【第七章 神殿生活】第十五話 王都へは?
神殿での役割が決まって、これからの事を決める前に、王都の奴隷商の所に行こうかと思っていた。
王都の様子も気になる。
教会勢力と宰相派閥とローザス派閥。それに、王族を指示する派閥が複雑に絡み合っている。正直、神殿に影響がなければ放置でもいいと思っているが、どうやら宰相派閥の中に、俺たちの”敵”が居るらしい。教会勢力も、いくつかに分断されている状況で、こちらに手を出してくるか解らない。友好的なのか、敵対的なのか、その時の状況次第だろう。
数日は、神殿で皆に意見を聞きながら調整を行っていた。
俺が、神殿の調整を行っている最中に、ロルフとミトナルが、森の廃墟を作り終わったと報告してきた。
俺は、アデレードやルアリーナとイリメリと一緒に廃墟の確認に向かった。
森の出口までの街道もいい感じになっている。
所々、道が途切れるようになっている。他にも、木々に覆われていたり、土が露出していたり、風化しているようになっている。ミトナルの力作だと説明された。廃墟と言っているが、少しだけ手直しをしたら住めるくらいには整えてある。
道の終着は、木々に覆われて、岩で塞がれる形になっている。
本当に、こんな形で今まで眠っていたかのように思えるから不思議だ。
アデレードもルアリーナもイリメリも感心している。
廃墟の周りは、魔物が出ないようになっている。
街道も、街灯になるような物が存在して、その周辺には魔物が入らないようになっている。街道には、強い魔物は入って来られないように設定が行われている。弱い魔物でも、俺やミトナルは余裕だが、アデレードでは対処ができない。今のルアリーナも難しい。多少、訓練を積んだイリメリだと1体だけなら対処が可能なのだと教えられた。
これ以上に弱い魔物だけを通すのは難しいので、ここは訓練をしてもらう事になる。
イリメリは、ここから隠れている人たちに話をするために、神殿から離れることになっている。
「リン君。行ってきます」
イリメリが俺の所に来て挨拶をする。
「イリメリ。無理しなくていいぞ?人が居なければ、俺の眷属に廃墟は任せる事にする」
「うん。解っている。廃墟はいいとしても、アロイ側は人が居ないとダメでしょ?」
「まぁそうだけど、王都に居るアッシュに依頼してもいいからな」
「うん」
「まぁ無理するな」
「わかった」
あの表情は、自分だけ何も出来ていないのを気にしている時の表情だ。
白い部屋での事を気にしているようだけど、俺はあれがあって、覚悟が決まった。瞳の言葉にはびっくりもしたし傷ついた。だけど、瞳は瞳でギリギリだったのだろう。皆がギリギリの中で、俺だけ・・・。違うな。冷静なのは、もう一人居たな。まぁあの中でも、俺が冷静になれたのは、瞳の言葉がきっかけになった。瞳の本心なのか解らない。今は考えない。決めなければならない時に、聞けばいい。
それに、俺はもう別の方法を考え始めている。
その為にも、イリメリにも協力してもらう必要がある。イリメリだけではない。他にも、フェナサリムにも、サリーカにも、タシアナにも・・・。まだ、解らないことが多い。だけど、少しだけ解ったことがある。はっきりしたら、皆にも意見を求めよう。
そして、協力を求めようと思う。その為にも、俺が力を付けなければ・・・。
俺との挨拶の後に、アデレードとルアリーナにも似たような挨拶をしてから、イリメリは走り始めた。
神殿の仲間たちには挨拶を済ませてあると言っていた。
イリメリを見送って、俺たちは、神殿に戻ってきた。
戻るのは、俺がロルフに指示を出せば、転移の発動ができる。神殿の領域内という条件があるが、便利だ。
「リン様」
神殿に戻ってきて、皆に合流するために、歩いていると、アデレードが話しかけてきた。
「アデー?」
「はい。先ほどの、話の中で出た、”アッシュ”は、奴隷商の”アッシュ=グローズ”ですか?」
「そうだ」
「それなら、お兄様の・・・」
アデレードが言い難そうにしているので、抵抗があるのか?
