【第十一章 飛躍】第百十一話

 

作者注) この第十一章は、カズト・ツクモ 視点で書かれています。

バカ二人と一緒に居た者たちを”ペネム街が支配下に置いた街”への出入りを禁止した。
それを聞いたバカ二人は安心して、ユーバシャールに帰っていった。

既に、ワイバーンを飛ばして、バカ二人を出禁にした事は伝達済みで、バカ二人の取り巻き商人や冒険者たちも総て素性が割れて、ユーバシャールにある商店や家、総ての財産に関してユーバシャールの行政で没収している。

石壁の向こう側まで、馬車に詰め込んで運んでやる事にした。そこからは徒歩で歩いて、ユーバシャールに到着して唖然として欲しい。そのときの顔が見られないのは残念だけど、その後どうするのかなんて俺の関与しない所だ。盗賊にでもなってくれたら、殺す理由ができるので嬉しいのだけど・・・な。武器もスキルカードもない状態で何ができるのか見てみようと思っている。

「スーン。ヨーン。他に何も無ければ、俺たちは帰ることにするぞ?」
「大主様。少しお時間を頂きたいのですが?」
「いいけど、後で執務室に来てくれてもいいぞ?」
「かしこまりました。執務室にお伺いしたします」

何やら、影シロが影フラビアと影リカルダと話をしている。
ヨーンも、急務は無いという事なので、影武者をドリュアスに任せて、意識を戻す事にした。

「シロ。先に」「ツクモ様。少し待ってください」

影フラビアに呼び止められた。

「どうした?」
「はい。この影武者なのですが、今後も使ってよろしいでしょうか?」
「いいけど?なんで?」
「私も、リカルダも姫様も、今日の様な事があれば影武者でツクモ様の護衛をしたいと考えています」
「そうだな。護衛が必要になる様な事は少ないと思うけど、問題ないよ」
「ありがとうございます。それと、影武者の管理なのですが、どうするのがよろしいのでしょうか?この前の姫様の様な事がありましたら・・・その・・・」

俺の影武者が、影シロと一緒の部屋で全裸に寝かされていたときに、目が覚めてお互いに獣の様に求めたヤツだな。俺が意識を移す前に、シロが意識を移して、記憶がフィードバックした奴だよな。あれから、暫くシロは操作ができなかったからな。影武者の記憶を消す事で、操作はできるようにはなったけど・・・。
影武者たち快適食って寝る生活に過ごさせると簡単に太るのだよな。運動させるにしても、できる事が少ないのだよな。

影武者を複数作るとかできないかな?

「そうだな。少し考えてみるか?」
「お願い致します」

影フラビアが頭を下げてから、近くのドリュアスに話しかけている。
影武者をお願いするのだろう。俺も、近くのエントに影武者をお願いする事にした。

スキル操作の影響を徐々に弱めていく、いきなり切ると影武者がいきなり転んでしまったりする為だ。

意識が戻っていく。
ベッドの中に居るのは間違いない。左半身だけがやけに温かい。それに、左腕が少ししびれている感覚がある。
初めてではない過去に何度か経験しているので、不思議には思わない。

「シロ?どうした?」

なぜか、シロがベッドではなくソファーに座っている。
”酔った”のかも知れない。急に意識を戻すと、身体が認識していない動きになってしまって、感覚と身体の不一致が発生して酔った時の様な状況になるのだ。

「カズト様。大丈夫です」

「大丈夫と言っているから信じるけど・・・無理するなよ」
「えぇぇわかっています。大丈夫です。少し興奮・・・いえ、本当になんでもないです」

「そうか、スーンが話があると言っていたけど、シロはどうする?」
「えっ・・・僕も居ていいのかな?」
「ダメなら、スーンが言うだろうし大丈夫じゃないのか?」
わかりました。側に居ます」
「たのむ」

二人で執務室に移動する。
シロのいいところは、こういうときに一歩下がっている所だ。俺としては、別に構わないとは思っているが、周りから見たときに、シロは出しゃばらないで俺を立てているように見えるのだと言っていた。
フラビアやリカルダあたりの教育なのかも知れないが、姫様として育てられたのに、こういう態度が取れるのは純粋にすごいと思えてしまう。

「大主様。お時間よろしいですか?」
「大丈夫だ」
「ありがとうございます」

スーンが執務室に紙の束を持って入っていた。
珍しい事ではないが、スーンの手元を見ると珍しい事に気がつく。”紙”が和紙の様な物なのだ。

そうか、前に実験の指示をしていた物がある程度の成果が出たのだな。

「スーン。それは、”紙”だな」
「はい。大主様から実験の指示がありました物です。いくつかの方法と素材で試しました物になります」
「ありがとう。そうだ、シロ。フラビアとリカルダを呼んでくれ、彼女たちの意見も聞きたい」
「はい!」

