【第五章 共和国】第十一話 予想外
町長や、監視している連中が動くかと思ったが、最初に状況が動いたのは、魔物の討伐に向かったエイダたちだった。
『マスター』
夜明けに近い時間帯に、パスカルから連絡が入った。
『どうした?』
『はい。エイダが魔物との戦闘に入ります』
魔物?
『ゴブリンの集団か?』
報告は聞いている。村から少しだけ移動した所に、ゴブリンの集団がいる。エイダが、討伐に向かった。
『いえ、オーガに率いられた、魔物の集団です』
『オーガ?』
パスカルが情報を整理してくれている。
当初、エイダたちが向かった場所には、ゴブリンの集団が存在していた。上位種の存在は確認できていたが、ゴブリンの上位種で対応も可能だと考えられていた。
しかし、蓋を空けてみたら、オーガが索敵範囲外に存在していた。
『大丈夫なのか?』
『はい。エイダの指示で、ユニコーンとバイコーンが駆逐できます』
『わかった。サポートをしてやれ』
『はい』
先に動いたのか?それとも、何か理由があるのか?
『パスカル』
『はい』
『オーガやゴブリンは、ダンジョンから出てきたのか?』
『わかりません。魔物の駆逐後に、エイダに調べさせます』
『そうだな。違和感がある』
ダンジョンから溢れたにしては、規模が少ない。
野生で、オーガが産まれるのか?集落ができているのか?魔物を”テイム”を行うような技術は知らない。存在している可能性はあるが・・・。オーガを使役できるのなら、ゴブリンを従えるよりも、複数のオーガで襲ったほうが、効率がいいように思える。
自然に湧いたと考えるのは、あまりにも無理がある。
ゴブリン程度なら、ダンジョンから溢れたのが繁殖したと考えられるが、種族が違うオーガに率いられているのが解らない。食事は?寝床は?
誰かが、魔物をつかっているのだとしても、報告の規模では維持にリソースが必要になる。それこそ、裏に国かそれに近い組織が必要になる。特別な方法があるのか?
『マスター』
『どうした?』
パスカルから連絡がはいる。エイダたちの状況報告だろう。
『殲滅が終了しました』
は?
2-3分で殲滅が終了した?
『早いな』
『魔物たちが、抵抗しなかった為に、殲滅が簡単でした』
『抵抗がなかった?』
『はい。反撃どころから、動きもありません』
『動かなかった?』
『はい。そのために、エイダはスキルの試し打ちを行いました』
『あぁ・・・。わかった。エイダたちには、近隣を探索してから戻ってくるように伝えてくれ』
『わかりました』
魔物は、存在していた。
しかし、動いてはいなかった?どういうことだ?何か、意味があるのか?
俺が寝ている部屋のドアがノックされる。
アルバンならノックと同時に開けるだろう。カルラなら、ノックと同時にドアの外から話しかける。クォートかシャープだろう。クォートなら、カルラと同じで扉の外から話しかける。
「シャープか?」
「動きがありました」
シャープで間違っていない
明星(金星ではないが、明け方の空に輝く星)が消える時間帯に、忙しくなってきた。
カーテンがない部屋だ。窓もない、嵌められた木の扉の隙間から朝日が差し込む時間が近づいている。
「魔物なら、報告を受けたぞ?」
「いえ、こちらを監視していた者たちです」
シャープやクォートは眠る必要はないが、”休め”と命令は出した。
休んだ状態でも、監視を続けていたのだろう。
襲撃されるのが怖いが、襲撃されたら反撃を行う理由ができる。
「ん?あぁ動いたのか?」
「はい。監視していた者たちが、慌てて、村の外に向かって移動しました」
「村の外?複数か?」
村の外?
誰かに連絡を行うのなら一人で十分だな。シャープは”たち”と報告をしている。複数で、移動する理由は存在しないと思っていたのだが・・・。
「はい」
何人が監視していたのか解らないが、俺たちへの監視は居なくなったと思っていいのか?
