【第四章 発展】第四十二話

 

/*** カスパル=アラリコ・ミュルダ・メーリヒ Side ***/

ナーシャたちが帰ってきた?

「領主様」
「あぁわかった。それで?」
「はい。4名揃って、ご相談があるとおっしゃっています」
「相談?わかった」

相談?
スキルカードがなくなったか?いや違うな。

会えばわかるか、サラトガに行っていたはずだが・・・。

会議室に向かう。
そこには、馬鹿面の1人の男と、可愛い娘が1人、そして、酒飲みが1人と、街領隊の斥候の1人が座っている。

「ただいま!」
「ただいまじゃない。今まで何をやっていた?」

ふぅ変わった所は・・・違うな。あまりにも変わっていない。
認識しているだけだが、1ヶ月近く放浪していたとは思えない。

「領主様。ナーシャが話し始めると、長いので、俺から話していいですか?」
「イサークか、頼む。その前に、儂からお主に聞きたい事があるが大丈夫か?」
「はい。なんでしょうか?」
「お主たち、あまりにも小奇麗な格好だが、どうやって逃げてきた?まさか?」

少し沈黙が流れる。
イサークたちはお互いの格好を見て、なにか納得している。

そして、ナーシャに関しては、笑いだしてしまった。
そんなにおかしな事なのか?

「失礼しました。領主様。それを含めまして、俺たちがどうやって、ここに帰ってきたのかお話します」

そう切り出したイサークの話は、信じられない話の連続だ。
イリーガル・デス・スパイダーや、イリーガル・デス・アント。イリーガル・デス・ビーナを眷属化している?

エルダー・エント?それだけじゃなくて、イリーガル・デス・ブルー・フォレスト・キャットとイリーガル・ブルー・スキル・フォレスト・キャットに、イリーガル称号を持つ、スライム?

イサークたちが夢を見たとか、集団幻覚のスキルを使われたと言われたほうが信じられる。

しかし、目の前に出された物で”村”が存在しているであろう証拠になりえるかも知れない。

そして、バカ息子のステータスカードと副隊長のステータスカード。それに、バカ息子が持ち出した、速駆の指輪に間違いない。

「イサーク。これは?」
「はい。そこの主ツクモ殿が、洞窟を解放する時に倒したゴブリン共が持っていたそうです」
「そうか・・・しかし」
「はい。ツクモ殿が倒したという事も考えられますが、これを見てください」

そういって出されたのは、ザイデルのステータスカードだ。
あの裏切り者?あいつなら、確かに・・・やりかねない。ザイデルが、バカ息子と副隊長を騙して、闇討ちにして、スキルカードやアイテムを奪おうとしたと考えられる。ステータスカードを、アトフィア教に持っていけば、奴の教団内での発言力も増したのかも知れない。
闇討ちをした状態で、ブルーフォレストの奥地に踏み込んで、”なにか”に襲われたのだろう。

「イサーク。事情はわかった。納得できない事もあるが、お主たちが感じたことだろう。それを尊重する」
「ありがとうございます」
「でも、まだ、お主たちが、小奇麗な状態の説明はできていないぞ?」
「え?あっまずは、カズト・ツクモという人物が居るという事実を信じてください」
「あぁ解った。それで?」
「多数のイリーガル称号だけでなく、属性持ちに進化した魔物を多数従えているのも認識してください」
「あぁ納得しよう」

一息着いた。
イサークとピムがなにやら小声で話している。

「ねぇイサーク。だしていい?」
「まだ待て、さすがに、それはやばすぎる!」

今日の話しは長くなりそうだ。

「領主様。誰か、鑑定が使える者はいませんか?」
「鑑定持ち?おい!」

後ろに控えていた、執事が一歩前に踏み出す。
鑑定にも種類がある。普段は、秘密にしているが、こいつは触らなくても鑑定出来るスキルを持っている。

「はい」
「よかった。触っても、いいですが、絶対に、大きな声を出さないでください。俺たちが、カズト・ツクモ殿に貰った物で、ヤバそうな物をいくつか出します」

まずは、ガーラントが小汚い袋を取り出す。あの中になにか入っているのだろう。
そう思ったが、そのままテーブルの上に置いた。

執事が、ガーラントに触ってもいいかと訪ねている。この袋で間違い無いようだ。

「これは、ツクモ殿から借用している物で、返さなければならないが、異常性がわかっていただけると思う」

ガーラントがの宣言を聞いて、執事が再度鑑定を行っているようだ。

「中を触っても?」
「いいですけど、中身はまだ出さないでください」

執事が中に手をいれる。小汚い袋なのに、大切に触るのだな。

執事が、儂の方を向き直して、袋を儂の方に渡す。

「領主様。我が目を疑いました。今日始めて、スキルの結果を信じないという行動に出てしまいました。何度鑑定しても同じ結果が出ます」
「それで?」
「この袋は、”収納スキルが付与された袋”で、ございます」

