【第八章 王都と契約】第十四話 そのころ・・・2

 

神殿が表舞台に出る準備を行っていた時に、神殿に行くことを拒絶した者たちも、自らのスキルを使って動き出していた。

最初に動いたのは、教会に伝手があるフレットコンラート松田だ。

「おじい様!」

「なんだ?」

コンラート家は、王家よりの人間で穏健派の筆頭と考えられる。教会の中では、穏健派をまとめている立場の家だ。

フレットが、父親や母親ではなく、祖父を頼ったのにも理由がある。

「おじい様。教会の武器や防具や服飾関係は、どなたが仕切っていらっしゃるのですか?」

フレットが行おうとしているのは、カルーネ清水結衣が作る武器や防具を教会騎士に持たせることだ。ギルド周りには、武器の供給は出来そうにない。そのために、供給先として教会関係を考えたのだ。
それと、アルマール千葉美久が作る教会の法衣を祖父に着て欲しいと考えている。
自分は、教会への伝手があり、それを使って、カルーネとアルマールと共闘する。自分は、教会の中で地位を得て、影響力を得ようと考えている。

「ん?法衣は、我が家が一括で購入をしている。武器や防具は、教会騎士団か・・・。我らの派閥が管理をしている」

「紹介したい者たちが居るのですが?」

祖父であるコンラート卿は、孫娘であるフレットを見つめながら考える。
もちろん、孫娘は可愛いと考えている。しかし、教会の枢機卿まで登り、次の教皇に近い位置に居る。現状では、ボルダボ派閥と競い合っている。今の教会筋の派閥の状況は、45対50対5になっていて、まだ先のことだが、派閥の強化が絶対的に必要な状況だ。

「フレット。会うだけだ。その時に、その者たちができる最高の作品を持ってこさせろ。話はそれからだ」

フレットは、祖父の迫力に押されながらも、しっかりと頷いた。
一歩目が肝心だと解っていた。

そして、無事に祖父から”会う”という言葉を引き出した。

教会の穏健派は、武器と防具の仕入れ先を変更した。
通常なら、下級騎士の装備から変更されるが、今回の変更は上位の騎士から変更された。納品された武器や防具の質が高いのが理由だ。オーダーメイドで作られた武器よりも品質がよかった事から、上級騎士が希望した結果だ。上級騎士に武器が行きわたってから、今度は武器のオーダーメイド品が切り替わった。上級騎士が得ていた質のよい武器は、そのまま同派閥の下級騎士に渡されることに決まった。
防具は、体格のこともあり最初からオーダーメイドに近い状況だった。
それが、一人のパシリカを終えたばかりの少女が作り出したとは誰も考えていなかった。

法衣は、素材の変更やフレットも知らなかった仕来りに沿った変更が行われて、派閥の者たちに配られることに決まった。
元々は、法衣は敵対派閥が抱えていた服飾工房が作っていたのだが、フレットの活躍で同派閥内に服飾工房を招き入れることが出来た。装備関連の工房と同じように、派閥内で囲むことが決定した。

二つの工房をまとめるのは、新しく最年少司祭となったフレットが取り仕切ることに決まった。
工房の場所や従業員は、コンラート家の領地に置かれた。マガラ渓谷とは反対側にあり、北方連合国ノーザン・コンドミニアムの近くだ。北方連合国ノーザン・コンドミニアムからの交易品を取り扱う都市であり、発展が期待される場所だ。
フレットは、領都内に作られた教会を拠点にして、カルーネとアルマールと一緒に生活を始めた。王都では、二人を自分と同じように扱う事が出来なかったためだ。二人とも、身柄の安全と今後の生活基盤が出来たことを喜んだ。
領都では、二人は教会騎士に降ろす武器や防具よりも、弱い物や失敗作を売りに出した。
これが行商人に売れに売れた。提携している店に出せば、即完売の状況になってしまっている。

