【第二十二章 結婚】第二百二十五話
やっと落ち着いて結婚式とパーティーの準備に取りかかれそうだ。
「旦那様」
「スーンか?」
「フラビア殿が来られています」
「わかった。執務室に通してくれ」
「かしこまりました」
フラビアだけで来たのか?
何か有ったとは思えないから、リカルダと別行動をしているのだろう。
執務室で待っていると、ドアがノックされる。
スーンが先に部屋に入ってきた。
すぐにフラビアが入ってくるかと思ったのだが、メイドたちが荷物を持って入ってきた。
「ん?」
最後にフラビアが大きな荷物を持って入ってきた。
「フラビア?」
「ツクモ様。シロ様が結婚式で着る服の見本ができました」
「見本?」
「はい!」
すごく嬉しそうにフラビアがうなずく。
スーンが首を横にふる。助けてはくれないようだ。持ってきた、メイドを見てもダメだ。フラビアの味方をしているようだ。気がついたら、スーンがフェードアウトしてしまっている。
ため息が出そうだったが、我慢した。
長くなりそうだ・・・。
フラビアが持ってきていたのは、相談されて教えたマネキン(ミニサイズ)だ。一人一体持っているようだ。
数はそれほど多くない・・・と信じたい。無駄な努力だとはわかっているのだけど・・・。
執務室では狭くなって全部を並べる事ができそうに無いので、食堂に移動する事にした。
「それで、フラビア。何体ある?」
「候補を絞りまして、全部で16体です」
「シロに選ばせる・・・のはダメなのだな」
「はい。ツクモ様がお選びください」
「わかった。並べてくれ」
ため息が出てきそうだ。
それに縮尺が有っているのかわからないのに、選ぶことができるのか?
すごく精巧に作ってあるな。
そう言えば、リカルダに頼まれて”スキル縮小”を付けた道具を渡したのだったな。
原寸で作って、縮小したのだな。
「フラビア。それに、メイドの意見を参考までに聞きたい」
「ツクモ様。参考なのですよね?」
「あぁ参考にするだけだ」
「わかりました」
フラビアが選んだのは、左から二番目のゆったりとしたドレスだ。
違いはわからないが、どこかいいのだろう。
メイドたちもそれぞれ選んでくれた。
票が固まらなかった。
膝丈のドレスを選んだのは一人も居ない。
全員が、ロングドレスだ。だったら、なんで、短いスカートのドレスを作ったのだろうか?
「なぁフラビア。ロングドレスがいいのだろう?」
「はい」
「それなら、なんで短いスカートのドレスを作った?」
「リカルダからのリクエストです。シロ様のお足が綺麗なので、出したほうがいいという事でした」
「そうか・・・」
「なぁフラビア。通常の式はどのくらいやる?」
「それはどういう意味でしょうか?」
「あぁ・・・。時間的に、1時間なのか2時間なのか・・・だな」
「身分によって違います」
「そりゃぁそうか・・・。シロだと、どの位が妥当だと思う?」
「え?」
「だから、式だよ」
「えぇ・・・と」
フラビアが辺りを見回した。
「旦那様。結婚式の場合は、身分の高い方に合わせるのが一般的でございます」
「だから・・・。あぁ・・・。そういうことだな。シロではなく、俺の身分という事だな」
「はい。しかし、旦那様のご身分は大陸の支配者です。前例がありません。前代未聞です。元老院でも決めかねているようです」
「そうか・・・。短いのはダメなのだろう?」
「はい」
「長すぎるのは疲れるし、俺が面倒に思えてくる」
「そうですか?」
「元老院に任せると、1週間とか言い出しそうだな」
「え?」
「どうした?」
「その位が妥当だと思っていましたが、短いですか?」
「反対だ。長い。1週間もやっていられるか!」
「え?長いですか?」
「あぁ長いと思わないのか?」
「はい。多分、元老院からは2ヶ月と打診が来ると思います。そのために、ドレスも数種類選んで、その中から毎日違う感じにアレンジしていくつもりでいました」
ダメだ。
俺の感覚と違いすぎる。
フラビアが説明をしてくれているが、どうやら2ヶ月まるまる行うわけではなく、俺が思っている披露宴と思えるような事は人を変えて数回に分けて行う事になるだけで、昼間は順番に祝辞を受ける事になる。週の終わりに、披露宴が行われると流れになるのだと説明を受けた。
それなら、なんとか納得できるかもしれない。
式のような物は行わないで、ひたすら謁見と披露宴の繰り返しになるのだという。
二転三転しているが、フラビアを通して、元老院にこの方式なら問題ないと告げる事にする。
あとは、来客?の人数によって日数を変えればいいだけにしておきたい。
「フラビア」
「はい」
「元老院への連絡を頼むけど、その時に謁見の時間を午前に1時間と午後に2時間にしてもらってくれ」
「かしこまりました。でも、日数が伸びてしまいますがよろしいのでしょうか?」
「どうしても、日数は必要だろう?でも、最長で1ヶ月だ。それ移譲は認めない」
「はい」
「飛び込みもあるだろうから、余裕を持っておいて欲しい。謁見の時間で調整してくれ」
「そのように伝えます。それで・・・」
「ん?あっそうか、ドレスだったな」
「はい」
フラビアの選んだドレスと、膝丈のドレスを1つ選択した。
「ツクモ様?」
「どうした?」
「あと、6着ほど選んでいただきたいのですが?」
1ヶ月・・・。4週間で、ドレスを8着?
