【第二章 王都脱出】第九話 おっさん辺境伯に会う2

 

 おっまーさんが、部屋に戻ると、1人の男性が拍手をしながら出迎えた。その横には、苦笑しながら椅子を勧めている男性が1人座っていた。

「辺境伯」

 ロッセルが、拍手をする男性を窘めるように声を上げるが、呼ばれた辺境伯は気にしない様子で、まーさんに話しかける。

「まーさん。すごいね。勇者は、交渉も得意なのか?」

「ん?なにか勘違いしていないか?」

「え?」

「俺は、交渉なんてしていないぞ?」

 ロッセルは不思議そうな表情をするが、辺境伯フォミル・フォン・ラインリッヒは、まーさんが言っている内容がすぐに理解できたようだ。

「そうだな。まーさん。それで?」

「フォミル殿は、豚の周りに間者スパイを潜り込ませているだろう?」

「まーさん。”殿”は必要ない。もちろんだ、優秀な連中を配置しているから、今回も事前に把握できて、まーさんに連絡ができた」

「そうですよね。でも、何度も、続くと”偉大な宰相閣下”は気が付かれませんか?俺なら、”1度は偶然”、”2度目も偶然”、”3度目は必然”と考えて、周りを徹底的に調べますよ。それで、ある程度のグループに分けて、同じ結論に達する違う情報を流しますよ」

「・・・」

「やっぱり、すでに、偽情報が含まれているのですね」

 辺境伯は、まーさんを見ながら頷いた。
 実際、情報戦の大半を”間者スパイ”からの得ているとしたら、限界はすぐにやってくる。魔法やスキルがある世界だから、地球とは違うことわりが存在しているとは考えたが、情報を得た者たちが行う動きには大きな違いは見られない。

 実際に、辺境伯は”まーさんとカリン”を王城に連れてこいという命令を使者に出した情報を掴んで、先に動いた。

「そうか、それなら丁度よかった」

「ん?まーさん?」

「今日の使者は、丁度いい捨て駒になると思うぞ?同じ様な連中は、腐るほど居るだろう?」

「すまん。言っている意味がわからない」

「フォミル。貴殿が、情報が盗まれている。近くではないが・・・。間者スパイが居るかもしれないと思ったらどうする?」

「ん?当然、調べるぞ」

「どうやって?」

「どうやって・・・。うーん。身辺の調査をしたり、行動を見張ったり、不自然な者を探すか・・・。あとは、まーさんが言った様に、複数の情報を流して、どの情報に喰い付くか調べるな」

「それで?」

「ん?該当者が居たらという意味か?」

「そうだな。見つからなければ、もっと絞ったり、範囲を広げたりするだけだろう?」

「見つからなければ・・・。そうだな。見つかったら・・・。そうか・・・。奴が、情報を流しているとバレれば、安心するわけか・・・」

「それだけじゃないぞ、同じような、クズな法衣貴族や使えない者たちは、宰相の周りに多いだろう?」

「・・・?」

「そいつらが、連続して宰相を裏切った、または辺境伯の派閥に情報を流していたとバレたらどうなる?」

 辺境伯とロッセルはお互いの顔を見てからまーさんを見る。
 辺境伯は、興味深そうな表情でまーさんを見ているが、ロッセルは驚愕を通り越して恐怖が浮かんだ表情をしている。

「どうした?」

 二人の視線に気がついたが、まーさんは自分のペースを崩さない。
 テーブルの上にある蒸留酒に味付けしてある物をコップに注いで喉を湿らせる。

「まーさん。勇者の居た国は・・・。そんなことはないな。あの勇者を考えたら・・・」

「フォミル。人が集まれば、派閥が出来る。派閥が集まれば、争いが発生するのは、どこでも同じだと思うぞ」

 辺境伯は、宰相の企てをまーさんに伝える事で、まーさんへの借りを減らそうと考えたが、まーさんは貸しているとは考えていなかったために、辺境伯から伝えられた情報の対価として、使えない使者の使いみちを伝えたのだ。

「そうだ。まーさん。例の方は、明日で大丈夫なのか?」

「流石に、今日は無理だろう?」

 辺境伯は、ロッセルを見るが、ロッセルも無理だという表情をしている。命令すれば、無理してでもやる可能性があるが、派閥に関することなので、無理をさせるわけにはいかない。