「そうなると、監視者は居ないのか?」
「索敵範囲内には、居ません」
そうか、”ぬるい”相手なのかもしれないな。
そもそも、俺たちを狙っている理由も、ルーチンワークなのかもしれない。自意識過剰になっている可能性もある。
俺たちを客観的に見れば、金持ちに見える成年に達したばかりの人間に、率いられている商隊だと思われている可能性が高い。
執事風の男性とメイドが二人と従者が一人。襲ってくださいと言っているような構成だ。
「どこに向かったのかわかるか?」
「はい。クォートが、跡をつけています」
クォートなら大丈夫だろう。
「わかった。村長たちは?」
「眠っているようです。こちらを、気にしては居ましたが、旦那様が部屋に入ってから、戻りました」
「わかった。引き続き、村長夫妻を気にしてくれ」
「かしこまりました」
さて、クォートからの連絡を待つか?
—
「カルラ様」
「どうだった?」
「はい。ご報告をお聞きいただきました」
「そう?信じてくれた?」
「嘘は、お伝えしていません」
「そうね。それで、クォートは?」
「すでに、エイダ様と合流しています」
「そう・・・。アルバンは?」
「お休みを頂いております」
「シャープも休んで・・・」
「わかりました」
頭を下げて、部屋から出ていくシャープを見送る。
シャープが部屋から出て、遠ざかったのを確認してから、報告書に項目を追加する。
シンイチ・アル・マナベ。アルノルト・フォン・ライムバッハ。
ライムバッハ辺境伯の長男で、跡継ぎだった人物だ。
皇太孫ユリウス・ホルトハウス・フォン・アーベントロートの学友。それだけの関係ではない。報告書は、最終的には、皇太孫の所に届けられる。皇太孫は、私に指示を出しているわけではない。私は、フォイルゲン辺境伯の長女クリスティーネ・フォン・フォイルゲン様から指示されている。
報告は、三種類。
一つは、アルノルト・フォン・ライムバッハの目的を調べることだ。これは、すでに報告をしている。ライムバッハ家を襲った悲劇。その主犯を抑えることだ。裏で、指示を出した者がいるらしい。その人物の目的を調べることが、アルノルト・フォン・ライムバッハの目的だ。
一つは、アルノルト・フォン・ライムバッハの行き先を、クリスティーネ様にご連絡することだ。
共和国に向かうことは報告している。一方通行なので、クリスティーネ様たちが、報告を受け取って、行動をされているのか解らない。アルノルト・フォン・ライムバッハは、何か感じているようだが、私には解らない。
そして、最後の報告は、意味が解らない。
皇太孫のユリウス様から強く頼まれたことだが、アルノルト・フォン・ライムバッハが使ったスキルが解ったら、内容や規模を報告するように言われている。アルノルト・フォン・ライムバッハに直接聞かなければ解らない内容だ。それを、”見て、感じたことだけを報告して欲しい”と言われている。私の主観でいいと言われても、報告には私情を挟まないのが、報告書のあるべき姿だ。誰が書いても同じにしておかないと、報告書の意味がない。
しかし、皇太孫のユリウス様は、”主観で構わない”とおっしゃっている。
クリスティーネ様からも、”できる範囲”でアルノルト・フォン・ライムバッハが使ったスキルを報告して欲しいと言われてしまった。
今日の分を書き終えて、報告書を閉じる。
スキルは使っていない(と、思う)。行先にも変更はない。目的を達成するための、短期の目的は聞くことができて、報告済みだ。
しかし、よくわからない。
アルバンは、かなり当初から懐いていた。他にも、敵対していたはずの人物も、懐柔されてしまっている。
そして、ダンジョンの攻略や、ヒューマノイドタイプの作成。報告書には記載しているが、本当に、一人の人物が行ったことなのか、解らない。現実味がないと言ってもいい。もし、私が報告書を読んだら、報告書を書いた者を呼び出して、頭が大丈夫か調べる所だ。
そんな報告書なのに、皇太孫のユリウス様だけではなく、クリスティーネ様も報告書の詳細をお求めにならない。
まるで・・・。
アルノルト・フォン・ライムバッハなら、この程度の・・・。
まさか・・・。
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