ソファーに場所を移して、スーンが持ってきた紙の確認をした。
素材によって手触りが違っている、製法や手順に寄っても若干の違いが出ている。

「スーン。全部再現は可能なのだな」
「はい」
「この中で量産に向いているのはどれだ?」
「七番と九番です」

スーンが言った物は、七番は手触りはいまいちだが色が綺麗な物だ。九番は逆で色は”わら半紙”の様な感じだが手触りが一番といってもいいくらいに滑らかなものだ。

「試し書きしても大丈夫か?」
「もちろんです」

シロが俺が使っている机からインクとペンを持ってくる。数字を紙の上に書いていく。
インクのにじみが少ないのは、七番か・・・九番は引っかかりという意味ではいいのだけどな、インクが滲むよな。

使い所だろうな。

「どうだ?」

紙を触っているシロとフラビアとリカルダに声をかける。

「カズト様。これは、どうやって?」
「あぁ」「ツクモ様!姫様も、そんな軽々しく製法をお聞きしてはダメです。ツクモ様も簡単に教えようとしないでください!」

フラビアに怒られてしまった。
今更のような気がするけど、フラビアが説明してくれた内容を聞くと違ったようだ。

今まで、シロたちに開示してきたのは、”俺のスキル”に依存している事がほとんどだ。ワイバーンやバトルホースの繁殖も、始まりは俺のスキルから出ていると考えていたようだ。
しかし、”紙”に関してはスキルは関係なく製法を公開すれば、”誰にでも”努力次第で作れてしまう。そういう誰でも作る事ができるものを軽々しく公開しないほうがいいと言うのが、フラビアの意見だ。

「うーん。フラビア」
「はい」

そんな神妙な顔しなくていいのだけどな。

「お前たちは、俺を裏切るのか?」
「いえ、そうではありません」
「うん。わかっっている。俺が軽々しく、製法を口にするのを諌めてくれたのだろう?」
「・・・はい。余計な事だとは思いますが・・・」
「ありがとう。でも、今回は大丈夫だ。製法と一緒に広めようと思っている」
「・・・そうなのですか?」

製法は公開するが、素材は公開するつもりはない。試行錯誤をしてもらおうと思っている。
それに、同じ製法で同じ素材を使ったとしても、技術がなければいきなり同じ水準の”紙”を作る事ができない。スキルで真似しようにも、スキルは一切使っていないからな真似のしようもない。

その上、九番の素材はエントの皮を使っている。
七番は、ブルーフォレストに一般的に生えている”桑の木”に似た物いくつか自生していたので、栽培と同時に”紙”の生産を実験させていた。今出回っている”麻”を使った紙よりは品質も色もいい物ができた。

「スーン。それじゃ後は任せていいな。七番と九番を量産。サンプルはもらっていいな?」
「はい。大丈夫です」

一礼してスーンが執務室から出ていく。

「リカルダ」
「はい!」
「七番か九番だけどな。量産ができたら、アトフィア教にも流そうかと思うけど需要はあるか?」
「もちろんです。今の物よりも綺麗ですし、持ちもいいのですよね?」
「そうだな」
「値段次第だとは思いますが、かなり置き換えが進むと思います」
「わかった。それなら、値段を今の物と同じ位になるようにしても大丈夫だな」
「・・・ツクモ様?」
「どうした?」
「今のお話ですと、今の物よりも安く出せるという事ですか?」

さすがはリカルダ・・・咄嗟の事だけど理解できたようだな。

「そうだな。スーンの試算待ちにはなると思うけど、今の物と同じサイズが1/10程度になると思うぞ?七番や九番がやすいのではなく、今の物が高いのだけどな」
「それは・・・かなりの安さですね」
「あぁだから、いきなり大量に出しても市場が困るだろう。だから、少し安い位で最初は出して徐々に安くしていこうと思う。アトフィア教の穏健派には最初から目的の売値で渡して、利鞘を稼いでもらおうかと思うがいいよな?」
「・・・はい。大丈夫だと思います」

”紙”という文化を浸透させて、いきなりその供給を断つ。
他にも、いろいろと今の物よりは優れている事を開発して、武力以外の戦争をふっかける事を考えている。アトフィア教ではなく、他の大陸に対しての牽制という意味もある。

その最たるものがスキル道具だ。
魔核にスキルを付与するのは昔から行われている。俺たちは、その組み合わせで便利な道具を作っているだけだ。スキル付与の失敗が少ない為に、同じ品質のスキル道具が低価格で大量に提供できる強みを持っている。

