【第十二章 ウィルス?】第三話 解決と提案

 

 機材を片付けて、津川先生と一緒に院長先生のところに行く。
 データ収集をおこなっていたサイトには、適当なデータをPOSTで送信をしておいた。ルータに空けられた穴を塞いで、作られていたユーザを削除した。ルータには、他にもVPNの機能やNAT設定やルーティング設定とかやりたい放題だ。メモだけして、話し合いのネタに使う。証拠に使えるように、設定はデータとしてダウンロードしてある。
 まだ遠隔操作のプログラムも削除していない。クライアント側のプログラムを俺のノートパソコンにダウンロードして設定をした。接続の確認も終わっている。ルータのIPも調べてある。

 会議ができる部屋に通されて、待っていると、院長先生とスーツ姿の神経質そうな一人の男性が入ってきた。
 渡された名刺を見ると、県の関係者のようだ。”海野うんの吉永よしなが”と書かれていた。

「津川先生。篠崎さん。海野さんは、この施設を管轄する人で、今回の件をご報告したら、お話を聞きたいという事でこられました」

 院長先生の話から、県の職員ではなく、厚労省の出向組のようだ。
 津川先生と俺も簡単な自己紹介をする。

「篠崎巧さん。そんなに警戒しないで下さい」

「え?」

「克己先輩。それと、桜先輩と美和先輩の事は知っています。私は、2期後輩になるのです」

「・・・。えぇ・・・、と・・・」

「私は、美和先輩が直接の先輩です。私が、中央で問題に巻き込まれた時に、助けてくれたのが桜先輩と克己先輩でした。今度は、お子さんに助けられるとは思いませんでしたが・・・」

「え?どういうことですか?」

「過去の話は、今は必要ないでしょう。現在の話として、パソコンの問題点を指摘してくれています。行政のミスではなく、問題の特定をしてくれました」

「それが?」

「複雑な理由があるのですが、この施設や問題が出ている施設を担当した業者は、中央から推薦された業者なのです」

「・・・。中央と地方で主導権の争いをしているのですね」

「簡単に言えばそうですね。今日、様子を見に来てよかったです。状況がはっきりとするまで、私が話を止められるのは僥倖なことです」

「わかりました。説明を始めたいと思いますが・・・」

「お願いします」

 院長先生は、海野さんに全部を任せるようだ。
 津川先生も俺に任せると宣言したので、俺と海野さんで話を進める。

 ルータの設定を変更している事や、パソコンに遠隔操作できるプログラムをセットアップしている事、ルータのIP情報を外部のサーバに登録するプログラムがサービスを使って定期的に起動している状況を説明した。

「篠崎さん。それは、どういった意味を持ちますか?もちろん、推測で構いません」

「まず、考えられるのは、遠隔地からのメンテナンスです」

「そうですか、しかし、今回の契約にはメンテナンスは入っていません」

「はい。そうお聞きしました。それで、もう一つの可能性ですが・・・」

「それは?」

「死活管理をしている可能性を考えましたが、ルータの設定まで変えている説明が出来ません」

「そうですか、”業者の悪意”だと考えて解釈をすると?」

「踏み台に使おうと思っていると考えられます」

「踏み台?」

「はい。サーバを攻撃したり、ハッキングしたり、小さいところですと、ランキングなどの不正操作に使えます。しかし、今回は踏み台である可能性は小さいと思います」

「なぜですか?」

「まず、この施設もですが、他の施設も、パソコンの利用が不定期です」

 院長先生を見ると頷いている。起動のログを見ても、不定期になっているので、間違いはないだろう。

「わかります。実体調査を行っています。その結果、新品のパソコンを配布するのは、不適切だと判断されてしまいました」

 海野さんは少しだけ残念そうな雰囲気を出している。
 正直な感想を言えば、やっていることを考えると、最低スペックでもそれほど問題にはならない。業者に依頼してアップグレードを行うとの、施設辺りの予算は大きく違わない可能性だってある。

