【第二章 王都脱出】第七話 おっさん戸惑う

 

 おっさんは、考えられるだけのテーブルゲームやボードゲームを作成した。カリンも、トランプでできる遊びを書き出した。トランで行うゲームは、商業ギルドに登録することはできないが、トランプの本体は大丈夫だと言われた。カリンのスマホには、タロットカードを使った占いが入っていて、再現は可能だったのだが、おっさんとカリンが”占い”の説明をしても、イーリスはわからない様子だった。神の存在が信じられている世界では、”占い”はあまり意味を持たない。”神託”が存在していると信じられている。それに、”先読み”や”未来視”といった希少なスキルも存在している。

 カリンとおっさんで作った物を、一部を除いて辺境伯に提供すると決めた。

 料理のレシピの一部は、孤児院に提供することになった。おっさんは、しつこいくらいにイーリスに確認をした。

「イーリス。絶対に、大丈夫なのだな?」

「はい。大丈夫です。ギルドも守ります。権利を、貴族や王族や豪商が奪うことは絶対にありません」

「孤児院には、横のつながりがあるのだな?」

「はい。王国内だけでなく、他国との繋がりがあります」

「モグリ・・・。非認可の孤児院は存在するのか?」

「神の祝福を得ていない孤児院ということですか?存在はしていないと思います」

 おっさんは、疑問がなくなるまでイーリスに質問を行った。
 特に、権利関係は絶対に大丈夫だという保証がほしいと言い出して、商業ギルドに人間を呼びつけて問いただした。

 おっさんは、カリンに説明をして、簡単なお菓子のレシピを孤児院に提供することを考えている。レシピを使って、孤児院が主体となって商売ができればよいと考えているのだ。そのためにも、レシピの権利は”孤児院が持っている”ことにしなければならない。

 渡すレシピは、3つに決まった。料理を作っているときに、届いた家畜の餌がポップコーンに適している品種だったのを気がついた。主に作っているのが、辺境伯の領にある村落だと知ってポップコーンを孤児院に渡すことにした。同じく、辺境伯領の港町で取れる天草を使った寒天のレシピを渡す。寒天は、いろいろ使いみちがあるので、思いつく限りのレシピを渡すことにした。
 もう一つは、お菓子ではない。酵母を使ったパンのレシピだ。天然酵母は、カリンが作製を行うことになった。カリンが持っているスキルである”錬成”が酵母つくりで威力を発揮した。その後、酵母の作り方をカリンがまとめた。イーリスの屋敷に居るもので、錬成のスキルを持つものなら生成が可能になったので、酵母のレシピも合わせて登録することになった。

 権利を孤児院に渡すにあたって、辺境伯にも配慮した。おっさんは、辺境伯領が主な原産地になっている物から、レシピを考えて孤児院に渡すことにした。王都にある孤児院だけではない。他の領地にも孤児院が存在している。それらに、材料を提供することで、辺境伯の領に金が回るようにしたのだ。

