【第二十五章 救援】第二百五十七話
私は、ステファナ。
旦那様と奥様から離れて、エルフの里に来ている。
通された部屋には、女の子が横になっている。
部屋には、私とモデストとエクトルが入った。里の者たちも入ろうとしたが、エクトルが強制的に追い出した。まだ、部屋の外で喚いていたので、モデストが遮音結界を張った。旦那様から渡されたスキルで、音を遮断するのだと教えられた。レベル5のカードになっているのだが、私もエクトルも知らないカードだ。
「姫様」
エクトルが、横になっている女の子の前に跪いて、呼びかける。
寝ているわけではなさそうだが、反応が遅い。
「姫様は、念話で会話をされる」
「念話スキル?」
「そうです」
そう言えば、エクトルには”念話”が固定されていた。種族的な物だと言っていたのを思い出した。
もしかしたら、姫様はそれで”エクトル”たちとだけコミュニケーションが取れていたのだろうか?
「エクトル。もしかしたら、姫様は・・・」
「はい。声が出せないのです」
「前から?」
「いえ・・・」
そうか、”何か”あったと考えるのが自然な流れだ。
エクトルが求めているのは、レベル5の治療ではなく、レベル9の完全回復。求めた理由は、姫様の状態が理由なのだろう。思った以上に深刻な状態かもしれない。
目の前に横になっている女の子は、奥様よりも若いように思えるが、エルフの年齢は見た目ではわからない。
「ねぇエクトル。姫様は、私たちの話声は聞こえているのよね?」
「はい。問題はありません。私に、念話で問題ないと答えを返してくれています」
「わかった」
私は、息を吸い込んで、姫様をまっすぐに見る。
透き通る肌が、部屋から出ていないことを示唆している。
「姫様。私は、ダークエルフのステファナと言います。ハーフであり、ダークエルフの私が姫様を診断して治療するのが許せないのでしたら、エクトルに伝えてください。その場合でも、レベル9完全回復を一度は実行します。しかし、しっかり診断を行って、姫様の病巣を取り除くように、レベル9完全回復を数回に渡って実行しないと、完治は難しいと判断しています。どうしますか?」
姫が私の顔を見つめてきます。
「ステファナ嬢」
エクトルがいつもの呼び名に戻します。姫様を除けば、確かに身内だけなので、問題にはなりません。
モデストも”やれやれ”という表情をするだけで咎めませんので、大丈夫なのでしょう。
「ステファナ様。外部に居たものたちへの対処は終了しました」
「わかりました。ありがとうございます」
「いえ、私の仕事ですし、旦那様から頼まれていたことです」
「それでも、手間をかけさせてしまいましたね」
「お心遣い。感謝いたします」
姫様だけが、話についてこられないようで、オロオロとしだします。
「姫様。この二人は、仲間です。先程、ステファナ嬢が話した内容は、姫様ではなく、姫様を監視していた者たちに向けたセリフです」
「!!」
姫様のびっくりされた顔を見て、モデストは満足した表情を浮かべる。どうして、旦那様といい。人がびっくりする表情を見るのが好きなのでしょうか?私も、嫌いではないので、困ってしまいます。奥様だけは違うようですが・・・。
「それで、モデスト。監視者は?」
「森に入っていきました。予測通りかと・・・」
「わかりました。そちらは、旦那様にお任せしましょう」
「不本意ですが・・・」
「はい。旦那様の予想通りだったのですが・・・」
旦那様がモデストに伝えていた内容が、現状を説明している。
当たって欲しくない”予想”が当たってしまった。
「それで、姫様。治療を始めますがよろしいですか?」
私の言葉に驚いているのは、姫様だけだ。
「姫。ステファナ嬢は、初めから治療を行う予定でした」
エクトルが説明をするが、まだ納得できていないようだ。
「姫。ツクモ様から、治療をする前に、監視者が居る可能性を指摘されていました」
姫様が、エクトルに何か伝えているようだ。
「はい。監視者です。草原エルフやお兄様ではありません。森エルフや川エルフの連中です。ツクモ様からは、監視者が居たら排除してから治療に当たるように言われています」