「ねぇ昴」

「なに?」

「この世界は、魔物が居るよね?」

「うん。美久もレベルアップのために、狩ったでしょ?」

「うん。でも、服はしょうがないとしても、武器や防具まで、なんであんなに脆いの?」

「あぁ・・・。服飾は、教会でも今までは、貧民街とか、働き手を亡くした人たちが行っていて・・・」

「え?それじゃ!」

「あっ!大丈夫。ほら、この前、美久に聞いて、型紙とか、既製品の話を聞いたでしょ?」

「うん」

「あの情報を、今まで服飾の生産を担っていた人たちに流して、教会が一括して買い取って、施しで出すことに決まったから、仕事は奪っていないよ?それよりも、美久の・・・。アルマール方式で出す計画だけど・・・。ダメ?」

「え?私の名前?」

「そう。まだ名前は変えられるけど・・・」

「ううん。違うよ。私の名前が出てしまうと、私の功績になるよね?殆ど、昴がやったことなのに?」

「あっ。白い部屋?」

「うん」

「結衣とも話をしたけど、私たちの3人では、トップは無理だと思う」

「・・・。うん」

「どちらにも敵対しないで、影響力を出せるようにした方がいい」

「そうだね。そういえば、結衣は?」

「あっ王都に向かった」

「王都?」

「うん。王都の奴隷商から、目的の人員が見つかったと連絡が入ったから、結衣が自分で見に行くことにしたみたい」

「護衛は・・・。必要ないか?」

「うん。でも、教会騎士を3人つけた。教会騎士だと解れば、盗賊も貴族も襲ってこないからね」

「そうだね。昴から聞いていたけど、びっくりしたよ。本当に、野盗が教会関係者だと解ったら、攻撃を止めたよね」

「うん。多分、日本と違って”神”の存在が近いから、教会騎士が守っている人を攻撃して、”神”に見放されるのが怖いのだと思う。まぁ半分以上は教会のプロパガンダだとは思うけど・・・」

「そうね。あのアドラが天罰とか・・・。やらないだろうね」

「そうだよね。でも、使える権力は、使ったほうがいいよね」

「ははは。そうだね。教会なら、権力もだけど・・・。他にもいろいろ使える力があるよね」

二人は、お互いに報告を行った。
些細な事でも、情報の共有は行っておかなくては、信頼が築けないと思っている。
この場所に居ない。カルーネも同じ考えだ。

カルーネがフレットにだけ伝えて王都に向かったのは、助手を務められる人材を求めていたからだ。奴隷制度は3人とも好きには慣れないが、自分たちのステータスや能力が知られるのは、もっと都合が悪い。その為に、自分たちの身元を隠すために必要になる。身代わりを奴隷に求めたのだ。
助手として働きつつ、表舞台に立ってもらう人材だ。
3人と背丈が似ている女性の奴隷を3人と従者候補を3人。あとは、教会騎士の身分を与えても問題がない位に教育を行い。護衛として使える6人が見つかったという連絡が入った。
3人の中で、人物鑑定の能力が高いカルーネが王都に向かうのは必然だった。

奴隷商も、コンラート家からの要望なので、他の奴隷商にも声をかけて、問題がない奴隷を集めた。

「どういう事だ!」

「すみません。王都だけではなく、近隣の奴隷商に問い合わせをしましたが・・・」

「奴隷が手に入らない?」

「スラムや金のない奴らは居るだろう?攫ってこい!女も連れてこい!この前の奴らは、壊れて殺した」

「ひっ・・・」

「どうした?」

「いえ、王家やミヤナック家の締め付けがあり、スラムも既に・・・」

「難しいというのか?」

「・・・。はい」

「っち。使えない。西沢!なんとかならないのか?」

「無理だね。君たちはやりすぎた」

「何!?」

「それに、ここでは、自慢のパパの権力は使えませんよ?そんなにブクブク太って醜くなってしまって」

「西沢!貴様!俺様に逆らうのか!?」

「違うよ。僕は、君に現実を教えてあげたいだけ」

「西沢!!」

「あっ間違えた。君たちに、現実を教えてあげようと思っただけだよ。立花君。山崎君。橋本君。森中君。川島君」

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