【第九章 ユーラット】第十一話 裏話

 

俺は、オリビアとアーデルベルトから、ユーラットを囮にした作戦の詳細を聞いている。作戦が決まったので、会議室で説明をしたいと呼び出された。
危険はあるが、二人だけではなく、皆が作戦の実行を支持しているようだ。

サンドラも途中から加わって、3人から説明を始めた。ドーリスが書類を持ってきて、補足を説明する為に残って、俺の説得に加わった。

作戦には、マルスとセバスも立案に携わっている。
ユーラットのギルドと神殿のギルドも協力を表明している。

この段階で、俺がストップしても止まらないだろう。

それに、いい加減に帝国からのちょっかいを止めたい気持ちにもなっていた。滅ぼすとか、政権交代とか、面倒なことは考えていない。神殿へのちょっかいを辞めさせたいだけだ。

特に面倒なのが、楔の村ウェッジヴァイクへの攻撃がうまく行かなくなると、トーアヴェルデに兵を向けて来る。違う貴族なのか、似たような作戦を実行する。貴族に連なる者も何人も捕えている。

サンドラにもアーデルベルトに聞いても、無駄だと言われて、捕えて神殿の肥しになってもらっている。
取り扱いが面倒な者(貴族家の当主や跡継ぎ)はまだ来ていないが、時間の問題だと言われている。

俺が居ない時にも、何回も攻め込んできた。

そんな状況の時に、俺とリーゼがオリビアたちを連れてきたので、皆が警戒をした。

オリビアとメルリダとルカリダの努力やリーゼのフォロー。カイルとイチカからの話で、徐々にオリビアたち3人は神殿に受け入れられた。ここで、問題になったのは想像の通りに、ヒルダとルルカとアイシャだ。特に酷いのがヒルダだ。

今回の作戦には、姫騎士の3人を排除することまで含まれている。
もし、3人の中で、皆が想定している状況を変えた者が居たら、引き込みたいと考えているとまで言っていた。サンドラの予想では、アイシャは、こちら側に転びそうな雰囲気があるらしい。

そして、前々からサンドラを通じて話が来ていた、ユーラットの神殿への統合を実行するタイミングにも丁度いいだろうという事だ。
その作戦まで含まれていると、説明された。

皆の想定通りに動くとは思えないが、それでも神殿のメリットが考えられている点は評価をしている。

「大筋は理解した。実行は?」

「ヤス様の許可を頂きましたら、開始したいと考えています」

俺の許可を待っている状況か?
辺境伯と連名で、国王・・・。じゃなくて、第一王子のジークムントの名前で作戦の許可の書簡が添えられている。

「そういえば、ジークの許可なのだな?」

アーデルベルトが頭を下げてから説明をしてくれた。

「はい。私の名前だと、いろいろ国内が・・・」

そうか、許可を出した者の功績になってしまうのだな。ジークムントが作戦の責任者になっているけど大丈夫なのか?失敗した時の責任は神殿の主である俺ではなく、作戦を許可したジークムントと辺境伯が取る事になってしまっている。
成功を確信しているけど・・・。

成功の定義が無いのだな。
ユーラットに攻め込んできた帝国兵を撃退する。神殿の力を借りたが、無事に守り切った。その時に、ギルドからの情報流出がきっかけだと神殿から糾弾される。困った王国は、ユーラットを神殿に差し出す事で、糾弾を交わす。ギルドは、責任者ということで、ダーホスの首を切る。ダーホスは、辺境伯領で引き取る。時期を見て、神殿の西側と辺境伯の橋渡しを行う組織の長になる。

アーデルベルトの名前だと、茶番が際立ってしまう上に、派閥論争が再発する可能性がある。アーデルベルトも神殿で羽を伸ばして気楽な生活に馴染み始めている。今の生活を失いたくないと言っている。

「そうか?それで、最初は、ユーラットで、ダーホスとアフネスの演技にかかっているのだな?」

資料を持ってきて、説得に加わったダーホスが笑いながら教えてくれた。

「はい。練習しても無駄なので、本気でアフネス様と喧嘩するつもりで、話をすると言っていました。私は、ダメだと思っていますが、今回は情報が、ヒルダに渡ればいいので、演技は求められていないと思います。それに、密室で声だけなので、大丈夫だと・・・」

