【第三十章 新種】第三百六話
ゴブリンの新種?が落したスキルカードを見ているのだが、チアル大陸で出現していたゴブリンたちが、落すスキルカードとの違いは見られない。
「カイ!ウミ!」
スキルカードの回収が終わっているが、また奥からゴブリンの新種と思われる気配が近づいてくる。
カイとウミも解っているのだろう、臨戦態勢に戻る。
ライが分体で周りの探索を始める。
スキルに頼ることも出来るのだが、新種のゴブリンは急に湧いた感じがした。
もし、これがダンジョンと同じように、新種として産まれてくるのなら、対策が難しい。チアル大陸でも、街中でいきなり、新種が生まれて来る可能性がある。今のところ、新種を含めて、魔物が産まれたという報告はない。
後で、ルートガーに確認をしてみるが、魔物が生活圏内に産まれたのなら、俺に報告が上がってくるはずだ。
対処が終わったとしても、俺に報告が上がってくる。
それに、噂話としても聞いていないことを考えれば、チアル大陸では、生活圏内に魔物が突然現れる事案は発生していない。
チアル大陸の生活圏内は、コアたちの勢力になっているから、魔物が産まれない可能性が高い。しかし、生活圏内以外では新種が生まれてしまう可能性がある。実際に、俺が大陸を把握する前には、森の中で魔物が産まれていた。
『カズ兄。倒していい?』
ウミが痺れを切らしている。
「カイ。ウミ。1体は生け捕りにしてくれ、あとは倒していいぞ」
許可を出すと、ウミが走り出して、新種のゴブリンに攻撃を仕掛ける。
カイは、ウミに支援のスキルをかけてから、後ろに回り込むように動きを見せる。
ライは俺の周りに待機している。
分体からの情報を、俺に伝えてくれる。
どうやら、森の奥に洞窟があり、そこから新種のゴブリンが出てくるようだ。
「ライ。ダンジョンか?」
『違います。普通の洞窟にゴブリンが集落を作った様です』
「わかった」
どうする?
巣は潰しておいた方がいい。
中央大陸だけど、ゼーウ街が潰れるのは・・・。
「新種がいるのか?」
『わかりません』
「そうか・・・。ゴブリンが出て来るように見えるのか?」
『はい』
やはり潰した方がいいのか?
もしかしたら・・・。
実験は出来ないな。
どこかで、実験をした方がいいのは・・・。
できる場所があるとは思えない。
”蟲毒”
新種が産まれる条件が、蟲毒だとしたら・・・。
巣が産まれてから、新種が産まれるのだとしたら、巣を潰していけば、蟲毒の状態にはならない。本来の蟲毒では、複数の毒虫を集めるのだが、同種で戦う・・・。
人間も同じだな。
俺は、蟲毒を・・・。
飛躍した考えだな。
今は、新種の発生原因が”巣”にあると仮定して動いたほうがよさそうだ。
『カズト様。終わりました』
「カイ。ウミ。ゴブリンの巣が見つかった」
『カズ兄。生け捕りにしたゴブリンはどうする?』
「ホームに入れておいてくれ、コアに解析を頼む。ライ。頼めるか?」
『はい』
ウミが引っ張ってきていた新種のゴブリンをライが飲み込む。
これで、解析が出来れば・・・。新種に関しての情報は、今はどんな事を・・・。得られる可能性を少しでも増やしたい。
”巣”も殲滅しよう。
スキルカードは低位のレベルしか出ないけど、在庫が怪しいカードもある。
使わないカードは置いてきているが、増える分には問題にはならない。在庫が増えると思えばいいのだ。それに、ゼーウに”貸し”として渡してもいいだろう。どうせ、低位のレベルだけだ。
新種が産まれてこなければ、放置が決定するような案件だな。
「カイ。ウミ。ゴブリンの巣を殲滅するぞ。ライ。案内を頼む」
ライの案内で森の中に足を踏み入れる。
チアル大陸では、一部を除いて森は、以前と比べると安全になっている。
久しぶりの感覚で嬉しく思えて来る。
時間的な余裕もないから、さっさと”巣”を駆逐しよう。
”巣”があると思われる洞窟の入口は考えていた以上に狭そうだ。
