【第三章 復讐の前に】第五話 宝珠

 

マイの説明から、現状が把握できた。大丈夫だとは思っているが、念には念を入れておいたほうがいいだろう。
やはり、俺の用事に取り掛かる前に、帰る場所をしっかりと、安全に、問題がない状況にしておいた方がいいかもしれない。サトシに譲位されるのは、早くても、10年後だけど、何があるか解らない。
今の国王はまだ40になっていない。まだまだ現役で活躍できるのだが、セシリアの話では、隙があればサトシに譲位しようとしている。らしい。
まだ、宰相が止めているのだが、宰相は国王よりも年齢が上で、そちらも次の宰相が決まれば、さっさと隠居するつもりらしい。今は、国王に先に隠居されると、自分が隠居するのが先になるので、抵抗しているが、どうなるか解らない。

魔王が居なくなってからが本当の戦いとは・・・。
誰のセリフだったのか忘れたが・・・。俺たちの現状を的確に表現している言葉だ。

魔王が居たから、最低限の協力体制が築けていた。各国の動きは、まだ疑心暗鬼な状況だ。教会が、魔王討伐を大々的に発表できないのは、自分たちが抱えている”勇者”が倒したわけではなく、小国で・・・。辺境で、教会が下に見ていた、レナートの騎士たちが倒したからだ。
教会は、教会から出て行った”勇者”を”勇者”として認めていない。だから、俺たちは、”勇者”を名乗っていない。そもそも、”勇者”は柄じゃない。なので、レナート所属の”騎士”という身分を名乗っている。サトシは、セシリアとの婚姻もある為に、叙勲されている。

「そうだ。マイ。他の国や教会は、魔物の対応で四苦八苦しているのだろう?」

他の国にも、元勇者は散らばっている。
襲ってくる魔物の排除はできるだろう。レナートに残っている元勇者よりも多い国が多数派だ。なんとか自分たちで凌いでもらおう。

「そうみたいね」

「それで、よく、レナートを攻めようと考えたな?」

レナートを攻めても”旨味”は少ない。
確かに、広大な領土を持つが、それは”人”が決めた領土であり、実際には国土の8割以上が魔物の領域となっている。資源が豊富だと言われているが、資源とするための作業も膨大だ。
だから、”人”と”魔物”の境界にあり、本来なら守護者として援助を受ける立場になっても不思議ではないが、教会がレナートに援助を送ることを認めなかった。

「あぁそれは、レナートが魔王の秘宝の一つ宝珠を持っていて、そのおかげで魔物からの攻撃を受けていないと思っているみたいよ」

「はぁ?魔王の宝珠か?」

魔王を討伐した時に確保した物だ。

「そう」

「ん?宝珠を指定されたのか?」

「そうだけど?」

「マイ。俺たちは、魔王のドロップアイテムを公表していない。そうだろう?」

魔王のドロップ品は、魔王の居城からも持って帰った物を含めて、公開していない。公開したのは、ありきたりの物で、他の国が欲しがりそうな物は秘匿している。俺たちと国王とセシリアだけが知っている物も多い。
”魔王の宝珠”もその一つだ。秘匿したのには、理由がある。厄介ごとを嫌った側面もあるが、それ以上に”人”や”国家”に必要ないと判断した。他の物に関しても、同じような判断基準で、秘匿すると決めた。

「え?あっ!!!!ゴメン!ユウキ!」

「ん?どうした?」

「教会の奴らが来た時に、私が丁度・・・。リチャードたちの・・・」

マイが地球に来ていた時だな。

「あぁそれで?」

「教会の相手をしたのが、セシリアとサトシと国王が・・・」

サトシと国王のダブルか・・・。
セシリア一人では無理だ。

「わかった。皆まで言わなくていい。出所が解っていれば十分だ。マイ。宝珠の解析は終わっているよな?」

教会の奴らに自慢したか・・・。
サトシがやらかしたとは思えない。そもそも、サトシは”宝珠”の事を覚えていたか微妙だ。でも、宝珠を使った実験はサトシがしていたはずだ。

どちらが言ったとしても、宝珠の情報が教会に流れたのなら、対応を考えなければならない。

「うん。結局、宝珠と言う名前になっているけど、あれは魔道具ね」

「予想通りか?」

簡単に調べたら、”宝珠”の形を取っているが、中身は魔道具だ。
レナートの国王と次期王妃(?)になるセシリアも、”魔王の宝珠”の機能を聞いて即座に必要ない物だと切って捨てていた。