 まーさんもロッセルの表情から、明日でもギリギリかもしれないと判断した。

「わかった。二日後の夕方に来てくれ、食事を用意して待っている」

「まーさん。辺境伯を送っていきます」

 ロッセルが立ち上がって、辺境伯を別棟に案内する。表玄関は、使者がプロトコルに則って、護衛を待機させたり、馬車を用意したり、まだ時間がかかりそうだ。丁度よい時間稼ぎにはなるが、そのために辺境伯は移動をしてもらわなければならなくなってしまっている。護衛や馬車はすでに移動しているので、問題はない。

「まーさん。二日後に、また!」

「わかった。準備して待っている」

 辺境伯は、ロッセルと一緒に部屋から出ていった。
 二人が部屋から出ていったのを見てから、カリンとバステトさんが部屋に入ってきた。

”にゃぁ”

「バステトさん。もう大丈夫ですよ」

”にゃ?!”

「我慢の必要がなくなると思いますよ」

”にゃぁ。にゃぁ”

 まーさんとバステトさんの会話が成り立っているように感じるやり取りをカリンは不思議そうな表情で見ていた。

「まーさん?」

「ん?あぁ。そろそろ、王都を出る準備をしたほうがいいかもしれないですね」

「え?」

 いきなり、話が飛んだように感じてしまったカリンは、驚きの声を上げるが、まーさんは話の続きをするように軽い気持ちで続ける。

「使者が来たのは知っていますよね?」

「あっうん」

「”あの”豚だけが知っているとは思えない。どこから漏れたのかは、辺境伯が調べるだろうけど、王城の人間は知っていると考えたほうが自然です。もちろん、勇者(笑)たちにも情報が流れていると考えたほうがいいでしょ」

「あっ!」

「そして、俺たちはフォミルを通して、地球に有った物を再現するつもりでいる」

「うん。いくら、彼らが馬鹿でも、だれが作ったのか・・・」

「そうだ、それだけじゃなくて、俺が聞いた話では、彼らはちやほやされていい気になっている。城から出るときには、侍女や護衛が付いている。買い物も、満足にできないと思われているようだ。それだけではなく、戦闘訓練も始まっている」

「へぇ・・・。あっ・・・。まーさんの言い方だと、ちやほやはされているけど、自由がなくなっているということ?お金も自由に使えない?」

「欲しいと言えば、貴族や王族が用意するみたいだけどな」

「・・・。でも・・・」

「あぁ俺たちが出す物は、貴族や王族も欲しがるだろう。料理のレシピを除けば、数は絞られる。彼らは、物の価値がわからない。市場を見て回っているわけではないからな」

 まーさんの狙いが判明したが、それでも移動しなければならない状況がわからない。
 カリンは、話は解ったし、勇者たちが苦労とは言わないけど、困った立場になるのは理解できた。自業自得だし、別にどうなろうと関係がないと感じている。

「ん?あぁ俺が見た所、わがまま放題で、自分の感情が優先されなければ気がすまないのだろう・・・。彼らは?」

「え?あっそうですね」

「自分は権力もあり、物理的な力もあり、地位も勘違いだけど上だと思っている。貴族や王族に”命令”しても欲しい物が手に入らない。それだけじゃなくて、自分たちよりも下だと思っている。俺や君の方が、この世界の”金”を持っている可能性がある。そんなときに勇者(笑)が、取る行動は?」

「え?」

「10秒だけ待ってあげる。考えてみて」

「え?あっ」「9・・・8・・・7・・・6・・・」「わかった!私を探して、脅す!」

「”正解”そのための情報は、すでに持っているだろう?」

「そうですね」

「だから、辺境伯に情報を渡したら、王都を脱出しようと思う。カリンはどうする?イーリスに頼めば、匿ってもらえると思うぞ?」

「え・・・。まーさん。少しだけ考えます」

「うん。流されるのも悪くないけど、自分で出した答えのほうが、納得できるだろうね。辺境伯は二日後に来るから、考えてみて、困ったら”バステトさん”に話をしてみるといいよ」

「ハハ。わかりました。ありがとうございます」

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