【第十章 エルフの里】第十一話 愚者

 

「ヤス。ごめん」

「リーゼが謝る必要はない」

「でも・・・」

「そうだな。気になるのなら、帰ったら、西門にできた店で、奢って貰おうかな?」

「え?あっうん!いいよ!帰ったら、一緒に西門に行こう!僕が運転するからね!」

 テンションが上がったリーゼを見て、良かったと考えている。リーゼの責任ではない。エルフたちが悪いのは、ヤスにもリーゼにもわかっている。しかし、リーゼは、自分がエルフの里に来てしまったことが問題になっていると考えてしまったのだ。
 ヤスに置いていかれると心の片隅で恐怖とともに、感じてしまっていた。

 しかし、ヤスは明確に、リーゼを連れて帰ると言ったわけではないが、リーゼに解るように、”帰る”という言葉を使った。

「どうするの?」

「うーん。ノープランだな」

「えぇぇぇ」

「エルフの長老が、どんなことを言ってくるのかで、対応を変えればいい」

「え?」

 リーゼは、話の流れがわからないような表情をヤスに向ける。
 ヤスは、そんなリーゼの頭をガシガシと少しだけ乱暴な力で撫でる。

「なるようにしかならない」

「?」

「大丈夫だ。リーゼ。俺たちは、依頼を達成した。今は、”おまけ”みたいな物だし、嫌になったら帰ればいいだけだろう?」

「うん!」

 ヤスは、リーゼの表情から、不安が消えたように感じて、リーゼの頭から手を離す。

「リーゼ。奥の部屋を使えよ。今日は、いろいろ有りすぎて疲れただろう?」

「僕よりも、ヤスの方が・・・」

「俺は大丈夫だ。それに、少しだけエルフの里を見ておきたい」

「え?それなら」「リーゼは、俺たちの荷物を守って欲しい」

「?」

「ラフネスは、大丈夫だと思うが、他の奴らが・・・」

「あっ・・・。でも・・・」

 リーゼの懸念も、ヤスは理解している。エルフの奴らが、リーゼを襲おうとして来ないかということだ。ヤスは、その辺りは”大丈夫”だと判断している。

『マルス』

『はい。眷属だけで対応は可能です』

「眷属の一体を、リーゼの護衛に置いていく」

「え?ヤスは?」

「俺を襲ってくるのなら・・・。撃退する。それに、多分、襲ってこない。それに、眷属は一体だけじゃないぞ」

 ヤスが明確に断言するのには理由がある。エルフたちが、ヤスを襲っても意味が薄い。ラフネスたちが考えているのは、リーゼをエルフの里に残す方法だが、はっきりとリーゼから拒否されてしまっている。この上、資金を貸し出すと言っているヤスを襲って、星貨を奪えたとしても、奪えた奴だけがおいしい目にあって終わりになる。エルフの中の派閥間にも駆け引きがあり、ヤスとリーゼが微妙な位置でバランスを取っている。

「わかった。僕が、部屋に籠もるのも必要なことなのだね」

「そうだな」

「うん!」

 リーゼは、ヤスに役目を貰えたと考えて嬉しく思っている。
 部屋は、奥の部屋を使うが、ベッドがあるだけの部屋だ。

 ヤスは、リーザが部屋に入って、鍵をかけた音を聞いて、ソファーに浅く腰掛ける。

『マルス!』

『はい。マスター』

『部屋の周りに、結界を展開できるか?』

『魔石があれば可能です』

『魔石のサイズは?』

『最小の物でも、6時間は持ちます』

 ヤスは、魔石を取り出す。

『そうだ。マルス。魔石を換金しておいてくれ、星貨で20枚を作ってくれ』

『是。保持している魔石の78%を使います』

『大丈夫だ』

『了』

 ヤスは、リーゼの母親がリーゼに託した物が気になっている。
 エルフは、金銭やそれに類するものだと考えているようだが、リーゼが託されたブレスレットは”鍵”であり、金銭や類する物ではない。換金しても、リーゼの感情を抜いて考えれば、金貨で2-3枚だろう。高価な物ではあるが、リーゼを拐かしてまでして手に入れたい物ではない。やはり、”鍵”で”何”かが手に入ると考えるのが妥当だろう。それも、リーゼが拒否していようと関係がない。ただ、鍵だとしたら、鍵の使い方を”誰”が知っているのだろう?

