【第三章 帝国脱出】第二十五話 少女交渉する

 

「考えはまとまったか?」

まだ、考えはまとまっていない。
でも、目の前に居る人は、”まーさん”と呼んで欲しいと言った人は、私たちの話を聞いていた。

話が途切れたタイミングで、声をかけてきた。

きっとそれがヒントだ。

まーさんを見ると、猫?を肩に乗せて撫でている。

そうだ。先に確認をしないと・・・。
でも、確認で・・・。違う。ここは、まずは、確認して・・・。

嘘はダメ。
正直に答えないと・・・。

「ある程度は、まとまりました。でも、まだ、しっかりと決まったかと言えば・・・」

声がしっかり出せたか心配になるくらいに、小さな声になってしまった。
自分でも、吃驚。こんなに、声に出して、言葉にするのが怖いとは・・・。間違えたら、殺される。私だけなら・・・。ダメだ。しっかりしろ。

「何が知りたい?疑問があるから、決められないのなら、質問は必要な事だな。でも、俺が、全部に答えるとは思わないほうがいい。答えられないこともある。わかるよな?」

大きく頷く。
質問を許してくれただけでもありがたい。
”全部には答えない”と言っているけど、”答えられない”ことは答えないのは当然だ。

「わかりました。まずは、まーさんは、ギルドに登録しているのですか?」

「している」

予想外だ。

「・・・」

「俺は、ギルドに登録しているが、ギルドを使うつもりはない」

「え?」

登録しているけど、使わない?

「使わない理由は?」

「答えられない」

答えられない。
これは、何か使えない理由があって、使えない理由を知られたくないから、使えない。頭が混乱するけど、まーさんが”ギルドの有効性を認めつつも、使わない”理由があるのだろう。
それなら、私たちの立場を有効に使える。

「それなら、私たちがギルドに登録して・・・」

「そうだな。それも一つの方法ではあるが・・・。メリットが少ない。君たちである理由がない」

「あっ・・・」

そうだ。
間違えた。私たちのメリットが大きくてもダメだ。

後ろを振り向くと、イザークが何か言いたい雰囲気を出しているが、ダメだ。まーさんから、しっかりとした返事を聞かない限りは、イザークと話をさせたくない。イザークは、皆の為と思っているだろうけど、今はイザークが出る場面ではない。気に入られてからなら、まーさんとイザークが話をしても・・・。イザークが、まーさんを仲間だと考えてくれてからなら・・・。

私は、他の子を見ると、解っているのだろう。イザークを引っ張って距離を離した。
恐る恐るまーさんを見ると、苦笑をしているだけだ。私たちの意図が解ったのだろう。それだけではなく、肩に乗っている猫を撫でて、何か指示を出している。”けっかい”という言葉と、”しゃおん”という言葉が聞こえた。
猫がまーさんの肩から飛び降りて、私の横をすり抜けて、後ろに居る子たちを見つめてから、”にゃぁ”と鳴いた。そして、戻ってきて、まーさんの側で、また”にゃ”と鳴いた。

「うん。これで大丈夫。彼等の周りには、強めの結界と、こちらの音が聞こえないようにした。向こうからの音も聞こえない。もし、彼等と話がしたくなったら、言いなさい」

「はい。ご配慮、ありがとうございます」

「難しい言葉を知っているのだな」

「え?」

「俺は、スラムやそれに近い場所で、いろいろな人と話をしたが、”ご配慮”などという言葉を使った者たちは居なかった」

「あっ・・・。ババ様が使っていて・・・」

「そうか、いい事だ。言葉遣いは、本心を隠すのに有効だ」

「え?」

「ハハハ。乱暴な奴が、乱暴な言葉を使えば、周りが逃げていくだろう?」

「え?はい。私も逃げます」

「ハハハ。人を殺すのを楽しみにしているような奴は、乱暴な言葉を使わない。優しい言葉遣いで近づいて、信頼させてから・・・」

そうだ。
あの人たちも、同じだ。
イザークたちを騙しているギルドの人たち。優しそうに近づいて、優しく声をかけて・・・。でも、イザークたちを騙している。

「俺たちは、帝国からの脱出を考えている」

「え?脱出?」

「そうだ。森での生活を考えている」

まーさんが、計画を話してくれた。
何か、意味があるのか?