「わかった」
ん?
そうか・・・。
「フラビア。謁見の時には、ロングドレスで、パーティーの時には膝丈のドレスとかでもいいのか?」
「はい。問題はありません」
「それなら、この見本を全部にしてくれ」
「よろしいのですか?」
「あぁいろいろ諦めた」
「わかりました!」
「あ!そうだ、もう一度言うけど、ロングドレスは謁見の時で、膝丈のドレスはパーティーの時だからな」
「承りました」
フラビアとメイドたちがマネキンを片付けて部屋から出ていった。
やることがだんだんなくなってきている。
少し料理の開発でもするか・・・。
久しぶりに、洞窟に行く事にした。
洞窟には、モンスターをハントする場所で訓練をしていないエリンとペネムとティリノとチアルとシャイベが集まってきた。
他の眷属は、カイとウミが訓練しているという事だ。
「エリン?」
「カイ兄とウミ姉が、種族特性にあった訓練をすると言っていたよ」
「そうなのか?」
「うん。特に、カイ兄が怒っちゃって大変だった」
「カイが?」
「うん。あっ内緒だって言われていたけど・・・。いいか!」
「エリンから聞いたとは言わないから、大丈夫」
「それなら大丈夫かな?」
エリンが教えてくれたのは、それほど難しい話ではなかった。
皆がある程度の敵と対等に戦えるようになってきたのだが、(カイ曰く)力で攻めているだけで、美しくないという事だ。
種族特性が有るのに、それを活かさないでスキルとステータスで力押しの戦いになってしまっているという事だ。
今はまだ通用しているので問題ではないが、新種には苦戦するのは目に見えている。もしかしたら、対応できるのは、カイとウミとライだけだろう。
チームで当たれば負ける事は無いだろうが、勝てるとは思えない。
そのために、カイが眷属を鍛える事にしたようだ。
「エリンは大丈夫なのか?」
「僕?」
「カイから訓練に参加しなくていいと言われたのか?チアルたちはわかる。戦闘向きじゃないからな」
「うーん。カイ兄が言うには、僕は、竜形態になる訓練をすれば大丈夫だといわれたの!」
「・・・。大丈夫か?」
「うん。主を連れて逃げる事ができるようになればいいと言われた。その後で、竜族を連れて反撃して欲しいと言われた」
確かに、エリンが居れば援軍を連れて戻る事もできそうだ。
ダンジョン・コアがそこに付随すれば逃げてからの逆襲も可能だ。
新種の全貌が見えないから確実とは言えないけど、エリンなら負ける事は無いだろう。勝てるのかはわからないが単独でも逃げる事ができるだろう。そこが他の眷属と違うところなのだろう。
よし、考えない。
カイとウミに任せよう。ライは・・・。無理だな。でも、訓練に参加しているところを見ると何かをしているのだろう。
オリヴィエが戻っているだろうから、問題は無いと思いたい。
「エリン。それじゃ、料理を作るから手伝ってくれるか?」
「うん!」
「チアルもペネムもティリノもシャイベも手伝ってもらうぞ」
「「「「かしこまりました。マイマスター!」」」」
何か違うが、コアの全員が敬礼するような格好をする。
「それで、何を作られるのですか?」
シャイベが代表して聞いてくるようだ。
確かに何を作ろうかな?
