【約束の場所】穢された公園
父さんとの約束がやっと果たせる。
心残りは・・・。ない。
穢された約束の場所を20年かけて磨き続けた。
毎日。俺は、家族が大切にしていた場所を磨き続けた。
町からなにやら表彰されたが嬉しくなかった。
こうなる前に、町が市が県が国が動いてくれればよかった。
40年前は人であふれかえっていた。
30年前の事件から人が寄り付かなくなった。
父さんとの約束を思い出した20年前に俺は母さんが愛した場所を購入した。二束三文という言葉が正しいような金額で落札ができた。
弟が眠る場所。
母さんが最後に俺を抱きしめてくれた場所。
父さんが皆で行こうと約束してくれた場所。
俺だけが残されてしまった場所。
俺から全てを奪って、約束の場所を穢したやつらがいる。
許せるわけがない。やっと舞台が出来上がった。
奴らは、弟を跳ね殺して、母さんを轢き殺して、助けに入った父さんを笑いながら殺した。その時に、俺も殺された。でも死ねなかった。俺を助けてしまった医者が言っていた。あと、数センチ。数ミリずれていたら助けられなかった。
医者に”なぜ俺を助けた”と涙を流しながら医者を問い詰めた。
医者は掴まれている胸倉の手に自分の手を合わせて、
「キミの父親に頼まれた」
医者が教えてくれた。
俺を助けてしまった医者は、約束の場所に観光で来ていた。少ない休みに近場で家族と過ごすにはちょうど良かったのだと笑っていた。そして、あの事件が発生した。
医者はすぐに父さんと母さんと弟が殺された場所に駆け寄った。そして、母さんと弟がもう手遅れだとわかると、俺と父さんを避難させようとした。俺たちを殺したやつは、乗ってきた車で次のターゲットを探すように走り去っていた。
医者は、父さんの方が危ないと見て手当を始めようとした。休暇で来ていて必要な道具はない。
父さんは、医者に自分は長くないと悟って、自分よりも息子を助けてほしいと懇願した。
そして、医者は俺を助けて、父さんは別の医者が殺した。
また来ようと母さんと約束した場所。
弟が大きくなったらまた来たいと言った場所。
父さんが次に来た時に秘密の場所を教えてくれると言った約束の場所。
全てが無くなってしまった。
俺は、施設に預けられた。助かった俺にゴミのような連中が集ってきた。どうやら、俺は悲劇の人のようだ。マスゴミが一周すると、今度は宗教を騙るクズどもや、何たら法人を名乗る詐欺師たちが集まってきた。
俺は、家族を一瞬で亡くした悲劇の人だ。そして、法律上の相続人でもある。クズや詐欺師たちは、俺が得るであろう金が目的のようだ。相談できる人がいない俺はネギを背負ったカモに見えるのだろう。
相手が頭のおかしな連中なら、俺は奴らよりも頭がおかしなふりをすればいい。
施設でも俺は演技を続けた。
数カ月、俺は可哀そうな悲劇の人で過ごせた。
1年後には、家族を失ったショックで精神がおかしくなった人になっていた。
数年後、成人した俺をが施設を出ようとしても止める人はいなかった。
医療事故の示談金や、父さんと母さんの保険や、父さんの事業を売り払った金を元手に俺は約束の場所を落札した。
二束三文で、東京ドームで言えば10個以上が収まる広大な土地を手に入れた。余った金で公園や施設を整備しようとかんがえた。
俺は、生活の拠点を約束の場所に隣接する施設に移した。
施設も荒れ経てていた。
あの事件から、美しかった公園も整備されていた道も、すべてが破壊され穢されていた。
俺は、施設を整備して、公園を元の姿に戻す活動を始めた。皆が”無理”だと教えてくれた。親切な人は”無駄”だと諭してくれた。それでも、俺には家族の”約束の場所”を取り戻すことしか考えられなかった。
公園が施設がきれいになって約束の場所が戻ってきた。
しかし、約束の場所には大切な人の姿がない。当然だ。すでに、30年以上の年月が流れている。
町から区に変わって、市から公園を開放してほしいという要望が届いた。
俺は、ある条件を提示した。約束の場所は、蘇ったが完全ではない。
完全にするための儀式が残っている。
父さんと母さんが好きだった場所。弟が楽しみにしていた場所を穢した奴らが許せない。だが、同じくらい、俺がこの場所を穢すことができない。
市は俺が出した条件を飲んだ。飲まなくても、俺は別に構わない。どうせ、俺の命は半年も持たない。そうなれば、この施設も公園もまた競売にかけられる。今度は、二束三文という値段での落札は無理だろう。数十倍・・・。もしかしたら数百倍の値段になっている。それだけのことを20年かけて行った。
さぁ最後の仕上げをしよう。
—
公園の名前は、つけられていた名前から男性が望んだ「約束の場所」にあらためられた。そして、男性の望み通り車での来園はできない。1キロ以上離れた場所にある駐車場から歩かなければならない。
しかし、駐車場から公園までの道には、男性が植えた草木が四季を楽しませてくれる。
男性が望んだのは、公園の一角にモニュメントを置くことだった。
柔和な表情をした男性と小さな子供が手をつないでいる。子供の横には、優しくほほえむ女性が膝をついて両手を広げている。子供は、手をつないでいなければ今にでも走りだしそうな雰囲気だ。家族が、誰かを見つけて駆け寄ってくるのを待っているようにも見える。
そんな銅像の後ろには、石碑が置かれている。
モニュメントには、公園の名前で「約束の場所」と書かれている。そして、銅像の名前は「父親と母親と兄と弟」と銘がうたれている。
石碑の裏側には、30年前に発生した事件が実名で彫られていた。
—
公園が公開されてから、数日後に男性は、まるで誰かに抱かれるような恰好で命のともし火を消していた。
男性が居なくなった公園で、男性が残した石碑が問題になっていた。
市は石碑を撤去しようとしたが、男性が委託した弁護士がそれを拒否した。市には、世間が石碑に気が付いて、問題が表面化するまに撤去しなければならない理由があった。
しかし、市が考えているよりも早く石碑は世間から注目を集めた。
最後に男性が行った、「父さんが約束してくれた、秘密の場所に残された財産をすべて隠した」と投稿をSNSに行い。「約束の場所」という新しく整備された公園の名前を告げた。
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