【第六章 ギルド】第二十六話 オイゲン
セバスチャンが、アッシュに向かって”あの者”という言葉をつかって、リストに入っていない人物の事を問いただしている。
それだけ、有用な者なのか?
アッシュをみると、少しだけ先ほどの表情とは違って、何かを考える表情をしてから、俺を見ないままセバスチャンからの問に答える。
「あの者の取り扱いは・・・。王家から、注意が入っています」
王家?
それほどの者なのか?
他国の貴人とかだと、困ってしまう。扱いという面で・・・。
「注意?」
セバスチャンも、内容までは知らないようだ。
しばらく、二人のやり取りを聞いている。
注意は、”売るな”という事ではないようだ。
売り先を明確にして欲しいということだ。アッシュの所に預けられた経緯から、王家が絡んでいるようだが、教会も絡んでいるようだ。売り上げの中には、教会への賠償が含まれている。従って、同程度の奴隷よりも高く設定しなければならないようだ。
罰金が払えない状況での犯罪だから、犯罪奴隷として売られるようだ。
「はぁ・・・。名前は、『オイゲン=フンメル・エストタール』と言うのですが、パシリカで訳の分からないことを言って暴れたので、捉えられて、私の所に送られてきました」
そんな危険人物を、アッシュは抱えているのか?
それにしても、”なぜ”そんな面倒が列をなして、渋滞しているような者を、セバスチャンが気にする?
話を聞いているだけど、それほどの人物のことを話しているとは、とても思えない。
「彼は、他に何を言ったのですか?アッシュ様」
セバスチャンは、それほど”その彼”が気になるのか?
今まで見せてもらった奴隷から、アッシュが奴隷に無体なことをしていないのは理解ができる。多分だけど、村生活の者よりもいい物を着ていた。食事もしっかりと与えられているようだし、衰えていない所を見ると適度な運動もさせているのだろう。死んだ目をしている者がいなかった。
商品として価値を落さないようにしているだけの可能性もあるが・・・。
その”オイゲン”とか言うのは、流れから犯罪奴隷に該当するのだろう。住民には向かないと思う。
アッシュとセバスチャンがまだ何か言っている。
王家の話とか、俺にはどうでもいい話だけど、王家なら伝手がある。アッシュも解っているのだろう。教会筋にも、間を挟めば枢機卿まで繋がる。
「”ケモミミハーレム”などと言って、暴れて、神官に暴力を振るって、”エルフバクニュウミコ”は居ないのか?などと言って居ます」
ん?
”ケモミミハーレム”?
”エルフバクニュウミコ”?
確か、イリメリたちの話では、男子は判明している。女子も、全員がギルドに所属している。人数に、間違いは・・・。
そうか、お前か!
「それで?王家が出て来る理由にはならないですよね?」
「どうやら、鑑定を持っていて、スキルも偽装しているようなのです。スキルを使って、牢から逃げ出したので、スキル封じの首輪をさせています。有用なスキルなら、奴隷として王家が保有することになるのですが・・・」
俺が、見つかっていないクラスメイトの顔を思い浮かべている間にも、話が進んでいる。
「セブ。アッシュと話をさせてくれ」
セバスチャンを制した。
アッシュは、俺を見て居る。少しだけ身構えたように見えたのは気のせいだろう。
これから、大事な交渉だ。
「なんでしょうか?」
アッシュは、セバスチャンに向けていた視線を俺に戻した。
「アッシュ。その”オイゲン”という男だが、パシリカ後に、捕まったのか?」
大事な事だ。
パシリカを受ける前だと、記憶が戻らない。
「はい。そのように聞いています」
「奴隷なのか?」
次に大事なのは、”奴隷”になっているのかだ。
奴隷なら、俺でも確保ができる。でも、よく、立花たちに見つからなかった。アイツらの中にも、大事なピースだと考えている者がいても不思議ではない。
「はい。犯罪奴隷ですが、スキルを偽装している上に、契約で縛れないので・・・」
犯罪奴隷か、解放が無いのだったな。それでは、説得が難しい。
