【第五章 共和国】第十四話 散歩
アルバンと、町から出て森に向かう。
最初は、クォートかシャープが付いてくると言っていたが、二人には俺とアルバンが町に居るように偽装してもらうために、残ってもらった。
カルラは、町から離れることを印象付けるように出て行った。他の町に、物資の調達をするためという理由だ。そのために、馬車と一緒に旅立った。俺たちが残った理由は、『一緒に商売を行う商隊が遅れていて、待っている』ことにした。
間違っていないが、突っ込まれると困る言い訳だ。
だが、町長夫妻だけでなく、町民は誰も突っ込んでこなかった。
町にお金を落としてくれる上客だと思っているようだ。同時に、クォートとシャープが次の商隊が持ってくる物資で、『売買を行いたい』と言ったのも、俺たちの逗留を無碍にできなくなった理由なのだろう。
町長からは、食料が不足気味になっていると相談されて、カルラが調達してきた食料の一部を、町民に格安で提供することになった。
損失分は、滞在費を安くしてくれることになった。町長も、受け取れる宿泊費を削ってでも、町に物資が回る方がありがたいのだろう。宿泊費は、ほぼ無料になったが、悪いので、最低限の費用だけは払う事にした。物資も、仕入れ値で提供することにした。カルラの用事の次いでにアリバイ作りの仕入れなので、儲けを気にする必要はない。
それに、町のためになるような活動を率先して行うことで、今後の目的である。”拠点にする”という目的が実行しやすくなる。かもしれない。
「兄ちゃん?」
「もう少しだけ、奥に行った方がいいな」
「うん!」
アルバンと他愛もない話をしながら、森の中を歩いている。
木々や植生を見ると、王国と違いは見られない。陸続きだし、大きくは違わないと、考えていたけど、間違っていない。
しかし・・・。
「ねぇ兄ちゃん。この森・・・。おかしくない?」
「そうだな」
アルバンが指摘するように、動物が極端に少ない。
正確には、動物だけではなく、昆虫も少ないように感じる。森が死に始めている?
「兄ちゃん?」
「アルが感じているように、この森はおかしい」
「うん。動物が少ない・・・。居ない?」
「この前、討伐に向かった時は?」
「うーん。動物には会わなかったよ。もしかしたら、村の人たちが食べちゃった?」
「可能性のレベルで言えば、”ある”かもしれないけど・・・」
「そうだよね。あの人たちに、捕まえられそうな動物は、ラビット系くらい?ボア系だと、無理でしょ?」
「あぁホーンラビットだと無理だろう?」
「うん。無理だと思う。そうなると、違う理由?」
「どうだろうな。例えば、町民が食べる物が無くなって、森の果物を全部・・・は、無理だけど、かなりの数の果物を食べちゃったとしよう」
「うん」
「そうなると、その果物を食べていた動物は居なくなるよな?」
「あぁ!そうか、その動物を捕食していた動物も居なくなる!」
「そうだな。でも、その捕食していた動物たちは、別の動物も食べるよな?」
「うん!」
食物連鎖がどこかで壊れてしまった?
でも、数年での変化じゃないだろう?
土は、まだ腐葉土になっている。草木はまだ大丈夫なのだろう。森が再生するかわからない。でも、何か理由があるはずだ。
暇潰しに調べてみるか?
ん?