今までは、食事になるような料理ばっかりだからな。甘味は別にしたら、摘めるような物が少なかった。
「そうだな。パーティー用の料理でも作るか?」
「わかりました。私たちは記憶を行います」
「記憶?」
「はい。当日に、料理を作る者が居るので、マスターの手順を教えなくてはなりません」
「・・・。そうだな。頼む。試行錯誤すると思うけど頼むな」
手伝いが必要だな。
エリンでは手伝いにならない、試食係だろう。
「エリン。メイドを数名呼んできてくれ」
「わかった!」
エリンが部屋から出ていって、キッチンになっている場所に移動した。
メイドは、ログハウスに居るだろうから、それほど時間もかからないだろう。
まずは、パーティー料理で思いつくのは、大皿料理だな。
ん?大皿料理?立食パーティーなら、汁物は避けて、揚げ物や焼き物を用意すればいいのか?
そうなると今まで作ってきたもので十分だな。
甘味はもう十分だろう。あとは、小さくして盛り付けを考える事を考えるか?
エリンがメイドを連れてきて、細々とした話をしたが、パーティーの形態がわからないということなので、リカルダを呼びに行ってもらう事にした。
そうなると場所が洞窟では手狭になるので、ログハウスに移動する。
「ツクモ様。お呼びと伺いましたが?」
エリンがリカルダを連れてキッチンに入ってきた。
「悪いな。パーティーの時の料理に関して教えて欲しくて来てもらった」
「え?」
「パーティーをやるよな?」
「そうですね」
「その時の料理はどうするのがいい?立食パーティーで考えればいいのか?」
リカルダが説明してくれたのは、俺が思っている披露宴のスタイルと同じだった。
招待客に料理を順番に振る舞うという物だ。
「それだけ出席者の人数が解っていないと料理が作られないよな?」
「そうですね」
やはり、育った環境でいろいろ方式が存在しているのだろう。
意見を聞いていたら、進めなくなってしまう。
「なぁリカルダ。パーティーだけど、立食にしてもいいよな?」
「問題ないと思います」
「よかった。そのつもりで、シロの衣装を決めたからな」
「そうなのですか?」
「あぁどうせ、俺とシロは料理なんて殆ど食べられないだろう?」
「そうなると思います」
「立食なら、誰かに持ってきてもらって話しながら摘んだりできるだろうからな」
「そうですね」
「それで料理だけど、大皿料理を考えているけど、問題はないよな?」
「大丈夫だと思います」
自分だけが恥をかいたり、バカにされたりするだけなら気にしないけど、シロや身内だと思える人間が馬鹿にされるのは避けられるのなら避けたい。
大皿料理で行こう。
大皿料理の説明をして、とりわけが簡単な方法を皆で考える事にした。料理は、今まで俺が作った物や郷土料理?をアレンジしていく事にした。
とりわけが簡単な道具の開発もしなければならない。料理が冷めないようにするスキル道具の開発もしなければならない。スキル道具は、俺が作ればいい。あまりやりすぎないようにしようとは思うが、自重すべき事柄でもないと開き直る事にした。
メイドが料理を作り始めている。リカルダも手伝ってくれるようだ。エリンは試食係に抜擢されて、座って待っている。
料理もただ小さくしたり、大きくして切り分けたり、大量に盛り付けたりするだけではあまりにも面白くない。せっかくの大皿料理なので、模様を作るように指示をする。
カイとウミとライをデフォルメした図柄を渡して、大皿に料理で表現してもらう。3人を選んだのは、俺に取ってやはりカイとウミとライが大事で家族だと思える身体。それに、この場にいないので文句を言われなくて丁度いい。
「主!」
「どうした?」
「エリンとコアも作っていい?」
「コアは?球体だろう?」
「ううん。今の姿!」
「いいよ。デフォルメした姿で表現してみればいいよな?」
「うん!」
エリンが嬉しそうにパタパタした足取りで戻っていく。
簡単に竜体をデフォルメした姿を書いてから、クローン・コアの状態を書いておく。
こうなると当然・・・
「旦那様」
やっぱり・・・だ。メイドの一人が遠慮しながら声をかけてきた。
「わかった、エントとドリュアスの姿も作ろう」
「ありがとうございます!」
ここまでやったのなら、フォックスとイーグルとアウルも書いて置かなければダメだろう。
人族は断念してもらって、眷属達をデフォルメした状態で書いておく。あと、リッチも料理には不適格だから止めておこう。
料理研究という形になってしまったので、ログハウスのキッチンはメイド以外は完成するまで立入禁止となってしまった。
メイドは、エリンにも遠慮がちながら口止めをしていた。当日、カイやウミやライを驚かせたいと言ったので、エリンも賛同してくれたようだ。
料理とパーティーとドレスの問題が片付いた。
会場は、迎賓館でいいだろう・・・と言うよりも、迎賓館以外に考えられない。
そろそろ、一旦シロの様子を見に、ロックハンドに行ってみるか?
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