【第五章 共和国】第三十七話 ワクチン

 

データの移行が終了した。
切り替えは、平行作業で行える。ホットスタンバイのような物だ。

接続は、RS-232Cを使っている。PC-88シリーズでもRS-232Cなら接続ができる。ケーブルが接続された状態で、モデムに繋がっている。モデムが接続状態になっているので、モデムを経由してダンジョンを維持している。
モニター上には、PC-88が制御を行っている状況が表示されている。

移行した端末を起動する。

移行した端末の起動が終わって、ダンジョンに接続が行われる。

通常のシステムよりも、簡単に切り替えができる。
データを移行したパソコンに処理が流れ始める。処理が早い方に流れるのは当然の事で、PC-88での処理は少なくなっていった。

1時間後には、PC-88には処理は流れてこなくなった。
モニターに処理が表示されなくなってから、更に1時間が経過した。

モデムのLEDも光っていない。

モデムを外して、PC-88のモニターを見ると、コネクトが切れた情報が流れた。

よく見ると、このプログラムは知っている。
”草の根BBS”を構築するためのプログラムだ。使った事があるから解る。

「エイダ。ウーレンフートへの接続を頼む」

『否』

「どうした?何かあるのか?」

『はい。黒い石のサーチを行います。全階層の確認の為に、4時間必要です』

4時間か?
仮眠を取るか?移行中に、モニタールームの調査をした。面白そうな物はなかった。
動いていたこともあるが、少しだけ眠い。

「わかった。隣で寝ているから終わったら起こしてくれ」

『了』

隣の部屋に戻ると、野営用の道具で休める場所が確保されている。

「カルラ。エイダが起こしに来ると思う。そうしたら、教えてくれ」

「かしこまりました」

「兄ちゃん!」

「カルラと交代で休んでくれ、多分、4-5時間だと思う」

「わかった」

アルバンとカルラには、移行を待っている間に、転移の確認だけを行ってもらった。ボス部屋の問題の確認や、入ってこられない状況になっているのか確認を行ってもらった。

報告は、モニタールームで受けていた。
転移は、問題なく動作していたが、戻ってくるのにボスを倒さなくては問題が出てこない。弱めのボスに切り替えていたから、苦労はしなかったようだが、何度も行うべきではないと判断した。

「旦那様」

「終わったか?」

「はい。エイダが戻ってきました」

「ありがとう」

簡易テントから出ると、アルバンがエイダを抱えていた。

「黒い石は見つかったか?」

『はい。5階層と10階層にありました』

「場所は?」

『わかります』

「アル。5階層と10階層なら、大丈夫だな?」

「うん!」

「エイダを連れていけ、カルラ。サポートを頼む」

「・・・。はい」「兄ちゃんは?」

カルラは、俺のサポートで残りたいのかもしれないが、アルバンが少しだけ心配だ。

「俺は、ワクチンを開発する。そのあとで、ウーレンフートに繋ぐ」

動きを説明してから、アルバンがエイダを抱きかかえたまま、移動を開始する。
カルラも、同じように移動を開始する。5階層と10階層なら、アルバンだけでも大丈夫だと思うが、ダンジョンに出て来る魔物だけが敵ではない。5階層辺りだと、素行がよくない奴らが居る可能性がある。
カルラと一緒だと余計に目立つが、アルバン一人で動くよりはいいと判断した。二人なら、エイダのスキルを使わなくても、逃げることはできるだろう。

さて、黒い石がウイルスだと解った。
自己増殖型だ。侵入経路は、それほど賢い感じではない。やっていることは複雑に見えるが単純な動きだ。

指紋が解ったから、モジュールの一部を破壊するだけで、動作しないようには、できるだろう。
消し去る必要はないだろう。こっちも、ワームで対処を考えるか?

ん?
そうか、ダンジョンの魔物にワクチンを持たせて、黒い石と同じ”指紋”が見つかったら、モジュールの一部を破壊する様にしてみればいいか?

ダンジョン内での増殖は不可能になる。
全部に付与する為に、小さくする必要がある。検索抱けして、駆除は別にすればいいのか?