旦那様からは、私たちの情報は出さないようにするように言われている。
スキルも、カード状態で使ったように思わせるようにしなければならない。固有スキルを持っていると判明してしまうと利用価値が上がってしまう。それだけは、避けなければならない。
「そうです。姫。ステファナ嬢も、ツクモ様も、最初から助けるつもりで居たのです。先程は、森エルフの連中が、里の者を使って監視をしていたので、偽情報を掴ませるために、一芝居をうったのです」
姫様は驚きの表情を見せる。
最初に見たときには、お人形の様に感じたのだが、エクトルと話をしていると、表情が豊かな女の子に戻っている。エクトルの表情も、柔らかいものになっている。多分、姫様に見せている表情が、エクトルが持つ本来の表情なのだろう。旦那様は、これを見たかったのだろう。
「ステファナ嬢。いえ、ステファナ様。姫様の治療をお願いします」
「いいのですか?診断を使うと、貴女のスキルが見えてしまう可能性があります」
私は、確認のために姫様に問いかける。
姫様は、まっすぐに私を見てから頷いてくれた。
治療は、声に出しながら行う様に言われている。
モデストがメモを作成する。旦那様から、同じ様な症状で苦しんでいる人が居た時に、役立てられるように診断と治療を行う時にはメモを作成するように言われている。エクトルは姫様に簡易的な説明を行いつつ、診断と治療の過程を説明している。
「え?」
「どうしました?」
私が発した声に、モデストが慌てて近づいてきます。
エクトルを見ると、感じ取ってくれたのでしょう。姫様の注意をそらしてくれます。
小声で、治療を行った結果を伝えます。
「呪いですか?」
「はい。最初は、話していた通りに、毒で喉を焼かれていました。他にも、徐々に蓄積された澱みのような毒が見られたので、排除しました」
「はい。それは、記憶しています」
「最初に、診断した時に、判明した箇所の治療を終えたので、全体をもう一度診断しようとおもいました」
「そうですね。メモにも、一つ一つの毒を潰していく様子が残されています」
「はい。確認をしようと、もう一度診断を起動したら、診断が弾かれました」
「弾かれた?」
「言葉通りです。診断を実行したら、”呪いがあり診断出来ない”と結果が出ます」
「・・・。そうですか、私が、解呪ができないか試してみます」
「何か策があるのですか?」
「はい。旦那様から、レベル8浄化を頂いています。レベル4解呪もありますが、診断が弾かれるような呪いだとしたら、解呪では難しいでしょう」
「そうですね」
「エクトルには、後で説明しますが、姫様には”毒の澱みを浄化する”ためといいましょう」
「そうですね。呪いがわからないのでは、対策が考えられないですからね」
モデストが、エクトルを呼び寄せて事情を説明します。
エクトルが、私を見てきますが、うなずくだけで意味が通じるでしょう。
大きく息を吐き出してから、姫様の所に戻りました。
「モデスト。頼む。解呪してくれ、姫の呪いを解いてくれ」
エクトルは、はっきりと”呪い”と宣言してしまいました。
多分、エクトルには姫様を呪ったのが誰なの検討がついているのでしょう。姫様も、エクトルの宣言を聞いて驚いた表情をしたが、はっきりと意思を固めた表情をしました。今までのほんわかした雰囲気も可愛かったのですが、表情を改めると”姫”と呼ばれる意味がわかります。奥様には、2歩ほど及びませんが十分に綺麗な女性に育つことでしょう。
ツクモ様が、奥様を変えられたように、姫様と寄り添ってくれる男性が現れることを祈ってしまいます。
今まで会った草原エルフの男性陣では難しいでしょう。旦那様とまでは言わないけど、ルート殿くらいの人物は居るのではと・・・。少しだけ期待していたのですが・・・無理なようです。それどころか、エクトルがかっこよく見えてしまうのです。草原エルフには、人材の確保という側面では得るものはなさそうです。
楽しみにされている旦那様への報告を考えると、今から頭がいたいです。
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