その前に、”契約で縛れない”現象が鍵になってきそうだ。
もしかしたら、王家が出てきたのは、”契約で縛れない”が理由として考えられる。ローザスあたりに質問をしてもいいかもしれないが、藪蛇になりそうだ。ヒューマが言っていたことが関係している可能性も高い。初代国王。
いろいろ繋がっているように見えるけど、歴史は俺の専門ではない。まずは、勝負に勝たなければ、その後で考えればいいことだ。
「どういうことだ?契約で縛れない?」
「はい。奴隷契約には、いくつかの方法があります」
「聞いたから覚えている」
「犯罪奴隷には、奴隷紋を刻むことが必須です」
「そうなのか?」
セバスチャンを見ると頷いているので、これは”決まり事”なのだろう。
「はい。それで、奴隷紋を刻む時に、”真名”が必要です」
あぁそういうことか・・・。茂手木だとしたら、”真名”は読めないだろう。
読めたとして、漢字では刻むのが難しいのだろう。
それに、アイツの名前は少しだけ読みにくい。
「そうか・・・。読めなかったのだな」
「え?」「!!」
アッシュだけではなく、セバスチャンも驚いている雰囲気が伝わってくる。
「アッシュ。会えるか?俺に必要な最後のピースかもしれない。それと・・・」
茂手木を口説く為に必要な人材をアッシュに用意してもらう。
セバスチャンとアッシュにも確認をして、俺が行おうとしていることが可能か確認した。一般の借金奴隷では無理で、犯罪奴隷か戦争奴隷になってしまうと言われた。
アッシュには、犯罪奴隷や戦争奴隷から、俺の希望する奴隷を見繕ってもらう。
セバスチャンには、ギルドに俺が書いた物を持って行ってもらう。ローザスとハーコムレイに”貸しに対する”請求だ。教会は、アッシュとセバスチャンから賠償を行えば問題はないと言うので、同じくセバスチャンに賠償金を3倍にして持って行ってもらう。理由は、犯罪奴隷では都合が悪いので、”神のご慈悲”を頂きたいという内容だ。賠償金と同額の寄与も行う。相手は、フレットの父親にする。ギルドに、フレットが居れば、口添えが期待できる。
アッシュが連れてきた奴隷に理由を説明した。
アッシュの判断で、借金奴隷に変更ができることが条件だ。一人を除いてパシリカ前の見目麗しい女性だ。エルフ族は無理だったが、ハーフエルフが居た。年齢が少しだけ高いがハーフエルフでは少女と言われる年齢だ。獣人も、ある程度の種族を揃えた。猫族、犬族、羊族、兎族だ。違法奴隷から逃げ出して、犯罪奴隷となった者も居るが、訴えても犯罪奴隷のままなのを、解放が可能な借金奴隷に引き上げることになった。ハーフエルフは、エルフの王家に連なる血筋だが、政変で破れた。もともと、ハーフエルフは半端者だと言われて忌避されていた。
2時間後に、セバスチャンが戻ってきた。全ての処理が終了したと報告してくれた。優秀な執事だ。ギルドでは、不審に思われたらしいが、俺が書いた物を渡したら、すぐに対応が変わったと言われた。
そうだろう。表紙には、”茂手木”と漢字で書いた。セバスチャンも、不思議に思っているのだろうが、何も聞いてこなかった。
セバスチャンから報告を受けていると、アッシュが戻ってきた。
セバスチャンが持ってきた書類で、俺が実行しようとしていることが、可能だと言ってくれた。
あとは、奴隷の少女たちの了承だけど、アッシュが説得をしてくれたようだ。
ハーフエルフの少女を含めて、解放を望まないようだ。解放されても、帰る場所もなければ、頼れる者も居ない。それなら、ご主人様になる人物に尽くしたいと言ってくれている。
さて、茂手木の説得だけど、それほど難しいとは思っていない。
それにしても、こんな場所で最後のピースが見つかるとは思っていなかった。
やつには、神殿で活躍してもらおう。縛り付ける必要はない。依存してくれるような場所にすればいいだけだ。
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