【第六章 ギルド】第二十一話 村長?
ハーコムレイが、俺を睨んでくる。
睨まれるようなことは・・・・。沢山しているけど・・・。心当たりが有りすぎて、どれに該当しているのか解らない。
ひとまず、立ち上がったが、ハーコムレイの前に座りなおす。
「マガラ渓谷を越えた場所には、王家が管理している場所がある」
「はぁ・・・」
そりゃぁ他に用意できる権限を持つ者は居ないだろう?
「だが、運営を行う事も、村を作る事も、王家やミヤナック家が行うことはできない」
何を言いたいのか解ってきた。
確かに、マガラ渓谷を越えた場所は、王家の直轄領はあるが、街はもちろんだが、村と呼べる場所も存在していない。中央の湖と街道の間にあり、全体が森になっている場所だ。森に生えている草木は貴重な物ではない。湖にアクセスするにも断崖絶壁で漁は不可能だ。それに、それほど強くはないが、魔物が居る。数が多いのか、討伐の旨味も少なく、準魔境設定されている。
「そうでしょうね。アゾレムだけじゃなくて、マガラ渓谷を越えた場所を領有している貴族が何か言ってくるでしょう。王家なら解らないけど、ミヤナック家なら武力行使に出る愚か者が出て来る可能性もある」
武力行使の時には、貴族家は全面には出ないだろう。
盗賊の集団が襲ったことになるのだろう。そのあとで、アゾレム辺りが武力で盗賊を討伐して、開拓された村を実効支配する。
「そうだ」
詳しくは知らないけど、マガラ渓谷を越えた先にある貴族家は、男爵や準男爵や騎士爵しか居なかったはずだ。それも、全部が宰相派閥に属していて、王家派閥とは距離を置いてあるはずだ。
そんな場所に、王家やミヤナック家が村や街を築いたら・・・。
「気が付いたようだな。リン=フリークス。貴様には、報酬を渡していなかったな」
そんな面倒な場所・・・。入口を作る事を考えたら確かに有効だけど、それなら俺じゃなくて、ギルドに貸し与えてもいいだろう?
「謹んで辞退」「できると思うか?」
ダメだな。ハーコムレイの雰囲気から、拒否できるとは考えられない。ローザスがニヤニヤしているのが気に入らない。元々、俺に渡すつもりで居たのだろう。あの場所がこれからの試金石になるか、捨て石になるのか、俺の力を見るのにも丁度いいと判断したのだな。
メリットとデメリットを考えてみよう。
メリットは、神殿の出口が設置できる。村の規模でも、街の規模でも、構築が可能だ。森の魔物に関しては、眷属が駆逐できるだろう。魔物はデメリットにならない。森を神殿の領域に組込めれば、魔物からも魔力が取得できる可能性がある。関所を越えた先との交易も可能になる。ポルタ村は実質的に俺が支配している。街道の安全は、俺が握ることになる。
デメリットは、アゾレムや宰相派閥の横やりが発生するくらいだな。これは、敵対している相手だから、問題はない。ギルドと俺の結びつきから、立花たちにリン=フリークスが神崎凛だと知られてしまう可能性があるが、これも今更な話だ。すでに、敵対している。
「わかった。でも、俺が治めるだけでは、奴らが納得しないのでは?」
「それは、大丈夫だ。貴様に貸し与えるだけだ」
「賃借契約?」
「そうだ。しかも、その書類は、ローザスが保持して、関係機関に提出するのを忘れる。しかし、王家の一員が保持しているから、効力を発揮する」
「・・・」
ローザスを見ると、頷いているから了承済みなのだろう。
賃借と言われると、話が変わってくる・・・。こともないのか?俺が貰ったとして、爵位もない、村出身の人間が持っている場所で、マガラ渓谷をスキップできる方法を持っている場所?
「あぁリン=フリークス。この契約は、残念なことに、お前ではない。18年前に、ニノサ=フリークスが立てた功績に寄るものだ。ニノサの死亡が確認された今、貴様が継承することを、王家とミヤナック家とコンラート家が追認する物だ。だから、リン=フリークスには元々拒否する権利はない」
やられた。
元々、ニノサの持ち物だったという事にするのだな。俺には、この世界で、”遺産の放棄”を宣言できるとは思えない。
ちょっと待て、これは俺にはメリットが少ないが、王家は置いておくとして、ミヤナック家にはメリットがあるのか?