違うな。アデレードの表情から、話しにくいという表現が正しいか?
もしかしたら、ローザスの秘密の暴露になってしまうことに抵抗があるのだろう。
「あぁ言わなくてもいい。なんとなく、想像ができる」
言わなくても解る。
ハーコムレイがアッシュの店を進めてきているのだし、繋がりがあるのは最初から解っている。
ローザスが抱えている部隊の独りなのだろう。
「はい」
アデレードには、全部を言わなくてもいいと伝えておく必要があるかもしれない。
言えない事や、言い難い事は、最初に”言えない”や”言い難い”と言ってくれた方が嬉しい。話が進められる。そして、俺たちの想像が間違っていなければ問題にはならない。知らなくても、話はできる。
「それで?」
「はい。彼を、神殿に誘致してはどうでしょうか?」
誘致?
「は?」
誘致が出来れば、戦力という意味では大きな前進だ。
今のところ、転生者とアデレードと護衛してきた者たちと、セトラス商隊と、タシアナの弟妹が居るだけだ。
セトラス商隊は、情報収集という意味では、大きな組織だけど、貴族家との付き合いがあるアッシュが入れば、大きく前進ができる。ルアリーナやアデレードの情報だけでは、裏の情報まで入ってこない。
「彼の商売は、忌避されやすいのですが、彼がやっている奴隷商は、教育を行う上に、買う時にも条件を付けるほどです」
「・・・。わかった。アデーが行くのは、無理だな。どうするか・・・」
話を横で聞いていたルアリーナが、ニコニコしながら話に入ってきた。
「リン君。それなら、タシアナとサリーカを王都に送り込めば?」
タシアナとサリーカ?
二人なら、情報収集の意味では大きな戦力だけど、アッシュとの接触や交渉には不向きだと思う。
アデレードは、”それはいい考え”みたいな表情をしている。
「ん?なぜ?」
ルアリーナの提案の意味が解らない。
二人だから・・・。
「護衛として、着いて行くのか?」
サリーカのセトラス商隊の一部として着いて行くのか?
「はい」
いい笑顔で、ルアリーナが頷いているけど、大丈夫なのか?
「大丈夫だと思いますよ?」
今度は、アデレードが話を引き継いで、問題が無いように言ってきた。
「なぜ?入る時には、検閲が発生するのだろう?」
「はい。ですが、セトラス商隊なら大丈夫です」
「ん?あぁローザスの力か?」
「はい」
ローザスの力を示せば、王都の門番程度なら軽く通過ができるだろう。
セトラス商隊が楽に王都に入ってくるのにも事情があったのだな。何度も使える手ではないと言っているので、裏技みたいな方法なのだろう。
「わかった。タシアナを連れて行くのは?」
二人は顔を見合わせる。
「私だけで、アデレード殿下を守るのはおかしいでしょ?」
「ん?あぁ従者という立場なのか?」
「うん。正確には、タシアナとサリーカが主人で、私たちが二人の従者になる」
不思議な表現だ。
「え?」
考えてみれば、ルアリーナとアデレードは王都に居ないことになっている。
実際に、神殿にいるわけだが、今は身代わりがミヤナック領に向っている。ミヤナック領に向かっている二人が王都に現れたら・・・。
「フェムは、王都では顔を知られている可能性があるでしょ?」
確かに、フェナサリムは王都にある宗教都市の入口近くにある宿屋兼食事処の看板娘だ。
それなら、王都で暮らしていたタシアナも・・・
「それは、タシアナも同じ・・・。あぁそうか、今のタシアナを見て、パシリカ前のタシアナを連想するのは無理だな」
俺たちの中で、パシリカの前と後で大きく変わったのは、タシアナだろう。
施設での生活から抜け出して、服装だけではなく、いろいろ変化した(らしい)。父親のナッセが言っている。
「でしょ?」
今度は、アデレードが置き去りになっている。
でも、ルアリーナの言っている事は解る。
「それで、リン君?」
「ん?」
「私たちに眷属を紹介して!」
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