「え?どうりで・・・」

「どうしたのですか?」

「ちなみに、業者に支払ったお金とか、俺が見ても問題はありませんか?」

「問題はありませんよ。県の予算なので、公表されます。少し、待って下さい。資料が有ったはずです」

 ファイルを確認し始めた海野さんだったが、すぐに一枚の見積書を探し当てた。

「コピーですが、業者から出された見積もりです。ほぼ、そのまま予算がついています」

「拝見します」

 見積書を受け取って、唖然とした。
 オヤジが行政の仕事を嫌がる意味もなんとなく解った。俺も無理だ。

「どうですか?」

「海野さんは、この見積もりは、おかしいと思わないのですね」

 俺が見て居た見積書は、そのまま津川先生に渡った。
 どうやら、津川先生も院長先生も不思議には思わなかったようだ。

「えぇ問題はないと思います」

「そうですか・・・。院長先生。ここに来られた方が置いていった名刺と連絡先のメモを、もう一度見せてほしいのですが?」

 やはり・・・。

「篠崎さん?」

「海野さん。これを見て下さい。名刺は、確かに見積もりを出した業者と同じ名前になっています」

「はい」

「問題は、メールアドレスです」

「え?」

「ドメインが違います。そして、メモに書かれた連絡先には、違う会社名が記載されています」

「・・・。再委託ですか?」

「そう考えるのが妥当だと思います」

「わかりました。これは、私の方で対処します」

「中抜きがどの程度かわかりませんが、オヤジ・・・。父から聞いた話では、行政の仕事では、2-3割が中抜きされるそうです。2割として考えると、この金額では、再委託された会社の旨味は殆どありません」

 出張費と書かれた項目が1万/日となっている。
 それに作業費とOS代金が書かれている。
 旨味どころか、足が出ていると考えられる金額だ。

「え?」

「おそらく、半日仕事でしょ。移動を考えれば、1日で1件回れれば合格でしょう。人件費だけの金額です。OSの代金が入っていません。元請けが払ってくれているとは思えませんので、再委託した会社が出していると思います。院には請求されていないですよね?」

 院長先生がうなずく。
 請求は発生していないと聞いたので、間違い無いようだ。

「中抜きがなければ・・・」

「ありますよ。確実に・・・。でも、それは俺が調べるような問題ではないと思います」

「そうですね。それで?」

「業者は、赤字覚悟でやっているのは、旨味が提供されたのではないでしょうか?」

「・・・。メンテナンス費用ですか?」

「はい。院長先生のところに来た見積もりを見れば、そう考えるのが妥当です」

「篠崎さん。ありがとうございます。流れは把握しました。推測を交えて構いませんので、文章にしていただけますか?」

「私は、行政が必要としている文章がかけません。それでもよろしいですか?」

「大丈夫です。清書は、私が行います」

「私が受けた依頼外の話ですので、報酬を頂きたいのですが、いくつか質問と提案をさせて下さい」

「・・・。わかりました。私の権限の範疇なら質問に答えます」

「ありがとうございます。私は、今回の依頼で、院が作っている野菜を貰う契約をしました。これは問題になりませんか?」

「・・・。自主的に作っている物ですので、問題はありません。備品ではないのですよね?」

 院長先生がうなずく。
 畑の位置も、近くの農家から、休耕地となっているところを無償で貸して貰っているらしい。

 海野さんは、話を聞いて問題はないと判断した。

「よかったです。施設が、それらの野菜を販売しても問題はないのですよね?」

「ありません。篠崎さんへの報酬に宛てられるのですから、対価として支払っているのと同じです」

「施設が、無料のショッピングカートを契約して、野菜を販売するのは”あり”ですか?」

「少しだけ検討が必要ですが、問題はないと思います。販売がメインだとダメですが、児童たちの学習のためなら問題はないと思います」

「ありがとうございます。それで、提案なのですが」

「今の、話の流れですと、篠崎さんは、施設にショッピングカートを運用させるおつもりですか?」

「正確には、ウェッブサイトを作って貰って、そこでショッピングカートを組み込んで見ようと思っています。サイトやカートの準備は俺がします」

「私たちに出来ますか?」

 今まで黙っていた院長先生が口を挟んできた。

「わかりません。それほど難しい事では有りませんが、慣れてもらうしかありません。それに、俺も慈善事業ではないので、手数料を頂きます」

「はい」

「売上の5%でどうでしょう?」

「え?固定ではなく?」

「はい。計算は、こちらでします。問題があれば、都度、協議をしましょう。カード決済が組み込めるのかはわかりませんが、できるだけ行えるように手配します。どうですか?海野さん」

 話を振られた海野さんは、少しだけ考えてから、問題は無いです。施設側で決めてくれれば大丈夫という結論になった。

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