「ライ。洞窟に他の出口はありそうか?」
『”ない”と思われます』
「わかった。ライは、”巣”が他に繋がっていないか確認してくれ、カイとウミはスキルを使って殲滅だ。スキルカードは、ライが回収してくれ、俺はカイとウミのサポートをする」
俺の合図で、三方向から攻め込む。
入口が狭いから、俺が最初に入るのは無理だ。
ライから報告が入った。
『繋がっているか不明ですが、ゴブリンの”巣”があります』
「ウミ。ライのサポートに行けるか?」
『うん!』
洞窟からウミが飛び出して、ライが誘導する別の洞窟に向かう。
繋がっているといいのだけど・・・。
結局、”巣”は繋がっていた。
最初に見つけた”巣”には、新種がいなかった。
俺が突入するまでもなく、ゴブリンの上位種なら、カイだけで十分に対応ができる。
俺にも残しておいてほしいとは思ったが、散らばっているスキルカードを拾い集めるのに集中していたら、終わっていた。
最悪な想像が当たってしまっているようだ。
カイとウミとライが入っていない部屋に戦闘の痕跡があり、そこにスキルカードが散らばっていた。
ダンジョンならコアが吸収していたのだろうけど、洞窟はダンジョンではない。
その為に、スキルカードが残されていた。
戦闘の跡からは、ゴブリン程度の者たちが戦ったのは解るが、新種が産まれたのかは判断が出来ない。
”蟲毒”と似たような現象が発生して、偶然の産物なのか、それとも狙った結果なのか・・・。判断は難しい。
俺が考えた、『”蟲毒”から新種が産まれる』は、正しいようだ。
それでは、最初に新種だと考えていた”できそこない”も説明ができる。
新種に至るまでの戦闘が行われなかった。その為に、新種になり切れない状況で”蟲毒”が終わってしまった。
新種は、別種なのだろう。
”巣”から出て、新しい場所に向ったのか、戦いを求めたのか解らない。
今まで、俺たちが遭遇した”できそこない”がゴブリンなのか解らない。大きさから、ゴブリンよりも小さい魔物の”できそこない”の可能性が高い。
”蟲毒”が発生した場所を調べると、自然に出来た部屋だと解る。扉のような物は存在しないが、つづら折りになった通路が扉のようになっている。簡単に逃げ出せないような状況になっていたのだろう。逃げ出そうと、岩壁を叩いた跡も見られる。
『カズト様』
カイが何かを持ってきた。
レベル5 猛毒?
ゴブリンがレベル5のスキルカードを落とすのか?
最高でも、レベル3までだったはずだ。
2ランクも上のカードを?
レアドロップ?
”贄”か?
そもそも、”猛毒”のスキルカードを知らない。
”毒”なら、レベル4で存在している。
他には、目新しいスキルカードはなさそうだ。
解らなくなってしまった。
ゴブリンの上位種が居たのか?
でも、ゴブリンの上位種でも、レベル5のカードは落ちない。
「ライ。この場所に、抜け道が無いか確認してくれ」
『はい』
「ウミとカイは、洞窟の中を探索して、何もなかったら、他に”巣”がないか調べてくれ。ライ。カイとウミのサポートも頼む」
皆から了承の言葉が聞かれた。
ゴブリンが落したスキルカードはいいのだが、死体が残ったゴブリンもいる。
ダンジョンから出てきたゴブリンが集落を作ったのか?
それなら、いろいろな説明ができる。
それでも、新種が産まれるプロセスはなんとなく解ってきたのだが、きっかけが解らない。
”できそこない”から”新種”になるのか?
それとも、”できそこない”と”新種”はプロセスが異なるのか?
”蟲毒”のような事が、いろいろな所で、発生しているとは思えない。
偶然の産物なら・・・。良くはないが、問題は簡単だ。間引きを徹底的に行えばいい。しかし、これが、”人為的”に引き起こされているのだとしたら・・・。
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