それとも・・・。
でも、帝国を出て、森での生活?

「それなら・・・。あっ!」

もしかしたら・・・。

「イザークたちは、まだ下手ですが、獣や魔物の解体ができます。私も、ババ様に教えられて、薬草が解ります。それに、他の子たちは、農家だったので、畑を耕したり、野菜を育てたり・・・」

必死に訴えてしまった。

「でも、君たちだけで、森の中には来られないよな?」

そうだ。根本が揃っていなかった。

「それは・・・。イザークたちなら・・・。訓練は必要ですが、森に行けるように・・・」

「そうか、君の判断として、彼等は森に行ける位は、力を付けるのだな?」

「はい」

「さて、最初の質問に戻ろう」

「え?」

”最初の質問”?

「そうだ。君たちは、イエーンが欲しいのか?それとも、生きたいのか?」

あっ!
そうだ、最初は、生き残ることばかりを考えていた。”許して欲しい”と、訴えていた。

「”生きたい”です。しっかりと、仕事をして、正当にイエーンを貰って、皆で・・・。”生きて行きたい”です。贅沢は言いません。二日に一度は、ご飯が食べられて、順番でもいいので、安心して寝られたら・・・。それだけが・・・」

まーさんが、私を見る目が優しくなってくる、優しい目を見ていると、涙が出て来る。
”生きたい”は、他の人と比べるのは嫌だったからしなかった。ただ、私たちは、”生活をしたい”。騙されるのは、私たちが愚かだからだ、だから”生きる”ために必要なことを学びたい。
足りない物が多すぎて、イエーンがあれば生きていられると思い込んでしまった。イエーンも大事だけど・・・。イエーンがあれば・・・。

違う。
まーさんと話をして解った。

私は、”日常”が欲しい。

「日常が・・・。そう、明日も同じだと・・・。目を閉じて、目覚めなくても・・・。考えない。明日も、同じ日が来る。そんな日常が欲しい。です」

「そうか、わかった。バステトさん。結界を解除してください」

え?
まーさんの肩に登っていた猫が、地面に降りて”にゃ”と鳴いた。

「「「アキ姉!」」」

イザークたちが、私の所に駆け寄ってくる。
なぜか、泣き出しそうな顔をしている。手が赤くなっている。

猫がまた、”にゃぁ”と鳴いた。
光が私たちを覆う。

驚いていると、イザークたちの赤かった手の色が元の色に戻る。
それだけではなく、私たちが着ていた服が、少しだけ綺麗になる。べたっとしていた髪の毛も”さらさら”になる。イザークたちも怪我が治ったと騒いでいる。私も慌てて、足にあった傷を見る。古い傷だけど、治っている。恐る恐るさわると、傷跡が消えている。それだけではない。続いていた痛みも無くなって、立ち上がって、地面を強く踏みつけても痛くない。足が、痛くない。

「さて、怪我は治っただろう?」

「え?」

「君たちと契約したい。君たちの仲間は、この場所に居るだけか?」

「え?まだ、小さい子は・・・」

拠点にしている場所に、小さい子を4人と、一人を留守番に残している。
まーさんに、正直に人数を告げる。

「それだけか?増えても、大丈夫だぞ?仕事はしっかりとしてもらう。仕事がしたいけど、騙されたり、子供だからと断られたり、仕事がしたくてもできない者だけだぞ」

「イザーク?」

「アキ姉。他のグループに声をかければ・・・」

「言い忘れていた。お前たちが、連れて来る者の責任は、お前たちに取ってもらう。責任が取れないのなら、辞めた方がいいぞ」

確かに、他のグループも居るけど、私たちと違って、市場で盗みをしたり、他のグループの食事を盗んだり、イエーンを盗んだりしている。私たちとは考え方が違う。責任云々はわからないけど、多分まーさんに迷惑をかけてしまう。

「イザーク。他のグループは・・・」

「うん」

イザークも解ってくれた。
まーさんに、ここに居る5名と、拠点に残っている5名で10名だと伝える。

「そうか、案外少ないな。君たちが、信頼してもいいと思っている大人は居るか?」

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