【第七章 王都ヴァイゼ】第十四話 移動中の会話

 

 ヤスは、ドーリスから冒険者ギルドに出された依頼書を見せられて、簡単に説明された。

「ヤスさん。もうしわけありません」

「別に、ドーリスが謝罪する必要はないだろう?」

「でも・・・」

「必要ない。それに、依頼を受けた奴は居ないのだろう?」

「リップル子爵領にあるギルドは不明だけど、他のギルド経由でも依頼を受けた者が居ないのは確認されています」

「それなら別にいいよ」

「え?」

「だって、襲ってきた連中は、俺を殺すつもりなのだろう?」

「そうですね」

「だったら、殺されても文句は言えないよな?」

「ヤスさん。相手は、格上ですよ?」

 ヤスはドーリスを見てニヤリと笑う。
 本人はニヒルに笑ったつもりだが、近くで見ているドーリスから見たら子供が”いいイタズラが思いついた”としか見えなかった。

「ドーリス。その格上の奴らは、最前線で戦っているような連中なのか?」

「違いますね。ランクが上なら自分で調べて行動すると思います。神殿が攻略されたと言われたら自分で調べてから受けるのは間違いありません」

「だろう?そうなると、受ける可能性があるのは、簡単に稼げると考える愚か者でランクもそれほど高くない奴らだろう?」

「そうですね。でも、それでもヤスさんよりは格上で経験もあります。状況を考えると危険ですよ」

「解っている。解っている。ドーリス。その俺よりも格上だけど、高ランクではない奴らは、魔の森の最奥部に行けるか?」

「え?無理だと思います。中層までが限界だと思います」

「なら、なんの問題もない」

「え?」

「セバスが連れてきた眷属を見ていなかったか?確か、サンドラに言われて、俺の従魔として登録したと思うぞ?」

「あぁぁぁぁ!!!上位種!」

「そうだ!セバスの報告で、彼らが更に進化した。護衛として連れて歩くには丁度良いだろう?」

「全部ですか?」

「いや、神殿に居る時は必要ないだろう。外に出るときにだけ、フェンリルキャスパリーグガルーダを連れて行こうと思う。スキルで眷属召喚が使えるらしいから、神殿に帰ってから確認はするけど、戦力は十分だろう?」

「え・・・。そうですね。神殿で確認させてください。でも、ヤスさんの話が本当なら戦力は・・・。十分というよりも、過剰戦力です。多分、フェンリルでしたか?狼の魔物の上位種が進化した状態で、眷属召喚を領都で使われたら、領都が壊滅するかもしれません。それが、後二体?あっヤスさん。確か眷属にした魔物は・・・」

「6体とその眷属だな」

「もしかして・・・」

「あぁ、他の3体は進化まではしていない」

「そうですよね。いきなり全部が進化しないですよね!よかったです」

「あぁ・・・。眷属召喚はできるらしい」

「は?」

「だから、眷属召喚はできる。候補から外したのは、威圧感がないからであって戦力外って事ではない」

「威圧感?」

「考えてみろよ。いくら強いのが解っていても、羊や栗鼠や兎を見て危険だとは思わないだろう?鑑定を持っていなければ、強さもわからないだろう」

 ドーリスは、紹介された魔物たちを思い浮かべる。
 ヤスが行っている、羊や栗鼠や兎はしっかりとした魔物だ。強者の雰囲気という意味では足りないのはドーリスにも理解できる。上位種なのは解っているが、確かに中層を主戦場にする冒険者と戦って必ず勝てるとは言いにくい。

「さて、ドーリス。領都には寄る必要があるのか?」

「はい。物資があります。ギルドと領主様が集めてくれています」

「わかった。暗くなってからでも大丈夫だよな?」

「問題はありません」

「それなら、さっさと移動して、領都で物資を積んで神殿に帰るか」

「はい」

 順調に、村や町に立ち寄って物資の補充を行っていた。
 いくつかの村では、村で採れて過剰になっている作物と芋の交換をお願いされた。ヤスは何がどのくらい必要なのかわからないが、種類が沢山あったほうが良いだろうと判断して、物々交換を承諾した。

 エルスドルフでも物資を積み込んだ。
 すでに辺りは暗くなり始めていた。泊まっていけと勧めてくれる村長に”大丈夫”と告げてヤスはアーティファクトに火を入れる。

 ライトを点灯させた所で村長は納得したようだ。

 一度通った道でナビも表示できるのだが、ヤスも道は覚えている確かに暗くなってきているが、対向車が有るわけではない。速度を落としながら進めば問題ないと考えていた。実際、一箇所曲がればあとはほぼ一本道だ。幹線道路にはなっていないが、太い道を進めば領都に到着できる。

