【第二章 スライム街へ】第十四話 主導権?
ギルドの面々は、キャンピングカーから降りた。三匹の猫は、キャンピングカーのケージに入れられている。
「上村さん!あっ!桐元さん」
「おぉ松。久しぶりだな。お前の部隊が来ているのか?」
「はい!松原小隊が封鎖及び魔物の掃討を行います」
桐元孔明も、上村蒼も、小隊が出てくるとは思っていなかった。分隊が出てきて、封鎖を行っていると思っていた。初期段階で、小隊が出てきているのに驚いた。
「ギルドの皆さんですか?山梨県警古屋です」
警察手帳を見せながら、古屋は松原と話をしていた、桐元孔明と上村蒼に話しかける。現場の主導権を握るためだ。
「あぁ俺たちは、自衛隊から出向している・・・。で、いいのだよな?ギルドのメンバーは、あっちの女性陣だ」
上村蒼は、女性陣が準備をしている場所を指差す。
「ありがとうございます」
古屋と名乗った警察官は、上村蒼と桐元孔明に”礼”を口にしてから、女性陣が準備をしている場所に向かった。
榑谷円香と里見茜は、情報収集を行うための準備を行っている。柚木千明は、マスコミ用の資料をまとめている。ギルドで作成してきた物だ。現状で解っている情報をまとめた物で、”無いよりはまし”程度の物だ。
移動中に判明した情報も、追加されている。
既に、マスコミには配り始めている。
「ギルドの方ですか?」
差し出された手を握りながら、お互いの名乗りを上げる。
「ギルド日本リージョン。榑谷です」
「山梨県警古屋です」
辺りが暗くなってきているが、自衛隊が用意しているライトが、駐車場や前線基地になっているテントの周りを照らしている。
「自衛隊。松原です」
古屋に続いて、自衛隊の松原も、榑谷円香に挨拶をした。
桐元孔明と上村蒼は、バリケードの近くに居る自衛官に話を聞くために移動している。
現場の責任者を決めなければならない。
通常なら、自衛隊が責任者となるのだが、対魔物だということで、ギルドが実権を握る状況も考えられる。しかし、地元で発生している事象であるために、山梨県警も譲れないラインが存在している。
榑谷円香は、実権を握ろうとは思っていない。
実質、”何もできない”ことになるのだろうと予測している。バリケードを維持して、政治が重い腰を上げるのを待つしか無いと思っている。里見茜が調べた、他国の情報から、師団級の戦力でないと対応が不可能だと考えている。
3人の話し合いは、テントに移動して行われた。
自衛隊と警官隊が把握している現状が説明された。
それから、ギルドが持っている絶望的な情報が伝えられる。
既に、マスコミにも伝えられている。マスコミは、里見茜と柚木千明に詰め寄って文句を言っているが、魔物に関する情報はギルドが公表している。それに、文句を言っても意味がない。自己責任だ。情報収集をしなかったマスコミが悪い。里見茜も柚木千明も、文句は受け付けていない。情報交換がしたいのなら、応じるがマスコミに流してよい情報は限られている。配布している紙に書かれている内容以上は教えられない。それ以上の内容を聞こうとするマスコミ関係者をシャットアウトしている。
自分たちの撮影も許可を出さない。撮影した場合には、ギルドからの情報を渡さないと宣言している。盗撮が解った時点で特措法の範疇として、法的な処置を取ると宣言をした。
多くの在京のマスコミは文句を言って、悪態をついている中、柚木千明の古巣であるTV局から来ている者が話しかけてきた。
「千明!」
「え?あっ舞さん!」
望月舞は、柚木千明の先輩だ。
「千明。ギルドに行ったのは本当だったのね」
「えぇ少しだけ縁があって・・・。あっ舞さんでも、情報は渡せませんよ。私が殺されてしまいます」
「大丈夫。私が教えて欲しいのは一つだけ・・・。小屋で犠牲になったのは、山本Dだよね?」
「え?」
不意打ちに近い質問で、柚木千明は表情を作るのが間に合わなかった。
マスコミ各社に出された情報では、名前までは出ていなかったが、自衛隊や警察隊から聞こえてくる情報。あとは、マスコミがドローンで撮影した情報から、”山本”の名前が浮上していた。