「リン=フリークス。考えている所、悪いが、決定事項だ。貴様が、開拓に成功したら、賃借契約ではなく、領地として与えてもいい。と、王家は言っている。爵位は、騎士爵だ」
広さで言えば、騎士爵ではなく、男爵か悪くても、準男爵だろう。
そうか、そういうことか・・・。
アゾレムと宰相派閥との全面対決を考えているのだな。
「そうだ!リン君は、”フリークス村長”を名乗ってよ。僕も遊びに行けるように!」
「黙れ!」
ローザスが、訳が解らないことを口走った瞬間に、ハーコムレイがローザスを黙らせる。主従がよくわからない二人だが、周りに居る者たちが何も言わないので、問題ではないのだろう。
村長?村を作るのは確定なのか?
「リン=フリークス。ローザスが言ったことは気にしなくていい。あの森は、貴様が好きに使え。どうせ、王家でも持て余している」
「ん?持て余している?」
「そうだ。領地の大きさで言えば、小さめの子爵家ほどだが、資源がない上に、魔物も多い。湖に出られる場所があれば、多少は違うが、それも無理だ。貴重な薬草や鉱石で有れば話は違うが、見つけられていない。交通の要所でもない。だが」
俺には、関係がない。
マガラ渓谷の変わりだ。アロイの変わりになるようにすればいい。ん?違うな。それでは、俺はおいしくない。村の体裁を作ればいいのか?
俺に貸し出される場所で、将来は俺が領主になる。しかし、今は王家が管理している場所だ。書類は作成されているけど、実際に提出はされていない。対外的に見れば、俺は勝手に王家の土地を開拓して、占有している者だ。
「わかった。俺は、あの場所に防御機能を持った”拠点”を作ればいいのだな?」
ハーコムレイは、肯定も否定もしないが、表情から間違っていないと判断できる。
元々、誰かに実行させようとしていた作戦なのだろう。神殿の話が無ければ、ハーコムレイや派閥の人間たちが協力して、森に村を作って、そこを囮にしてアゾレムや宰相派閥の暴発を待つつもりだったのだろう。
そこに、神殿の話が加わって、より挑発的に運ぶことができる。アロイとメロナの価値が殆ど無くしてしまう。特に、アロイ側で”安全”に渓谷を越える為に払っている”税”は必要なくなる。
「ミヤナック様。アロイ側は、それでいいとしてもメロナ側はどうする?ミヤナック家や王家の屋敷と考えていたが、あまりにも・・・」
「そうだ。リン=フリークスに頼み事をするはずだった事に関係している」
「え?」
「ニノサは、メロナに屋敷を持っている」
「はぁ?」
「ニノサは、功績を持って、王家所有の屋敷を下賜されている。場所は、メロナから少しだけ離れた森の中にある。知らないのか?」
「知っていたら、こんな頼み事はしていない」
「そうだろうな。権利書は、サビナーニ様が、従者の一人に託していたケースの中に入っていた」
「ん?」
「従者は、アッシュ=グローズ。王都で、奴隷商を営んでいる男だ」
「奴隷商?」
「その話は、”今”は、関係がない」
「わかった。それで?」
「権利書は、有効な物だ。リン=フリークスに、継承が行われる。だから、メロナにある屋敷は、リン=フリークス。貴様が所有者だ」
「?」
「それで、頼み事は、その屋敷を、ギルドに貸し出してもらえないか?」
「わかった。手続きは解らないから、任せていいよな?」
「もちろんだ。ギルドに手続きを行わせる。リン=フリークスには、書類へのサインだけでいい。それで、貸出料だが」
「森の賃借と相殺でいい」
「わかった。ローザスに書類を持たせる」
これで、神殿への出入口の問題は解決したのか?
まだ確認をしなければならないことが多いけど、すっきりとした。ハーコムレイが敵か味方か解らないけど、ルナが居れば、いきなり裏切るようなことはないだろう。王家も、宰相派閥に対抗する手駒が欲しいだろう。
マガラ渓谷を潰せる手駒で、アゾレムに対する防波堤にもなりえる。
もしかしたら、それ以上を狙っているのかもしれないが、今は解らない。政治が絡む駆け引きがあるのかもしれないが、経験不足だ。
今後、俺がアゾレムや宰相派閥だけではなく、教会の奴らと戦うのなら、ブレーンが必要になる。
俺を裏切らないブレーンが・・・。
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