収納スキル。別に珍しい物ではない。
商人も使っている物も多い。

「収納スキルなら、商人も使っているだろう?」
「いえ、違います。”収納スキルが付与された袋”で、ございます」
「だから・・・あっ!え?そうなのか?」
「はい。回数無制限の収納スキルが付与されています」
「アーティファクトではないか?」
「そうです。領主様。考えてみてください。アーティファクトでも、スキル収納が着いた袋は・・・」
「商人にしたら、殺してでも欲しいと思うな。しかし」
「はい。アーティファクトとしては、それほど珍しい物ではありません。アーティファクトとしてはです!」

たしかに、アーティファクトとして珍しい物ではない。
それに、このミュルダにも、1つ保管されている。本当に、街の緊急時に放出する物が収められている。

「領主様」
「なんだ?」
「袋を見てください」
「袋・・・・え?これ・・・は?」
「おわかりですよね?」
「あぁこの袋は、ミュルダで買う事が出来る・・・街領隊の装備品ではないか!」

”なぜ?”が頭の中から離れない。
これを作った者が・・・いや、話の流れから、カズト・ツクモという人物が作ったのだろう。

「ご理解頂けましたか?」
「・・・あぁ」
「でも、まだ始まりです」

イサークが、袋を手にとって、1つの魔核を取り出す。
大きさから、レベル5か6程度のものだろう。珍しいと言えば珍しいが、それほどの価値がある物ではない。

イサークが、それを、執事に渡す。

受け取った執事の手が震えている。あの執事が震えるもの?
それほど危ないものなのか?

「イサーク殿。間違いないのですか?」
「ガーラントの鑑定でも、実際に使った俺たちも、疑いましたが、その鑑定結果で間違いないです」

「ふぅ・・・試してみていいですか?」
「問題ないですよ。俺たちも何度も使っていますが、問題はありませんでした」

何度も使っているという事は、あの魔核もアーティファクトの一種なのか?
執事が魔力を流し込んで、魔核に付与されているスキルが発動する。スキルの発動時には、微妙な変化がある。

3回変化が観測できた。
3回?同じスキルを3回かける意味は?

「どういう事だ?」
「領主様。この魔核に付与しているスキルは」

執事はここまで行って、言葉を切った。ガーラントとイサークを見ている。
ふたりとも、うなずいている。

「ふぅー”結界と防壁と障壁”のスキルが着いています。それも、使用制限がありません」
「は?もう一度言ってくれないか?」
「結界と防壁と障壁です。領主様」

少々投げやりになっている執事の声を久しぶりに聞いた。

現実逃避したくなる事実だな。
レベル5のスキルが3つ付いている?それだけでも・・・えぇぇいわからん。価値なんて解るか!
冒険者なら、親を殺してでも欲しがる奴がいるかも知れない。レベル5に付与している事を考えると、街領隊で使わせたら・・・無限の可能性がある。

「イサーク。これも?」
「はい。ツクモ殿の眷属である、ドリュアスが、俺たちに渡してきた物です。どうぞ好きに使ってくださいと渡されました」
「は?貸すだけでも・・・いや、盗んだ・・・違うな」
「そんな事、気にしていないと思うよ。ね」

突然、ナーシャが横から話に加わる。
3人が諦めているような表情を見せるが、納得している所から、考えると、”この程度”の物という認識なのだろうか?
騙して・・・いやダメだ、全部話を聞くまでは結論を急ぐな。

「領主様。落ち着かれましたか?次の話にはいっていいですか?」
「まだ有るのか?」

イサークと、ピムと、ガーラントが、深い溜息をついた。

「”まだ”じゃなくて、始まってもいませんよ?これは、ピムが1人で、ツクモ殿に面会した後の話で、俺たちは会っても居ないときです」
「は?」
「次にうつります」

そう言って、イサークが取り出したのは、よくあるデザインで、今、イサークが着ている物と同じデザインの服の上下だ、綺麗になっているし、かなり上等な素材を使っているのだろう。

「イサーク殿?触っていいですか?」
「えぇもちろんです」

執事が青い顔をしている。それほどのものには見えないのだが?

「・・・。ガーラント殿?」
「あぁ残念ながら本当じゃよ。お主も、あれを見たことが有ったのだな」
「はい。あれは本当に美しかった・・・」

あれ?
何のことを言っている?

「おい。何の事を言っている?」
「その前に、領主様。その服は、俺だけじゃなくて、ピムとガーラントとナーシャも、同じ素材の物を持っています。あぁ下着は、何枚か必要だろうと言われて、複数枚もらいました」
「は?複数?え?あっそう言えば、イリーガル・デス・スパイダーが居るのでしたね?」
「えぇ正式には、イリーガル・グレーター・デス・フォレスト・スパイダーです。それの亜種や、属性種が、それは沢山居ました」

今、なんと言った?
イリーガル・デス・スパイダーだけでも・・・イリーガル・グレーター・デス・フォレスト・スパイダーだと、伝説級の魔蟲ではないか?よく、此奴等生きてかえって・・・あっ!

