【第三章 スライム今度こそ街へ】第六話 帰り道
必要な物は揃えられたと思う。買い忘れが有っても困らないけど、もう一度だけ確認しておこう。
ライに持ってもらっている物もあるけど、不思議な事にスキルのレベルが上がったのか、私とライの”アイテムボックス”に共有の部分が出来ている。買った物を共有の場所に入れておけば、二人で取り出しができる。今度、距離の問題があるのかとか検証をしてみようと思う。
今は、買い物の確認をしておこう。
「ライ。買い忘れはない?」
「うん。あっ!」
「どうした?」
「お姉ちゃん。あのね」
「うん?」
「パロットが、”ちゅーる”が欲しいらしい・・・」
「ふふふ。そうね。皆へのご褒美は必要だね」
市場に戻れば、たしか売っていたと思う。
戻れない距離ではないし、買って帰ろう。他にも、ご褒美になりそうな物を買って帰ろう。
スライムの身体になってから、食費が少なくなったから、少しくらい贅沢をしても大丈夫だ。
「ライ。カーディナルとアドニスは?」
「??」
「港からなら、乗って帰られるよね?」
「うん」
「それじゃ、カーディナルとアドニスに来てもらおうか?」
「あっ・・・」
「どうしたの?」
「アドニスは、公園の山を探索している。カーディナルも一緒。だから、キングとクイーンが来る」
「わかった。どこに行けばいい?」
「駅の近くの公園でいいと思う」
「わかった」
ライと二人で、駅の南口公園に移動する。
人が少ない・・・。正確には、一人しか居ない。ベンチに座ってスマホを見ている。誰かを待っている様子で、車が通る度に顔を上げている。
キングとクイーンは、すぐに到着した。
ベンチに座っている人が、スマホを見ては、辺りを見ているので、あの人が居なくなるまで私とライもベンチに座って待っていることにした。
10分程したら、白い車が来て、ベンチに座った人を乗せた。
これで、公園には誰もいなくなった。
一応、認識阻害と結界を展開してから、キングとクイーンに降りてきてもらった。
私とライは、スライムの形状に戻って、ライはキングに、私がクイーンに乗った。
『マスター』
「うん。家に帰ろう」
『はい!』
キングとクイーンが空に上がる。同時に、結界と認識阻害を解除する。もう見られても、中の良い夫婦鷹が空に居るだけに見えるだろう。私やライは小さくなっているので、下からは見えない。上空からなら見えるかもしれないが・・・。見られて困るようなことではないと考えて、気にしないことにした。それに、キングとクイーンの速度を上空から捕えるのは難しいだろう。
『ライ。海岸線を、富士川まで飛んで』
『はい。わかりました』
『うん。お願い。少しだけ確認したいことがある』
『確認ですか?』
『うん。海には、魔物が居ないよね?』
『そうですね。先ほど見た書籍にも、海の魔物は紹介されていませんでした』
『そうだよね・・・。でも、カラントやキャロルの例もあるから、魔物になってしまった海の生き物はいると思う』
『はい』
そう。私が魔物図鑑を見ていて不思議だと思ったのは、海に”魔物”居ない。正確には、”魔物”が海で見つかっていない。
他にも、”動物”と同じ姿をした”魔物”が存在していないことだ。動物が魔物になってしまうことは、私の家族の例から確認されている。書籍にも、似たような例が報告されていると書かれている。
不思議に思ったのは、その部分だ。
なぜ、魔物は”魔物”だと解る姿をしているのか?
ゴブリンやオークやオーガは、誰が見ても魔物だ。人間にも動物にも見えない。スライムも同じだ。
だが、海の魔物で最初に思いつくのは、クラーケンではないだろうか?
