祝福”が表示される事もわかった。
この”神からの罪状”は、重大犯罪を犯した者がわかるのだが、この重大犯罪が曖昧なのだ。人殺しや盗みなどの罪状がわかるのだが、それなら俺やシロやフラビアやリカルダにもつかなければならないのだが、俺たちには付いていない何度やっても表示されないのだ。
そこで実験区で確認をすると、罪状が付いている者を処分しても、新たな罪状が着く事はない事がわかった。
幼児虐待や強姦などの罪状も並べられている。盗みに関しても、店先で盗みを行ってもつかなかった。自分よりも立場が弱い人間から盗んだり脅し獲った場合に、罪状として現れる事がわかった。
もう一つの権能である、”神からの祝福”は、反対に感謝されたりした事が羅列される。
どうやら、ある程度の功罪が並べられて、帳消しにされていくシステムのようだ。詳しい事は、今後の実験区で調べていくが、”成人式”にはぴったりだと思っている。
ステータスは、今の自分を見つめ直すのに最適だ。罪状に関しては、神は何時でも見ているという事を知らしめる事ができる。そして、祝福も悪い事ばかりではなく良い事もしっかり見ているのだという事を教えることができる。
3枚の紙にそれぞれ複写して本人にわたす。
ステータスを複写する紙には、ペネム街発行の透かしを入れた紙を使う。これで簡易的な身分証明書ができる。
それだけではなく、紙にはスキル結界が使われている。レベル5魔核が紙に吸収させていて、アーティファクト以外から書き込めない仕組みになっている。偽装ができにくい紙にはなっている。
「どうだ?シロ?これなら、成人の儀式で使えないか?」
「・・・カズト様?」
「何?」
「これをどこで・・・まさか、ご自分で作ったなどとおっしゃらないですよね?」
シロのかわいいから顔が笑顔のままなのが怖い。
目が笑っていない美人さんはこんなにも怖いのだな
「えぇぇそうだ!ダンジョンの中で見つけた事にする。使い方がわからなかったけど最近実験区で試してみて使い方がわかった事にしたらどうだ?」
「・・・ふぅ・・・それなら大丈夫だとは思いますが、伝説級のアーティファクトと同じ事が・・・いや、それ以上の事ができる物ですよ。軽々しく扱わないほうがいいとは思いますよ?」
「せっかく作ったのだから有効利用したいからな」
「わかっております。カズト様はそういうお方なので、諦めています。それでは、儀式の仕切りは、行政官にやってもらいますか?」
「そうだな。アーティファクトは竜族が見つけて、俺に貸し出した事にするか?」
「そうですね。その辺りが無難だと思います。それで手配します。ミュルダ殿が使者として帰ってこられない場合には、代わりにシュナイダー殿にやってもらう事にしますがよろしいですか?」
「あぁそれでいい頼む」
「はい・・・あっそうだ。そのアーティファクトの名前を考えておいてください。後、当日に一番はカズト様が試すようにお願い致します。ご自分で作られたのなら、ヒュームをごまかす方法もとっさに取れると思いますので、よろしくお願いします」
「え・・あっシロ・・・まっ・・・て・・・」
遅かった。
言いたいことだけ言って、ログハウスに行くようだ。
確かに、洞窟よりも念話はログハウスの方が通じやすい。それもなんとかしないとな・・・。
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