「まさか・・・そ」
「領主様。そうです。この服は、私の鑑定では、”イリーガル・デス・フォレスト・スパイダー”の糸で作られた布だと出ています」

確か、白い布で、レベル7相当だったはず・・・違っても大差ない。この服だけで、どれだけの価値がある?
それが、人数分、下着も?意味がわからない。

「さて、次の話にうつりましょう」
「まて、イサーク。これが最後ではないのか?」
「は?まだ序の口ですよ?あぁツクモ殿から、俺たちが、ミュルダに帰ると言ったらお土産が必要でしょと言われましてね。下着になってしまいますが、領主とお孫さんのクリスティーネの下着と服も預かっています。どうされますか?」
「クリスのか?」
「はい。ナーシャがツクモ殿にお願いしたそうです。服のデザインはナーシャですので、あまり期待しないでくださいね。あっそれから、この布は、もう暫くは出さないとおっしゃっていました。すみません。俺たちが、価値に関して、いろいろ喋っちゃいまして、市場を混乱させるのはダメだろうという事で、領主様とクリス殿の分で最後になるようです」
「さっきの魔核もか?」
「どうでしょう。価値に関しては、認識されましたが、生活が便利になる物なら提供すると言っていました。でも、レベル1や2の物にするみたいですよ」
「そうか・・・」

イサークは、そう言って袋を取り出した。
こっちは、普通の袋だと笑っていたが、中身が超弩級の爆弾だとは誰も思わないだろう。

「イサークよ。これでおしまいだろうな?」
「そうですね。ピム。ガーラント。そろそろ、ツクモ殿の異常性がわかってもらえたと思うから、いいよな?」
「えぇ大丈夫だと思いますよ」「儂も依存は無いぞ!」

先程の収納袋から、大量の魔核と、大量のスキルカードが出てくる。
魔核は、大きさから、街で不足し始めている、レベル1~3程度のものだろう。数えるのも馬鹿らしくなるくらいの量だ。山になっている。スキルカードもレベル1~4程度だろうか?ざっと見た感じ、2百枚程度あるだろうか?
確かに、価値としてはそんなに高くないが、街として不足し始めている物だ。単純に嬉しい。スキルカードに関しては、数が多いが、街の穀物で支払えるだろう。魔核に関しても同じだ。備蓄してある穀物で払えるだろう。
そういう取引をしたいという事なのだろうか?

「イサークこれは?」
「カズト・ツクモ殿からの”支援”物資です」
「すまん。イサーク。儂は、疲れているかもしれん。もう一度言ってくれ、”支援”と聞こえたのじゃが?」
「えぇ”支援”物資といいました。ツクモ殿は、これだけの物を、ミュルダに無償提供すると言っているのです」
「はぁ?無償?なぜ?これだけの物を?」

いや違うな。先程のことから考えると、カズト・ツクモ殿にとっては、価値がある物と認識していないのだ。

「ねぇイサーク。まだ?」
「もうちょっとだ。待っていてくれよ」
「わかった。あっ!それから、さっき、リーリアちゃんのお姉さんから連絡が入ったよ!それも後で?」
「え?連絡って念話か?」
「うん」
「いい話か?」
「うん。すごくね!」
「そうか、それなら、最後かな?」
「わかった!」

なにやら、イサークとナーシャの会話も気になったのだが・・・。

「イサーク。それで、ツクモ殿は、なにか見返りを期待しておいでなのか?」
「どうでしょう。見返りという感じではないと思いますが・・・そろそろ、本題に入りたいのですがいいですか?」
「まだ本題じゃなかったのか?」
「えぇ残念ながら、でも、本題は、異常性はないですよ。多分」

イサークが語り出した話は、先程の話に輪をかけて信じがたいことだったが、いろいろなパーツを集めて考えると、納得するしか無い。
ツクモ殿が、獣人族を助けた。問題ない。ミュルダにとっては、良い事だ。助ける時に、アンクラムの兵とアトフィア教のほとんどを捕らえるか、殺害した。これも、別にどうでもいい。どうでもいいは間違いだな。ミュルダにとっては良い事だ。

獣人族の集落を作った?
ダンジョンに潜らせている?ダンジョンから得た物を獣人族の自由にさせている?
捕らえた教団関係者・・・司祭だろう・・・を、護衛してアンクラムに届けた?その時に、ツクモ殿配下の人間が、アンクラムに潜入した?
可愛い女の子?とてつもなく強い?治療スキル持ち?清掃スキルも?

情報が多すぎて混乱する。
しかし、アンクラムが、ミュルダへの侵攻を中止したのも、常備兵の9割の損失があったこと。教会のトップ3が全員一時的に不在だったこと。それから、先程のスキルカードのほとんどが、アンクラムの兵が持っていた物だという事だ。武装も全部解除されて、男も女も、全裸でブルーフォレストに放置されたのだと言っている。
生き残れた者も、それでは、死ぬか、精神を壊されて、兵としては使い物にはならないだろう。女には、ナイフを一本だけ渡してあるそうだが、それが同士討ちを招いたのだろう。

儂がほしかった情報が手に入った。
安全になったと宣言するには、イサークたちだけの情報では足りないが、安心できる材料には違いない。

ツクモ殿は、ミュルダの恩人に違いない。
利用しようなどと考えるよりも、もっと違う関係が結べたらと考える事ができそうだ。

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