真似しようにも、聞いた方法では絶対に真似できない。
スキルの付与の成功率が、2割弱だと言っていた。そのため、詐欺の代名詞になってしまっているようだ。俺は、スキルを付与できる魔核がわかる為に、成功率が九割超えだ。俺が行う場合にはほぼ十割失敗していないだ。俺が、魔核を振り分けるという面倒な事をしているからだが、それでもスキル道具が値段と品質では負けないと思っている。

武器と防具の品質も上がってきている。
ダンジョンに潜る冒険者が増えてきた事もあり、武器と防具を買い求める者が増えてきた。命を預ける物のために、腕が悪い鍛冶職人は淘汰されている。自然と腕がいい者だけが残っていく。
シュナイダー老とゲラルトの推察では1年もしないうちに供給が需要を上回るかもしれないという事だが、そうしたら今は禁止している武器と防具の輸出を始めてもいいだろう。今でも、リヒャルトには少しだが許可している、売れ行きは上々だと報告がきている。

「ツクモ様」
「どうした?」

フラビアか?

「そもそも、アトフィア教をどうされるのですか?」
「どう?うーん。別に、どうもするつもりは無いよ。俺たちにちょっかいをかけたりしなければね」
「・・・それは大丈夫ですが?教会の設立まで許可していただいて居ますし、司祭からは活動の報告が来ています」
「フラビアの方に報告が行っているのだな?」
「はい。それで、方針をどうしたらいいのでしょうか?」
「うーん。穏健派の人たちがやっているような活動でいいよ」
「それでは、人族が優秀で・・・などと教えを説く事になりますが?」
「別にいいよ。優秀だから何をしても大丈夫などと思って何かしたら手痛いしっぺ返しを喰らうだけだろう」
「そうですね」
「それに、司祭が優秀なら、そういった者が出たときに、”世間”がアトフィア教に向ける視線が強くなる事を考えてくれるだろうからな」
「・・・はい」
「だったら、特区として認めるだけの価値は有るよ」
「わかりました」
「それに、俺は別に獣人を保護しているわけじゃないし、人族が嫌いなわけじゃないからな。アトフィア教も同じだ。全員が全員、一部の愚かな者たちと同じ考えを持っているとは思っていないし、ギュアンやフリーゼの様に心の拠り所にしていた者たちも大勢居るのだろうからな。それをいきなり”攻めてきたから”という一部の強欲な者の為に、信仰まで否定するのはおかしいと思っているからな」

どうした?
フラビアもリカルダも泣きそうな顔をして・・・。

「ありがとうございます」
「・・・あっぁぁ」

なぜかすごい圧を感じる。
話を変えないとヤバそうな雰囲気が出始めている。フラビアやリカルダは、嫁とかいう話はしてこない。シロも同じだ。最近は、3人の影響なのか、行政官たちも、獣人の長たちも、眷属たちも、嫁とかいう話をしてこなくなった。すごくいい傾向だ。
フラビアやリカルダには是非残って欲しい。もちろん、シロもだ。名前まで捨てたのだから、しっかり面倒は見たいと思っている。それに、シロはどんどん可愛くなっていくよな。年齢的には年上だけど?・・・なぜか放っておけない。

「そうだ。シロ!」
「あっはい!なんでしょうか?」
「神殿区に行ったようだけど、いい子は居たか?」
「皆素直でいい子ですが・・・」
「言葉を飾らないで話してくれ」
「はい・・・まだ大人を怖がったり、男性を避けたりする者が多く、私たちの従者には向かないと思います」
「そうか・・・克服した者たちは、ワイバーンやバトルホースの繁殖に取られてしまったからな」
「・・・はい。でも、私やフラビアやリカルダの従者は必要ないと思いますが?」

フラビアとリカルダも同じ感覚なのだろうが、俺としては、二人はともかくシロには従者を付けたいと思ってる。

フラビアとリカルダには、ワイバーン隊(仮称)とバトルホース隊(仮称)から従者を選べばいいとは思っている。そして、フラビアとリカルダにもバトルホースかワイバーンを与えれば、個々の能力がクリスやリーリアに及ばなくても対等には渡り合えるようになるだろう。念話も使えるから、相性がいい個体さえ見つかれば大丈夫だろうと思っている。誰かが裏切るとは思っていないが、その場合でも対抗勢力は作っておいたほうがいい。