脚本が悪い。

ユーラットに昔から居る者には、ダーホスとアフネスの力関係が解っているのだろうけど、ヒルダやルルカやアイシャは、力関係が解らないだろうからいいのだろう。漠然と、ギルドマスターであるダーホスの方が権力者に思えるだろう。
人選では、ダメだけど、肩書だけを考えれば、配役としては正解なのだろう。

それに、アフネスを宿屋の女将程度に思っているのなら・・・。
ダーホスが、神殿に肩入れしているアフネスを叱責するのは、神殿を過小評価しているヒルダには受け入れやすい。

「本当に?」

大丈夫だとは思うが、心配は心配だ。最初に躓いたら、作戦もなにもない。

「大丈夫だと・・・。いいと、思っています。アフネス様が一緒なので、大丈夫だと思います」

俺は、そのアフネスを心配しているのだけど・・・。
ダーホスは、アフネスに言いたいことが山ほどあるだろう。言葉が悪いが、脚本を盾に、アフネスを怒鳴り散らせるから大丈夫だろうけど、アフネスがダーホスの言葉を聞いて、言葉のナイフを隠していられるか心配だ。

「そうか?俺は、アフネスが怪しいと思っているのだけど・・・」

「ははは。聞かなかったことにします」

オリビア以外の表情が固まることから、俺と同じ事を考えたのだろう。
アフネスが大丈夫だと言っている限り、俺たちはアフネスの”大丈夫”を信じるしかない。

さて、本題に入ろう。
”おじさん”をあまり舐めないで欲しい。今は、若返って”おじさん”には見えないけど、経験は心に残っている。

表情を上手く隠しているつもりだろうけど、出来ていない。
カイルやイチカとは違うから、何倍も上手いけど、まだまだ経験が追いついていない。これなら、ドーリスの方が上手く感情を隠している。

「それで、皆で揃って、俺の説得に来ているけど、俺がここに来た時点で、許可されると思っているよな?」

「そんなことは・・・」

「サンドラは辺境伯の娘だし、アデーとオリビアも国は違うけど王家の血筋だ。表情を隠すのは上手いけど、経験が足りない」

「え?」

「海千山千の連中と渡り歩いてきたからな。契約書も自分で読み込んで・・・。いや、それはいい。経験をあまり甘く見ない方がいいぞ?」

「・・・」

「いいよ。やってみろよ。安全には配慮されているのだろう?」

「はい!」

話が終わったと考えて、マルスがモニタに現れて、話しかけてきた。

『マスター』

「どうした?」

『地域名ユーラットの組み込みを実行しますか?』

「待て」

『了』

「サンドラ。アデー。ユーラットを神殿に組み込むタイミングは?組み込んでいいのか?」

オリビアだけが意味が解らないのだろう。
この場所に居るのなら知っておく必要があるだろう。気にしないで話を進める。後で、サンドラかアーデンベルトから説明させればいい。
裏切られたら、その時に処分すればいい。神殿からは逃げられない。

「ヤス様のタイミングで、大丈夫です。書類上は、既にユーラットは神殿に譲渡されています」

指摘はしないで置くけど、多分こういう所で経験が不足しているのが露呈してしまう。

作戦の説明で、神殿のメリットとして上げているユーラットの譲渡が、既に書類上で終わっているというのは、最後のカードとして残しておくべきだ。

「マルス。聞いたな?」

『了。地域名ユーラットの組み込みを開始します。終了予定。795秒後。カウントダウンの必要はありますか?』

「必要ない。終わったら知らせてくれ」

『了』

さて、ドーリスが俺の言葉を受けて、会議室を出て行った。
ユーラットのギルドに連絡を入れたのだろう。

平行で遂行できる時期は既に終わっている。
キャストとなるヒルダがどんな踊りを見せてくれるのか?

彼女たち、神殿の頭脳であるマルスが想定している通りに動いてくれるのか?

俺とリーゼの出番はなさそうだから、今回は高みの見物を決め込む。

そういえば、軽飛行機に手が届きそうだけど、必要かな?遊びでは欲しい。凄く欲しい。操縦はできる。燃料の心配もない。空の面倒な法律もない。

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