「わかった。確認のような物だから、山本Dの話はどうでも良くて・・・。千明。帰ってこないマスコミのリスト。それと、マスコミが雇った護衛の一覧。全員が帰ってきていない。それに、なぜか山側も湖側も、どこからもキャンプ場に入られない状況なの。何かわからない?」
「リスト?大丈夫なの?」
「うん。大丈夫。マスコミが自主的に作っている物だし、行方不明になっている民間も入っている」
「ありがとう。それから、中に入られないのは、私も始めて聞いた。自衛隊や警察隊は、”何か”言っているの?」
「ううん。なにも・・・」
「そう・・・。舞さん。リスト。ありがとう。円香さんに話してくる」
「うん。何か、解ったら教えてね!」
「話せる範囲ならね」
柚木千明は、貰ったリストを持って、榑谷円香が居るテントに向かった。
テントでは、自衛隊と警察隊が主導権を握ろうとお互いに牽制を繰り返していた。
自衛隊のヒアリングを終えた、桐元孔明もテントに向かっている。
「あっ孔明さん」
「千明嬢。ん?それは?」
「はい。マスコミが把握している。キャンプ場に入り込んだ人のリストです」
「そうか・・・」
桐元孔明は、受け取ったリストを見て、唖然とする。
多いとは思っていたが、解っているだけで、30名以上の犠牲者が居る。自然災害でも、かなりの規模の災害だ。そして、減ることはない。解っていないだけで、山側から侵入した者たちも居る。その人数が加われば、50名を超える可能性もある。
「円香には?」
「これからです。そうか、俺から渡していいか?他に、何か報告があれば、聞くぞ?」
「いえ、資料を渡して、今後のことを聞こうと思っただけです」
「わかった。今後は、多分・・・」
桐元孔明は、テントを見てから、大きく息を吐き出す。
「しばらくは、決まりそうにない。マスコミ対策も、面倒ならテントに居る者に投げてしまっていい。千明嬢と茜嬢は、ギルドの車で休んでいてくれ」
「あっ結局、誰も、キャンプ場に入られないのですか?魔物も出てこない?」
「16時すこし前に、なぜか透明が壁のような物が出来て、キャンプ場を覆ってしまったようだ。それから、誰も入られない。壁を壊そうと必死になったが無駄だったようだ」
「わかりました。茜とキャンピングカーに戻ります」
桐元孔明は、柚木千明が戻っていくのを見送った。柚木千明は、里見茜と少しだけ話をして、周りに集まっているマスコミに情報はテントで行われる会談の結果、公表されると説明して、荷物をまとめてキャンピングカーに戻った。
キャンピングカーでは、三匹の猫が寛いでいた。どこから入ったからわからないが、一匹の栗鼠が居たが、二人がキャンピングカーに乗り込むと、4つの魔石を置いて逃げ出してしまった。二人が、魔石に気がつくのは、4つ有った魔石が一つになってからだ。魔石が消えた後に残された三匹の猫は、おとなしくなり、飼い主たちの言葉を理解しているような態度を見せるようになる。
桐元孔明は、面倒そうな表情をしてから、テントを見つめる。
テントの中では、机を囲んで話し合いが行われている。行きたくはないが、行かないという選択肢は存在しない。
「円香?」
「孔明。現状の把握は出来たか?」
「小隊の中に、蒼の知り合いが居て、話が聞けた。そもそも、隠していない。それで、千明嬢がマスコミから貰ってきた、犠牲者・・・。候補のリストだ」
「多いな」
「そうだな。それから、自衛隊がマスコミから提供を受けたドローンの映像だ」
桐元孔明は、一枚のSDカードを榑谷円香に渡した。榑谷円香は、キャンピングカーに戻った里見茜を呼び出して、SDカードを渡した。
「これは?」
「ドローンの映像が入っている。コピーと解析を頼む。何か解ったら、順次、送ってくれ」
「わかりました」
榑谷円香と桐元孔明は、キャンピングカーに向っていく里見茜を見送ってから、誰も入られなくなっているキャンプ場を見つめる。
夕暮れから、夜の帳が辺りを支配し始める。
自衛隊が持ち込んだ照明で照らされている場所だけが明るく人が生活できる場所だと思えてくる。
「闇は、魔物の味方なのか?」
榑谷円香の呟きは、誰の耳にも届かなかった。
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