シロは眷属化のスキルを付与しているから、魔の森に連れて行って、相性が良さそうな眷属を見つけるつもりでは居るけど、従者が1人もつかないのは何かと問題が発生している。
最近では、シロは俺の傍らに控えて、秘書の様な状態になっている。その秘書が少しだけだらしがない時や自分の予定を忘れる時がある。
シロ以外の者では、スーンを始め執事エントメイドドリュアスたちはそれぞれ仕事実験をおこなっている為に、俺の予定を管理できる者が居なくなってしまっている。

行政官も、シロに俺の予定を抑えるお願いをしたりしている。
念話が使えるようになってから、その頻度が上がっている。行政官には、執事エントメイドドリュアスを付けているのだが、連絡をスーンを経由してシロに入ってくる事が増えている。最近ではほぼそうなっている。スーンも俺に直接言ってくればいいのに、シロを経由している。

理由を、スーンに問いただしたら納得できる答えが帰ってきた。

カイ、ウミ、ライの初期眷属が皆を集めて、眷属会議が行われているのは、以前に聞いたのだが、そこにシロが呼ばれて参加したという事だ。
そのときに、眷属たちの役割が決められたのだと言われた。
カイとウミとライは、獣人を連れてチアルダンジョンに潜って、スキルカードと魔核を取ってくる。ついでに執事エントメイドドリュアスや眷属たちの餌を提供する役目を担っている。獣人たちは安全にダンジョンを探索できるので、お互いにメリットが有る状態になっている。
リーリアは、アルベルタ、フィリーネ、レナータたちと俺が提供したレシピの再現と改良をおこなっている。レナータは菓子全般を、フィリーネは調味料全般を、アルベルタは料理全般を担当している。リーリアは、それらをまとめて商業区や自由区で提供して反響をまとめて更に改良を行う指示を出している。
オリヴィエは、エントやドリュアスで結成されたペネムの警備隊を指揮している。隊長格という扱いになるのだが、オリヴィエが全体を預かっている事には間違いはない。
クリスは、ルートガーと一緒にペネムダンジョンの管理をおこなっている。日々の状況をペネムと話し合いながら改良を加えている。
エリンは、ギュアンやフリーゼたちと一緒にバトルホースとワイバーンの繁殖をおこなっている。特にワイバーンの繁殖はエリンが居ないと上手く進まない。

そして、スーンはこれらの事をまとめながら、ヌラ、ヌル、ゼーロの生産管理をおこなっている。

眷属ではないが、フラビアとリカルダは、神殿区に行ったり、バトルホースやワイバーンの繁殖を手伝っている。オリヴィエたちの訓練に参加してアトフィア教の聖騎士が使う剣技や技を教えて対処法を一緒に考えたりしている。

ようするに、暇なのは、俺とシロだけになっている。

そこで、スーンが中継を行うが、俺への連絡は側に居る事が多い、シロが担当する事になった。眷属からも、シロが適任だという話しになったようだ。シロはその話を受けて、できるだけ俺のそばに控えるようになった。
寝室は別だが、シロの寝室はログハウスでは隣の部屋になった。風呂まで一緒についてこようとしたくらいだ。そのうち、洞窟を改装したらシロを招いても良いかも知れない。

フラビアとリカルダに話を聞いたら、シロが聖騎士になった時でも、”はれもの”に触るように皆が接していて、誰かに何かをお願いされたり頼られたりした事が無かったと言う。ミュルダ攻略が”聖騎士ヴェネッサ”最初で最後の命令だったようだ。
それで、眷属達から頼られただけではなく、行政官からも何かをお願いされたようで、ものすごく張り切っている。

もう少し肩の力を抜いてくれてもいいと思うのだけどな。
シロの負担軽減の為に、シロの生活を支える従者を付けたいと考えているのだ。俺から離れて自由にしろといいかけて泣かれそうになってから、離れろとは言えない雰囲気になっている。

「ツクモ様」
「ん?」
「姫様の従者ですが、神殿区から選ばないとダメですか?」
「ん?候補が居るなら別にいいぞ?」
「それならば、先程話が有りました、ユーバシャール区の奴隷商を訪ねてみてはどうでしょうか?」
「その手が有ったな。まっとうな奴隷商は残して、それ以外は潰す事が決定しているし、劣悪な環境だった者たちは、神殿区に送っているのだったな」
「はい。そのまっとうな奴隷商で従者を探してみるのはどうでしょうか?」
「そうだな。シロ。どうだ?」
「カズト様がそれで問題ないのでしたら、私も大丈夫です」
「わかった。シロ。手配してもらっていいか?」
「はい!」

よし!
これで、シロの従者を探すという名目で、俺もユーバシャール区に行く事ができる。
一度行ってみたかったのだよな。次は魔の森だな!

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