『換金が終了しました』

『わかった、また、魔石を溜めないと・・・。ダンジョンに籠ればいいか・・・』

『是』

『マルス。FIT への接触があれば、捕縛しろ、殺さなければ、指の1-2本は切断して構わない』

『了。すでに、7名の接触があり、結界内に捕縛してあります』

『エルフか?』

『否。人族が3名とエルフ族が2名と不明が2名です』

『不明?』

『是。未接触の種族です』

『データはあるだろう。回してくれ』

『了』

 ヤスのスマホに、捕まった7名の画像が送られてきた。

『マルス・・・。いや、いい』

『了』

 マルスは、ヤスの問いかけに一言だけ伝えた。いつものやり取りだが、ヤスが”何”かを考えているのは、表情からでも汲み取れる。

 スマホに映る7名は、人族は商人のような格好をしている。エルフ族は、その商人を連れてきたもののようだ。リーゼに求婚したエルフの取り巻きだ。マルスが会話を録音していた。録音を聞いた、ヤスは眉間にシワを寄せて、痛くなり始める頭を抑えた。

『マルス。会話を聞いたが・・・』

 マルスは何も答えない。答える必要が無いからだ。
 ヤスが聞いた内容は、リーゼに求婚したエルフは、自分の配下に命じて、商人を連れ出して、ヤスの乗ってきたアーティファクトを手に入れたから、買い取ってほしいと持ちかけた。買い取り金額で、借金を減らそうと考えた。
 ヤスとリーゼが乗ってきたアーティファクトを、リーゼの物だと勘違いしていた。そして、ヤスはアーティファクトを操る御者だと認識した。リーゼと婚姻を結べば、アーティファクトも自分の物になると、ナチュラルに考えた。ならば、先に商人に渡して借金を減らしたほうがいいと考えて行動に移った。
 それが人族二人とエルフ族二人と不明の二人が捕まった理由だ。二組の商人に別々のエルフが拙書をしていた。残っている人族は、盗人のようだ。商人と一緒にエルフの里に入り込んで、商人の指示で盗みを働いていた。

『マルス。盗人の雇い主は別に居るのだな?』

『是』

『一晩では来ない可能性があるが、警戒する範囲を広げておいてくれ』

『了』

 FIT を盗み出すのは不可能だし、盗めたとして運用は無理だろう。好事家にでも転売ができるだけだろうけど、アーティファクトとして認識されていて、俺たちの神殿の持ち物だと認識されている。そもそも、神殿以外では魔力の充填が不可能だ。
 そんな告知をしていないから、盗めばなんとかなると思っているのかも知れないけど・・・。

 本当にエルフは愚かなのかもしれない。
 今まで接してきた者たちが、特別だったのかもしれない。

「はぁ・・・」

 FITに攻撃魔法を叩き込んだ愚か者が居る。もしかしたら、最初に捕まった7名の身内なのかも知れないが、酷いにも程がある。

『マルス。リーゼの部屋の結界を強固な物に変更。この部屋にも結界を発動。リーゼの部屋に張っている結界の上から結界を張れ』

『了』

『攻勢魔法を感知したら反撃を許可する』

『了』

『物理攻撃は、吸収して返してやれ。可能なら、武器を溶かしてしまえ』

『了』

『今、FIT を攻撃している連中は、攻撃させておけ』

『了』

『マルス。俺の護衛は、眷属で十分か?』

『是』

 短く言っているが、ヤスがやろうとしていることを肯定はしない。マルスは、ヤスが第一なのだ。
 ヤスとしては、いい加減にエルフの愚か者をどうにかしておきたい。

 ヤスが、部屋から離れたとわかれば、リーゼにアタックをするために部屋にやってくるだろう。外から見張っている者たちが、急襲すると考えられる。現状でもヤスが把握できるだけで、5人だ。ヤスが居なくなった瞬間に、仲間に連絡して、人数を増やすだろう。

 悪徳商人が一緒に来るかもしれない。ヤスとしては、悪徳商人がエルフと一緒にヤスかリーゼを襲ってくれることを期待している。
 なんにしても、リーゼの安全は最優先だが、それ以上にこの不愉快な状況を終わらせたい。考えがまとまらないまま、ヤスは行動を開始する。

 グチグチと文句を言いながら・・・。

”さて、まずはFITを攻撃している奴らのツラを拝みに行きますか・・・”
”はぁ面倒だな・・・”
”アフネスからも報酬をもらわないと・・・。交渉も面倒だけど・・・”
”ラナには追加報酬を請求しよう。エルフの教育費とでもしておくか・・・”

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