「そう。”魔物を従える”ではなく、”魔物を呼び寄せる”で間違いないな」

「そう。サトシに試してもらった。森で使ったら、魔物が寄ってきて、一緒に居た者たちが襲われた」

魔物寄せの魔道具だ。
他の魔道具と違うのは、”魔王の宝珠”だけあって、魔王に匹敵する魔物を呼び寄せることができる。具体的には、ドラゴン種の最上位であるエンシェントドラゴンは無理だと思うが、その下の属性ドラゴンは可能だろう。
俺たち全員でも、金ドラゴンには苦戦する。誰かがミスしなければ完封はできるだろう。でも、一般の兵士では全滅を覚悟しなければならない。

素材が必要な時に、”使おう”という意見もあった。その為に、実験を行うことは決定していた。

「サトシは?」

「もちろん、襲われた。サトシの感覚では、サトシを先に狙ってきた感じがしているそうよ」

”魔王の宝珠”を使った者は大丈夫だという見解もあったが、サトシが襲われたのなら関係はなさそうだ。

「範囲は?」

「サトシの感覚だから、当てにはならないけど、1キロって感じ」

「1キロかぁ・・・。倍は見ておいた方がいいだろうな」

「そうね」

サトシの感覚は非常に狂っている。
距離は平気で2-3倍の狂いが出る。方向は反対方向を示すのも珍しくない。時間以外は、狂っていると思ったほうがよい。俺たちの共通認識だ。

「マイ。教会の奴らが根城にしている場所は、それほど広くないよな?」

「え?そうね。1キロも・・・。ユウキ?まさか・・・」

さすがだな。
俺が考えた事を瞬時に理解をしてくれた。

”魔王の宝珠”を教会に渡す。
条件は、金銭を要求してもいい。停戦協定を結んでもいいが、守らない奴らと協定は無理だ。

「欲しがっているのだろう?」

俺たちには不要な物だ。
欲しがっている連中が居るのなら、高く売りつければいい。それで、俺たちに平穏が訪れるのなら安い物だ。

「そうだけど・・・」

マイとしては、教会や勇者が苦しむだけなら、それほど抵抗を感じないだろう。しかし、民衆が犠牲になる可能性があるのが嫌なのだろう。
俺としては、教会を支持している時点で、同罪だと考えている。全ての人が悪いなどと言うつもりはない。しかし、教会の権力を使っている者たちも多く存在している。そんな奴らまで守ってやる必要は感じない。

「使い方と注意点で解っていることをまとめて渡せばいいだろう?それでも、俺たちの”優しさ”を無視して宝珠を使って、教会勢力がダメージを受けても、それは、自業自得だ。民衆には、それとなく話が伝わるようにすればいいだろう?どうせ、教会の事だからお披露目をするのだろう・・・。その時に、魔物が出現して襲われる可能性がある。そうだな、”魔物が魔王の宝珠を取り返しに来る”とかだと、民衆は信じてくれるだろう?」

マイは、まだ納得ができない状況のようだ。
魔王の宝珠は・・・。最初は”転移”に必要になるかと思ったが、結局は必要がなかった。

そして、魔物を倒した後の魔石とも違う。
魔力の塊なら、エネルギー源として使い道もあるが、単なる”魔道具”では意味がない。それも、出力は大きいが、それほど意味がある内容ではない。強い魔物が引き寄せられるわけではない。近くに居る魔物だ。
欲しいのなら渡してしまえばいい。どうせ・・・。使い道が限られている物だ。

教会に宝珠を渡さなくても、渡しても、時期が違うだけで、教会がレナートに攻め込んでくるのは解っている。
それなら、攻め込んでくるのを遅らせれば、それだけ準備の為の時間が作られる。その時間が長ければ長いだけ、俺たちは強固な守りを作ることができる。攻め込んで滅ぼすのは難しいとは思わないが、攻め込んだ時のデメリットが大きすぎる。それに、俺たちは教会や教会派閥の国々の領土も奪い取っても、持て余す事が解り切っている。
必要な物には手を出さない。俺たちが、フィファーナで学んだことだ。

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