「まー様。本当によろしいのですか?」

「そうだな。カリンの承認も取れたし、問題はない。ただ・・・」

「ただ?」

「そうだな。王都の孤児院が独占しないようにしたいが、なにか方法はあるのか?」

「はい。連名で権利を主張してみてはどうでしょうか?」

「連名?」

「権利者を、まー様にして運用を孤児院に任せる感じになさるのが一番です」

「そういう方法もあるのだな」

「はい」

「それなら、権利者をイーリスにしておくか?」

「それは・・・」

「なにか、問題か?」

「はい。私はまー様とカリン様のご指示に従いますが・・・」

「そうか・・・。身内から・・・」

「はい。もうしわけありません」

「理由があるのなら、しょうがないな。俺よりも、カリンは・・・」

 おっさんは、カリンを見るが腕を交差させて拒否のサインを出している。

「なぁイーリス。バステトさんではダメか?」

「どうでしょう。でも、確かカードを作っていましたよね?」

「あぁバステトさん用のカードを作ってあるぞ?」

「それなら、私が代理で、バステトさんのカードを持っていけば、登録はできます」

「よし、それなら、バステトさんで登録を行おう。ボードゲームのいくつかも、バステトさんで行って、孤児院に運用を任せよう」

「・・・」「まーさん。ゲームは少し待ったほうがいいと思う」

「そうか?」

「うん。孤児院も、お菓子の販売を始めると思うから、そうしたら手が足りないよ?」

「あぁそうだな。一気にすすめてもしょうがないか」

「うん」

 おっさんは、カリンの言葉で自分の意見を引っ込めた。バリエーションが作られる、双六を孤児院に渡すことに決まった。

 話が決まって、休憩をはさもうとしたタイミングで、メイドが、部屋に入ってきた。孤児院から、院長と副院長がまーさんを訪ねてきたと言われた。

「まーさん様。これが、日記です。お収めください」

 院長と副院長は、通された部屋で椅子に座るのではなく、いきなりおっさんに木の皮で作られた紙もどきを提出した。
 初回だったので、おっさんが受け取ると伝言をだしていたのだ。

 渡された物をカリンとイーリスにも手渡して内容を確認する。
 その間、戸惑うおっさんを見つめながら、院長と副院長は勧められる椅子に座らないで、おっさんの前に立ち続けた。
 院長と副院長は、おっさんからの依頼は、子どもたちのためにもなる。続けたいと考えている。しかし、おっさんが続けてくれるのかわからないので、院長と副院長の対応は当然の物だ。

 全てを見終わって、おっさんは正面に立っている二人に視線を移す。

「ひとまず座ってください」

「はい」

 院長が先に腰を下ろすと、副院長もそれに倣った。

「内容は、大丈夫です。続けてください。安全な範囲で続けてください。内容を読むと、無理している箇所があります」

「はっはい」

 胸をなでおろす雰囲気が伝わってくる。院長と副院長は、おっさんが何を求めているのか不思議でならない。自分たちも、失礼が有っては困ると考えて内容を確認したが、これが欲しい情報なのかわからない。わからなかったが、求められている内容には違いはない。そう考えて、恐る恐る持ってきたのだ。おっさんから問題ないと言われて、余計にわからなくなってしまっている。

「なにか?」

 そんな雰囲気を悟って、おっさんは院長に質問の形で確認した。

「いえ、問題がないのでしたら・・・」

「大丈夫です。私が望んだ以上の物です。やはり、子供の目線は怖いですね」

「え?」

 おっさんは、院長の戸惑う様子を楽しむように、一つの日記を取り出した。

「まーさん様。これは?」

 おっさんは、ニコニコしながら、日記の一部を指差す。

「ほら、この部分です」

 おっさんが指差した部分は、拙い文章ではあるが、『鍛冶屋で、男の人と女の人が、店員に向かって、この前まで銅貨1枚で買えていたのに買えなくなっていると怒っていた』『5本で銅貨5枚だったのが、3本で銅貨5枚になっている』

「え?」

「子供ならではです。多分・・・」

 おっさんは、イーリスを見る。

「あっそうですね。諜報員が調査する事はできますが、鍛冶屋の値段だけを狙って集める必要があります。それだけに集中しなければならないので、難しいのです」

「はぁ」

 院長も、副院長も、情報の重要性には気がついていないが、子どもたちの日記が評価されているのは素直に嬉しい。

「さて、お二人には、もうひとつお願いがあります」

「はい」「なんでしょうか?」

 おっさんは、お菓子のレシピを孤児院に提供するので、横のつながりがあり、子どもたちのことを想っている孤児院で共有して欲しいと伝えた。ただ、権利に関してはまーさんに近い者バステトが所有する旨を補足した。他の孤児院に提供するときには、”同じ条件で提供する”そして”日記を子どもたちに書かせる”ことが条件として付けられた。
 大事な条件の一つに、”レシピ”を使って商売をした場合の売上は、全て孤児院におさめて構わないが、”日記”だけは続けさせることが条件だと言い切った。

 おっさんからの条件を聞いた、二人はいきなり立ち上がって、まーさんの手を握って涙を流しながら頭を下げた。
 戸惑うまーさんだったが、二人はまーさんに感謝の言葉を伝え続けた。

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