そして、クラーケンは巨大イカだ。海の魔物は、ゴブリンやオークやオーガの様に、解りやすい魔物が思い浮かばない。もしかしたら、居るのかもしれないが、”魔物”だと言えるような魔物は出てこない。あるとしたら、シーサーペント辺りが対象になるのかもしれないけど、大きさが段違いに大きくなってしまう。ラスボス級の魔物が、沿岸部には居ないだろう。それに、シーサーペントが出たら対処は銃器では無理だ。戦車や戦闘機が必要だ。
本当に居ないのか確認したいわけではない。海沿いを見ておきたかったのは、『砂浜に魔物が存在しているのか?』だけだ。書籍はパラパラと見て、流し読みを行っただけなので、記述が見つけられなかっただけの可能性もあるが、海や海岸線で魔物が見つかったという表示はなかった。
山の中や、湖近く、洞窟は魔物がいると言われている場所だ。
たまに、街中に降りて来る魔物もいるらしいが、ごく少数だと考えられている。
魔物に関する研究は、始まったばかりでこれからいろいろ解ってくる分野だ。
『マスター?』
『ん?なに?』
『海岸線を富士川まで来ました』
『え?もう?』
考え事をしていたら、目的地についてしまった。
ライが魔物の反応を探ってくれていたから、見つからなかったのだろう。
『はい。魔物の気配は感じません。海も確認しましたが索敵の範囲内に魔物は存在しません』
ライの索敵で見つからなければ、海には魔物が居ないのだろう。深海まで移動したら、魔物ではないが、見た目が魔物な生き物も多くなってくるだろう。
フェンリルのような魔物が居ないのが不思議だ。
狼系列の魔物は存在していない。昆虫型も居ない。あと、異世界物では定番に出て来る、”エント”の存在も確認されていない。魔物図鑑を見ていて不思議に思った。沼や池を少しだけ調べてみようかな?リザードマンとかいるかもしれない。やはり、最前線の樹海に行かないとダメかな?私たちなら、空からいきなり奥地に行けるだろう。自衛隊が戦っている場所を避けることもできるだろう。
無理に戦いたいわけじゃない。私たちの平穏が崩されない限りは、無視していてもいいかもしれない。
魔物じゃないけど、スケルトンとかゾンビと言われる、アンデット系の魔物も存在が確認されていない。
『ライ。帰ろう』
『はい』
キングとクイーンに指示を出して、家に向かってもらう。
難しい事は、ギルドやえらい人が考えてくれる。私は、家族を守る事を考えよう。そして、私やライを・・・。見つけて、復讐を・・・。殺して”おしまい”にはしない。どんなスキルか解らないけど、今の私たちなら、簡単に殺せると思う。天使湖での戦いで解った。私たちは、警察や消防で訓練を受けた人たちと同じくらいには強い。対魔物に限って言えば、私たちのほうが強いかもしれない。訓練を受けた最前線で戦っている自衛隊の人たちには及ばないだろうけど、訓練を受けていない一般の人がスキルを得ても、戦えば私たちの方が強いと思える。
でも、私は私の気持ちに家族を付き合ってほしいとは思わない。ライは、一緒にと言い出すだろう。他の家族も同じだろうけど、私と・・・。ライだけで、決着が付けられればいいと思っている。そのためには、知らない事が多すぎる。
やはり、ギルドに協力を求めた方がいいかもしれない。
スキルを取得しているけど、十全に使えているとは思えない。もっとスキルを使いこなせば、いろいろなことができるだろう。
天使湖で戦ったオーガは強かった。
でも、スキルを使ってくる様子がなかった。格段に強い個体が存在していた。見た目には、色が違うだけで同じなのに、力が10倍くらい違う。多分、肉体強化とかのスキルがあるのだろう。かよわい女子高校生だった私には必要なスキルだ。
スキルも使えば、権能が増えるのが解った。それなら、スキルを極めれば、もっといろいろな事ができるはずだ。オーガやオークの色違いが強いのは、色違いだから強いのではなく、スキルを使いこなせるようになっているから強いのかもしれない。
もし、スキルを使いこなせるようになったら?
私や家族は、もっともっと強くなれる。強くなれば、もっと安全に過ごせるようになる?
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