ワクチンというか、侵入させなければいい。単体で動作するようにしなければならないのか・・・。

どっちの方法でも、一長一短だ。
他にも、方法があるはずだ。

ダンジョンのセキュリティを高めるのが先だな。
簡単な方法だけは実装しておくか・・・。パリティチェックを組み込もう。チェックサムを組み合わせる位なら難しくない。

ルータも強化するか?
でもルータは、ウーレンフートに戻ってからだな。ダンジョンが繋がるとは思っていなかったから、ルータの設定がおろそかになってしまっている。

あ!
そうか!

持ち込まれた物を調べるようにすればいいのか?

そうしたら、持ち込んだ奴が特定できる。


アイテム探索プログラム開発中

アイテム袋を持たれると、中身までは調べる事ができない。アイテムの一意性の確保は難しそうだ。

キーになりそうな物が見つかればいいけど・・・。
ん?アイテムのデータに、余剰がある?なんだ!これは?

アイテムデータの最初は特定の種別を示しているようだ。まだ、データが少ないから判断はできない。だけど、データの最後にバイナリで見ると、”0x00”が繋がっている。
必ず、16バイト以上の0x00が繋がっている。
バッファか?

アイテムの一意性を確保する為のキーを見つけるのが先だが・・・。

自分の持っているアイテムで武器には、0x00が繋がった領域がある。
バイナリを追加してみると、指定した武器が壊れた。

そうか、チェックサムがあるのだな。
ヘッダー部分かフッター部分のどちらかだとは思うけど、いくつかの武器と防具で確認してみる。

ヘッダーだな。チェックサムらしき物が存在している。次は、チェックサムの計算方法だけど、通常のEXEと同じでやってみるか?

あ!
そうか!

こんな簡単な事に気が付かなかった。

魔物にチェックサムを付ければいい。ポップした魔物でも、ダンジョンプログラムで管理を行っている。体力を含めた各種のパラメータ、バフ・デバフの管理が行われている。
パラメータ部分を除いた部分を使ったチェックサムを作成すればいい。
それなら、ダンジョンプログラムで対応が可能だ。処理速度にも影響が少ない。ポップする部分にパッチを入れればいい。

チェックサムエラーが発生したら、近くのアイテムを調べればいい。そして、本体はリソースに還元すればいい。
そこから、ワクチンを発動していいだろう。接触感染での感染が確定している状況だから、学習させればいい。

いくつかのプログラムの複合になってしまうけど、一つ一つは小さいモジュールに出来そうだ。

次いでだから、アイテムのデータ解析も行っておこう。
まずは、データを集めて・・・。

パワーが足りないな。

『マスター!』

エイダからの連絡が来た。

『どうした?』

『黒い石の排除が終了しました。前室に戻ります』

『わかった。ラスボス前で連絡を入れてくれ、ボスを弱くする』

『了』

3時間後に、ボスの前に到着したと連絡が入った。
情報はエイダが持っている。最短で最下層まで来るのは簡単だろう。

ボスをゴブリン1体に変更してから、ボスの部屋に突入させた。
簡単に倒して、問題を解いて・・・。

戻ってきた。

『マスター。まだ感染が行われていない、黒い石がありました』

「大丈夫なのか?」

『はい。マスターが作ったワームで無力になりました』

俺が作った?
そうか、使ったSurfaceはエイダと繋がっているのだったな。
それなら、俺が作った物を使うことはできただろう。異常系を簡単に組み込んだα版に毛が生えた程度の物だが、エイダが使うのなら問題はないだろう。リリース版は作っていなかった。デバッグ版で動かしたのか?

それなら・・・

「消滅はしなかったのか?」

『はい。モジュールの破壊が成功しても、黒い石のままです』

まだ何か、仕掛けがあるのだろう?
でも、チェックサムやパリティチェックが組み込まれていないのなら、やりようはいくらでもありそうだ。

「エイダ。デバッグ版なら、動作ログは吐き出されただろう?転送してくれ」

『了』

動作ログが流れて来る。
黒い石のデータ領域も流れてきた。

え?
あぁ・・・。なんだかなぁ・・・。難しく考えすぎた。

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