「アル」
「うん!魔物?」
「あぁ数が多いな。殲滅しておくか?」
「うん!でも、大丈夫?」
大丈夫は、『二人で大丈夫か?』なのだろうけど、強さで言えば、アルバンだけでも対処できる。
ゴブリンだけの集団だ。上位種も居ない。変異種も居ない。本当に、ゴブリンだけの集団で、20体ほどだろう。ゴブリンだけの集団としては大きいが、指揮する個体がいなければ、対処は難しくない。
「あぁゴブリンだけの集団だ」
アルバンに説明すれば、納得した。
武器を取り出す。ゴブリンも、何かに気が付いたのだろう。臨戦態勢を取っている。武器を構えている。
アルバンと決めた作戦は、いたって単純だ。
左右から突っ込むだけだ。
「終わり!」
最後の一体は、アルバンが正面から切り伏せた。
「ねぇ兄ちゃん。無手・・・。じゃないよね?どうやって倒したの?」
「ん?これか?」
魔法を発動する。
アイツらに一矢報いるために開発した魔法だ。
”虚無の剣”となづけた。属性の付与ができる。
「え?それって、魔法で剣を作ったの?」
「そうだ。今は、指先から出しているけど、ある程度は自由にできる」
「へぇ・・・。でも、剣と同じなら、剣で戦った方がいいよね?」
「そうだな」
アルバンが言っていることは間違いではない。
でも、剣では・・・。刀では、届かない奴に、刃を届かせるための”剣”だ。
「でも、かっこいい。見えなくもできるの?」
「できるぞ」
属性を指定しないで剣を作れば、見えない。
俺にも見えないから、使いどころは考えなければならない。”見えない”アドバンテージはあるだろう。でも、きっと”アイツ”には届かない。その為の属性付与だ。剣術の修練は続けている。その上で、届かない隙間を産める工夫が必要だ。それが、魔法だと、俺は考えている。
「兄ちゃん。おいらも・・・。は、無理だよね」
「考えてみるけど、難しいと思うぞ」
「うん」
アルバンは器用だけど、属性魔法があまり得意ではない。
形を維持した状態で、属性を付与しなければならない。そのうえに、剣としての切れ味が必要になる。意外と、考える事が多い魔法だ。他にも、プログラムを組み込んでいる。それらを、魔道具にしようとしても、使う者にも会う程度の相性や技量が必要になる。
障害物に当たった時の処理は、瞬時にパラメータを切り替える必要がある。
剣同士なら、相手の力量次第ではすり抜けても面白い。すり抜ける事で、相手にダメージは追わせられるけど、相手の剣の処置を間違えば、こちらもダメージをうける事になる。これらの条件を、スイッチで組み込んでもよかったのだが、魔法式だけが無駄に大きくなってしまう。そのために、パラメータとして外部からの入力で剣の動作を変更するようにしている。
「なぁアル」
「何?」
「ゴブリンの集団が、指揮個体もなしで存在できると思うか?」
「うーん。解らない」
カルラなら何かしらの答えを持っているだろうけど、今は・・・。カルラは居ない。
下位の魔物は、指揮個体が居なければ、同種での群れにならない。動物から魔物になったのなら、動物の時の習性が残されても不思議ではない。
「ダンジョンの中では、集団で居る場合には、指揮が居たよな?」
「うん。4体以上だと、指揮が居るよ?でも、ダンジョンなら当然だよね?」
そうだよな。
指揮個体を潰すことで、討伐が簡単になる。ただ、指揮個体は上位種と決まっていない。見極める目が必要になる。
もしかしたら、野良のゴブリンも同じなのかもしれない。ダンジョンの中が、特殊だと考えるのは、無理があるのかもしれない。
思い出した!魔族だ!
でも、ダンジョンにはゴブリンやオークやオーガが存在していた。俺たちが・・・。あぁぁぁぁぁ!!
そうか!
「兄ちゃん?」
「悪い。いろいろ繋がった」
「え?」
「カルラは・・・。もう出てしまったか、あとで、エイダに話をして、まとめさせて・・・。ふぅ・・・」
「兄ちゃん?」
「大丈夫だ。やっと、いろいろ繋がっただけだ。全部。俺の勘違いだ」
「勘違い?」
「そうだ。アル。魔物と動物と魔族の違いは解るか?」
「え?魔物は、魔物でしょ?動物が、狂暴になって、人を襲い始める。魔族は、魔族だよね?」
「そうだよな。常識だよな」
「うっ・・。うん。兄ちゃん?本当に、大丈夫?」
「大丈夫だ。ウーレンフートのダンジョンに居たのは、魔物だよな?」
「え?当たり前でしょ?魔族も動物も居ないよ?」
「ゴブリンは、魔物でいいのだよな?」
「うん。言葉を話さないのは、魔物だよ?」
意思の存在が、魔物と魔族の境界だと考えている。姿かたちでは判別していない。
それでは、ゴブリンは?オークは?オーガは?いきなり襲うのは?
敵対する可能性がある者に先制攻撃をするのは、当然だと考えている。山の中や森の中に潜んでいて、武器を持っていたら、盗賊と同じで退治されてもしょうがない。
だから、ゴブリンが魔物だろうが、魔族だろうが、アルバンやカルラは関係がないと考えた。
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