 ゆっくりした速度で進んだが、門が完全に閉まる前には領都に到着出来た。

 緊張もあったのだろう・・・。疲れたのか、ドーリスがウトウトし始めていた。

「ドーリス。もう少し頑張ってくれ、領都に到着したぞ」

「あっ・・・。ごめんなさい」

「いいよ。それでどうする?」

「あっ話をしてきます。神殿にも連絡をいれておきます」

「頼む」

 ドーリスは門番に話をして領都に入っていく、ヤスはやることもないので運転席に戻ってエミリアを起動した。

『マルス。神殿は変わりないか?』

『眷属である。個体名栗鼠カーバンクルが進化いたしました』

『他には?』

『バスの運行。地域名ユーラットとの交易。カート場。学校施設。魔の森関連施設。問題はありません』

『わかった。学校の寮にはまだ空きがあるよな?』

『あります』

『村々を巡って見たが思った以上に孤児が多かった。サンドラやディアスに相談して孤児を雇えないかと思っているのだけどな』

『100名程度なら許容範囲です。ただし、食料の問題が発生します』

『わかった。急激に増やさなければ大丈夫だな』

『はい』

 ヤスはエミリアを操作しながらマルスに話を聞いた。
 細かい要望は、セバスやツバキから上がってきているだろうから、帰ってから詳しく聞いたほうがいいと思っているが、運用上の問題がなければよいと考えていた。

『マスター。個体名セバス・セバスチャンからの伝言で、”帰りにユーラットに立ち寄って、アフネス殿を訪ねて欲しい”ということです』

『わかった。他に、なにか言っていたか?』

『渡したい物があるとだけ聞いています』

『了解。ドーリスに言って帰りに寄る』

『お願いします』

 ヤスが状況を確認していると、辺境伯を連れてドーリスが戻ってきた。

 出迎えたヤスは、辺境伯から礼と謝罪を受けた。
 礼は、エルスドルフへの運搬と”うるち”や大豆を大量に購入した件だ。ヤスも素直に礼を受け取った、依頼でやったことだから、もう必要ないと付け足して終わった。

 謝罪は、ヤスに関する依頼が冒険者ギルドに出された件だ。

「ヤス殿には謝らなければならない」

「事情がわかりません」

「そうだな。依頼はたしかに子爵家の領地にある冒険者ギルドで出された」

「そうみたいですね」

「どうやって、奴らはヤス殿やアーティファクトの事を知ったかだが・・・」

 辺境伯が言いにくそうにしている状況とドーリスの反応から、ヤスは一つの答えにたどり着いた。

「そうですか・・・。ランドルフ殿ですか?」

「・・・っつ。すまない。ヤス殿。ランドルフは呼び捨てで構わない。奴は、すでに貴族ではない」

「そうですか・・・。それで彼が何をしたのですか?」

 立ったままだったが、辺境伯はヤスの質問に答える形で現在判明している状況を話してくれた。

「わかりました。でも、大丈夫です。対策を考えます」

「そうか・・・。本当に、すまない」

「いえ、いいですよ。遅かれ早かれ似たような状況になっていたでしょう。ランドルフがやっていなくても他の誰かがやったと思われます」

「そう言ってもらえると少しは・・・」

 リップル子爵領で出された依頼の原案は、ランドルフが出そうとした物だ。もちろん、コンラートが受理しなかった。しかし、依頼としての体裁は整っていたのだ。第二分隊から解体される前に逃げ出した奴が、ランドルフの作成した依頼書をリップル子爵家に持ち込んで報酬を得ようとしたのだ。
 依頼は、子爵領で内容に手が加えられて受理されたのだ。

 判明したばかりで、証拠を集める作業だけではなく証言の調査も終わっていない。
 ランドルフは辺境伯の屋敷で隔離しているので尋問は終わっている。しかし、逃げ出した奴の捕縛は出来ていない。実際に、リップル子爵家に逃げ込まれたら手出しが難しい。犯罪者なら身柄の要求が行えるのだが、明確な罪を犯しているわけではない。受理されなかった依頼をヤスとアーティファクトの情報と一緒に他家に持ち込んで報酬を得ただけで問題にはならない、もちろん犯罪でもない。

 状況は判明したが、ヤスができる事は限られている。
 問題が発生する前に、神殿に戻って護衛や対策を考えるほうが堅実だと思えた。